サザン10年ぶりの新アルバム『葡萄』全曲を聴いて――平和の歌でも下ネタ全開チューンでも万人を人生に陶酔させる凄み

2015年3月26日 / 18:00

 3月31日 約10年ぶりのニューアルバム『葡萄』をリリースするサザンオールスターズ。2013年の活動再開以降……もっと言えば、2008年の日産スタジアム公演を最後に無期限活動休止へ入った日から日本中が心待ちにしていたであろう今作は、万人を人生に陶酔させる大作となっている。

<「だから勝負、勝負、勝負出ろ!! 勝負に行こう!!」>

 桑田佳祐も「葡萄の花言葉は陶酔。葡萄の房のように1曲1曲が連なっており、読み物としても楽しんでほしい」と語っていた今作だが、今作が一冊の小説とするならば1ページ目、1行目から熱量が凄まじすぎる。「だから勝負、勝負、勝負出ろ!! 勝負に行こう!!」日本の音楽シーンの頂点に君臨し続ける国民的バンドが、まるで青春パンクバンドのようなテンションで“勝負”というフレーズをこれでもかと連発し、途中何故か「杏仁豆腐とジャージャー麺が食いてぇ 食べたい」と叫びながら、人を鼓舞させる為に必要な音の限りを尽くして歌い去っていく痛快さ。曲のすべてがフックと言っても過言ではないキャッチーさと言い、この「アロエ」ひとつで“サザンオールスターズ”が物語れているような感覚さえ覚える。

<ページを捲れば捲っただけの音楽と人生を目の当たりにする>

 その衝撃に浸る間もなく聴こえてくる「青春番外地」の歌謡フォーク感には、酒場で乱れるアノ時代の青春謳歌を想起。一方「はっぴいえんど」のニューミュージック感では、ここではないどこか、南国で恋人と身を寄せながら波の音でも聴いているような夢物語へ逃避。そんなリアルとファンタジーの世界を行き来していると、急に「Missing Persons」でマフィアの取引でも見ているようなスリリングな世界へと誘われる。そして新たな代表曲「ピースとハイライト」「イヤな事だらけの世の中で」で、数十年前から愛聴していたかのような錯覚に陥るスタンダード感、すなわちジャパニーズミュージックのど真ん中であるサザン節が全開。我々が待っていたのはこの音楽ですと、両手を挙げて嬉々としてしまう音色とメロディー、声が堪能できる。

 と思えば「天井棧敷の怪人」というタイトルからして危なさを感じさせる曲で、歌詞にも出てくる「毛皮のマリー」にも通ずる世界観に身悶えることになり、続く「彼氏になりたくて」では過去のサザンのバラードがそうであるように無理くり過去の失恋をフィードバックさせることになる。ページを捲れば捲っただけの音楽と物語を目の当たりにし、そのすべてが自身の人生のどこかしらのページと重なっていく。聴いていて何も感じない訳がないし、前述の花言葉の通りに陶酔しない訳がない。

<平和の歌から下ネタ全開チューンまで、生命力を鼓舞する後半>

 もはや説明不要の「東京VICTORY」を経て、アルバムは後半へ。満を持して原由子メインボーカル曲「ワイングラスに消えた恋」が聴こえてくる。さまざまなタイプのナンバーが揃う今作の中でも際立って歌謡曲、ぜひとも日本中のスナックのママさんにマスターして頂きたい。そして「老いてゆく肉体は愛も知らずに満足かい?」「この世は弱い者には冷たいね 終わりなき旅路よ 明日天気にしておくれ」など30代以上独身男性は涙なしでは聴けないであろうフレーズのオンパレード「栄光の男」に鼓舞し、絶望から這い上がってきた全日本人へのエールとも受け取れる「平和の鐘が鳴る」に命を感じ、下ネタ全開の「天国オン・ザ・ビーチ」にもまた違った意味で生命力を感じさせられる、この終盤の畳み掛けの凄み。こんなめちゃくちゃなヒーローは、他ではお目にかかれないだろう。

