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11月27日、東京・Zepp Shinjukuにて水槽の単独公演【水槽 4TH ONE MAN LIVE “JUNCTION”】が開催された。
今年4月に東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催された【FLTR】以来、約半年ぶりとなる単独公演。前回は従来のトラックメイカーとしての水槽の拠点=ラップトップを中心としたパフォーマンスに加えて、DJセットやアコースティック・セッションを織り交ぜた内容となっていたが、今回は“全編DJセット”(正確にはDJ+LIVE形式)であることに加え、r-906、Empty old City、KOTONOHOUSE、Such、TAKU INOUE、nyamura、picco、ぷにぷに電機、Bonbero、みきまりあ、llilbesh ramko、さらにシークレット・ゲストという、これまで水槽が共演してきた多くのアーティストが、ジャンルの垣根を越えて集結することが明らかになっていた。
「JUNCTION」=「水槽の音楽活動の交差点」というコンセプトの元に開催された、史上最大規模の単独公演。そこには、クラブ・ミュージックやインターネット・クリエイター、アニメソング、ヒップホップにボーカロイドとあらゆるシーンを縦横無尽に横断しながら全41曲を(ほぼ)ノンストップで駆け抜けると同時に、徹底的に「人生の脇役を肯定する」というメッセージを放ち続けるという、間違いなく今の水槽にしか実現できないであろう前人未到の光景が広がっていた。
「肩の荷が降りて、それまでのことを全部愛せるようになった」
午後7時、フロアを埋め尽くす満員のオーディエンスを前に水槽が姿を現すと、凄まじい歓声が湧き上がる。1曲目を飾る「SINKER」のイントロがDJ卓から放たれると、その熱狂はさらに大きくなり、瞬く間に会場全体が水槽の世界観へと染まっていく。
〈いつの間にか沈んでいたSINKER/掬い上げて/なんでもあってなんにもないこの街で/だって落下中、宇宙速度の/どこを見たってNo reason to die./期待した奴から詰む最低のルール/うるせー!騒ぐなよここ東京〉(「SINKER」)
スピーカーから大音量で鳴り響くトラックと、水槽のまっすぐな歌声を上書きするかのように鳴り響く、観客による力強いハンドクラップ。東京といえば、水槽が2021年の1stアルバム『首都雑踏』から一貫して描き続けてきたモチーフであり、ある意味では鏡のような存在だ。もちろん、これまでの単独公演も東京で実施されてきたわけだが、やはりこの地を象徴する歌舞伎町の中心で鳴り響く“東京”を描いた楽曲に、感慨を抱かずにはいられない。
浮遊感に満ちたトラックをバックに、水槽が歌い上げる流麗なメロディーが生み出す解放感は筆舌に尽くしがたいほどで、観客の興奮もありありと伝わってくる。そんな期待に満ちた空間に、この日が「過去の水槽の単独公演とは違う」ものであることを象徴するサプライズが早くも訪れる。
「今だから言えるんだけど、『その動画=水槽』みたいになるのがちょっと嫌だった。ずっと『その曲』を自分が作った曲で超えたいっていう目標があって、それを去年、達成することができたんです。そうしたら肩の荷が降りて、それまでのことも全部愛せるようになった。だから今日は全部やりに来たんです。もちろん、この曲もやります。」
そう言って披露されたは、SEVENTHLINKS「p.h.」。2020年に動画投稿サイトにアップされた同楽曲のカバーは膨大な再生回数を記録し、TikTokでも大きなバズを巻き起こすなど、水槽というアーティストが世に知られるきっかけのひとつとなった。だが、それは同時に水槽=“「p.h.」の人”という強固なイメージを与え、ある種の呪いにもなっていった。2022年、筆者が水槽に最初にインタビューした際、明らかに歌よりもトラックメイキングのほうに喜びを見出していたのをよく覚えているが、その背景のひとつに「p.h.」の呪縛があったことは、想像に難くない。
以前、ボーカロイド系のライブイベントで同楽曲を披露したことはあったが、自身の単独公演で歌われたのは今回が初めてのはずだ。少し前までであれば考えられなかった光景に、観客にも大きなどよめきが広がる。だが、そもそも「p.h.」は原曲自体がめちゃくちゃ踊れる楽曲であり、水槽が紡ぐ、グロテスクで混沌とした世界観をより生々しく描く歌声によって、かつては“呪い”でもあった「p.h.」がライブの序盤にピッタリなキラーチューンとなって、見事に昇華されていた。
