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プリファブ・スプラウトの創設メンバー、マーティン・マクアルーンがソロ名義で来日した。
1985年にリリースされた、プリファブ・スプラウトの通算2枚目にして名盤『Steve McQueen』(米国盤タイトル『Two Wheels Good』)のリリース40周年を記念し、アルバム全曲再現ツアーを展開してきた彼が、2026年2月17日にビルボードライブ大阪、2月19日にビルボードライブ東京のステージに立った。
マーティンは中心人物パディ・マクアルーンの弟にして、当時バンドではベーシストとして活動。近年は「Feliks Culpa」名義でドローイング・アートに取り組んでいた時期もあり、2022年末~23年頃から再びライブ活動を精力的に行うようになった。もともと「フロントマン」ではなかった彼が、エレキギター1本の弾き語りをするにあたって必要だったのは、テクニック以上に自分の声と向き合うことだったのだろう。Rolling Stone Japanのインタビューによれば、当初は全曲を同じキーで歌っていたものの声に合わず、半音ずつ下げながら自分のレンジを探り当てるまでに3年かかったという。
筆者が観たのは東京公演の2ndステージ。定刻になり、白髪のロングヘアに白いTシャツというラフな出立ちでマーティンが登場すると、客席からは「キング・オブ・ロックンロール!」と、曲名にちなんだ歓声が飛ぶ。「ありがとう。君こそキング・オブ・ロックンロールだよ!」と親しみを込めて返し、「40年ぶりのライブに来てくれてありがとう。今夜はプリファブ・スプラウトの『Steve McQueen』を演奏するよ」と告げると、場内はあらためて大きな拍手と歓声に包まれた。
幕開けはもちろん、アルバムの1曲目「Faron Young」。ステージに置かれた4本のエレキギターから1本を選び、言葉を置くように歌い出したかと思うと、ほどなくあのイントロのスリリングなリフが立ち上がり、客席から歓声が上がる。味わい深い歌声のそこかしこに兄パディの面影が感じられ込み上げるものが。ギター1本と声のみ、それでも頭の中では不思議とバンドの音像が補完されていく。曲そのものの強度、コードとメロディの精巧な噛み合わせ、入り組んだ進行とリズムの妙味が、最小編成でも溢れ出してくるからだ。演奏を終え、大きな拍手に向けてマーティンは「ありがとうございます」と日本語で挨拶した。
さらに「Bonny」「Appetite」とギターを持ち替える。それぞれキーやチューニングが整えられているのだろう。マーティンは時折オクターブの動きを織り交ぜながら、テンポもタイミングも自分の呼吸に引き寄せて歌っていく。その自由さを、オーディエンスは「それぞれの『Steve McQueen』」を頭の中で鳴らしながら見つめている。
そして稀代の名曲「When Love Breaks Down」。弾き語りでありながら、要所のフレーズやソロもきっちり決めてみせる。続く「Goodbye Lucille #1(Johnny Johnny)」も、タイトルが告げられただけで客席がどよめく。スタッカートで下降していく印象的なカッティングのあと〈Johnny, Johnny〉のフレーズをマーティンが口ずさむと、そのノスタルジックな響きのなかにウェンディ・スミスのハーモニーまで聴こえてきそうで、オーディエンスも思わず〈Johnny, Johnny〉と声を合わせる。そこから曲はドラマティックに展開し、この日最初のピークが訪れた。
MCでマーティンは、今も定期的に兄パディと連絡を取り合っていることを報告。今回の来日公演についても、事前にメールで伝えたという。「『日本に行くよ』と兄に言ったら、『いつ行くんだ?いつ行くんだ?』って、すごく興奮していたよ」。そう話すマーティンに客席からは歓喜の声が上がる。
「Hallelujah」では、複雑なコード進行と印象的なギターリフが、ミドルテンポのグルーヴを立体的に押し出す。後半にはギターを激しく掻き鳴らしながらソロへ。一転して「Moving the River」は、月明かりに照らされた川面をそのまま音にしたような、軽やかで穏やかなムード。余白のある歌い回しと揺れるストロークが、会場の空気をチルアウトしていく。
