デジタル監視/脅威評価/武力行使、SNS時代におけるセキュリティチームがアーティストの安全を守る方法

2026年6月10日 / 17:30

 米ロサンゼルスの閑静なエリアにある、どこにでもありそうなオフィスビル。その一室で、情報の専門家チームが世界で最も有名な人々の安全を守っている。

 室内には、CNN、MSNBC、FOXニュース、天気予報、リアルタイムの交通マップ、そして民間・商業施設の防犯カメラ映像が映し出されるモニター群が並ぶ。弁護士、博士号保持者、5か国語を操る女性も在籍するこのチームは、ある平日の午前中も各自のコンピューターに向かい、文書を確認し、SNSアカウントを巡回し、ニュースを精査しながら、スパイ映画さながらにデータを統合して契約先のスターへの脅威を評価している。

 ストーカーや最悪の事態は、ポップカルチャーに常につきまとってきた。数え切れないほどのミュージシャンが周囲の不審者に接近禁止命令を申請しており、ジョン・レノン、セレーナ、パンテラのダイムバッグ・ダレルは熱狂的なファンに命を奪われた。SNSが普及して以降、アーティストはプラットフォームを通じてファンとつながり、自らのブランドを築くよう促される一方、安全管理は格段に複雑になった。SNSは親近感を生むと同時にリスクを高め、思い込みによる「つながり」を強化し、Wi-Fi環境さえあれば誰でも脅迫できる状況をつくり出している。

 「かつて脅威は局地的かつ限定的なものでした。会場やホテルでの物理的な脅威でした」と、長年セキュリティの専門家として活動するデイブ・コメンダット氏は語る。「今や世界中どこからでも、誰からでも、リアルタイムで、しかも増幅された形で脅威が押し寄せます。1人が発信した脅威が100万人に届き、模倣を生みます」

 この問題が世界的な注目を集めたのは、3月のことだった。サッカー選手のジョルジーニョが、アルゼンチンのホテルのダイニングで11歳の娘にチャペル・ローンのボディガードが近づいてきたとSNSで公に非難。500万人のインスタグラムフォロワーに向けて「ファンの皆さん、彼女はあなたたちの愛情を受ける価値はない」と投稿した。これに対しローンは「関与したボディガードは自分のスタッフではない」「女性と子供を見てさえいなかった」と反論。ジョルジーニョは後に「誤解だった」と発言を撤回したが、その間にポップスターは世界規模のオンライン炎上にさらされていた。

 「このアルゼンチンでの一件を受け、彼女のセキュリティ態勢は確実に強化されたはずです」と語るのは、ブティック型セキュリティ会社Security Industry Specialists(SIS)を27年前に設立したジョン・スペサック氏だ(同氏はSISがローン側と契約関係にないことを明言している)。「誤解の発生からその対処まで、すべてが彼女のブランドと安全に新たなリスクをもたらした。本質的には、SNS上で生まれ、展開し、裁かれた出来事です」

 従来型の脅威も依然として続いている。6月初旬、サブリナ・カーペンターはロサンゼルスの自宅を1か月にわたり監視したうえで侵入を試みたとされるストーカーに接近禁止命令を申請し、「自身および同居する人々の身の安全に重大かつ継続的な恐怖を感じている」と陳述した。テイラー・スウィフトも複数のストーカー被害を受けており、警察が彼女のベッドで就寝中のストーカーを発見したケースもある(スウィフト本人はその時不在だった)。5月、ある女性がロサンゼルスのリアーナの自宅に向けてAR-15型アサルトライフルを発砲し、リアーナがパートナーのエイサップ・ロッキーと共にいたトレーラーに弾が命中した。

 こうした出来事は極端な事例だが、現代のセレブリティにとっては、日常の移動ですら危険にさらされることがある。

 「ホテルやレストランでアーティストを見かけた人がSNSに投稿すると、数分後にはそこに人が集まってくるでしょう」と、ケラーニの長年のマネージャーを務めるデイビッド・アリ氏は話す。「誰かが写真を撮れば、ファンはアーティストがどのホテルに滞在しているかを知ってしまうし、コーヒーを手にした姿を撮られれば、ファンはその店を特定できてしまう。インターネットがある今、こうした状況はまったく制御不能です。なぜなら、特定というゲームを容易にする手がかりがあまりにも多いからです」