まさかのサプライズに沸いたフロアの熱狂を絶やすことなく、『首都雑踏』収録の「アイリス (prod. by くじら)」、「Backstage feat. 水槽」(lapix)と、初期曲から近年の参加曲へと軽やかに音が繋がっていく。驚きと興奮に満ちた観客の熱に導かれるようにDJセットもその真価を発揮し、人気曲「事後叙景」ではUKガラージ仕様にアレンジされた硬質なビートと、MVやアートワーク/ライブの世界観/カメラの映像をミックスしたダイナミックなVJ(osirasekita、poifull)が、フロアをさらに盛り上げる。サプライズの手も緩めることなく、序盤ではさらに、公演直後にリリースされた最新EP『4 LOVERS ONLY』の収録曲「INCIDENT (feat. yowa)」を初披露した。
過去の単独公演(表参道WALL&WALL、代官山UNIT、恵比寿LIQUIDROOM)もナイトクラブとして使用される会場ではあったが、ニーナ・クラヴィッツやバーチャル・ライオット、オリバー・ヘルデンスといった海外のビッグDJも出演するZERO TOKYO(Zepp Shinjukuの別名称、水槽いわく「いちばん好きな箱」)ということもあり、ダンス・ミュージックとしての強度も抜群な水槽のトラックが、高域から低域まで芯を捉えながら大音量で鳴り響く。緻密に構築された音像が炸裂する「MONOCHROME」から「Blackout!」(maeshima soshi & 水槽)の心地よいツーステップ/UKガラージへと繋がった瞬間の興奮は、まさに深夜のナイトクラブで良質なDJセットを体験している感覚そのもので、シンガーとしてはもちろん、DJとしてのスキルにも圧倒される。
この日、最初に登場したゲストは、NOMELON NOLEMONとしての活動でも知られるみきまりあ。提供曲の「アイロニ。 (feat. 水槽)」(みきまりあ)を披露すると、ふたりが紡ぐ繊細な歌声がフロアにクールなムードを送り込むと同時に、じわじわと熱量が上がっていくのが感じられる。そのまま、今度は水槽がNOMELON NOLEMONの「ミッドナイト・リフレクション」をプレイし、今度はバックDJ&コーラスとしてみきまりあのパフォーマンスを盛り上げていく。こうした光景は他のゲストが登場した際にも多く見られ、自身が起点となって、さまざまなアーティストへと繋がっていく交差点=「JUNCTION」としての存在感を印象付けていた。
シークレット・ゲスト、ナナヲアカリも登場。クローズドな空間が生み出す、全身でリアルな表現を受け止める感覚
ここまでノンストップで繰り広げられていたDJセットが一旦落ち着き、観客からステージに向けて、「ありがとう!」という言葉が次々と寄せられる。ここで「ここからは撮影NG」というメッセージが表示され(この日の公演は特定の場面のみ撮影OKである旨が告知されていた)、会場全体にどこか背筋を伸ばすようなムードが漂った。
「撮影NGとOKの時間がある」と最初に聞いた時には、恐らくゲスト側の要望によるものだろうと推測していたのだが、「ランタノイド」「ROOFTOP TOKYO」「POLYHEDRON」と、内省的な側面の色濃いソロ楽曲がフルコーラスで披露され、時には誰かに寄り添うような、時には周りを拒絶するような歌と言葉を、一人ひとりの観客がじっと受け止める。
〈DEAR MY LOVE FROM MY LAPTOP/まだ飛べないROOFTOP/焼け落ちたHDD/リスクばかり背負って/眩しくない才能でもないそれ/包帯ぐるぐる巻きで抱えて歩いてるよ/オンステージへ/非常階段の螺旋の上〉(「ROOFTOP TOKYO」)
それは、リアルな表現を突き詰めてきたからこそ、スマートフォンに意識の一部を奪われることなく、全身で楽曲を受け止めてほしいという水槽の想いの表れだったのかもしれない。水槽の楽曲の多くは、ダンス・ミュージックの興奮と、複雑に渦巻く感情を同時に内包しているが、ここでは後者の側面がありありと浮かび上がってくる。
