多くのスーパーギタリストに愛された超弩級ギタリスト、ロイ・ブキャナンの代表作『ライヴ・ストック』

2019年7月19日 / 18:00

70年代からロックを聴いていてギターが好きなリスナーなら、ロイ・ブキャナンの名前は1度は耳にしたことがあると思う。当時の大物ギタリストのインタビューなどでも彼の名前は登場するし、日本盤もリリースされていたので、彼に興味を持っていた人は少なくなかっただろう。ただ、彼のアルバムにはギター中心のインストが多いせいか、はたまたカントリー、ブルース、ロック、ジャズまでジャンルを問わないからか、一般のロックファンが注目することはあまりなかった。しかし、彼の多彩なギターワークによってロックギター全体の技術がレベルアップしたことは間違いない。今回紹介する『ライヴ・ストック』は彼の初のライヴ作品で、スタジオ盤のクールさとはまた違って、魂のこもった熱いプレイが繰り広げられている。
熱いロックと冷めたイージーリスニング

エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、スティーブ・ハウ(イエス)、ゲイリー・ムーア、デビッド・ギルモア(ピンク・フロイド)ら、ロック界を代表する多くのアーティストに影響を与えたギタリストがロイ・ブキャナンだ。トーンやボリュームノブを巧みに操り、ピックと指弾きを交えることで彼のギターの音色は曲中で自在に変化した。また、驚異の握力(たぶん)で複数弦のベンディングを軽々こなすなど、時にはギミック的な奏法も使いながら、多くのギタープレーヤーを魅了した。しかし、熱心なリスナーは別にして、彼の名前が一般的にあまり知られることがなかったのは、彼の音楽の中心がギターのみであったからだ。

通常、グループの場合、それぞれの楽器の担当者はメンバー間のアンサンブルを重視する。それはギターであってもベースであってもドラム、キーボードでも同じである。歌を中心にしたオリジナル楽曲をどう伴奏するかに重きが置かれることが多い。歌がメインに据えられるという意味では、ブルースでもR&Bでもカントリーでも同じである。そのため、各楽器のプレーヤーは、ソロの時を除いて自分のプレイのみが目立つ行為はしない。各楽器は歌と歌のイメージを生かすために、ある時は前に出たり、ある時は後ろに引いたりするのである。

ところがロイ・ブキャナンの音楽は、歌があってもなくても必ずギターがメインである。オリジナル曲であってもカバーであっても、あくまでも彼のギター演奏が主となる。彼のギターが歌手であり、伴奏者でもあるというスタイルなので、彼以外の演奏者は目立たず黒子として存在する。それだけに、ギターを弾く人には注目されてもそれ以外の人にとってはあまり関心が持てない音楽だと言えるだろう。だからこそ、彼の名前が一般的にあまり知られていないのだ。もちろん、こういったインスト音楽は昔から少なくない。しかし、その多くがイージーリスニング的な演奏で、ロックファンにとってはあまり興味が持てる内容ではない。イージーリスニング作の多くが空間の雰囲気作りの役割を持っているので、その性質上あまり熱くなってはいけない。それがイージーリスニングやBGMのあるべき姿なのである。
ミュージシャンズミュージシャン としての存在

ロイのように、ロック、ブルース、カントリーなどを中心に、多彩なテクニックを熱いスピリットで演奏するプレーヤーは、本来はインスト音楽には向かない。彼のようなアーティストは歌をメインにした音楽をやるべきだと思うのだが、ロイはギターで表現したいことが多すぎたがゆえに、彼以外の演奏者は目立たず(それはヴォーカリストであっても)、彼のギターを支えることに徹している。そのさじ加減でイージーリスニングのようにも、ロックのようにも聴こえるのだ。そういう意味では彼の音楽は中途半端かもしれないのだが、彼の音楽を極めるためには仕方のない選択であったのだと思う。

しかし、ロック界で活躍する優秀なギタリストの多くが、一般のリスナーは気づかないロイの飛び抜けたギターテクニックを見逃さなかった。ジェフ・ベックにせよ、スティーブ・ハウにせよ、自分の音楽やギターワークを高めるために、ロイの技術を学び習得しようとした。これが、ミュージシャンズミュージシャンと呼ばれたロイの立ち位置なのである。
ロイ・ブキャナンのギター奏法

ロイのギターワークは、60〜70年代は基本的にフェンダー系(特にテレキャスター)の乾いた音を中心に、チューブアンプの歪みから生じるサステインで組み立てられている。彼が目指したのはアメリカのルーツ音楽をギターで表現することだ。ブルースを弾く時には、アルバート・コリンズのような切れ味鋭いシャープさと、ティーボーン・ウォーカーのジャジーさを併せ持っている。また、カントリーを弾く時には、ペダルスティールギターのサウンドをギターで再現するために、複数弦を同時にチョーキングする複雑なベンディングを駆使している。彼のギターはジミー・ブライアントやロイ・ニコルズ(カントリーシンガー、マール・ハガードのバックギタリスト)に大きな影響を受けているものの、先人たちには見られないキレの良いシャープさとワイルドさを持っていた。彼の特筆すべき最大の独創性は、ペダルスティールのフレーズを再現しようと試行錯誤したことだろう。そして、その試みによってロックギターの可能性が大いに拓けたことは間違いない。

