世界最高のギタリストのひとり、ジョン・マクラフリン率いるマハヴィシュヌ・オーケストラの『火の鳥』

2021年1月22日 / 18:00

ジェフ・ベックは「生きている中では最高のギタリスト」と言い、パット・メセニーは「世界で最も偉大なギタリスト」と語った。ジミー・ペイジにギターを教えていたこともある…それがジョン・マクラフリンである。彼がいなければ、ロックとジャズの風景は今とは違ったものになっていただろう。今回取り上げるマハヴィシュヌ・オーケストラの『火の鳥(原題:Birds of Fire)』は、マクラフリンが中心となって結成されたジャズロックグループの2ndアルバムである。メンバーの超絶テクニックと息苦しいまでの緊張感、そしてスピリチュアルな側面が味わえる傑作だ。今ではジャズロックやフュージョンにカテゴライズされているが、リリースされた当時は当てはまるジャンルが存在しなかったために、プログレとして紹介されることもあった。
ジャズロックの元祖のひとりである グレアム・ボンド

アレクシス・コーナー、ジョン・メイオール、グレアム・ボンドの3人は、60年代からブリティッシュロック界で活躍する多くのアーティストを育てた、いわば教師のような存在である。クリームのエリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーをはじめ、コロシアムのディック・ヘクストール・スミス、ジョン・ハイズマン、フリートウッド・マックのピーター・グリーン、ストーンズの面々、ロッド・スチュワート、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジらは、3人の師匠のもとで修行(時期はまちまちだが)を積み、それぞれの音楽を見出していく。

3人の中で最も若いグレアム・ボンドは、自身のグループグレアム・ボンド・オーガニゼーションを率いてR&Bやジャズを演奏していた。1963年に結成されたこのグループにはボンドの他、ジャック・ブルース(Ba)、ジンジャー・ベイカー(Dr)、ディック・ヘクストール・スミス(Sax)、ジョン・マクラフリン(Gu)という凄腕のメンバーたちが在籍していた。このグループで彼らは腕を磨き、後にクリームやコロシアムといったロック史に残るグループで活躍することになる。

マクラフリンは1年ほどで脱退し、スタジオミュージシャンとして活動する。また、ベイカーは66年に脱退、代わりにジョン・ハイズマンが加入する。
ジャック・ブルースのソロ作で再会

68年、彼らはまだクリームに在籍していたジャック・ブルースのソロアルバム(というかセッション)の録音のために再会、その時のレコーディングは内容の難解さからかリアルタイムでは発表されず、70年になってから2ndソロアルバム『シングス・ウィー・ライク』としてリリースされた。このアルバムは全曲インストで、内容はほとんどフリージャズといってもよいが、ロックの過激さもしっかり内包しており、アグレッシブかつ切れ味鋭い最初期のジャズロック作品に仕上がっている。

メンバーはジャック・ブルースのほか、ディック・ヘクストール・スミス、ジョン・ハイズマン、ジョン・マクラフリンで、彼らの熟練したテクニックが十二分に発揮されており、ポップ性が全くないだけに今聴いても全く古びていない秀作だ(クリームが好きでこのアルバムを入手した当時の中学生は、難解であるがゆえにこのアルバムのことは語れなかった…はい、僕のことです)。

このアルバムで当時のロックギタリストと比べるとまったく異なるジャズ的なプレイを披露していたのがジョン・マクラフリンである。ジャンルを飛び越えたフュージョン的な演奏が珍しくない現代と違って、60年代に登場したマクラフリンは、当時からすでにカテゴライズしにくい演奏を身上としている珍しいアーティストであった。彼の音楽性はロック、ジャズ、R&B、フラメンコ、インド音楽などさまざまなジャンルに及んでいて、それだけに彼のギタープレイには奥深さが感じられるのである。
ジョン・マクラフリンの音楽

マクラフリンは69年に初のリーダーアルバム『Extrapolation』をリリースする。このアルバムでは多彩なテクニックを使ってフリージャズ的な演奏を繰り広げているが、ブリティッシュのアーティストということもあってプログレ的な展開があったりインド音楽の要素も感じられたりするなど、彼の特徴はすでにこのデビュー作の時点で完成していたようだ。

このアルバムをリリース後、彼は渡米し同じ志を持つ天才ドラマーのトニー・ウィリアムスのグループ、ライフタイムに参加する。このグループで明確なジャズ/フュージョン的なスタンスを身につけるのだが、この後、マクラフリンにとって将来の進む道を決定づける出来事が起こる。“エレクトリック・マイルス”の時代(ジャズにロックやファンクのサウンドを取り入れた最初期のフュージョン)のマイルス・デイビス・グループへの加入である。『イン・ア・サイレント・ウェイ』(’69)を皮切りに、ジャズ史に残る『ビッチェズ・ブリュー』(’70)などに参加し、マクラフリンの名は世界的に知られるようになる。マイルスのもとで学んだものは大きく、この時の経験が彼の音楽性を開花させることになる。
マハヴィシュヌ・オーケストラ結成