この日、最も水槽の持つ攻撃性が剥き出しになったのは、鋭利なビートが身体を突き刺す「POLYHEDRON」から、Empty old Cityを招いての「Offline Saga (feat. 水槽)」(Empty old City)、Empty old Cityのボーカル、kahocaによる「歌ってみた」動画をきっかけにセレクトされた「ゆるされないで」へと続く流れだろう。深紅に染まったステージから放たれる「Offline Saga (feat. 水槽)」の破壊力も相当だったが、「ゆるされないで」の脈打つようなビートの中で響くふたりの透き通るような歌声は、原曲の持つ真綿で首を絞めるかのような美しさをこれ以上ないほどに際立たせていた。
そうしたコントラストが生み出す感情の揺らぎは、激烈に歪んだギターと壮絶なハイトーンボイスが空間を覆い尽くす「ゴーストの君」から、フィーチャリングの名前が明かされた瞬間に驚きの声が広がった新曲「やっと君の誕生日を忘れた (feat. 花譜)」(EP『4 LOVERS ONLY』収録)で描かれる、どこか諦念を感じさせる恋の風景の対比を通してさらに大きくなっていく。
水槽らしい、感情を掻き乱されるような場面が続くなかで大きな転換点となったのは、TAKU INOUEの登場だろう。彼がプロデュースを手掛けた「README (prod. TAKU INOUE)」で眩しいほどに輝くライトに包まれながら内面を爆発させた水槽が、「自分もクラブに出るようになって、歌詞が答え合わせみたいに分かっていった」という言葉に続けて、大好きな曲であると語った「3時12分」(TAKU INOUE & 星街すいせい)を歌い上げる。
〈大好きだったあの歌が/呪いになった/何を間違えたんだ/あんなに歩いたのに/どんなに歩いても近づけない/最初からゴールはなかった/わかってたけど、まだ〉(「README」)
〈踊っていたいよ僕ら死ぬまで/同じ曲が好きってそれだけで肩を組んでさ/君のいない秘密はつまらないんだ/夢を見せて/1、2で世界を変えにいこう〉(「3時12分」)
TAKU INOUEが鳴らす音を通して、ギチギチに詰め込まれた感情の坩堝が、浄化されるかのように、純粋なナイトクラブへの愛情へと姿を変えていく。
さらに、シークレット・ゲストのナナヲアカリが登場した「ハッピーエンドにしてよね (feat. ナナヲアカリ)」(『4 LOVERS ONLY』収録)では、某有名なJ-POPラブソングのフレーズを引用しながら、微笑ましくももどかしい恋の光景が描かれる。「書くのが苦手」と明言していた水槽にしては珍しいくらいに真っ直ぐなラブソングで、どこか不器用でキュートな二人の歌声に浸りながら、フロア全体にポジティブなムードが広がっていく。
思えば、「ハッピーエンド~」のような楽曲を作り、ステージで披露することができるようになったこと。それ自体が、目まぐるしい躍進を遂げた近年の水槽の変化を象徴しているのかもしれない。以前のような内省的な自己は変わることなく在り続けるが、ナイトクラブでの活動を中心に“外”へと出るようになった今、避けていた題材にも向き合えるようになった(『4 LOVERS ONLY』は、全曲が恋をテーマにしたEPだ)。そうした物語を、このセクションでは描こうとしていたように感じられた。
活動終了を迎える盟友、Suchとのキラーチューンも炸裂。オーディエンスの大合唱に包まれた、水槽史上最大の大団円
パーティー後半戦の幕開けを飾ったのは、直前にリリースされたばかりの「Tokyo Nightscape feat. 水槽」(Bard Berg & ぷにぷに電機 ※)を引っ提げてやってきたぷにぷに電機。今年の春にリリースされた「VS」(ぷにぷに電機×水槽×Gimgigam)と合わせて、妖艶な歌声とミラーボールの光が彩るムーディーな世界観で空間全体を染め上げていく。
その勢いのままに、久しぶりにひとりになった水槽も「ダブル・プッシュ・オフ。 feat. 水槽, A4。」(MAISONdes)、「タクシー・ジャック」、「あなたクランケン」(tamonの楽曲のカバー)と、巧みに繋ぎながら一気にフロアのボルテージを上げていく。nyamuraを招いて披露された「正しさのゆくえ (feat. 水槽)」(nyamura)では、明滅するビートの洪水の中で、ローとハイの両面から透き通る歌声を響かせ、観客を魅了した。
