【ライヴアルバム傑作選 Vol.5】THE STREET SLIDERSというロックバンドの魅力を収めた『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』

2023年5月10日 / 18:00

今週の当コラムは、5月3日に日本武道館にて再結集ライヴを開催したTHE STREET SLIDERSの音源をご紹介。彼らの名盤は、当コラムの連載が始まったばかりの頃、5thアルバム『天使たち』を紹介しており、それ以外のオリジナルアルバムをチョイスするのもありかと思ったものの、今回の武道館でも証明されたように、THE STREET SLIDERSと言えばやはりライヴだろう。彼らにとって初の日本武道館公演を収めた『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』をピックアップした。
バンド自体の地力を感じるライヴ盤

THE STREET SLIDERS(以下、スライダーズ)が日本のロックシーンを語る上で欠かすことができないバンドであることは疑いようがない。今回のデビュー40周年のアニバーサリーイヤーの盛り上がりも当然だ。しかしながら、それこそデビューは40年前で、解散が2000年とおおよそ4半世紀前である。メジャーでの活動期間は約17年間で、解散してからここまでの期間のほうが長いことになる。その辺りを鑑みても、2023年現在、10代から20代半ばの人たちはそのバンド名を聞いてもピンとこない人がほとんどではなかろうか。もしかすると、30代の音楽ファンであってもその記憶が怪しい人がいるかもしれない。いや、もしかしなくても…だろうか。別にそのことを揶揄するつもりはさらさらない。若い人たちに馴染みがないのも仕方がないと考える。

とりわけスライダーズが活発に動いていた1980年代中盤は音楽シーンが大きく成長した時期である。1980年代後半に“ホコ天イカ天”のバンドブームがあり、その前からビートロック、ハードロック、パンクロックなどさまざまなタイプのバンドが世に出てきた。それらの影響もあってか、1990年代にはいわゆるCDバブル期が到来。1960年代や1970年代以上に(おそらくは何倍も、下手すると十数倍も)音楽ファンの選択肢は増えていた。のちにシングル、アルバムもミリオンが頻発し、バンドにしてもメジャーどころだけでも相当数がいたことは改めて説明するまでもなかろう。そんな豊富なアーカイブが当たり前の世代が遡ってスライダーズに辿り着くのは(変な言い方だが)至難の業だと思う。彼ら彼女らにはリアルタイムで新たな音楽が続々と届いてきた。1980年代には主流ではなかったヒップホップやR&Bが日本にも増えたし、アイドルソングも多様化している。スライダーズを知らないのも無理からぬことである。

だが──もう一度言うが、このバンドは日本のロックシーンを語る上で欠かすことができない存在である。イエロー・マジック・オーケストラ、RCサクセション、レベッカ、BOØWY、THE BLUE HEARTS等々、独自のスタイルを貫き、他者の追随を許してこなかったバンドたちがかつて日本にいたが、スライダーズもまたそれらと同様のレジェンド級バンドと断言していい。今まさに『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』を聴き終えて、それを確信しているところである。1987年1月30日に開催された彼らにとって初の日本武道館公演において、スライダーズにしか出せない音を堂々と鳴らしている様子を見事に収録。個々のプレイの音像がクリアーでありながら、その絡み合いで絶妙なグルーブが生まれていることもよく分かる。数多くの日本の名盤を手掛けた名匠エンジニア、Michael Zimmerlingの手腕も見事なのだろうが、ライヴ盤の場合、そもそもバンド自体に地力がなければどんなに上手いミックスでもいい音にはならないはず。その人本来の頭の良さを指して“地頭がいい”と言い方をするが、それに準えるならば、スライダーズには“地バンドがいい”という感じだろうか。卓越したプレイと、それらが交じり合うケミストリー。スライダーズはオリジナルアルバム10枚と、ライヴアルバムを本作以外に2枚発表しており、いずれもこのバンドらしさを確認できるはずだが、本作もまたスライダーズの魅力が詰まった一枚であるということができるだろう。
HARRYの歌声と蘭丸の巧みなギター

