昨年から180度変わったファンキーなステージ。今宵はホセ・ジェイムズの洒脱でソウルフルな音楽と共に早春の夜を満喫して。

2016年2月16日 / 13:10

   ジャズの中に潜む濃密なブルーズ・フィーリング――。
 
 昨年はビリー・ホリデイ生誕100周年を記念して彼女のカヴァー集をリリースし、『ビルボードライブ東京』でも公演を行ったホセ・ジェイムズ。その洒脱で、時折、濃密なブルーズ・フィーリングを放ちながらも、楽曲を突き放したように歌うアプローチは、20世紀の多くの歌い手たちの呪縛になり続けてきた“ビリーのイメージ”から完全に解放され、21世紀の新しいビリーズ・ミュージックを提示してくれた。

 過剰な感情移入はせず、あくまでも楽曲の1つとして、肩の力を抜いて純粋に歌う――。

 これまで、誰もやってこなかった、そんなアプローチで実にスタイリッシュなビリーのカヴァー・アルバムをリリースして約1年、再び彼が『ビルボードライブ』に帰ってきた。昨年のライブでのダーク・スーツ姿とは打って変わって、今回は赤いレザー・ブルゾンにジーンズというストリート・ファッションで登場したホセ。その前にはサム・クックの「チェンジ・イズ・ゴナ・カム」のカヴァーが流され、一般黒人たちが思い思いに書いたメッセージ・ボードを抱えた写真がスライドショーのように映されていく。そういったオープニングの流れの中から、今年のライブはどうなるのだろう…? そんな期待と一抹の不安が胸いっぱいに膨らんだ状態で公演に臨んだ。

 ソウルフル&スタイリッシュ――やはり最初に浮かんできた言葉はそれだった。

 彼の佇まい、オーラ、そして一挙手一投足が“絵”になる。そして髪型を変えた2016年型のホセは、とてもファンキーで会場が激しく揺れ動くぐらい躍動的なナンバーを繰り出してくる。特定の誰かに歌を捧げるのではなく、会場全体に歌いかけ、一体にしてしまう力強さが伝わってくる余裕も感じさせるステージ。ときには表層的なスタイリッシュさだけを揶揄し、彼を単なるハイプだと批評する人もいる。だが、ホセはデビュー当初からは想像できないくらい、歌への解釈や感情移入の度合いを進化させている。

 決して熱くなり過ぎたり、観客の要望に過剰反応したりしないが、自身の歌とパフォーマンスでオーディエンスを鷲掴みにするスキルは、まだデビューしてやっと10年のミュージシャンとは思えない存在感を放っている。以前はどちらかというと静謐さを感じさせる瞬間が多かったパフォーマンスとは大きく異なり、今年は麝香の香りにも似た色気を強烈に発散していた。

 常々、彼が口にする「ジャズ・シンガーという枠に収まりたくないんだ」という言葉通り、中盤ではミシェル・ンデゲオチェロ~ビル・ウイザースのカヴァー・メドレーで“擬似ターンテーブリスト”を演じ、同じフレイズを緩急自在に織り混ぜながら繰り返して発し、レコードをスピンする真似をする。そこから早口のラップに移行し、ソウルとジャズとヒップホップを巧みに繋いで聴かせた。さらには、濃密なブルーズ・フィーリングも全開にして、星条旗が巻きつけられたスタンド・アップ・マイクに噛り付くホセ。もちろん、もうすぐリリースされる新作からの楽曲もお披露目してくれて、とてもラッキーな感覚を抱けるライブになっていた。

 日本人のキーボード奏者を含むトライアングル・バンドの演奏も、ホセが「今のメンバーが最高で、まるで“ドリーム・チーム”だ」と絶賛しているように、彼の歌に寄り添い、ときには絡みつき、後ろから押すようなグルーヴやパルスを発信し続け、気軽に聴き流せないサウンドを構築している。どうやら新作はR&Bやヒップホップ的なニュアンスが前に出た作品らしく、この日に披露したナンバーもそんな雰囲気が濃厚だった。

 果たしてホセ・ジェイムズはどこまで進化していくのか?ジャズやR&Bやヒップホップの壁が完全に溶解してしまった現在、彼らが目指しているのは総合的な“今”のブラック・ミュージックであり、その手本となっているのが1930年代ころからの“観せて踊らせる”キャブ・キャロウェイやルイ・ジョーダンだったり、黒人差別がひどかったオーティス・レディングやサム・クックの時代だったり、ブラック・ミュージックが脚光を浴びてきた時期のスライ・ストーンやパーラメント/ファンカデリックだったり…。もちろんJBやプリンスなども含めた先達の音楽を咀嚼・分析しながら、今の手法で表現していく――ホセ・ジェイムズはそれを実践している真っ最中なのだろう。

今回のステージにも、およそジャズとは言えない表現やアクションがふんだんに盛り込まれていて、彼の背中からはルーサー・イングラムやアル・グリーンやデイヴィッド・ラフィンたちが透けて見えてきた。だからこそ今、彼のライブを観る価値は高く、現代のブラック・ミュージックを俯瞰するときに欠かせないアーティストなのだ。

 さぁ、ここまで説明したのだから、あとは自分の目と耳で確かめてみて!東京は今日(16日)、大阪は17日にライブがあるので、みんな準備万端で会場に向かって欲しい。できれば、普段よりも少しお洒落をして。今が“旬”のホセの洒脱さに負けないようにね。

◎公演情報
【ホセ・ジェイムズ】
2016年2月15日(月)・16日(火) ビルボードライブ東京
公演詳細>
2016年2月17日(水) ビルボードライブ大阪
公演詳細>

Photo:Yuma Totsuka

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。ようやく早春の空気も感じられるようになってきたこのごろ。今宵は春野菜をバーニャカウダにして、ホッコリ暖まりながら、冷たいワインなどいかがですか? フランス・アルザス地方やニューヨーク州のフィンガーレイクスあたりで生産している、ライチの香りと、ほんのりと甘みも感じるゲブェレツトラミエルなんてチョイスも気が利いているかも。ワインの強い第1アロマから放たれる、まるでぶどう畑にいるような錯覚に陥るほどの華やかさは、早春をワクワクした気分にしてくれる。春が待ち遠しい人にはうってつけの“春便り”になること間違いなし!


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