<コラム>ルイス・ダンフォード「The Angel」、アーセナル22年ぶりのプレミアリーグ優勝後全世界のストリーミング数が12倍に ローカルな作品が国境を越える鍵とは?

2026年6月10日 / 19:00

 イギリスのシンガーソングライター=ルイス・ダンフォードの「The Angel」のストリーミング再生回数が、5月末に大幅に増加したことがわかった(ルミネイト調べ)

 「The Angel」は、ダンフォードが2022年にリリースした2nd EP『The Popham』の収録曲。曲名は地元であるロンドン・イズリントン区にある地下鉄駅に由来している。家族や友人、そしてこの地域に生きる人々への愛情が込められている一曲だ。

 リリースから約2か月後、イズリントンを本拠地としているサッカークラブ、アーセナルのサポーターたちがこの曲に注目しは始め、SNSで話題となった。やがてアーセナルの監督であるミケル・アルテタの耳にも届き、クラブの精神を体現する曲として評価した。また、アルテタ監督はアーセナルのサポーターであるダンフォードをクラブのトレーニングセンターに招待し、選手たちとの対面を実現させた。以来「The Angel」は、アーセナルのアンセムとして親しまれ、エミレーツ・スタジアムでのホームゲーム前に毎回大合唱される定番曲となっている。

 そして、現地時間5月19日の夜、アーセナルが22年ぶりにプレミアリーグの優勝を決めると、その翌日「The Angel」のストリーミング再生回数が前週同一曜日の約12.5倍に上昇した。

 また、国/地域別の内訳を見ると、再生回数の増加はイギリスに限らず世界各地で観測された。シェアの上位は、イギリスが37.7%、その他(個別に集計されていない国/地域の合計)が15.5%、アメリカが7.0%、インドネシアが3.6%%、スウェーデンが2.8%、オーストラリアが2.7%、タイが2.4%、アイルランドが2.1%、日本が2.0%と続き、比較的均等に各国/地域で聴かれている傾向が読み取れる(5月1日~31日の集計)。

 ここで注目すべきは、「The Angel」がロンドンの一行政区を題材とする極めてローカルな楽曲でありながら、グローバルに受容されている点である。音楽とスポーツの相乗効果という観点だけでは、この越境性を十分に説明することは難しい。

 この現象を整理するうえで参照しうる概念が「仮想経験ノスタルジア」だ。これは、自分が直接経験していない時代・文化・場所・出来事に対して抱く懐かしさや憧れを指す概念で、メディア研究やマーケティング研究の分野で用いられている。

 この概念に照らせば、現象は次のように整理できる。第一に、世界中のグーナー(アーセナルサポーターの総称)の多くは、ロンドン・イズリントンを直接訪れた経験を持たない。第二に、にもかかわらず、彼らは試合中継、サポーター文化の映像、SNS上の共有体験などを通じて、その土地の風景や情緒に繰り返し触れている。第三に、「The Angel」はその土地に根ざした感情を表現しているため、リスナーは楽曲を介して「行ったことのない地元」を擬似的に追体験できる。優勝という象徴的な出来事が、この擬似的な土地感覚とさらに強く結びつき、楽曲の消費が刺激されたと推察される。

 同様の構図は、他のコンテンツ領域にも当てはまる可能性がある。たとえば日本のアニメ主題歌が海外で広く受容される現象についても、視聴者が作品世界を通じて架空の風景や関係性を疑似的に追体験し、そこに懐かしさや帰属感を覚えるというメカニズムが働いていると考えられる。すなわち、現地での実体験を持たないリスナーであっても、コンテンツを媒介として「経験していない記憶」を共有しうる、という点で共通している。

 「The Angel」をめぐる今回の事象は、単なるスポーツと音楽の連動現象として片付けられない側面を持つ。極めてローカルな題材であっても、関連するコンテンツ群を通じて疑似的な土地感覚や記憶が世界中のオーディエンスに共有されることで、グローバルな受容が成立しうることを示唆している。

 この観点から、「仮想経験ノスタルジア」は、コンテンツの海外展開において重要な役割を果たす可能性がある概念として位置づけられることができる。直接的な現地経験を持たない海外オーディエンスをいかに「擬似的な経験者」へと接続するか ―― この設計思想は、音楽、スポーツ、アニメ、観光、地域ブランディングなど、ローカル性を持つコンテンツが国境を越える際の鍵となりうるだろう。

※グローバルの音楽データをリアルタイムで分析できるプラットフォーム「CONNECT」(ルミネイト)の詳細は下記ページをご確認ください。
https://www.billboard-japan.com/luminate/


音楽ニュースMUSIC NEWS

【MUSIC AWARDS JAPAN 2026】Grand CeremonyのパフォーマンスアーティストにFRUITS ZIPPER決定

J-POP2026年6月10日

 2026年6月13日に授賞式が開催される国内最大規模の国際音楽賞【MUSIC AWARDS JAPAN 2026】のGrand Ceremonyにて、新たにFRUITS ZIPPERのパフォーマンス披露が決定した。  Grand Cere … 続きを読む

GOOD BYE APRIL、新曲「Favorite!」はストレートな愛情を伝えるサマー・ウエディングソング

J-POP2026年6月10日

 GOOD BYE APRILが、新曲「Favorite!」を7月1日に配信リリースする。  今回の新曲について倉品翔(Vo. / Gt. / Key.)は、「肩の力を抜いて、気楽にいつでもどこでもポケットに入れて連れ出せる、でもちょっと特 … 続きを読む

ヒグチアイが“好きな人”を招く自主企画、【好きな人の好きな人】4年ぶり開催決定

J-POP2026年6月10日

 ヒグチアイが、2016年のメジャーデビューから10周年を迎える今年、4年ぶりに自主企画【好きな人の好きな人】を開催する。  ヒグチアイの“好きな人”を招くお馴染みの2マンライブとなり、初の名古屋公演も含め、弾き語りとバンドの両編成で実施さ … 続きを読む

Aぇ! group、ジュニア時代から歌い続けてきたロックナンバー「PRIDE」のMVプレミア公開決定

J-POP2026年6月10日

 6月17日に4枚目のシングル『でこぼこライフ』をリリースするAぇ! groupが、共通カップリングとして収録する「PRIDE」のミュージックビデオを、6月19日19時にプレミア公開する。  ジュニア時代に生まれた本楽曲は、Aぇ! grou … 続きを読む

シエナ・スパイロ、2027年1月に初来日公演が決定

洋楽2026年6月10日

 デビュー・アルバム『ビジター』を2026年7月にリリースするシエナ・スパイロの初来日公演が決定した。  公演は、2027年1月4日に東京・豊洲PITにて開催され、チケットの一般発売は6月27日からとなる。  ◎公演情報2027年1月4日( … 続きを読む

page top