マクラフリンは彼と同じくマイルスのグループにいたビリー・コブハムと意気投合し、71年に新グループを結成する。メンバーは他に、ヤン・ハマー(Key)、ジェリー・グッドマン(Vln)、リック・レアード(Ba)で構成されていた。マハヴィシュヌとは“素晴らしいヴィシュヌ神”という意味で、マクラフリンのインドへのリスペクトが表れている。スリ・チンモイ(在ニューヨークのインドの精神的指導者)の信仰者(弟子)として、カルロス・サンタナとは『魂の兄弟(原題:Love Devotion Surrender)』(’73)をリリースしている。

マハヴィシュヌ・オーケストラのサウンドコンセプトは、エレクトリックジャズ、ロック、ファンク、インド音楽、東洋思想などを融合させたものであり、マクラフリンのジャズ・ミーツ・ハードロック的な壮絶なギターワークと、千手観音のように手数の多いコブハムの超絶プレイを中心に、真似のできないような超絶技巧の応酬が特徴である。一方で、スピリチュアルな部分も併せ持っており、彼らのデビューアルバム『内に秘めた炎(原題:The Inner Mounting Flame)』(’71)は、張り詰めた緊張感の中から繰り出される超絶技巧が繰り広げられる傑作であった。彼らほどのハイレベルな音楽性は、当時ロックで比肩し得るグループはなかったと思う。のちにマハヴィシュヌ・オーケストラを模したディキシー・ドレッグスがサザンロックの文脈から登場したが、技術面には近づけても深みがどうしても足りないのである。
本作『火の鳥』について

前作のデビューアルバムは、聴く者に有無を言わさず押さえ込むようなテンションの高さが特徴であったのに比べると、本作はもう少し余裕を持って鉄壁のアンサンブルを楽しめるかもしれない。とはいうものの、超絶テクニックの応酬は激しく、コブハムの手数の多いドラミングは本作では前作にも増して磨きがかかっている。

冒頭のタイトルトラックでは印象的なリフの繰り返しの上にマクラフリンのギターソロとグッドマンのバイオリンが天空に飛び跳ねる火の鳥のイメージを奏でるが、そんなに早弾きはしていないだけに、プレイのすごさが余計に際立っている。2曲目の「マイルス・ビヨンド」はマイルスに敬意を表したナンバーで、途中は各プレーヤーがかなり自由にプレイしている。後半のマクラフリンのギターは、ジェフ・ベックのような弾き方をしている。ヤン・ハマーが前面に出る曲については、70年代の中盤にもなるとマンネリ気味になってしまうときもあるが、まだこの頃は鮮度が良い。

アルバムの前半部分はプログレファンにも満足してもらえるプレイが続く。マクラフリンのアコースティックギターが冴え渡る「サウザンド・アイランド・パーク」や現代音楽のような「ホープ」といった小品もあり多彩な展開となっている。

アルバムの白眉は10分近くに及ぶ「ワン・ワード」で各楽器のソロをはじめ、高いテンションを保ったままピークを迎える。中盤に登場するコブハムのドラムソロは凄まじく、それが終わった後は、メンバー全員でカオスを迎える。また、「オープン・カントリー・ジョイ」ではアメリカ出身のグッドマンがフィドルっぽい演奏を披露し、タイトル通りカントリー的な演奏を披露している。

本作はグループにとっては一番のヒット作(全米チャート15位、全英チャート 20位、日本でも17位と健闘した)となり、ジャズのリスナーだけでなくロックファンにも受け入れられる作品となった。本作の後でメンバーが変わり、第2期マハヴィシュヌ・オーケストラがスタートするが、僕にとって印象深いのは、やはり『内に秘めた炎』と『火の鳥』の2枚のアルバムである。
TEXT:河崎直人
アルバム『Birds of Fire』
1973年発表作品

<収録曲>

1. 火の鳥/Birds of Fire

2. マイルス・ビヨンド (マイルス・デイビス)/Miles Beyond (Miles Davis)

3. 天界と下界を行き交う男/Celestial Terrestrial Commuter

4. サファイア・バレット・オブ・ピュア・ラヴ/Sapphire Bullets of Pure Love

5. サウザンド・アイランド・パーク/”Thousand Island Park

6. ホープ/Hope

7. ワン・ワード/One Word

8. サンクチュアリ/Sanctuary

9. オープン・カントリー・ジョイ/Open Country Joy

10. リゾリューション/Resolution


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