エンターテインメント・ウェブマガジン
デビューから20年を経て、ドイツ・ノイ=ウルムを拠点とするソングライターは、新たな世代のリスナーとの出会いを重ね、その憂いを帯びた音楽はストリーミングを通じて静かに広がり続けている。
Janosch Moldauは、自分のファンに“憂鬱なグルーピー”という名前をつけている。そして最近、その数が目に見えて増えてきた。7月のシングル「Not At All」は、リリース週にApple Musicの再生回数チャートの上位へ食い込んだ。新作EP『グッバイ・ワールド』も、8月14日の正式リリースを前に、ドイツのシングル・チャートとオルタナティブ・チャートの両方で急上昇中だ。ドナウ河畔にある南ドイツの小さな街、ノイ=ウルムを拠点にするインディペンデントのアーティストにとって、こんな一週間は、普通なら大手レーベルの後ろ盾でもなければ起こらない。しかも当のMoldauは、その光景を自宅のスタジオから眺めているだけなのだ。
現在の心境を、彼は「ヘトヘト、でも幸せ」と表現する。疲れるのも当然だろう。このプロジェクトは、もうほとんど自動操縦で回りはじめていると彼は言う。それを支えているのは、20年を超えるキャリアと、めまぐるしく移り変わる音楽業界のいくつもの時代をくぐり抜けるなかで積み上げてきた、ファンの厚い信頼だ。ストリーミングの数字が動きだすずっと前から、彼はラフ・トレード、モーター・ミュージック、イーデルAGと契約を結んできた。どれも、90年代から2000年代にかけてのヨーロッパのオルタナティブの流れに、彼をしっかりと結びつける名前だ。今、彼の作品はソニー・ミュージックエンタテインメントの配信部門ジ・オーチャードを通じてリリースされている。手元には、2018年かそれ以前までさかのぼる再生データも残っている。同世代のインディペンデント・アーティストで、これだけの記録を示せるのはまずいない。
この長い道のりがあるからこそ、ここ最近の急上昇には意味がある。Moldauは、突然現れたアーティストではない。彼は、かつて自身を契約した音楽業界の変化を乗り越えながら、着実にキャリアを築いてきた。ソングライターへ転身する以前はサウンド・デザイナーとして活動しており、その経験は作品にも色濃く表れている。大音量や派手な演出ではなく、緻密に作り込まれたシンセサイザーの音色と、ゆったりとしたアレンジを重視する作風が特徴だ。そして、その中心にあるのが彼の歌声だ。重厚で端正なボーカルは、クラブ・ポップというよりも、むしろ祈りの音楽を思わせる。海外メディアでは、トーク・トークやデペッシュ・モードと比較されることも多く、2024年発表の「Soul Recovery」は、アメリカとドイツのオルタナティブ・シングル・チャートでともにトップ20入りを果たした。
「Not At All」は、そうしたMoldauの美学を、信仰と喪失をテーマにした4分間へと凝縮した楽曲だ。揺らめくシンセサイザーのフレーズと、温かみのあるギターの旋律を背景に、「時間はすべての傷を癒やすのか」という率直な問いを、「Not at all, not at all(まったくそんなことはない)」というリフレインで自ら否定していく。ミュージック・ビデオでは、雪に覆われた山々を歩くMoldauの姿が、劣化したVHS映像のような質感で映し出される。傷ついた映像として描かれる記憶が、楽曲の世界観をより印象深いものにしている。重いテーマを扱いながらも、どこか不思議な軽やかさをまとった作品であり、それこそが、彼のファン層が年齢を重ねるだけでなく、新たなリスナーへと広がり続けている理由なのだろう。
これは、4曲入りEP『グッバイ・ワールド』の最後を飾る楽曲だ。本作はMoldauが全曲を単独で制作し、商業リリースに先駆けて数か月前に、自身のPatreon登録者へ先行公開していた。熱心なファンにいち早く作品を届けるという、一般的なプロモーションとは逆のアプローチを取った作品でもある。タイトルの『グッバイ・ワールド』についても、Moldau自身は明確な答えを示そうとはしていない。「Every time is the last time(すべての瞬間が最後の瞬間なんだ)」という彼の言葉は、別れの宣言とも、創作に向き合う姿勢とも受け取ることができる。
日本ではこれまでも、こうした内省的で繊細な音楽が長く支持されてきた。ヨーロッパのニュー・ウェーブへの根強い人気から、近年の海外オルタナティブ・ポップまで、じっくり耳を傾けるタイプの作品を受け入れる土壌がある。Moldauの音楽もまた、まさにそうしたリスナーとの相性が良いと言えるだろう。『グッバイ・ワールド』が本当に“終わり”を意味する作品なのか、それとも新たな始まりへの入り口なのかは、まだ分からない。ただ、この夏の再生数が示しているのは、彼の静かな憂いを帯びた音楽が、これまで届かなかった新たな場所へと確実に広がり始めているということだ。
『グッバイ・ワールド』は、8月14日にジ・オーチャード/ソニー・ミュージックエンタテインメントよりリリースされる。
洋楽2026年8月12日
ロール・モデルが、通算3作目となるスタジオ・アルバム『チャック・タイムリー・アンド・ザ・アワーグラス』をリリースした。 本作は2024年7月発表の2ndアルバム『Kansas Anymore』に4曲を追加したデラックス盤『Kansas A … 続きを読む
J-POP2026年8月12日
LDH JAPANの若手グループが中心となり、東京・SGCホール有明にて11日間連続で開催されるライブイベント【LDH DREAM PARK 2026 ~RISE OF THE CHALLENGERS~ presented by LDH … 続きを読む
J-POP2026年8月12日
私立恵比寿中学が新曲「スーパーブルー」を2026年8月26日に配信リリースする。 私立恵比寿中学は2026年5月5日にメジャーデビュー14周年を迎え、2027年の15周年に向けた1年を“GOLDEN YEAR”と掲げている。そんな彼女た … 続きを読む
洋楽2026年8月12日
KATSEYEが、メイン・シングルとなる「Hootie Frutti」を含む3rd EP『WILD』全曲の一部音源をハイライト・メドレーとして初公開した。 約2分52秒の映像では、回転する映写機の画面を通して『WILD』のさまざまなシー … 続きを読む
J-POP2026年8月11日
King & Princeが、2026年9月2日にリリースとなる1st EP『So Honey EP』より、初回限定盤Aに収録される「So Honey」MVビハインド映像のティザー映像を公開した。 本作は、タイトル曲「So Ho … 続きを読む