まず、村越“HARRY”弘明(Vo&Gu)(以下、HARRY)について。他のメンバーの演奏も誰ひとり替えが効かないものであるが、その中でもこの人の声は格別だろう。まさに唯一無二である。その意味で、本作のオープニングがサビ頭のM1「TOKYO JUNK」であることは正しいし、しかもHARRYの“ハロー!”から入るのもまったくもって正解である(余談だが、同様の理由で1stアルバム『SLIDER JOINT』のM1「Blow The Night!」がサビ頭なのも正しいし、これが1stシングルであったことも正しい判断であっただろう)。洋楽のレジェンドたちのような“これぞ、ロック!”というべき、しゃがれ声。それが気怠い印象のメロディー&歌詞世界と見事にマッチしている。気怠いとは言っても、そもそもスライダーズの歌はキャッチーなものが多く、どっぷりと暗いわけでも難解でもない。明るい…と言い切ると若干語弊があるけれど、本作収録曲で言えば、M7「Boys Jump The Midnight」やM9「So Heavy」、M10「Blow The Night!」など、ポップと言っていいナンバーもある。だが、それらを単にポップなだけに終わらせていないのはHARRYの歌声が独自のニュアンスを加えているからに他ならない。ルーズでスライダーズらしさ全開のM2「カメレオン」、M3「あんたがいないよる」、M5「Dancin’ Doll」、そしてM8「Angel Duster」は言うに及ばないだろう。とりわけ名曲M8の艶めかしいまでの旋律はHARRYの歌声があってこそ成立するものだと確信する。痺れるテイクである。

歌詞に関しては、今回本作を聴いて個人的には“ロックらしい言い回しが多いな”と感じたところではある。“ロックらしい言い回し”とはロックの様式美と言い換えてもいいかもしれない。特にM7にそれが多い印象で、ザっと挙げると、《真夜中のシャッター》《くたびれたブーツ》《退屈につつまれた夜》《ねむれない街》《なけなしの スリル》《夢にとり残された夜》といった具合である。別にその作風を揶揄しているわけではないが、揶揄していると思われたらそれはそれで構わない。たぶん最近はこういう言い回し、このような作風が少なくなっていると思う。最近どころか2000年以降かなり減ってきている気がする(それこそスライダーズ解散したことと関係しているのではないかとすら思うほどだ)。このタイプのロック的歌詞は、テキトーな声には合わない。軽薄な歌声では世界観に深みが出ず、上滑りしてしまう。もっと言えば、実際にロック的な人生を送ってきた人物ではないと説得力がまるでなくなるタイプの歌詞ではないかと思う。スライダーズ楽曲の歌詞は、HARRYの歌声で歌うべき内容であり、HARRYの歌声でしか歌えない内容なのである。

土屋“蘭丸”公平(Gu&Vo)(以下蘭丸)のギタープレイも鉄壁だ。こちらも彼ならではのフィーリング──誤解を恐れずに言えば、昔からブルージーなニュアンスを持った上手いギタリストであるとは思っていたけれど、本作を聴いて、その巧みなプレイに思わず唸った。全曲どれもこれも素晴らしいテイクで、M3「あんたがいないよる」やM6「Let’s go down the street」、もちろんM8「Angel Duster」もいいけれど、強いて1曲挙げるとすると、個人的にはM5「Dancin’ Doll」を推したい。まず終始楽曲を引っ張るギターリフがいい。歌のニュアンス、世界観を受け継ぎつつも、それともまた少し異なる独自のフレーズを聴かせてくれる。躍動感がありながら、それでいて開放的すぎない。絶妙なところを鳴らしている。サビに入ってからの歌との絡み合いもまた絶妙だ。間奏でのギターソロも短いながら実に味わい深い。強弱の付け方も独特で柔らかさを感じるプレイだ。温かみを感じると言ってもいいかもしれない。また、これもスライダーズの特徴のひとつと言える、HARRYの弾くギターとのアンサンブルもいい。それぞれのキャラの違いが分かりやすく出ていると思う。蘭丸のリフとサイドギターらしいHARRYのストロークの絡みもいいが、お互いがソロを弾くアウトロが聴きどころだろう。先ほど述べた通り、柔らかく温かみを感じる蘭丸の一方で、鋭角的に迫るHARRY。ツインギターバンドの面白さがはっきりと示されている。
存在感あるリズム隊が支える屋台骨

