渋谷すばる、Billboard Live YOKOHAMA公演のライブレポートを公開

2022年11月25日 / 18:00

11月15日@Billboard Live YOKOHAMA (okmusic UP's)

2022年11月15日、Billboard Live YOKOHAMAで、スカパー!が手がける新たなライヴプログラム『SPOOX MUSIC』が始動した。スカパー!が手がける新プログラムである。“芯のある個性的なアーティスト”を積極的に取り上げていきたいという本プログラムの記念すべき第1弾のゲストに選ばれたのは渋谷すばるだった。有観客形式で行われた本公演は配信サービス『SPOOX』でも生配信され、スペースシャワーTVでは12月22日(木)にライヴのメイキングなどを含む特別番組が放送される。

渋谷は2022年9月14日の福岡サンパレスホテル&ホール公演を皮切りに、全国7都市14公演で2年7ヶ月ぶりに開催されたライヴツアー『渋谷すばる LIVE TOUR 2022 二歳と1328日』を11月5日・6日の大阪城ホールで終えたばかり。そのツアーファイナルから9日後とあって、まだまだツアー熱が冷めやらぬ状態でこのステージに立つこととなったのだ。

また、このツアーからバンドの体制が変わり、渋谷すばる(Vo)、新井弘毅(G)、安達貴史(B)、茂木左(Dr)、本間ドミノ(Key)という同世代でまとめられた座組で行われていたこともあり、以前に比べ“バンド感”が増したサウンドになっていたことから、ライヴサウンドが似合うホール空間や通常のライヴハウス空間とはまた異なるBillboard Live YOKOHAMAという厳かな空間で、いったいどんな“渋谷すばる”の音と唄を届けることになるのか、とても楽しみなところでもあった。

2022年11月15日・Billboard Live YOKOHAMA。渋谷はツアーと同じバンド編成でステージに立った。1曲目に届けたのは「ぼくのうた」。この曲は1stアルバム『二歳』(2019年10月9日リリース)のリード曲でもあり、ソロ活動の始まりの曲でもあり、今回のツアーでも1曲目に届けられてきた曲だ。ツアーでは力強く、そして、観客を包み込む優しさを兼ね備えた曲として絶対的な存在感でライヴのオープニングを飾って来ていたのだが、ジャジーなSEに乗り、ステージ下手後方からメンバーと共に客席通路を通って入場したこの日の1曲目として届けられた「ぼくのうた」は、少し様子を変えていた。渋谷が奏でるイントロのギターフレーズは、テンポは変わらずとも、いつもよりもゆったりとした体感で伝わって来た。一言目に発しられる歌詞と茂木のバスドラの一音がピタリと揃って始まっていった「ぼくのうた」は、ツアーで唄って来た「ぼくのうた」よりも一層、“伝わる唄”へと変化していた。
必要以上に力を入れずに唄われていく歌詞は、まるで近しい人間の身の上話を聞いているかのような体温で唄われていった。新井のギター、安達のベースの柔らかな音色がサウンドに厚みを与えていくと、少しずつ渋谷の唄の体温が上がっていった。そして本間の鍵盤が加わり、サビへと繋がったとき、渋谷の1番届けたい想いが唄となって吐き出された。こうして歌が唄えているという喜びと、聴いてくれている人たちに向けて歌が届けられているという喜びが一気に溢れ出した瞬間だったと感じた。そしてその唄は、渋谷の声だけではなく、そこには、このツアーを共にした新井、安達、茂木、本間の渋谷の言葉への共感も重ねられていた様に受け取れた。それほどまでに、4人の放つ音は、聴き手の感情に深く語りかけると同時に、渋谷の唄を大きく包み込んでいたのだった。

渋谷すばるの自己紹介と言っても過言ではない、とことんパーソナルに振り切った「ぼくのうた」は、渋谷という人間を知れば知るほど引き込まれ、背中を押される曲である。リハーサルを重ね、ツアーを一緒に周り、お互いがお互いを知ることとなった時間を経て、この時点での最高の「ぼくのうた」は、この日、ここで完成された。きっと聴き手もそんな強さと優しさを、この曲から感じたに違いない。

「おえぇ〜〜〜い! Billboard〜〜〜!」(渋谷)

