<ライブレポート>上妻宏光がソロデビュー25周年ツアー東京公演で魅せた三味線の真髄 浅野祥&チョン・ジェイルと共演

2026年3月16日 / 19:00

 ソロデビュー25周年を迎えた三味線奏者・上妻宏光の【「生一丁!」Tour 2025-2026】の東京公演が3月3日、東京文化会館小ホールで行なわれた。

 洞窟の中に入ったような感覚になる会場は、豊かな残響が客席全体を包む。極上の音響の中でツアータイトル通り、三味線の木の鳴りや皮の振動、その指先の繊細なタッチから生まれる音の機微を生で、ダイレクトに届けた。客席はそれを肌と心でキャッチし、一曲ごとに大きな拍手が贈られた。拍手の音もいい響きでステージに降り注ぐ。その拍手に応え、上妻もゲストの演奏にも熱が入り、素晴らしいプレイ、セッションが生まれていた。

 凛とした空気の中、上妻が登場し「津軽小原節」からスタート。前半は伝統の津軽民謡を次々と披露し、情熱的で繊細、緊張感を感じる三味線の音、演奏を一音も聴き逃すまいと、客席はまさに息を飲むように目と耳を傾けている。このツアーは昨年11月ニューヨークで開幕した。現地のオーディエンスは上妻を熱狂的に迎え、ライブも終始高い熱量で盛り上がった。この日上妻はその時のことを、緊張の面持ちでライブを見つめる客席に向かって語り、ライブならではの遊び心あふれる一幕で観客の心をがっちりと掴むと、客席は大きな拍手、掛け声、指笛で迎え、会場の空気がガラッと変わった。「津軽じょんから節」では「旧節・中節・新節」三曲の違いを当てるクイズを客席に出し盛り上がる。津軽民謡と三味線の魅力をわかりやすく伝える。

 2部はオリジナル曲を中心にした構成で“上妻三味線”の真髄を存分に伝えていた。上妻は昨年11月、三味線の可能性と、新たな音楽を貪欲に追及し続けてきたキャリアの現時点での集大成とでもいうべきアルバム『繋-TSUNAGU-』をリリース。今回のツアーはそれを引っ提げたもので、ライブのMCでも語っていたが、アルバムタイトルには「世代をつなぐ」「ジャンルをつなぐ」「世界につなぐ」という思いが込められている。この日は上妻の背中を見て共に切磋琢磨してきた若手三味線奏者のホープ・浅野祥がゲストで登場し、まず上妻が作曲した「螺旋(らせん)」をデュオで披露。太く艶のある上妻の音色と、芯のある中に瑞々しさを感じさせてくれる浅野の音色。その掛け合いは美しく、スリリングで、多彩な世界を作りあげる。

 「三味男~SHAANME~」では、東京公演のみのゲストで、アルバムに「YUGEN」を提供した「イカゲーム」「パラサイト 半地下の家族」等の音楽を担当した、韓国の作曲家チョン・ジェイルがベースで参加。三人が紡ぐグルーヴが刺激的で心地いい斬新なセッションになっていた。そして上妻が「三味線の新しい可能性を、海外の作曲家、映像音楽の視点から描いてほしい」とチョン・ジェイルにオファーし完成した「YUGEN」に、ジェイルがギターで参加。三人でのこの日限りの貴重なセッションが実現した。ジェイルが「日本人の“わびさび”を自分なりに考えて作りました」という同曲は、シンプルかつ美しいハーモニーが印象的で、そこに静かなギターの音色が加わると、深遠な世界が出来上がる。

 「相撲甚句」では上妻と浅野の美声が会場に響き渡る。客席に語り掛けるように歌う節回しは、どこか切なさを感じさせてくれ胸に迫ってきた。ラストの「津軽じょんがら節」は二人の火花が散るような掛け合いで魅せる。顔を合わせながら押し引きを楽しみ、六本の弦が作り出す濃淡が美しかった。浅野とのデュオで、二丁だからこそのできる表現で客席をたっぷりと楽しませてくれたライブだった。

 アンコールは人気曲「紙の舞」だ。上妻の弟子でもあった、今は亡き志村けんも愛した楽曲だ。ひりひりするような緊張感が浮かび上がり、三味線のどこかもの悲しい音色に客席に静かな感動が広がっていくのが伝わってくる。

 「伝統と革新」を掲げ、それまで伴奏楽器だった三味線をメインにした音楽を追求してきた上妻。国内はもちろん海外のミュージシャンとも積極的にコラボし、高みを目指し世界中のファンを熱狂させている。静と動。強く、そしてどこまでも繊細。3本の弦で表現する三味線の世界は無限だということを改めて感じさせてくれるライブ、そして人間の肉体から繰り出される音の輝きの強さを感じさせてくれたパフォーマンスだった。

 これからについて上妻は「即興が多いですが、その瞬間だけで終わらせず、譜面として残すことの大切さを伝えたい。そして100年後でも再現できる作品を作っていきたい」と力強く語った。稀代の三味線奏者はこれからもより自由に、三味線音楽の次の扉を開ける旅を続けていく——美しい響きを演出してくれた会場で、ライブの余韻を楽しみながら、そんなことを考えていた。

 このツアーは3月28日の大阪・東大阪市文化創造館ジャトーハーモニー小ホール公演まで続く。

Text by 田中久勝
Photo by 笹原良太

◎公演情報
【ソロデビュー25周年 上妻宏光「生一丁!」Tour 2025-2026】
2026年3月3日(火)
東京・東京文化会館


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