<ライブレポート>eill、ファンと相思相愛を深め合ったデビュー5周年ライブ「私はずっとみんなの味方です」

2023年7月6日 / 18:00

 eillのデビュー5周年ライブ【eill 5th Anniversary Live “MAKUAKE”】が、6月22日東京・EX THEATER ROPPONGIにて開催された。

 アカペラでeillが〈はじまりは/圧倒的素敵なもの〉と歌い上げるシーンでライブは幕を開けた。デビュー曲「MAKUAKE」の歌詞にある一節。5年前の彼女の意気込みを表した言葉が、これから始まるライブの期待を煽る言葉に変わっていく。

 ダンサブルな曲調に観客が飛び跳ねた「FUTURE WAVE」、そして「プレロマンス」を経て、「5周年ということで今日はお祭り! 声出してOK、何してもOK! 最後までみんなで楽しんでいきましょう!」とeill。タイトなリズムに乗ってサイドステップを踏みながら歌う「FAKE LOVE」は、eillの歌唱もバンドのサウンドも音源よりもさらにパワフルだ。曲を歌い終えると、宙にハートを描いて観客に愛を届ける。

 コロナ禍以降初の声出しワンマンということで、「なんてったって、声出し初解禁!」と喜びつつ、「みんな緊張してますね」とファンを気に掛けつつ、「お兄さん、緊張してない? 朝ごはん何食べた?」とコミュニケーションをとっていく。MCはまるで友達に話しかけるようなテンションで、eillから「せっかく5周年だし、昔の曲とかも歌いたいなと思ったんですよ。でも全部は歌えない。提供も含めて全部で何曲あると思いますか?」というクイズが出題される一幕も。答えは60曲とのことで、1曲でも多く披露するために、この日のセットリストにはメドレーが盛り込まれた。

 ということで、“懐かしのライブ定番曲トップ3”こと「ONE」「HUSH」「Fly me 2」のメドレーがスタート。このメドレーはInstagramでファンからライブで聴きたい曲のリクエストを募ったことが発端となり、最終リハーサルで急遽セットリストに追加されたもの。宮田’レフティ’リョウ(Key/Gt)、YosukeMinowa(Manipulator)との3人編成での演奏で、eillと宮田のトークで曲間を繋ぐラジオDJ風の演出も楽しい。

 また、トーク内では楽曲制作当時のエピソードやライブでの楽しみ方が語られていたため、eillを長く追っていたファンも最近知ったファンも関係なくみんなで一緒に楽しめるよう、さりげなくエスコートしてくれているようにも感じた。なお、「Fly me 2」はライブでタオル回しできる曲がほしくて作ったそうだが、そもそもライブで披露する機会が多くなかったこともあり、実は今までタオルを回したことがなかったという。ファンとともにその場で初のタオル回しに挑戦したeillだった。

 ここで場面転換を報せるSEが。よく聞くと、SEに「次の曲、撮影OKらしいよ」という声が組み込まれている。そんなスマートなイントロから始まったのは「ただのギャル」で、曲が始まるとなんと20人のギャルがステージ上にやってきた。音楽に合わせて自由に踊ったり、スマホで動画を撮ったりしているこのギャルたち、いったい誰なのかというと、プロのダンサーやTikTokクリエイターもいれば、eillのリアル友人もいるとのこと。斬新だが、eillらしく遊び心のある演出だ。

 そのあとは「メタモルフォーゼパラマジーノ」「((FULLMOON))」「Into your dream」で構成された2つ目のメドレーを経て、最新曲「happy ending」へ。すれ違ってしまった気持ちが元通りになることはないけど、この恋は幸せな結末を迎えたんだとせめて信じていたい。そんな心情をまさに体現したボーカルに胸が締めつけられる。ヒップホップ調のビートが時の流れを前へ進めるなか、ラスサビ冒頭に被さるスキャットとロングトーンが切ない余韻を残す。