<「みんな死ぬなよ~」と言ったサザンがこのアルバムを出した意義>

 このあらゆる手法で聴き手を鼓舞/陶酔させる流れは、愛に溺れるだけ溺れた歌うたいのセレナーデ「道」、爽やかに「恋の波動で 胸を焦がして 完璧すぎる世間を嗤ってやりたいな」と歌い放つ「バラ色の人生」、そして最後の「蛍」まで続いていく。人生を重くも軽やかにも難解にもシンプルにも表現し、生きることに夢中になってみたいと思わせるアルバム『葡萄』。2008年の日産スタジアムで桑田佳祐は「みんな死ぬなよ~」と言ってステージを降りた。そのサザンオールスターズの復活後初のアルバムがこの内容である。復活シングル『ピースとハイライト』を聴いたときにも思ったことだが、改めて「生きててよかった!」と笑いたくなった。というか、これを引っ提げてドーム公演含む全国ツアーが開催されるのかと思うと、笑いが止まらない。サザンの音楽と共に歩む未来、人生、大いに謳歌しようじゃないか。

取材&テキスト:平賀哲雄

◎アルバム『葡萄』
2015/03/31 RELEASE
完全生産限定盤A(「通常盤CD+オフィシャルブック「葡萄白書+“おいしい葡萄の旅”Tシャツ+ボーナスDVD」特製BOX入り)
VIZL-1000 6,500円+税
完全生産限定盤B(「通常盤CD+オフィシャルブック「葡萄白書」+ボーナスDVD」特製BOX入り)
VIZL-1010 4,500円+税
通常盤
VICL-64400 3,300円+税
収録曲:
01.アロエ (WOWOW 2015 CMソング)
02.青春番外地
03.はっぴいえんど (JTB CMソング)
04.Missing Persons
05.ピースとハイライト (フォルクスワーゲン『New Golf』CMソング)
06.イヤな事だらけの世の中で (TBS系 日曜劇場『流星ワゴン』主題歌)
07.天井棧敷の怪人
08.彼氏になりたくて
09.東京VICTORY (三井住友銀行 CMソング / TBS系列『2014 アジア大会&世界バレー』テーマ曲)
10.ワイングラスに消えた恋
11.栄光の男 (三井住友銀行 CMソング)
12.平和の鐘が鳴る (NHK 放送90年イメージソング)
13.天国オン・ザ・ビーチ
14.道
15.バラ色の人生
16.蛍 (映画『永遠の0』主題歌)
※完全生産限定盤Aは、完全生産限定盤Bに“おいしい葡萄の旅”Tシャツがプラスで付く形となります
※アナログ盤のみ発売日が2015年4月8日となります
アナログ盤
VIJL-61500~61501 4,000円+税


音楽ニュースMUSIC NEWS

Vaundy、自身最大規模のアリーナツアー全公演が明らかに

J-POP2024年4月28日

 Vaundyが、2024年11月より開催する【Vaundy one man live ARENA tour 2024-2025】の全公演を発表した。  今回、神戸・神戸ワールド記念ホール、徳島・アスティとくしま、福岡・マリンメッセ福岡 A … 続きを読む

YOASOBI、韓国公演より「群青」ライブ映像を公開

J-POP2024年4月28日

 YOASOBIが、楽曲「群青」のライブ映像を公開した。  今回公開されたのは、2024年4月10日にリリースとなったライブ映像作品集『THE FILM 2』に収録されている、アジアツアー【YOASOBI ASIA TOUR 2023-20 … 続きを読む

TOMORROW X TOGETHER、日本4thシングル『誓い (CHIKAI)』7月リリース

J-POP2024年4月28日

 TOMORROW X TOGETHERが、2024年7月3日に日本4thシングル『誓い (CHIKAI)』をリリースする。  今年デビュー5周年を迎え、7月10日より自身初でK-POPアーティスト史上最速となる日本4大ドームツアー【TOM … 続きを読む

w-inds.、最新曲「Imagination」配信決定

J-POP2024年4月28日

  w-inds.が、5月1日に最新曲「Imagination」の配信を開始することを発表した。   この曲はメンバーの橘慶太によるプロデュースで”いつでも自分たちのライブやイベントの日の事を思い出して日常の糧にしてほしい、どん … 続きを読む

mol-74、ニューAL『Φ』からリードトラック「BACKLIT」MV公開

J-POP2024年4月28日

  mol-74が、ニューアルバム『Φ』からリードトラック「BACKLIT」のミュージックビデオを公開した。   本楽曲は、”過去の自分”と”現在の自分”を比較した事を楽曲にしており、俳優の雪 … 続きを読む

Willfriends

page top