ネオ渋谷系から『ユーリ!!! on ICE』まで、鬼才ハヤシベトモノリの楽曲5選

2019年2月18日 / 18:00

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲! (okmusic UP's)

小沢健二の復活、野宮真貴ソロ作リィシューなど、“渋谷系”と呼ばれたムーブメントを牽引したアーティストの健在っぷりに恐れおののくここ数年ですが、かつてその潮流を汲んだとされる“ネオ渋谷系”というストリームが存在しました。しかし、実態を振り返れば、まるで雲を掴むような、霧の中のお城を夢見るような、メディアと表現の追いかけっこの最中に産まれた美しいフェイクであったようにも思います。今回はそんなあやふやな渦から奇跡のごとく飛び出したスーパーユニットPlus-Tech Squeeze Boxを率い、『スポンジ・ボブ』『ユーリ!!! on ICE』のサウンドトラックやCMソングなどを手掛け、今なお音楽界のマッドサイエンティストとして秘密基地で稼働し続けるハヤシベトモノリのクレイジーな産物をご紹介します。
「early RISER」(’00) /Plus-Tech Squeeze Box

2000年にリリースにリリースされた1stアルバム『FAKEVOX』の収録曲より、現在もテレビ番組のジングルなどで多用されている「early RISER」。キャッチーなリフがループするギターポップサウンドは、フレンチポップ調のホーンとスキャットに瞬く間に裏切られ、かと思えばハードディスクのカットアップにより無尽蔵に放たれる流星のごとき疾走感に息を吐かせる暇もなく、忙しなさに瞬きを繰り返している間にけたたましく終わりを告げ、「今のはなんだったんた?」と何千回でも聴き手を惑わせます。ネオ渋谷系の担い手と評価されながらも柳に風とロケットで脱出し、パラシュートを装着して空を漂うハヤシベトモノリという音楽家が、渋谷という万華鏡のごとき幻想を3分足らずの曲に詰め込んだチャーミングな狂気の結晶です。
「ピカソからの宅急便 (Instrumental)」(’17) /sumika

sumikaの1stアルバム『Familia』では「ピカソからの宅急便(Instrumental)」を共作。異質な取り合わせのようにも思えましたが、sumikaはデビュー時からPlus-Tech Squeeze Boxの「Dough-nut’s Town’s Map」をオープニングSEに使用していたとのことで、必然にして運命のコラボレーションだった模様。壮大なオーケストラからスペースオペラが始まるのだろうという期待を根こそぎ引っこ抜かれると、一転してバンジョーとバイオリンが腕を組んでくるくる回るカントリーに。祝祭感はサンプリングと管楽器とクラップハンドが織り成すジャジーな暴風雨で加速し、見様見真似のフレンチカンカンを踊らざるを得なくなります。
「SWEETS is CIRCUS」(’16) /竹達彩奈

ここまできたらお分りいただけるでしょう。ハヤシベトモノリという人が作る楽曲がいかにデコラティブで目まぐるしくて、むせ返るほどのパステルカラーで塗り尽くされているにもかかわらず、なぜかプラスティックのアクセサリーのように気軽に手に取れる目映さにあふれているか。氏のそういった特性は声優やアニメ作品と親和性が高く、「SWEETS is CIRCUS」では意志を持った遊園地よろしくゴージャスでファンタジックな楽曲と、竹達彩奈の演技力とヴォーカリゼーションが見事に拮抗しています。ヴォーカルが調理されつつも素材の良さが生き生きしたままだと、隙のないトラックに気を取られ流だけでなく、作詞家としての才覚が感じされるのも心地良いのです。
「魅惑の巴里サーカス急行!」(’18)/南波志帆

南波志帆の蠱惑的なウィスパーヴォイスをそのまま白い皿に盛り付けても十分作品として成立するのに、決してそうはしない頑なさこそがハヤシベトモノリという作家の記名性。竹達彩奈の「SWEETS is CIRCUS」よろしく、サーカスというワードが孕んだイメージの豊潤さや自由性、魔術性を据えながらもなぜここまで違う曲に仕上がるのか。早馬の尻を叩くようなテンポで1小節ごとにピアノ、テノールサックス、トランペット、チェンバロ、バイオリンと感知する暇もないほど矢継ぎ早にありとあらゆる楽器の音色が繰り出されるのに、なぜこんなにもシームレスでひとつの曲として連なっていくのか。このパートを書くために30回は聴き直しましたが、未だに踏み込めないままです。
「Yeah Yeah Yeah」(’17) /ハヤシベトモノリ

執筆のためにリピート再生しているだけで次元の境目に頭を突っ込みそうなほど複雑怪奇な楽曲を乱れ打ちしておいて、なぜ『ユーリ!!! on ICE』のサウンドトラックにはこんなタバコの吸い殻とハイボールが似合いそうなガレージパンクを提供しているのか。ざらついたギターとハーモニカの駆け引きに軽妙なドラミング、重心の低い流線型のベース、あとは底抜けにポジティブなスキャットとリズムを取る拍手だけ。シンプルであるがゆえの難しさ、引き算の美学。ただただ腰を振って頭を空っぽにして踊れるこの曲は、トップスケーターたちの闘いを描いた作品をライトに彩っていたに違いない。最後の最後に清涼剤のように作用する曲を持ってこれて良かった。そして、年内公開予定の劇場版『ユーリ!!! on ICE』でもきっと…。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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