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前回のビルボードライブ公演から1年とちょっとで再びここ日本へとやってきてくれたトッド・ラングレン。今年でなんと御年78歳。ナッズのギタリストとしてデビューしたのが1968年なので、ミュージシャンとしてのキャリアもなんと60年弱。シンガーソングライターのみならずプロデューサーとしても大成功を収めており、自身、プロデュース問わず代表作は数知れず。2021年にはロックの殿堂入りも果たし、近年では米津玄師や星野源などが大ファンであることを公言するなど、その珠玉の名曲の数々とキャリアに新たな輝きを灯し続ける、誰が呼んだか「ポップの魔術師」である。ここでは3月23日に東京・NHKホールにて行われた来日公演初日の模様をお届けする。
ファン歴が随分と長そうな世代もいれば、前述した米津玄師や星野源の影響、または再評価されるシティポップやAOR /ヨットロックなどと併せてサブスクやレコード再販ブーム経由でトッドの音楽に触れた若い世代(そちら向けに設けられたU25のチケットが早々に完売したなんてうれしいニュースもあった)の姿も見受けられ、その層は実にさまざま。そんな多様なオーディエンスたちが、ステージ中央に位置するトッド用のスタンドマイクを取り囲むようにセッティングされた楽器を前に今か今かと開演を待ち望んでいる。彼の楽曲たちがいかにタイムレスに人々の心を響かせてきたかということを窺い知れる瞬間であり、なんだかうれしくなってしまう。期待感を煽るように場内に鳴らされたのは本公演用に事前録音された、もしくはそれ用に台本が書き下ろされていたと思われるやたらと陽気なアナウンス(笑)、そちらの最後にはなんと「本公演の模様は全編に渡って写真も動画も撮影可能、どうぞご拡散ください」との素敵なサプライズが。御大のサービス精神に大感謝すると同時に、撮影を許可するということはそれだけ本人のコンディションも(機嫌も)すこぶる好調ということなのであろう。開演前にして早くも素敵な予感と熱い高揚感が全身を駆け巡る。これは、今宵は、最高に楽しいライブになるぞ。
暗転したステージにクラップのSE。そちらに合わせステージのトラスライトが煌々と明滅するなか、本公演のキービジュアルにもバッチリ映り込んでいる鮮やかなグリーンのストラトシェイプを手にしたトッドが登場。客席へ手拍子を煽り立てるシャウトを契機としてプレイされる「Everybody」からライブはスタート。来日アーティストあるあるな鉢巻を頭に巻いたPrairie Prince(Dr)の力強いエイトビートを軸に躍動するアンサンブル。Bobby Strickland(Brass/Vo)の少しばかりいきすぎたというか(笑)、ファニーでストレンジなアクションに目を奪われる。続いたのはトッドが自身のソロと並行して活動していたバンド、ユートピアの楽曲「Secret Society」。ユートピアのベーシストでもあったKasim Sulton(Ba/Vo)が今回の来日メンバーとして同行することがアナウンスされてから「今回はユートピア時代の楽曲群も大々的にフィーチャーされるかも知れないぞ…!」なんて鼻息を荒くしていた筆者は大興奮。だがどうやらユートピアの楽曲を心待ちにしていたのは筆者だけではなかった模様で、トッドが手を耳に当て「Secret」のコールをオーディエンスへ促した際の盛大なレスポンスが何よりもそれを物語っていた。従来のライブではラスト付近でのプレイが定番となっていた名曲中の名曲「I Saw The Light」がまさかの序盤でプレイされた後のトッドは、ギターを置いてボーカルに専念。「Stood Up」で見せたダンスというかパントマイムというか、Bobbyのストレンジさを遥かに凌駕するその動きっぷりに70代後半とはとても思えないフィジカルの強さと、そういえばちょうど10年前くらいのトッドはめちゃくちゃダンスミュージックやエレポップに傾倒していたなあ…その時期のライブ観てた友人(というか大先輩であるUK.PROJECTの副社長です)は随分戸惑っていたなあ…なんてことを思い出す(笑)。
先述のうれしすぎるサプライズは全編撮影許可だけではなかった。中盤はステージ前方にメンバー全員が集まり、1976年リリースのアルバム『Faithful』から「Cliche」。そして1981年リリース『Healing』からの「Tiny Demons」。そして再び『Faithful』から「Love Of The Common Man」といった名曲群にアコースティックアレンジを施してのプレイ。特に圧巻だったのは当ブロック最後の「Honest Work」。キャリアの中でも異色作であり意欲作であった1985年リリース、その名の通り自らの声を多重録音するという手法をとった『A Cappella』からのチョイスであり、これをトッド、Kasim、Gil Assayas(Key/Vo)の3声で華麗に再現してみせたのだった。