 そして、好きなアーティストが泊まるホテルやどのカフェに立ち寄るかを知ることは、相手を知っている気にさせ、親近感や、時として期待感を育む。

 「一度も会ったことがないのに、アーティストのことを本当によく知っていると思い込んでいるファンに頻繁に遭遇します」とアリ氏は言う(ケラーニには複数名体制のセキュリティチームがついている)。「メールを送り、語りかけ、返信がないことに苛立ちを見せる場面も実際にあります」

 「今のファンはアーティストに憧れているのではなく、知り合いだと感じています。問題のある考え方を持つ人に対しては、それ自体が危険です。境界線が曖昧になり、憧れが執着に変わり、DMを無視されれば拒絶と受け取り、怒りに転じます」とスペサック氏は話す。

 こうした状況のなか、セキュリティチームはいかにして安全を確保しているのか。「今の警備の仕事は、保護者であり、心理カウンセラーであり、ブランド大使でもあります。アーティストがブランドを維持しながらファンとの距離感を保てるよう支えることが求められます」とスペサック氏は語る。

 その出発点がこの匿名のオフィスビルだ。「フュージョン・センター」と称するこの施設は、SISのデジタル監視拠点である。クライアントリストは非公開だが、著名なセレブリティとフォーチュン500企業の経営幹部が「確実に含まれる」という。SISはビジネス向けセキュリティも提供しており、過去21年間はアカデミー賞のセキュリティ運営も担ってきた。スペサック氏は同式典を「世界で最も重要な民間警備オペレーションの一つ」と表現する。

 SISは、軍、シークレットサービス、FBI、各レベルの法執行機関出身者で構成される世界5,000人体制のチームを擁する。スタッフには、映画に登場するような店舗警備員やボディーガードだけでなく、行動分析士や、スペサック氏によれば「脅威の実行可能性を評価し、事態の沈静化を図ることができる専門家」も含まれている。フュージョン・センターでは、脅威が確認された場合、クライアントへの一斉通知や現場チームへの直接ブリーフィングが行われる。

 「誰が何をいつ発信しているか、そして実際に脅威を実行できる状態にあるかを把握するため、SNSを常時監視しています。それが私たちの日常業務です」とスペサック氏は言う。他のオンライン監視サービスと同様、有害な情報がネット上で拡散する前に削除する対応も可能だ。クライアントはパブリック・イメージに基づくリスク評価も受け、自分がどう見られているかを把握できる。

 「インターネットとダークウェブを精査します。電話番号、メールアドレス、住所の言及、抗議活動の有無、請願の存在など」とSISのジョアナ・キム氏は話す。「特に経営幹部については、本人が投稿した情報も含め、実際に出回っている情報の量に驚かれることが多いです」こうしたデジタル調査は、クライアントの家族を対象にも行われる。

 スペサック氏と長年協働してきたCorporate Security Advisorsのチーフ・セキュリティ・オフィサーのコメンダット氏は、デジタル監視の目的を「比較的大きな干し草の山の中から意味のある針を見つけること」と表現する。「意味のある針」とは、脅迫を実行に移す能力を持つ人物を指す。例えば、ある人物が特定の有名人を殺害すると投稿したとしても、その人物が有名人のいる場所から数千キロも離れた場所に住んでいるとチームが判断した場合、それは「意味のある針」とはみなされない。脅迫を行っているものの、身体的な障害のために移動が困難な人や、移動するための資金がない人も同様だ。

 「一方で、移動の多い人々もいます。そうした人については、居住地の自治体の記録を調べれば、銃の所有者であり、移動歴があることが分かります。そういう人物には注意を払う必要があります」とコメンダット氏は言う。

