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ビリー・アイリッシュの全米No.1ヒット「バッド・ガイ」をはじめとした、彼女の作品を手掛ける兄でプロデューサーのフィニアス・オコンネル。3月に発表したビリーのデビュー作『ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で通算3週の首位をマークし、リリースから半年間TOP10に居座り続ける驚異的なロング・ヒットを記録している。
プロデュースしたタイトルがヒットした直後に、自身の作品を発表するアーティストは過去の事例からみても珍しくはない。遡るとクインシー・ジョーンズやベイビー・フェイス、ファレル・ウィリアムスなんかも、脂の乗り切った時期にソロ・アルバムを発表したことが吉と出て、ソロとしての作品も高く評価された。
彼らの作品と違うのは、作風の違いを明確にしているということ。彼女のファン等が、本作『ブラッド・ハーモニー』を“ビリーのプロデューサー”だと知らずに聴いたらどうだろう。ビリーの個性が強すぎる……というのもあるが、音楽性そのものがリンクしない。どちらかというと、エド・シーランあたりの優等生的イメージ、というか。それだけに、同路線を期待した方にはちょっと物足りなさもあるかもしれないが、線引きはしっかりされている。
1曲目の「アイ・ロスト・ア・フレンド」は、幼少期から長年距離を置いていた友人に向けられたメッセージ・ソング……だそうだが、「若くして富を得た」というフレーズから、自身に向けられた内容と、とれなくもない。歌詞に直結したいわゆるオセンチ系メロウで、大サビで壮大に盛り上げてくれるドラマチックな展開と、硬軟自在にこなすボーカルに、ソロ・アーティストとしての可能性を感じた。
前述の「エド・シーランっぽい」は、おそらくこの曲のイメージからくるもの。数年前に書いたという「シェルター」は、まさに『÷(ディバイド)』直結(イレイザーあたり?)のアコースティック・ポップで、制作当時、多少なりとも影響を受けたのでは……と思いきや、デモが完成したのは1年前の2016年とのことで、フィニアスが一歩リードしていたかも、しれない。もともとは、故アヴィーチーのために作った曲だそうだが、コラボレーションは実現しないまま終わった。
フィニアスのメロウネスが最も色濃く出た「ロスト・マイ・マインド」は、アリス・クリスチャンセンという女性シンガーのためにペンを執った、セルフ・カバー曲。この曲では存在意義を誰かに問い、続く「アイ・ドント・ミス・ユー・アット・オール」では、誰かへの想いを自分自身に説得するフレーズが見受けられる。社会的・政治的内容や、ストレートなラブ・ソングに他者への反発など、色々なタイプの曲が世に溢れているが、フィニアスの書く曲は自分自身の経験に基づいたものが多い。
「アイ・ドント・ミス・ユー・アット・オール」は、ツアー中にホテルにあったおもちゃのギターで作ったそうで、本作の中で最もキャッチーなエレクトロ・ポップに仕上がっている。一転、5曲目の「パートナーズ・イン・クライム」は男泣きのアコースティック・メロウで、フィクションによる歌詞含め、ひとつのドラマが出来上がったような曲。中盤のファルセットによるコーラスが特にいい。
シングルとしてリリースされた「レッツ・フォール・イン・ラヴ・フォー・ザ・ナイト」は、昨年夏に来日した際、大阪で書いた曲だという。SNSを通じて知り合った、会ったことのない女性と一緒にいることを空想しながら作ったそうで、アルバム中唯一、陰の要素がない曲といえる。ベッドの上でギター片手に弾き語りしながら作った、その様が目に浮かぶ……というか、デモをそのままアルバムに収録したような仕上がりになっている(最後の含み笑いとか)。
最後に収録された「ダイ・アローン」は、昨年11月に米ロサンゼルス近郊で発生した山火事を受けて、書いたと思われる曲。育った街が灰になり、それが今でもフラッシュバックする。その状況をクリスチャン・バラードに乗せて祈るように歌う、フィニアス。曲の世界観を、サウンドだけでなくボーカルでもきちんと表現できる人なんだなぁと感心してしまった。
7曲と短編ながらも内容は結構ヘヴィ。このあたりは妹にも通ずる血筋というか、単調なポップ・アルバムで終わらせないアーティストとしての拘りを感じる。大成功を受けてプレッシャーもあったと思われるが、そういった邪念に囚われず、ただ、作りたいものを作ったという印象を受けた、フィニアスのデビューEP『ブラッド・ハーモニー』。なお、今年リリースされたバラード曲「エンジェル」は収録されていない。
Text: 本家 一成
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