渋谷の思わず口を突いて出てしまったかの様な叫びから始まった「BUTT」からは、とにかく勢いのままに走り抜いていった。厳かな雰囲気に似合ったライヴをするのかと思いきや、どうやらそのつもりは毛頭なかった様である。
いつもの様にブルースハープをバンドサウンドの中に差し込んでいく渋谷。歌詞の乗った唄と同じくらいに感情が伝わってくる渋谷のブルースハープは、聴くたびに胸を強く打たれる。曲は鍵盤が曲を引っ張る、ブレイクと楽器隊のユニゾンが最高に気持ち良いロックンロール「これ」へと繋げられた。サウンドの力に自然と体の動きを持って行かれ、無意識にリズムを刻みながら踊る渋谷は、間奏に入る直前に、ツアーでは見せなかった姿を魅せた。

マイクがギリギリ声を拾う距離で「いきますか! ちょっと聴いてくれますか!?」と呟き、突然客席を指差すと、ステージスレスレの位置まで前に出て客席に向かって激しいブルースハープのソロを届けたのだ。その瞬間、それまで静かに聴き入る体制で観覧していたオーディエンスは渋谷の熱に触発され、手を高く上げた位置で力強いクラップを返した。渋谷のハープソロからバトンが渡った新井のギターソロでは、渋谷と新井が至近距離で向き合い、渋谷は新井に向けて大きく手を広げ、新井の放つギターサウンドを全身で受け止めたのだった。それは、何の飾りもない最高のロックSHOWが目の前で展開された瞬間でもあった。

「こんばんは! 渋谷すばると申します。Billboard Live YOKOHAMA最後まで楽しんでいきましょう! 配信をご覧のみなさんもどうぞ楽しんでいきましょう! 最後までよろしくお願いします!」(渋谷)

相変わらず不器用な短いMCを挟み、曲は人間関係や恋愛においての距離感を訥々と語る様に唄われていくミドルチューンの「来ないで」へと続いた。歌詞上の問題定義に吸い込まれ、何度聴いても最後にシニカルなオチが待っているとを忘れてしまうこの曲を聴きながら、改めて渋谷の人間らしさと、いつも何処かで常に人を楽しませたいと思っているであろう、隠れたサービス精神を感じさせられた。

言葉を多く発することのない渋谷の本質が見えてくるのは、やはり“唄”なのだ。音楽とは無条件に人の心を癒し、寄り添ってくれるものだが、その唄を歌っている人間や演奏する人間の人間性と対面したとき、その音楽はより深く心の中に浸透していく気がする。この日のライヴには、そんな人間性と関係性が浮き彫りになったセッションがこのライヴの中盤に置かれていた。
本間の鍵盤と渋谷の唄のみで届けられた「Noise」、新井のギターと渋谷の唄のみで届けられた「さられ」、安達のベースと渋谷のブルースハープ唄のみで「水」、茂木のドラムと渋谷のギターと唄で届けられた「ライオン」だ。

スペイシーな鍵盤ソロから、とことん優しく柔らかな音色のイントロを本間が奏で渋谷を誘うと、渋谷はそっとそこに唄を置いた。渋谷の唄う姿に終始視線を送りながら、鍵盤で一緒に唄う本間。“悲劇の文明が 今日も手招きしてる 目を合わせ流されず 上手く流れて行けるかな”意味深いメッセージを載せたその唄は、会場に静かに響いた。新井のループするギターに唄を載せていく渋谷。“晒され者が 全てのものを 抱きしめながら 次の世界へ 大きな声で”そう唄われる歌詞の意味を新井は深く理解しているかの様に、大きく頭を振って激しくギターフレーズをループさせていく。渋谷はそんな新井の姿を時折見つめ、新井が放つ感情が赤裸々にぶつけられたギターの音に激しく頭を振って曲の中に入り込んだ。
ベースがリズム楽器であることを忘れさせる安達のメロウなベースプレイから幕を開けた「水」。渋谷はそこに唄を載せ、ブルースハープを加え、流れる曲に抑揚を付けていった。安達のベース音は、ホールツアーで聴いた歪みのある音よりも、少しクリアで優しかった。この日ならではの優しい音は、この曲の終盤に置かれた“流れのままに 流れて よせられ 別れの先に 君といれば笑う ”という、ツアーでたくさんの笑顔に包まれて来た渋谷の唄(心情)をそっと後押ししていた様にも感じ取れた。そして、それぞれのソロパートと唄とのセッションのラストは茂木と届けられた「ライオン」だった。

