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「人類の進歩と調和」をテーマにした1970年の【大阪万博】以来、55年ぶりに大阪で開催中の【EXPO 2025 大阪・関西万博】。会期中、EXPOアリーナ「Matsuri」では様々な公演が行われているが、中でもアーティストが自ら交渉して自主制作で実現した特別なステージがある。それがずっと真夜中でいいのに。(ずとまよ)の特別公演【オモテEXPO 2025「名巧は愚なるが如し」】だ。
2025年3月からはじまった最新アリーナツアー【永遠深夜万博「名巧は愚なるが如し」】を開催して全国12万人を動員したずとまよ。この公演のコンセプトは「太陽のウラでの永遠深夜万博」で、まさに大阪・関西万博の会期中に、70年万博の裏で開催されていたかもしれない“もうひとつの万博”を具現化するユニークなステージが話題となった。
とはいえ、一見突拍子もないテーマを持ったこのツアーで表現されていたのは、人が試行錯誤しながら何かをつくったり、何かをなそうともがいたりして生まれる、非効率ではあるけれどもとても愛おしい、創作やアート、ひいては人の生き方へのメッセージのようなもの。今回の【オモテEXPO 2025 「名巧は愚なるが如し」】は、その永遠深夜万博を、2025年の今まさに開催されている本物の万博のステージの上で披露する機会となる。
大阪・関西万博で初の「アーティストの自主制作によるライブ」として、万博のチケットを持つ観客なら無料で抽選に参加できるこの公演には、公演アナウンス後応募が殺到。最大1万6,000人を収容可能な屋外ライブステージ「EXPOアリーナ」が満員となり、同会場で開催されたライブの中で過去最大規模の動員数を記録。会場外にも音漏れを聴きたいファンが集まるほどの盛況となった。
公演中とにかく印象的だったのは、コンセプチュアルな形式のライブにもかかわらず、パフォーマンスが終始熱気と祝祭感に満ちていたこと。1970年の大阪万博でもナレーションを担当した石坂浩二によるオープニングナレーションを経て、早速ブラウン管ドラムや扇風琴が登場した冒頭の「眩しいDNAだけ」や観客一体となったクラップが生まれた「秒針を噛む」など、熱量全開のパフォーマンスに会場は序盤から一気に盛り上がっていく。
とはいえ不思議に感じるのは、この音楽がかなり複雑な要素のマリアージュで構成されていること。ロックやポップス、ソウル、ファンク、ダブ、クラブミュージック、ラップなどを筆頭にずとまよの楽曲は1曲の中に多岐に亘る要素が詰め込まれている上に、SSW的なものからボカロを筆頭にした日本のネット音楽的なものまで様々なエッセンスが感じられる。それがひとつになって、あくまでポップスとして突っ込んでくる独特の雰囲気が、ライブでは何倍にもなっているように感じられるのも特徴的だ。中でもソウル/ファンクを筆頭にしたブラックミュージックやヒップホップ的な感覚を日本語のポップスに取り入れる手腕は鮮やかで、その華やかな音は今回のライブの祝祭感にも見事に合っている。
ライブは中盤以降も熱量全開で進み、時おり映像演出が70年代の米音楽番組『ソウルトレイン』などを思わせる当時のソウル/ファンク風になっていたり、70年万博のパビリオンの一部をオマージュしたと思しきエッグチェアや赤電話などが登場したりと、55年前の要素を取り入れつつモダンに解釈した独自のパフォーマンスが広がっていく。元々はあくまでウラ万博のために用意されたパフォーマンスの数々が、2025年の関西・大阪万博で披露される様子は圧巻だ。中でも今年に入ってリリースされた楽曲のひとつ「クリームで会いに行けますか」は、フィリーソウルのような軽快なストリングスを筆頭にした華やかなサウンドがずとまよ節全開の歌やパフォーマンスと融合した中盤のハイライトだった。
以降も「MILABO」ではカラフルな原色の照明にあわせて万博会場内のステージ上でミラーボールが回り、原曲にはないラテンフレーバーが加わった「お勉強しといてよ」ではステージにど迫力の具志堅バイクが登場。うねるベースラインに乗ってバンドが高揚していく「TAIDADA」では客席に向けてレーザーが縦横無尽に降り注ぐ。全編を通してオープンリールやブラウン管ドラム、扇風琴なども使い視覚的な楽しさも追求した、大会場を端まで揺らすようなスケールの大きなパフォーマンスでひたすら会場を盛り上げていく。
終盤の閉会式パートでは、「孤独とは、絶対に社会的だ。」という岡本太郎の言葉を引用。55年前の大阪万博で太陽の塔を手がけた芸術家の言葉をもってオモテEXPOを締めくくる。そして最後のMCでは、公演前にナレーションを依頼した石坂浩二と会った際、「50年前と今とで何が違うか?」を聞いたエピソードを披露。「シンプルで楽観的だった時代と比べ、今は様々なことが複雑になっている。けれども、人間の本質はそれほど変わらないようにも感じる」といった彼の言葉を伝え、「正義」で会場一体となってライブを終えた。
1970年の大阪万博と、2025年に開催中の大阪・関西万博。この2つのイベントを繋ぐ55年という年月の間にも、様々な人々が孤独に向き合い、試行錯誤を続け、その結果時代を前に進めてきたのだろう。ずっと真夜中でいいのに。は、その尊い孤独を肯定する――。そんなメッセージを感じる圧巻のパフォーマンスを、採算を度外視した万博での自主制作ライブというなかなか類をみない形式で披露した今回のライブは、開催形式を含めたすべての要素がずっと真夜中でいいのに。というアーティストの独自性を伝えるようだった。
終演後には「日本から各国へ」という文字とともに日本&アジアの9都市を回るツアー【JAPAN & ASIA TOUR『ZUTOMAYO INTENSE II』】の開催も発表。ずっと真夜中でいいのに。の活躍の舞台はこれからもますます広がっていきそうだ。
Text by 杉山仁
Photo by 鳥居洋介
◎公演情報
【オモテEXPO 2025「名巧は愚なるが如し」】
2025年9月2日(火)
大阪・関西万博会場内 EXPOアリーナ「Matsuri」
【JAPAN & ASIA TOUR『ZUTOMAYO INTENSE II』】
2026年2月28日(土)東京・日本武道館
2026年3月1日(日)東京・日本武道館
2026年3月14日(土)ソウル・KOREA UNIVERSITY, TIGER DOME
2026年3月28日(土)上海 ※会場後日発表
2026年4月4日(土)神奈川・横浜アリーナ
2026年4月5日(日)神奈川・横浜アリーナ
2026年4月17日(金)シンガポール・The Star Theatre
2026年4月24日(金)大阪・大阪城ホール
2026年4月25日(土)大阪・大阪城ホール
2026年5月2日(土)バンコク・Union Hall
2026年5月16日(土)台北 ※会場後日発表
2026年6月2日(火)神奈川・Kアリーナ横浜
2026年6月3日(水)神奈川・Kアリーナ横浜
※日本国外の公演数は増える可能性あり
公演詳細はこちら
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