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世界的にも日本のシティポップが注目される中、数年前から“Light Mellow”を冠した復刻盤、コンピレーション盤が各メーカーからリリースされている。6月21日には海外での“シティポップ”の火付け役のひとりである『Light Mellow 松原みき』を始め、『Light Mellow 尾崎亜美80’S』、『Light Mellow Char』、『Light Mellow 伊勢正三』、『Light Mellow パラシュート』が発売となった。今週の当コラムは、その中からParachuteに注目。詳細は本文に譲るが、メンバー全員、日本の音楽シーンを支えてきたミュージシャンばかり。“スーパーバンド”と呼ぶに相応しい存在だ。そんな彼らのデビュー作『PARACHUTE from ASIAN PORT』をピックアップした。
邦楽史を支える名うての音楽家たち
Parachuteは2003年に再結集し、2012年以降ツアーを行なってはいるものの、結成は1979年である。1982年に4thアルバム『Sylvia』を発表したのちに活動休止しており(その後、同年に5th『COLOURS』も発表)、活発にレコード制作に取り組んでいたのは前世紀のことで、しかも実働は3年ほど。3年で5枚もオリジナルアルバムを制作した実績だけでも、彼らがいかに優れたバンドであったかが分かろうというものだが、40年以上前のこととなると、こちらがいくら“スーパーグループ”であることを強調しても、ピンとこない人も少なくなかろう。メンバーは、松原正樹(Gu)、今剛(Gu)、Mike Dunn(Ba&Vo)、林立夫(Dr)、斉藤ノヴ(Per)、安藤芳彦(Key)、小林泉美(Key&Vo)。1st『PARACHUTE from ASIAN PORT』(以下『ASIAN PORT』)の制作後に小林が脱退するも、『ASIAN PORT』にゲスト参加していた井上鑑(Key)が加入し正式メンバーとなった。上記のメンバーを見ればピンとくる人も多かろう。それでもピンとこない人もいるかもしれないので、メンバーが参加した音楽作品などを以下に列挙してみた。
松原正樹:松山千春「長い夜」、松田聖子「渚のバルコニー」、中森明菜「北ウイング」、松任谷由実「恋人がサンタクロース」、松原みき「真夜中のドア〜Stay With Me」、おニャン子クラブ「セーラー服を脱がさないで」他多数。
今剛:寺尾聰「ルビーの指環」、松田聖子「チェリーブラッサム」、宇多田ヒカル「Automatic」他多数。また、[井上陽水、矢沢永吉、西城秀樹、宇多田ヒカル、角松敏生、福山雅治など、数多くのアーティストのツアー及びレコーデイングに参加]。
林立夫:井上陽水『氷の世界』、荒井由実『ひこうき雲』、大瀧詠一『A LONG VACATION』、細野晴臣『HOSONO HOUSE』、荒井由実「やさしさに包まれたなら」、松田聖子「赤いスイートピー」他多数。キャラメル・ママ~ティン・パン・アレーで活動した他、鈴木茂、小原礼、林立夫とのバンド、SKYEで2021年にメジャーデビュー。
斉藤ノヴ:中森明菜『BITTER AND SWEET』、松任谷由実『Delight Slight Light KISS』、B’z『SURVIVE』、岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」、TUBE「あー夏休み」他多数。サザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」のアレンジを担当。
井上鑑:[ピンク・レディーのヒット曲にキーボーディストとして参加]。アレンジャーとして、寺尾聰『Reflections』全収録曲、薬師丸ひろ子「探偵物語」、小泉今日子「木枯しに抱かれて」の他、松田聖子「風立ちぬ」のストリングアレンジなど多数。また、2000年以降に発表された福山雅治の楽曲のほとんどを福山とともにアレンジ。
聴き手を選ばないポップさ、メロウさ
Wikipediaを中心にその実績のほんの一部を引っ張ってきたが([]はWikipediaからそのまま引用)、これらはおそらく彼らの全仕事の0.01パーセント程度だろう。いや、0.001パーセント以下かもしれない。ネットを漁っていたら、どなたかが“彼らの仕事はそのまま日本の音楽史である”と言っていたのを見かけたが、これにはまったくもって同意する。仮定の話、もしこの中で誰かひとりでも楽器を持たなかったとしたら、邦楽シーンは今とは別のものになっていたに違いない。そう断言できる。