ここでさすがに限界が訪れたのか、今回のライブ唯一の休憩タイムに突入(水槽は「DJセットにあるまじき」と言っていたが、普通のDJはこんなに歌わないだろう)。「先々週くらいのゲネプロで『無理なんだ』ってことが分かって(笑)。ただ、止めるのは無理だから、今、めちゃくちゃ酒を飲みたい気分」と本音を漏らすと、「飲み友」ことナナヲアカリがドリンクを持って駆けつける。周囲の応援を受けて半ばヤケクソ気味に「ひとり残らずついてこい!」と叫びながら休憩を終わらせると、凄まじいワブルベースと大量のレーザーが入り乱れる「Dive in Music feat. 水槽」(lapix, Redsign)を投下し、休憩で得たエネルギーをすべて吹き飛ばしそうな勢いで、一気にフロアをブチ上げる。
そんなカオティックな状況にピッタリの人物といえば、これまで数多ものフロアを沸かせてきたKOTONOHOUSEだ。「ZEROTOKYOのために作った曲」というレイヴィーな「Blue Screen」(水槽 & KOTONOHOUSE)を投下すると、KOTONOHOUSEもマイクを握るという混沌極まる光景と強烈な音像にフロアの熱狂は最高潮に達し、全員総出の〈アンダーグラウンドが世界の中心〉の絶叫が響き渡る。さらに「まだ1番しか出来てない」という未発表の新曲「OVERHEAT」(水槽 & KOTONOHOUSE)が放たれると、凶悪なビートとハイエナジーなサウンドが空間を覆い尽くした。
旋風を巻き起こしたKOTONOHOUSEが去ると、汗と興奮にまみれた会場を見渡しながら、その余韻に浸るように、水槽が観客へと語りかける。
「これまで、『現在と未来は変えられるけれど、過去と出身地は変えられないのが嫌だ』という話を散々してきて。でも、過去や出身地は自分のマインド次第で意味を変えられるというか……、当時は嫌だったことも、今はすべてを愛せています。シンガー、トラックメイカーの水槽です」
そう語って披露したのは、「p.h.」と同様にカバー動画の中でも屈指の人気を誇る「熱異常」(いよわ)。再びのサプライズに、観客からは悲鳴にも似た歓声が寄せられる。そもそも「熱異常」はサビの超高音、急激な音程の変化や息継ぎする余裕がないことから、歌唱自体が途轍もなく難しいことで知られている楽曲だ。それにも関わらず、ここまでほぼノンストップで歌い続けてきた水槽がステージの中央に凛と立ち、見事にフルコーラスを歌いきってみせる。“歌い手”としての真価を完膚なきまでに発揮した技術力の高さと、あまりにも切実に響くその歌声は、まさに圧倒的というほかない。
この日登場したゲストの中でもひと際大きな歓声をもって迎えられたのが、翌週のラスト・ワンマンライブをもって活動を終了することを発表していたSuchだ。2023年にはツーマンライブ【SWITCH】を開催するほどの仲ということもあって、新曲「zero gravity」(『4 LOVERS ONLY』収録)から、まるでひとつのユニットであるかのように楽曲の世界が丁寧に紡がれ、「29時はビビッド (feat.Such)」ではふたつの絵の具が水中で溶けて混ざり合うような儚い美しさが、より生々しく立体感を伴って聴こえてくる。
「この貴重な瞬間を、一秒たりとも見逃したくない」という観客の想いがフロアからひしひしと伝わってくるが、やはり最後は盛大に盛り上がるのがパーティーというものだ。満を持して披露されたコラボ曲「SWITCH」の極太エレクトロ・サウンドがフロアを射抜くと、ふたりの堂々とした歌声に導かれるがままに、会場が再び熱狂の渦へと飲み込まれていく。前述のツーマンライブのために書き下ろされた同楽曲だが、ナイトクラブでのパフォーマンスを想定して制作されたであろうこの曲が、ついに東京を代表するクラブで鳴り響く光景に、踊りながらつい感慨に浸ってしまった。
いよいよパーティーもクライマックス。ヘヴィなグルーヴが唸る「EAR CANDY (feat.Bonbero)」でBonberoが登場し、軽快に飛び回りながら鮮やかなフロウでステージを掌握。さらに、彼が参加している「Parasite (ft. 羽累 & Bonbero)」のクリエイターであるr-906が合流し、同楽曲をDJ卓からプレイすると、今度は水槽がボーカルとして加わり、強靭なドラムンベースを鮮やかに乗り回しながらマイクリレーを交わしてみせる。