「Horsin’ Around」の前には、アルバムのプロデューサーだったトーマス・ドルビーから「ボサノバにアレンジしよう」と提案されたことを明かすマーティン。「でも僕らはボサノバなんて演奏したことがなかった。ノースイングランド出身の若者だったからね(笑)。それで、スタジオを出てみんなでパブへ行って酔っ払って……。スタジオに戻って演奏したら、自然とボサノバになっていたんだ」
そんな冗談交じりのエピソードに、客席から大きな笑いが起きた。演奏でも、その“ラテンの揺れ”を、ハーモニクスを随所に散りばめながら丁寧に立ち上げていく。
「想像してください」と日本語で書かれたカンペを読み上げたうえで、「この曲は僕じゃなくて、カーリー・サイモンが歌っている姿を想像しながら聴いてください」とリクエストし「Desire As」を歌い上げる。さらに「Blueberry Pies」では、抱えた黒いレスポールを指差しながら「今度はジミー・ペイジとロバート・プラントが演奏しているところを想像してください」と言い、プラント風のシャウトをひとつ披露してから、ドリーミーでシネマティックなこの曲を歌い切った。
「本当はマーヴィン・ゲイみたいにも歌いたいんだけどね」と茶目っ気たっぷりに前置きして、アルバム最後を飾る「When the Angels」へ。目まぐるしく表情を変えるリズムとコードを力強く鳴らし切ると、「やっとプレッシャーから解放されたよ。みんな、乾杯!」とグラスを掲げる。ここから先は、お待ちかねのリクエスト大会だ。
客席から「Cruel!」と声が上がり、ファーストアルバム『Swoon』に収録されたこの美しいミドルバラードを披露。続く「Hey Manhattan!」の演奏前には、「ちゃんと演奏できるかな。僕はAIじゃないので、間違えるかもしれないよ」とジョークを飛ばす。さらに最前列の一人のファンを指して、「大阪公演から全部観てくれている君に捧げるよ」と言い添える。サビでは客席のあちこちで口ずさむ声が重なった。
「わあ、あと5分しかないよ!」と叫び「Cars and Girls」へ。印象的なハミングを観客が合わせるようにして始まり、自然発生的に鳴り響くハンドクラップが曲を前へ押し出す。サビの掛け合いもあちこちから聴こえてきて、マーティンは「こんなにタイムキープできてるハンドクラップは初めてだよ。すごく演奏しやすかった、ありがとう!」と笑顔で讃えた。
そして本編の締めくくりは、やはり「The King of Rock ’n’ Roll」。「みんな、一緒に歌ってくれる? サビでは、T. Rexの〈Get It On〉〈Bang a Gong〉とか、Duran Duranの〈The Reflex〉とか、ロックの名フレーズを、好きに叫んでほしいんだ」と言うとアンプのボリュームを上げ、弾き語りとは思えないほど力強いストロークで曲を牽引する。サビの掛け合いではもちろん、客席のあちこちから〈Get It On〉〈Bang a Gong〉〈The Reflex〉と声が飛び交い、本編は大団円を迎えた。
熱烈なアンコールに応えてマーティンが再登場すると、客席の中でプリファブ・スプラウトの3rdアルバム『From Langley Park to Memphis』のアナログ盤ジャケットを掲げているファンを見つけ、その場でサインを入れる神対応。そしてトニー・ヴィスコンティがプロデュースを手がけた7thアルバム『The Gunman and Other Stories』(2001年)のリード曲「Cowboy Dreams」を披露。さらに1990年の大作『Jordan: The Comeback』から、「Looking for Atlantis」へ。原曲とは一味違うエネルギッシュなロックンロールアレンジに、オーディエンスも立ち上がって体を揺らしている。
すべての演奏を終えたマーティンは「またすぐに戻ってくるよ!」と約束し、ステージを後にした。終演後は希望者全員を対象にサイン会を行い、写真撮影にも気さくに対応。会場には終始、彼と同世代でプリファブ・スプラウトを聴き込み、長く愛し続けてきたであろうファンの熱が満ちていた。その熱量を丸ごと受け止めるような、どこまでも親密で温かな一夜だった。
Text:Takanori Kuroda
Photos:Masanori Naruse
◎公演情報
【Martin McAloon of Prefab Sprout the Two Wheels Good】
2月17日(火)大阪・ビルボードライブ大阪
2月19日(木)東京・ビルボードライブ東京
※全公演終了
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