 危険な人物が突然現れることもある。「ルイジ・マンジョーネのような例がその典型です」とコメンダット氏は語る。マンジョーネは2024年にUnitedHealthcare CEOのブライアン・トンプソン氏をマンハッタンの路上で殺害したとされる人物だ。「だからこそ、物理的なセキュリティの存在が重要になる」また、スペサック氏は、脅威の評価、デジタル保護、物理的セキュリティを連携させて、彼が「セキュリティ・エンベロープ」と呼ぶものを構築する必要があると強調する。「それは、個人を取り囲むように構築するエコシステムのようなものです」。さらに同氏は、この包括的な保護にかかる年間コストについて、「2,000万ドルを下回ることもあるが、決して安価なものではない」と付け加えた。トンプソン氏の殺害後、企業幹部の間でセキュリティ需要が急増しており、取締役会がセキュリティ対策を義務付けるケースも増えているという。「ビジネス継続性の問題です。トンプソン氏殺害後のUnitedHealthcareの株価がどうなったか見ればわかります」

 ミュージシャンがセキュリティを導入するタイミングも早まっている。「以前はアーティストの露出といえば、せいぜいタバコの煙が漂うバーで20人の前で演奏する程度でした。今はSNSとそれが生む親密さによって、出発点が根本的に変わっています」とスペサック氏は話す。

 あるいは、その「親密さ」の性質が変わった、ともいえる。たとえば、レディー・ガガが昨年9月、婚約者マイケルの42歳の誕生日をヤギ小屋の前でキスをして祝い、ケーキにはイチゴが飾られていたことを、筆者はガガ本人のインスタグラム投稿で知っている。6,100万人のフォロワーのうちの一人なら、誰も同じ「プライベートな」情報を知っているはずだ。

 「80年代にポップスターのファンだったとしたら、その音楽に触れ、たまに雑誌の特集を見て、深夜番組で姿を見かける程度でした」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校でパラソーシャル関係を研究するブラッドリー・ボンド教授は言う。「個人的な生活についての情報はほんのわずかしか届きませんでした。今は著名人への露出が比較にならないほど増えており、それが“舞台裏を垣間見ている感覚”を強め、パラソーシャルな絆を著しく深めています」

「パラソーシャル関係」とは、相互性が欠如した社会的・感情的な絆を指す。つまり、絆を結んでいる相手が自分の存在を全く知らない状態のことである(例えば、ガガの婚約者のケーキにイチゴが乗っていたことを自分が知っている一方で、ガガは自分の存在すら知らないといった場合)。この概念は1950年代に一組の社会心理学者によって提唱された。テレビが家庭に普及し始め、トークショーの司会者やニュースキャスターが画面越しに直接語りかけてくる状況に着目したのがその出発点だ。「視聴者に“目が合っている感覚”を与えている点に彼らは着目しました」とボンド教授は話す。

 90年代には別の研究者たちが、こうした「疑似的な」親密さがコンテンツ消費をどのように促すかを研究し始めた。セレブリティとの絆を感じることが購買行動につながるなら、そのつながりを活用して音楽、映画、衣料品、ライフスタイル全体を売ることができる。Facebook、Twitter、Instagramが2004年、2006年、2010年にそれぞれ登場したことで、その可能性はほぼ無限に広がった。

 「SNS以前、舞台裏の一幕は稀なものでした。今はありふれており、アーティストがファンダムを育む手法の一部になっています」とボンド教授は言う。「本物らしさ」が今やアーティストのファンベース構築における業界キーワードとなる中、私たちが「知っている気になる」感覚と、そこに基づく消費行動は自然に高まっていく。

 アーティストはSNSでの自己開示に大きなプレッシャーをかけられており、多くはそれを望んでいないという。しかしSNSの大きなフォロワー数はマーケティング基盤として機能するため、レーベル、エージェント、ファンからの注目を集めやすくなる一方で、パラソーシャル関係をさらに強化するという構造がある。

 ボンド教授はパラソーシャル関係はほとんどの人が経験するものだと話し、米国の10代の若者の多くが好きなポップスターとの疑似恋愛を想像することで実際の恋愛を練習してきたという最近の研究を引用する。素晴らしい母親像を見せるアーティストが、自分の母親との関係が良くない人の心の隙間を埋めることもある。