もはや何曲目の新曲なのかも分からなくなってきたが、ここでは「HALLUCINATION」が初披露され、r-906製の激烈にレイヴィーなドラムンベースが限界まで音響を喰らいつくし、呼応するように水槽の力強い歌声が炸裂する。間違いなく新たなキラーチューンが生まれた!という確信を抱く中で、今やアンセムとなった「心音賛歌」(水槽 & r-906)が放たれ、観客の大合唱とともに、楽曲に込められた圧倒的な多幸感が会場いっぱいに炸裂した。
まさにピークタイムという状況だが、まだまだ聴きたいアンセムは残っている。トドメの一撃とばかりに投下された「PINK NOISE」(picco×水槽)では、楽曲に参加しているpiccoとKOTONOHOUSEどころか、この日登場したほとんどのゲストが現れ、ナイトクラブの喧騒をそのまま凝縮したかのようなアッパーな光景がステージいっぱいに広がった。それは、間違いなくこれまでの単独公演史上、最もポジティブに振り切ったもので、この日を作り上げた水槽を、全員でお祝いしているかのようだった。
とはいえ、最も“水槽らしい”ピークを迎えたのは、この日最後のゲストであるlilbesh ramkoを招いて披露された「報酬系 (feat. lilbesh ramko)」だろう。「自分の音楽には自信がないけど、今日だけは、この瞬間はひとり残らず幸せにするので、声を貸してください」という言葉と、感謝の想いで満ちた観客から放たれるこの日いちばんの大ボリュームで響き渡った大合唱は、あらゆるノイズに翻弄されながら生きる私たちの存在そのものを、ただひたすらにまっすぐ肯定していたように思う。
「水槽はずっと、色々な曲で『主役に向いていない』ということを書いていて。世界の主役ではもちろんないし、自分の人生の主役でもないという気持ちがずっとあって、でもこういう日があるわけです。こういう日はさすがに主役だけど、主役にさせてもらっているんです」
「諦めたいことがあったときに、今日のことを思い出してください。自分もそうします。脇役にスポットライトを当てる、そういうアルバムが自分にはあって、その中からタイトル曲を歌って今日は終わりたいと思います。毎回言っているけれど、次に会う日まで、絶対に死なないで。約束です」
最後に披露された「夜天邂逅」で、〈眠れずに見つけたこの曲を/教えたい人もいない世界が間違ってる〉と切実に歌い上げるその姿は、今の水槽が多くの支持を集める理由を静かに証明していた。「間違ってる」理由を考え始めると、数え切れないくらいに色々な感情が浮かび上がってきて、それは、この日披露された多くの楽曲へと続いていく。そして、シーンの垣根を越えて、その音楽に共鳴した多くのアーティストへと繋がっていく。
どの単独公演でも「その時、出せるものを空っぽになるまで全部出し切る」という水槽のスタンスは、普段のライブシーンを見慣れている身からすればはっきり言って異常で、明らかに無理をしている。それは、「ここまでやらなければ伝わらないかもしれない」「期待されているものを可能な限り見せたい」という、クリエイターとしての凄まじい意志の強さに導かれた結果なのだろう。だからこそ、水槽の単独公演を観るたびに「とんでもないものを観た」という圧倒される感覚と、生きるのがちょっと楽になるような気持ちを抱きながら日常へと戻っていくのである。
ライブ終了後に発表された次回の単独公演は、東京と大阪の二会場で開催される【水槽 ONE MAN LIVE 2026 “REVOLTAGE”】。だが、それ以上に、次に書かれた「BAND SET」という言葉に、観客からは大きなざわめきと興奮、喜びの声が上がった。
これまでトラックメイカーとして、ラップトップを通してパフォーマンスを披露することに強いこだわりを見せていた水槽だったが、ついにそこからも大きな一歩を踏み出すことを決めたようだ。きっと2026年も、その動きから目を離すことはできないのだろう。
※Bard Bergの「a」はリング符号付きが正式表記
Text:ノイ村
Photo:Junya Watanabe
◎公演情報
【水槽 4TH ONE MAN LIVE “JUNCTION”】
2025年11月27日(木) 東京・Zepp Shinjuku
【水槽 ONE MAN LIVE 2026 “REVOLTAGE” (BAND SET)】
2026年11月7日(土) 大阪・Yogibo META VALLEY
2026年11月14日(土) 東京・Spotify O-EAST
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