<ライブレポート>藤井 風、ジャパニーズ・ヴァイブスでコーチェラを席巻 大舞台でも揺るがぬハイヤーセルフの精神

2026年4月12日 / 18:00

 現地時間4月10日から米カリフォルニア州インディオで開催されている音楽フェス【コーチェラ・フェスティバル】の2日目(11日)に藤井 風が登場し、自身のキャリアを凝縮したセットリストでコーチェラデビューを飾った。

 藤井のステージは、ここ日本では12日午前9時過ぎからYouTube生配信で観ることができた。地球のほぼ反対側にいてもリアルタイムで体感できる生配信は、現地に足を運べない世界中の多くの音楽ファンをひとつの場所に集めて笑顔にするという、多くのフェス主催者の願いを実現している。日本のファンも、爽やかな日曜日の朝を過ごしたのではないだろうか。藤井が登場したMOJAVE STAGEは、直前の発表が話題を呼んだジャック・ホワイトが畳みかけるようなロックナンバーを連発し、最後の「Seven Nation Army」で大いに沸いた。

 ジャックから最高のバトンを託された藤井は、「ポーン、ポーン」と鳴る鐘の音を合図にオンステージ。横笛を基調とした、和テイストたっぷりのサウンドが徐々に大きくなっていき、4月3日に配信された『Pre: Prema』収録の新曲「It’s Alright」で藤井のコーチェラは幕を開けた。藤井のインスタグラムに投稿されていた本曲のヴィジュアルは、どこか日本の怪談を思わせる雰囲気があり、この曲自体も、不気味さと現実離れした感覚を帯び、あの世からこの世を俯瞰しているかのようだった。音楽には魂が宿り、魅力的な音を放つ者には、ときに邪悪な存在さえ引き寄せてしまう側面がある──それは映画『罪人たち』でも示されていたテーマだ。そうした目に見えない力を持つアーティストが、今宵コーチェラのステージに立つ。音に誘われて集まる初見のオーディエンスをどこまで惹き込めるかもまた、アーティストの力量が問われる瞬間だ。

 一気に会場の空気を掴み、“風色”に染めていく藤井だったが、マイクスタンドをギターのように持ったあげく、マイクを落としてしまうというお茶目な一面は健在。そんなハプニングもなんのその。江﨑文武の丁寧なキーボード、TAIKINGのグルーヴィーでぎらついたギタープレイ、バンドマスターのKOBY SHYが添えるベースに、佐治宣英が刻む高揚感あるドラムビートとともに、ここからジャパニーズサウンドに乗せて、自分を高め、崇拝するお祭りタイムを届けていく。続く「まつり」で、コーラスのARIWAと華麗なハーモニーを披露した藤井は、砂漠に作られたステージを日本のお祭り場に変えた(ARIWAの隣に立つもうひとりのコーラスメンバーは、全編英語詞の3rdアルバム『Prema』の共作者、Shy Carterだった)。コーチェラは世界中のアーティストが夢見る場所。2022年のリリース以来歌い続けてきたこの曲を、そしてそこに込めたマインドを、この大舞台で届けることに、藤井としても万感の思いがあったのではないだろうか。

 サングラスを外して「ハロー、コーチェラ~」とあいさつする藤井に、何倍もの歓声が返ってくる。次に届けたのは3rdアルバムのスタートナンバー「Casket Girl」。キャスケット帽をかぶった可憐な少女でなく、棺桶の少女というところが、いかにも藤井らしく、不健康なものから簡単に離れられないのもまた人間だろう。「I Need U Back」でカメラに抜かれたTAIKINGが気持ちよさそうにプレイするように、ひとつひとつのメロディーが病みつきになる。洋楽のグルーヴと歌謡曲的な情緒が同居し、まさにオリエンタルな香りが漂っていた。

 「Stay hydrated(水分補給してね)」「Stay positive(前向きに考えよう)」「Be kind(思いやりを持とうね)」と一言ずつ発し、「何なんw」へ。「My name is Fujii Kaze. I’m from Japan.」と自己紹介し、ジャパニーズ・ゴスペルと紹介した2019年発表のデビュー曲に合わせて、ハレルヤならぬハレハレでオーディエンスと一体感を作りあげる。“言葉は分からないけど、なんかいい感じ”のヴァイブスが会場に広がっていくのが画面からも伝わってきた。最後、藤井は階段の上に置かれたヤマハのピアノを思いっきり鳴らして、ここから自身のルーツでもあるピアノをフィーチャーしていく。