あと、ピッキングハーモニクス(ピックと指を同時に弦に当てる奏法で、ザ・バンドのロビー・ロバートソンが得意とするプレイ)の多用もロイの大きな特徴のひとつである。ちなみに、ロバートソンはホークス時代にロイから直接ギターを学んでおり、彼もまたピッキングハーモニクスが非常に上手い。
ロイに影響を受けた 現代のスーパーギタリスト

ロイと同じで、ギターが主のためにあまり一般には知られていないが、テレキャスターを主に使用する現代のスーパーギタリストたちは、ほとんどロイの影響下にあると言ってもいいだろう。マッドエイカーズのメンバーとして来日したこともある複数弦ベンディング巧者のアーレン・ロス、後期ザ・バンドのメンバーでピッキングハーモニクスを得意とするジム・ワイダー、カントリー系スタジオミュージシャンでオールラウンドプレーヤーのブレント・メイソン、超絶プレイで知られるヘルキャスターズの3人(ジョン・ジョーゲンゾン、ウィル・レイ、ジェリー・ドナヒュー)、ロイ直属のガッツあるプレイと超絶スライドが武器のダニー・ガットン、どちらもいかつい風貌ながら繊細なクロマティック奏法を華麗に決めるレッド・ヴォルカートとジョニー・ハイランドら、彼らは自分の“売り”をしっかり持っている。

もちろん、ジェフ・ベックやスティーブ・ハウら、60〜70年代のスーパーギタリストたちもロイのテクニックをしっかり学んでいる。ジェフ・ベックが得意とするトーン&ボリュームコントロールの奏法は、ロイから学び努力して身に付けたものだし、ハウのカントリー的な早弾き(ソロアルバムで聴ける)や、ゲイリー・ムーアのエモーショナルなプレイはバラード曲でのロイを彷彿させる。クラプトンにおいては、ロイのアルバムをブートレグに至るまでコレクションしていると言われているのだが、演奏自体についてはロビー・ロバートソンからの間接的な影響は見られるものの直接の影響はあまり感じられない。ロイの奏法が難しくて練習しても身に付かなかったのか、それともロイのコレクションが単なる趣味だったのか、よく分からない。
テレビドキュメンタリーが転機で メジャーデビュー

ロイは1971年、テレビのドキュメンタリー『The Best Unknown Guitarist in the World』で紹介されたことがきっかけで、ポリドールレコードと契約、72年に『ロイ・ブキャナン』でメジャーデビューを果たす。この作品では彼のカントリー奏法(ペダルスティール・リック)を中心に、代表曲の「メシアが再び」も収録されており、多くのギタープレーヤーを驚かせた。2作目の『セカンド・アルバム』(‘73)ではR&Bやブルースナンバーを中心した選曲がなされているが、基本はやはりペダルスティール・リックにある。演奏の完成度が高いのはアルバムラストのカントリー「She Once Lived Here」かもしれない。

続く3作目『That’s What I Am Here For』(‘74)と4作目『In The Beginning』(’74)では、R&Bやロックを中心に、ヴォーカルの比重が増えホーンセクションも入るなど、最もロック的なスタイルになっており、彼の作品中で最もバンドアンサンブルを重視した2枚である。彼がこの路線で活動していればもっと知名度が上がり好セールスも期待できたのだろうが、彼はやはりギターが前面に出なければ我慢できなかったのだろう。
本作『ライヴ・ストック』について

そして、74年11月にニューヨークのタウンホールで収録されたライヴ盤が本作『ライヴ・ストック』(‘75)である。収録曲は全部で7曲。ジャンプブルースの1曲目「リーリン・アンド・ロッキン」からエグいスローブルースの「アイム・イヴィル」まで、荒削りだがロックしているロイが存分に味わえる作品となっている。バンドアンサンブルを考慮しながらも、ファンキーに弾きまくるロイがここにいる。バックの演奏はそう上手くはないが、ライヴならではの一体感あるプレイが素晴らしい。特にザ・バンドを思わせる「ホット・チャ」での土臭いギタープレイは、テクニックを抑えレイドバックしたロイが味わえるナンバーだ。余談だが、僕がこの曲を初めて聴いたのは18、9歳頃。今は亡き石田長生率いるGASのライヴであった。ライヴが終わってから石田さんに「誰の曲ですか?」と聞くと「ロイ・ブキャナンや!」と教えてくれたので、翌日本作を買いに走ったのだった。

他にもソウルナンバーの「キャン・アイ・チェンジ・マイ・マインド」や、クラプトンの十八番でも知られる「ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード」、ピッキングハーモニクス全開のロックナンバー「アイム・ア・ラム」など、どの曲も名演揃いで、本作が彼の代表作であることは確かである。

昨年、本作のコンプリート盤がリリースされた。『Live At Town Hall 1974』と題されたそのアルバムは2枚組で、タウンホールでのライヴが全曲(21曲)収められている。ニール・ヤングの「ダウン・バイ・ザ・リバー」やジミヘンの「ヘイ・ジョー」はまさに名演であり、オリジナル盤のリリースから45年経っても彼のプレイは全く古びていない。この機会に、本作『ライヴ・ストック』をぜひ聴いてみてほしい。
TEXT:河崎直人
アルバム『Live Stock』
1975年発表作品

<収録曲>

1.リーリン・アンド・ロッキン/Reelin’ And Rockin’

2.ホット・チャ/Hot Cha

3.ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード/Further On Up The Road

4.ロイズ・ブルース/Roy’s Bluz

5.キャン・アイ・チェンジ・マイ・マインド/Can I Change My Mind

6.アイム・ア・ラム/I’m A Ram

7.アイム・イヴィル/I’m Evil


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