そんなメンバーが結集したParachuteのデビューアルバム『ASIAN PORT』。その昔、4番バッターばかりを揃えたどこかの球団が結局チーム打率は2割5分程度で、優勝できなかったということがあった。また、これもいつぞやの某代表チームに“黄金の中盤”という惹句があったが、あれもそんなに機能しなかった気がする。優れた人材が多くても、その団体がうまくいくとは限らない。“船頭多くして船山に上る”ということわざもある。それに準えれば、Parachuteは前述の通り、日本の音楽シーンで欠かすことができないミュージシャンが揃っているわけで、だからこそ作品が優れたものにならなくても不思議ではないと、素人は考えるところではある。事実、超有名アーティストが集まって鳴り物入りで結成されたバンドで、それが黒歴史的にその後ほぼ語られることがないケースもある(誰とは言わないけれど、ひとつ、ふたつではなかったように思う)。
結論を急げば、Parachuteの場合、そんな心配には及ばない。『ASIAN PORT』は、ほぼ半分がインストではあるものの、マニアックさは皆無と言ってよく、実にポピュラリティーの高い音楽作品である。これも断言する。40年以上前の作品だが、収録曲は今も聴き手を選ばない汎用性の高さがある。もしかすると、これまで本作を聴いたことがない人が初めて聴いたとしても、アルバムを通して聴けば、どこかで聴いたことがあるナンバーが1曲くらいはあるかもしれない。実際、テレビやラジオのBGMとしてかなり使われたアルバムではなかろうか。個人的にはM5「VISITOR FROM PLUTO」は間違いなくどこかで聴いていると確信しているが、何のBGMで使われたかをはっきりと思い出せない。多分、相当数の不特定多数のBGMで流れていたからではないかと思う。細かく調査したら、あの楽曲のイントロとか、この楽曲の間奏とか、いろいろと出て来るのでなかろうか。メディアでの使用うんぬんは一旦脇に置いておくとして、『ASIAN PORT』がポピュラリティーの高いアルバムだというのは一重にその主旋律にある。ギターであれ、キーボードであれ、歌であれ、ポップでもメロウでも、とにかく主旋律がキャッチーなのである。
しかもリフレインが多く、それがキャッチーさに拍車をかけているという見方ができると思う。オープニングナンバーのM1「MYSTERY OF ASIAN PORT」は、大陸風の旋律をリピートするシンセ(後半はそれがボコーダーに変わる)と、ギターが鳴らす鋭角的なメロディーで構成されていると言っていい。前者をAメロ、後者をBメロとしても良かろう。各々で印象的なフレーズが繰り返され、それが連続していくスタイルでもあって、必然、耳に残るようなところがある。
アーバンな雰囲気を漂わせるM4「ESSENCE OF ROMANCE」も同様。こちらはAメロ、Bメロ、サビといったJ-ROCK、J-POP的な展開を持っているナンバーで、それぞれメインのメロディーはギターが奏でている(松原正樹、今剛が交互に弾いているのだろう)。各セクションでは2小節ほどの決して長くはないメロディーのリフレインが効果的に鳴らされている。
明るく開放的なM5「VISITOR FROM PLUTO」は、M1とほぼ同じA、Bの構造で、ともにギター中心。これも言うまでもなく、キャッチーなメロディーの繰り返しが楽曲の肝である。M7「MIURA WIND」はアコギ基調のスロー~ミドルで、それこそM5とは真逆のタイプと思えるが、いいメロディーの繰り返しという点では共通している。
ブラックミュージック的なM2「FLY WITH ME」、レゲエ調のM3「KOWLOON DAILY」、最もJポップに近いM6「SPEND A LITTLE TIME(WITH ME)」、アルバムを締め括るミドルバラードであるM8「JASMINE」。これらはいずれも歌ものであって、インストに比べて主旋律そのものに細かな繰り返しは少ないようだが、コーラスがリフレインに寄与している。ここまで来ると、それを企図したというよりも、どこか本能的にやっていたと考えたほうがいいようにも思う。名うてのメンバーたちが集まったバンドの処女作が、マニアックにも衒学的にもなることなく、どこからどう切ってもポップしか出てこないようなアルバムになったというのはちょっと興味深い。
楽曲を濁らせないリズム隊のプレイ
リズム隊もそうしたメロディーを徹底的にバックアップしているように思う。突飛な演奏はほぼない。M1などは、音が密集しているわりにはテンポもそれほど速くないし、素人考えでもいろいろとできそうな気もするが、ベースもドラムもパーカッションも仕掛けて(?)来ない。決しておとなしいというわけではない。サビではスラップ気味のフレーズを聴かせるベースや、ハイハットを巧みに操るドラムは決して簡単なものではないのは分かるし、確かな力量を感じるところではある。しかしながら、ベースではアドリブっぽい演奏はないし、ドラムは手数が少ない。強いて言えば、アウトロでのベースがそれまでとは少し異なる動きをする箇所もあるし、イントロでのドラムのフィルがやや派手だとは感じるけれど、他のプレイヤーならド派手に個性を発揮してきてもおかしくないのでは…思うところがなくはない。