 過去のライブでも時折、内に溜め込んだ悪いものを吐き出そうとコメントする藤井は、ここでも「let it go」という言葉を使って、解放することの重要性を説いた。生きていると、嫌なことや不安、緊張など、できれば避けたいものに向き合う場面は多い。そうしたときの対処法として、呼吸を整えることがよく語られる。緊張していないように見えたが、実際にはかなり緊張していたのか、それとも砂漠という環境の影響か、藤井が呼吸を意識しているのは明らかだった。しかし、そのことは歌声にも指先にもまったく表れていない。アジアやアメリカなど海外でコンスタントにライブ活動を重ねてきた近年の経験と、持ち前の才能があってこそだろう。そうして始まった「Okay, Goodbye」は、自分に悪影響を与えるものと距離を取ることに罪悪感を抱かなくてもいいと背中を押してくれる一曲。〈I am all I need〉(私こそが私に必要なもの)なんて言葉はなかなか簡単に口にはできないが、それをさらりとカジュアルに表現することで、説教的にならないところが藤井らしい。

 Shy Carterと共作した「You」は、自分を諦めてはいけないことを気づかせてくれる一曲。また、一番大切にしなければならない自分を最も傷つけるのもまた自分であるという矛盾にも目を向けることもできる。

 そして、「Premaは(サンスクリット語で)神聖で見返りを求めない、最高の愛のことです。その愛は、私たちの内側にすでにあり、表現することができます」と話し、2025年9月に米レーベル、Republic Recordsからリリースされた最新アルバムのタイトルトラック「Prema」へ。藤井が最も伝えたいメッセージ、音楽家として活動する意義がここに凝縮されている。2021年のインタビューで藤井は「自分はただの道具であって、降ってきた曲をシェアしているだけです」と語っていたが、その“降ってきた”メッセージと、自身も大切にしている“higher-self(本質的な自分)”を何よりも大切にしようというメッセージを、力強く、最適なかたちで提示している。学生時代から愛用しているという、母親が縫ってくれた“おかんタオル”を被って歌う姿はとても自然体で、メッセンジャーとしての役割を見出していることは、人生を生きる者としても、そして表現者としても大きな強みではないだろうか。意味を持って生きているということは、何よりも強いことだと思う。

 激情的な旋律が少しずつ落ち着いていき、美しいコードへと変化していった「死ぬのがいいわ」は、藤井の楽曲の中で1、2位を争う人気曲。世界的にも知られていることもあり、オーディエンスのリアクションも大きかった。大きな自分が映った最新バージョンの映像を背に、「自分を生きられないなら、死んだほうがマシ」と歌い、最後に倒れ込んだ藤井に、大きなエールと拍手が送られる。

 そして、〈どこにいこう ハチ公〉のイントロが流れ、一層と大きくなるオーディエンスの歓声。ゆっくりと起きだした藤井は、「Hachiko」(※「o」はマクロン付きが正式表記)のビートに合わせて、ステージ左右へアクティブに動き回り、ヘアゴムも振りほどきながら、自由と可能性を、身体と表情、歌声で表現していく。ずっと探していたものは「ここ(自分の中)にあった」という藤井の大発見とその喜びが、開放的で希望に満ちたサウンドと歌詞に乗って響く。そして、その音楽に身を委ねるように体を揺らすオーディエンスの姿があった。ポジティブなヴァイブスが受け入れられ、音楽が持つ力の大きさを見た気がする。

 藤井は英語表記でも「Fujii Kaze」を使用している。本人がインスタグラムに投稿した、会場までの高速道路に立てられた大きな看板も、藤井が苗字で、風が名前であることを強調するデザインだ。バンドメンバーを紹介する際も、あえて苗字を先に呼んでいた。本人の望み通り、“Kaze”という名前がより広く知られていくことを願いつつ、4月18日(日本時間19日)に控えるコーチェラ2週目のステージで、記念すべき初舞台をさらに超える瞬間が生まれることを期待したい。

Text by Mariko Ikitake
Photo by Emma McIntyre/Getty Images for Coachella


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