 「こうしたことを話すのをためらう人もいるでしょう。何らかの精神障害を暗示していると思われかねないからです」とボンド教授は言う。「しかし、これは人間の進化の一部なのです。画面技術は私たちの思考よりも急速に進化してきたため、そこに映る人を見て人間らしさを感じ取るのは自然なことです」

 ただし、それには限度がある。好意であれ嫌悪であれ、強度の高いパラソーシャル関係は「精神的健康に課題を抱える人々の問題行動と関連している」とボンド教授は指摘する。日常生活に影響を及ぼすほどの疑似的な「関係性」は、もはや別の何かとなる。研究によれば、こうした問題のあるセレブリティへの執着は、他の診断可能な疾患の症状として現れることが多い。例えば、テイラー・スウィフトのストーカー2人は、精神鑑定の結果、裁判に立つ能力がないと判断され、精神科施設への収容を命じられた。

 ボディガードを必要としない状況をデジタルツールが生み出している一方で、そのツールは完璧ではなく、ボディガードは最後の砦として不可欠な存在であり続ける。「身体的な接触が生じるのは、あくまでも最後の手段であるべきです」とスペサック氏は強調する。

 巨漢のボディガードはポップカルチャーにおける馴染みの存在だ。プリンスはかつて身長208cm、体重180kgのチャールズ“ビッグ・チック”ハンツベリーに守られていた。ビッグ・ジョン・ハーテはKISSやアイアン・メイデンらを、ジョナス・ブラザーズにはビッグ・ロブがついていた。しかしスペサック氏は「どんな場にも自然に溶け込み、技術・訓練・知識・経歴において本物の実力を持つ人物こそ、真に優れたボディガード」だと言う。体格はいまだ重要な場合もあるが、いかにも「ボディガードです」という人物を配置すると、アーティスト本人と警備員の両方に不要な注目を集める「警備の見せ物化」というリスクが生じかねない。訓練が不十分、あるいは場当たり的な対応しかできない警備員は「ファンへの対応の仕方によってSNSのニュースになってしまう」とスペサック氏は警告する。全員がスマートフォンを構えている時代には、アーティストのブランドにとっても大きなダメージとなりかねない。

 ボディガードには戦略性と判断力が求められる。先日テキサスで行われた公演で、あるアーティストは筋肉質だが圧倒的な体格ではないボディガードを伴ってナイトクラブに姿を現した。彼は筆者をはじめ、情報が必要な全員に明確かつ丁重に話しかけ、目を合わせながら楽屋ゲストリストを迅速に確認し、グリーンルーム入場に必要なリストバンドの色とステージへのルートを素早く把握した。その仕事ぶりを見ていた側が、思わず高揚感を覚えるほどだった。

 「この仕事を本当によくこなせる人は優れたコミュニケーターで、どんなセレブリティとも、ホテルの駐車場係とも、同じように効果的に接することができます。礼節ある警備員は、たとえ1分間の関係であっても信頼を築けるから機能するのです」とコメンダット氏は言う。

 スペサック氏もボンド教授も、AIがパラソーシャル関係とセキュリティの次なるフロンティアになると指摘する。アーティストはファンとのやり取りにAIチャットボットを活用するようになりつつあり、ボンド教授は将来ファンが好きなミュージシャンに似せたAIアバターを作成する時代を見据えている。「もしテイラー・スウィフトに、あなたが望むような性格的特徴が備わっていなければ、AIに“テイラー・スウィフトとして振る舞うが、共和党員にしてくれ”と指示できるのです」AIを通じて、自分好みにカスタマイズされた架空のセレブとの交流を楽しむことは、ボンド教授が言うように「間違いなく未来の姿」だ。

 新たなテクノロジーがもたらす複雑さと、可視性が増し続ける文化の中で、スペサック氏は、ある基本原則は今も変わらないと述べる。それは、「最も効果的なセキュリティとは、目に見えないものである」ということだ。「セキュリティがうまく機能しているとき、一般の人々はそれに気づかないものです」と彼は言う。「それこそが重要な点なのです」

Original text by Katie Bain


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