 初めて書いたオリジナル曲「スキ」は、本人が「17歳の時に書いたから、ちょっと歌詞が……」と恥ずかしそうにしていた通り、最近の曲と比べると確かに初々しい。しかし想いを込めて丁寧に歌う彼女の姿からは、懸命だった過去の自分を愛おしむ眼差しが感じられて、大人になったeillを感じられた。ゲーム友達だというキュアかいと(Gt)と2人でステージの縁に腰掛けながら、フロアと近い距離で演奏したのは「ONE LAST TIME」で、ピアノを奏でながら一人で歌い始めたのは「片っぽ」。2番に入るとバンドが加わり、歌に寄り添いながら、楽曲をドラマティックに彩っていく。

 「花のように」を終えるとMC。ここでは、“自分の人生を幕開けるのは自分自身だ!”とデビューしたものの、やがて「幕開けたはいいけど、私って何がしたいんだっけ?」という疑問がわいてきた、しかし「みんなの前で歌いたい」という気持ちとともに活動を重ねるなかで“みんなと一緒にeillになった”感覚がある――とこの5年を振り返り、「いつも側にいてくれてありがとう」とファンに伝えた。楽曲を通じてリスナーを、そして自分自身をエンパワーしてきたeillは「自分を主人公に変えられるのは自分と気づいた時、強くなれた」と、さらに「だけどヒーローになれない日もある」と語る。そのうえで今届けたいメッセージとは。

 「道がなくなった先でも人生は続きます。ずーっと頑張っている必要はない。大事なのはもう一度自分の道を歩くこと。振り返れば、“すごいところに来ていたな”と思える日が来るはずです。この道を切り開いてきたのは? あなたです。この道を守ってきたのは? あなたです。光が当たらない日々を愛してあげてください。遠くにいても、近くにいても、ずっとずっと、みんなのことを音楽で照らしています」

 そんな想いが「SPOTLIGHT」に託された。eillからのメッセージを受け取り、腕を上げたり声を上げたりしながら応える観客たち。ライブのクライマックスに向けて盛り上がっていった「20」、「23」、「ここで息をして」、「WE ARE」という流れは、eillの5年間の軌跡を感じさせる流れでもあり、ステージもフロアも感慨とともに高揚していくような、泣き笑いのテンションが生まれた。「最後の曲になっちゃいました! また会う日まで元気でいてください!」と「踊らせないで」で本編を終えると、アンコールではなんとフロアに登場。「palette」を歌いながら、笑顔で観客とハイタッチし、ステージへと歩みを進めていく。

 本当に友達と喋っているような感じで、夏に新曲が出ることや、『夏へのトンネル、さよならの出口』のロンドン上映に併せて現地で路上ライブをすることをサラッと発表したこの日最後のMCでは、「私やっぱり音楽が好きなんだなって思いました」と語った。

 「(リスナーが)悩んでいる時にはすぐ隣で“Don’t you worry~♪”って言えるアーティストでいたい。これからも一緒にみんなと人生を歩んでいけたらなと思います。いつも応援してくれてありがとう! 私はずっとみんなの味方です。そばにいることを忘れないでください。今日のフィナーレにこの曲をお届けします」

 そんな挨拶とともに披露した「フィナーレ。」がこの日最後に届けた楽曲。歌い終えてからステージから去るまでの間にも、観客に手を振ったりハートを送ったりし続けているeillの様子からはファンへの感謝や別れを惜しむ気持ちが伝わってきた。そして、集まった観客も同じ気持ちだったのだろう。「フィナーレ。」のインストバージョンをBGMにエンディング映像が始まると、自然とフロアからシンガロングが発生した。これを受けてeill、涙を浮かべながら「ずるいよ~!」と再登場。観客と一緒に歌いながら、幸せなエンディングを迎えたのだった。

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:横山マサト

◎公演情報
【eill 5th Anniversary Live “MAKUAKE”】
2023年6月22日(木)
東京・EX THEATER ROPPONGI


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