HARRYの歌声やツインギターのアンサンブルもさることながら、鈴木“ZUZU”将雄(Dr)(以下、ZUZU)のドラムのキレの良さもスライダーズの特徴だ。これもまた個人的には、リアルタイムで聴いていた1980年代前半には、むしろそこがこのバンドの最大の特徴くらいに思っていたのだが、今回この『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』を聴いて当時の筆者の見解に間違いがなかったことが確認できた。決して複雑なビートを刻んでいるわけではないのだが、しっかりとした存在感がある。全体的には、いい意味でルーズな印象があるスライダーズサウンドだが、ZUZUのドラムだけを聴く分にはそんな印象はない。逆の見方をすると、キレがあってどっしりとしたドラミングだからこそ、HARRYの歌も蘭丸のギターも自由に動ける──そんな捉え方ができるかもしれない。まぁ、リズムがブレたらバンドサウンドは台なしなので、それも当然と言えば当然で、ZUZUがバンドの屋台骨を支えていることは間違いだろう。ドラムは的確な8ビートを聴かせてくれるM1やM9「So Heavy」、ディスコティックなM6も聴きどころだが、M10「Blow The Night!」がやはりカッコ良い。何と言ってもフィルイン。特に《Blow The Night》のあとのスネアの連打に尽きる。本作でのテイクはオリジナルとは構成が異なっているが(オリジナルは前述した通り、サビ頭)、あそこでのドラミングはまったく変わっていない。いや、変化がないどころか、本作は録音状態がいいのか、音圧も高く疾走感も増している。R&Rのシャープさがより如何なく発揮されている。

ここまで市川“JAMES”洋二(Ba)(以下JAMES)に触れてこなかったけれど、無論、このベーシストあってのスライダーズである。それも本作で確認できるところだ。JAMESのベースプレイは縦横無尽という言い方でいいだろうか。ある曲ではベースらしく持ち場を堅持し、ある楽曲ではギターと双璧を成すようなプレイでアンサンブルを聴かせる。スラップのような派手な動きはないけれど、テクニカルで器用なプレイヤーという見方ができるとは思う。ベースラインが楽曲の背骨となっている楽曲はM2、M6、M8辺りだろうか。テンポの違いこそあれ、いずれもシンプルではあるものの、丁寧なルート弾きで、その上を歌とギターがフリーキーに鳴らされる。ややポップな印象ではあるM4「天国列車」もそれらと構造は同じだろう。M4は蘭丸がメインヴォーカルであるゆえにギターリフが若干おとなしめで、おそらくそれを補うようなかたちでベースが少しポップになっているのだろう。この辺でもJAMESの器用なところが垣間見えるのではなかろうか。ベースとギターとのアンサンブルの面白さが分かるのはM5だろう。ベースラインと蘭丸のギターのフレーズが、完全なユニゾンではないけれど、ほぼ同じリズムを刻んでいる箇所が随所随所で見られる。そのフレーズのループで成り立っている楽曲ではあって、その絡み具合がドラムと相俟ってグルーブを生み出しているとは言える。まさにスライダーズならではのバンドアンサンブルだろう。歌×ギター、ギター×ギターだけではなく、リズム隊も折り重なってバンドサウンドが生み出されていることがよく分かる。また、M5で言えば、サビに向かうところで高音に上がっていくベースラインも聴き逃せない。比較的歌の抑揚が薄いナンバーに高揚感を与え盛り上げている。こういうところでもJAMESのプレイヤーとしての確かな手腕がよく分かる。

ザっとメンバーそれぞれの特徴をフィーチャーしながら『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』を振り返ってみた。冒頭でスライダーズは今の若いリスナーにはピンとこないだろうと書いたが、ロックに興味がないという人はともかく、バンド好きを自称する人でスライダーズ未体験の人はぜひ一度本作を聴いてみたらいいと思う。ここまで述べたように、4人のメンバーの個性が絡み合いながら(しかもライヴで)サウンドを作り上げている様子は触れておいて損はなかろう。

また、本作はベスト盤としてもとらえることができる。リリースされた1987年3月時点でスライダーズは、1stアルバム『SLIDER JOINT』(1983年)、2nd『がんじがらめ』(1983年)、3rd『JAG OUT』(1984年)、4th『夢遊病』(1985年)、5th『天使たち』(1986年)の5枚のオリジナルアルバムを発表していたのだが、本作はご丁寧なことにそれぞれのアルバムから2曲ずつチョイスしている。さらに言えば、先日の日本武道館での再集結においても本作収録曲は5曲も披露されているのだから、彼らのライヴの中心を成す楽曲であることは間違いないだろう。スライダーズ入門編としても最適な『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』である。
TEXT:帆苅智之
アルバム『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』
1987年発表作品

<収録曲>

1.TOKYO JUNK

2.カメレオン

3.あんたがいないよる

4.天国列車

5.Dancin’ Doll

6.Let’s go down the street

7.Boys Jump The Midnight

8.Angel Duster

9.So Heavy

10.Blow The Night!


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