シンバルやフロアタムをマレットで力強く叩く茂木のドラムプレイから始まったその曲に、渋谷は少し寂しげなアルペジオを沿わせた。“勢い良く飛び出したものの 外は知らない世界”という歌い出しから続いていく歌詞は、渋谷の人生そのものを書き下ろしたかのような景色がリアルに描かれている。真っ直ぐにその言葉を届ける渋谷の後ろで、茂木は全身の力を振り絞ってドラムを叩いて応えていった。“0か100 いつだって”。抑えきれない想いのままに迷うことなく行動する渋谷そのものだ。茂木と2人で進められていった「ライオン」のラストで、新井、安達、本間がそこに入って音を重ねた瞬間、ステージを薄暗く照らしていた照明は会場全体を明るく照らしたのだった。賭けてみたいと思って1人で飛び出した世界で声を放つ今、渋谷にはこんなにも多くな仲間が居るということを証明していた景色だった。間違いなく、この日のハイライトはこの瞬間だったと思う。
渋谷はここで改めて自己紹介をし、しっかりとカメラを見つめて配信を見てくれている画面の向こうのオーディエンスにも挨拶をし、少し照れ臭そうな笑みをこぼした。このMCの流れの中で、『SPOOX MUSIC』の番組共通質問として設けられていた【アーティストとしての原点】という質問に応えた場面では、15歳から現41歳まで身を置いているこの世界と、そこで経験させてもらった時間への感謝を改めて言葉にしたのだった。そして、目の前に居るお客さんと一緒にライヴを作っていくことを主とする番組『SPOOX MUSIC』が新たにスタートしたことを心から喜び、第一回目のゲストとして呼んでもらったことへの感謝と、『SPOOX MUSIC』と音楽シーンが更に盛り上がっていく様にと客席に呼びかけたのだった。

「まだまだ世界中安心出来ない状態が続いてますが、だからこそ、音楽とかエンターテイメントというのを大事に大事に守っていきたいし、盛り上げていきたいと思ったんです。なので、盛り上げていきましょう。楽しんでいきましょう。音楽とかエンターテイメントって、絶対に必要だと思うんです。だからみんなも来たんでしょ? ね(笑)。だから一緒に盛り上げていきましょう!」(渋谷)

口下手な渋谷の心からの言葉に客席からは拍手が起こった。“ありがとうございます”と嬉しそうに笑う渋谷。“あのバンドも見たいし、このバンドも見たいし”と、一音楽ファンとして熱い想いを語る場面もあった。
ライヴ終盤に届けられたフックの効いたロックナンバー「きになる」では、楽しさ余ってステージを降りた渋谷が、客席に近づくなどの予定にはなかったサプライズ度の高いパフォーマンスを魅せ、オーディエンスを喜ばせていたのだった。

そこからサウンド的にも最高のセッションが行われたのも是非とも記しておきたいところ。「きになる」のアウトロから「ワレワレハニンゲンダ」へと繋がれたのだが、「ワレワレハニンゲンダ」の間奏では、この日の会場の雰囲気に合わせ、この日の為にアレンジされたブルージーなバンドセッションが挟み込まれたのである。思わず全身の力を抜いて項垂れて音に酔ってしまいたくなる程に最高なサウンドだった。
最高の笑顔を見せ、ステージ上で撮影していたカメラマンのカメラを何度も覗き込み、配信で楽しんでいるお客さんに向かっても全力で唄う姿は、とても自然体だった。これが今の渋谷すばるである。

冒頭にも記した通り、12月22日(木)には『スペースシャワーTV』で、ライヴメイキングなども含む特別番組が放送されるので、“今の渋谷すばる”を是非、その目で確かめて欲しい。今、彼は最高に自然体でいて、そして最高にカッコイイ。

最高のロックと最高のエンターテイメントと最高の生き方と道標を感じてもらえるはずだから。

Live photo by 柴田恵理

Text by 武市尚子


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