サプライズはなおも続く。アコースティックブロックを終え、それぞれが定位置に戻ると、今度はトッドの脇にティンバレスが設置される。ここでトッドは「誰か俺たちと一緒にプレイしてみないか?」とオーディエンスへアンサンブルへの参加を要請。挙手制にて見事選ばれた女性(サトミさんという方でした)をパーカッションに従えた今夜限りの特別編成にて「Bang The Drum All Day」が実に賑々しくプレイされた。曲中、客席からはサトミコールが自然発生するなどお祭り騒ぎの大熱狂を会場にもたらした後、ギターではなくタクトを手にしたトッドが指揮する「Buffalo Grass」のメロウさと「Kindness」の温かなメロディが会場を包み込み、そのまま今度は往年のソウルの名曲をメドレー形式でカバー。デルフォニックスの「La La Means I Love You」をトッドの歌声で聴けるだなんてという感慨と同時に、デルフォニックスと出身地(フィラデルフィア)を同じくするトッドのルーツ(とはいえ活動時期も同じというか、むしろ当曲収録のデルフォニックスのデビューアルバムとナッズのデビューアルバムは同じく1968年リリースなので、2組は完全に同期という関係性。なのでルーツというよりは同期の盟友に対するリスペクトといった意味合いのほうが強いのかもしれないが)、そしてフィリーソウルの甘美なる調べの奥深さに酔いしれる一幕を経て、そこから自身の最新リリース楽曲であり、主に1980年代を中心に活躍したバンド、ザ・コールの代表曲を2026年にアップデートした「The Walls Came Down」。本編ラストは再びユートピア期の「One World」であった。
こんなうれしいサプライズだらけのライブを観せられ、魅せられてしまってはもう、たまったもんではない。だがまだ、どうしても聴きたいあの名曲が演奏されていないではないか。そうした万感の思いとさらなる渇望がアンコールの声となって、手拍子となって場内を囃し立てる。その熱い思いに応えるべく、本編ラストから程なく(体感ではあるが5分と経たない間だったと思われる笑)してトッド含むメンバーたちが勢い勇んでステージへとカムバック。盛大にメンバーたちを迎えるべく沸き起こる拍手と歓声。そこで演奏されたのは待ってましたな「Can We Still Be Friends」。そしてこれを演らずして、聴かずしては帰れまい「Hello It’s Me」であった。ふと気づけば大盛り上がりの場内は前方を中心にほぼ総立ちである(笑)。繰り返しの記述ではあるがうれしいサプライズの連続により、この日何度目だったのだろうという瞬間最大風速はラストにして頂点を迎え、ライブは大団円。登場時と同じく愛機のストラトシェイプを抱えたままにこやかにステージを去るトッドの姿と惜しむようにギリギリまでファンサービスに応えるKasimのとびっきりの笑顔が今でも脳裏と瞼に焼き付いている。
まさにキャリア総括にして大盤振る舞い。確かにナッズの「Open My Eyes」が聴けなかったという一縷の寂しさはあれども、本公演の充実度、タイムレスにしてエヴァーグリーンな名曲の数々、そして歌にギターにダンスにタクトにまで(笑)と八面六臂の大立ち回りを披露してくれた御大トッド。日本国内の風習でいえば喜寿を迎えているにも関わらずまだまだ、というかますますエネルギッシュなその活動っぷりにはもう頭が下がるばかり。本公演を目撃したU25世代にも筆者(実は本公演の2日前に42歳になりました)と同年代、または筆者より年上であると思われるファン歴長めの世代にも「歳をとることって、生きてることって、こんなにも楽しいんだよ!」なんて啓示をトッドから受け取ったような、実に晴れやかな気分になる、最高に楽しいライブであった。
Text:庄村聡泰
Photo:Masanori Naruse
◎公演情報
【Billboard Live presents Todd Rundgren Japan Tour 2026】
2026年3月23日(月)東京・NHKホール
2026年3月25日(水)大阪・Zepp Namba
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