M2以降も(もちろん、いい意味で)終始そんな感じ。ベースは比較的派手なM5でスラップを聴かせてはいるが、あくまでサビの開放感、ポップ感に合わせて導入している印象ではある。少なくとも無理やりプレイヤーの個性を発揮しているようなところは感じられない。ドラムは若干暴れているようなナンバーがある。M2やM8の後半もそうだが、最も派手なのはM6のアウトロだろう。フェイクを入れるヴォーカルのテンションに当てられたのか(一発録りでなかったら、ヴォーカルはレコーディングされるので、むしろヴォーカルがドラムに当てられたのかも…)、他にはない熱っぽいフィルインを聴くことができる。だが、それが最も熱く鳴らされる時、楽曲全体がフェードアウトしていくのだ。ライヴならこれから…というところで音量が下がっていく。 ポストプロダクション時に“そんなに熱い演奏はこのアルバムには必要ない!”と言われているようでもあって、これもまた興味深いところではある。
パーカッションはベース、ドラム以上に生真面目な印象は強い。淡々と…という言い方が適切かどうか分からないけれど、個人的にはそう思う。ただ、冷静になって考えれば、打楽器という性格上、ドラムに寄り添っていなければ楽曲全体にリズムが台なしになるだろうし、そもそも独自のフレーズを鳴らしづらい。そう理解した上で、パーカッションに注目して聴いてみると、パーカッションの存在がメロディーともリズムとも異なる効果を楽曲全体に及ぼしていることが分かった。いい演奏は随所にあるが、その中でもM4に注目した。M4は何と言っても愁いを秘めた旋律が特徴的だが、もしこれがドラムだけで、それこそ淡々と展開していったら、冷たい印象が残るような気がする。だけど、そうなっていなのは、パーカッションの鳴りがアーバンな雰囲気に温かみのようなものを加味しているからだと思う。楽曲にドラムとは別の推進力を与えているのだ。ウインドチャイムで情景描写しているのも見逃せないところだし、実にいい仕事っぷりだと思う。パーカッションの生真面目さがミドルナンバーに合っていたとも言えるだろう。
旋律を奏でる楽器はポップに、リズム隊はそれを邪魔せずに持ち場を堅持する。それが少なくとも『ASIAN PORT』時点でのParachute であったと言えるとは思うが、先ほども述べた通り、名うてのメンバーたちが集い──しかも、当時は全員20代で血気盛んであってもおかしくない年頃だったメンバーが、言わば、自作自演の悪さみたいなものを出さなかったことは、不思議とは言わないまでも、少し気にかかるところではある。スタジオミュージシャンとして仕事をしていた人たち故のことと…とも考えられるが、そう簡単に片付けていいものか。そんなことを考えながらあれこれ調べていたら、メンバーのひとり、安藤芳彦のwebサイトに注目すべき言葉が載っているのを見つけた。2016年に逝去した松原正樹のインスト曲に安藤が歌詞を付け、Bread&Butterの岩沢幸矢が歌ったアルバム『君を見つけた日 Knock! Knock! Heaven’s Door』(2018年)について、そのプロデューサーでもある安藤芳彦自らが解説している中で、松原正樹についてこんなことを言っている。恐縮ながら引用させていただく。
〈彼の「歌を支える」というその姿勢は生涯変わりませんでした。全ての源は音楽に対する愛情だと思います。どうしたら自分が格好良く見えるかよりも、どうしたらその曲がもっと素敵に聞こえるかを最優先する姿勢には、今でも教えられる事が沢山あります〉
※Head Writers OFFICEからの引用
安藤はもとより、Parachuteの他のメンバーもその松原の姿勢に共感、共鳴していたのだろう。だから、自然とポップなものが湧き上がり、突飛なフレーズでそれを邪魔することはなかった。そう考えられる。彼らが多くのアーティストたちの寵愛を受け、シーンの第一線に居続けることができた理由もそこにあるだろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『PARACHUTE from ASIAN PORT』
1980年発表作品
<収録曲>
1.MYSTERY OF ASIAN PORT
2.FLY WITH ME
3.KOWLOON DAILY
4.ESSENCE OF ROMANCE
5.VISITOR FROM PLUTO
6.SPEND A LITTLE TIME(WITH ME)
7.MIURA WIND
8.JASMINE
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