<ライブレポート>デビュー55周年を迎えた野口五郎、止まらぬ好奇心とオーケストラが紡いだ景色

2025年7月25日 / 17:00

 デビュー55周年を迎えた野口五郎が、【billboard classics 野口五郎 PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2025 KEEP ON DREAMING】を開催した。6月5日の東京文化会館大ホールを皮切りに、兵庫、愛知、そしてファイナルは札幌の全4地方にて、各地のオーケストラと共に豊かな音と歌を響かせた。55年のキャリアの中で初となる単独でのフルオーケストラコンサートという、野口にとって記念すべきこのコンサートの東京公演を中心にレポート。自身の人生を彩ってきた様々な歌を、野口が全幅の信頼を置く、指揮・編曲を手掛けたマエストロ・渡辺俊幸と共にドラマティックな世界観を作り上げ、大きな感動を届けた。

 ツアーは、野口が上京して最初に住んだ街・上野にあるクラシックの殿堂・東京文化会館で開幕。緊張感とワクワク感が客席を包む。東京フィルハーモニー交響楽団、指揮・渡辺俊幸が大きな拍手に迎えられ登場。そして野口がひと際大きな拍手に迎えられ登場するとピンスポットが当たり、「愛の賛歌」をアカペラで歌い始める。オーケストラの優美な音が重なり、野口のハイトーンボイスはさらに伸びやかに、まさに“突き抜ける”ように客席に広がる。ラストはロングトーンを披露し、割れんばかりの拍手が送られる。さらに「愛の賛歌」のドラマティックな世界の続編のような壮大なバラード「序曲・愛」へ。曲の途中で、渡辺とオーケストラを紹介し、さらに「歌とギターそして愉快なおしゃべりは野口五郎です」と自己紹介すると笑いが広がる。ここからギターソロを鳴らし、再び歌へ。総勢59名のフルオーケストラと歌が溶け合い、客席に感動が広がっていく。

 野口は「演奏をしてくださっている方の思いが重なっている音を背中で感じる。やっぱり生の音はすごい」と、改めてフルオーケストラが作り出す音を全身で感じ、その喜びが全ての歌に表れていた。野口の歌は楽器と一緒にまさに体全体を鳴らしているようなボーカルで、だから“響き”が違う。

 野口が愛する映画音楽もたっぷりと届けてくれた。まずは「アンチェインド・メロディ~Smoke Gets」というマッシュアップで圧巻のボーカルを聴かせてくれ、「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を情感豊かに、そして迫力のある歌を披露し、間奏では“泣き”のギターソロを披露。歌っているようなギターとオーケストラの音がブレンドし、豊潤な音像が出来上がっていた。

 このツアーには野口の娘でピアニストの文音(あやね)がオーケストラに参加し、さらに初日のこの日は文音の誕生日ということもあり、父娘にとって忘れられない一日になったのではないだろうか。

 「甘い生活」「私鉄沿線」という代表曲も披露。「甘い生活」は渡辺のオーケストラアレンジと演奏がこの曲の切なさをより引き出す。「私鉄沿線」もそうだ。シンバルやティンパニが印象的に使われ、原曲とは違う表情を見せ、しかし2曲とも色褪せないメロディの強さを改めて感じさせてくれた。野口は大阪公演では「今まで何千回と歌ってきた2曲が、渡辺先生のアレンジと大阪交響楽団の演奏で歌うと、歌い終わった後『こんな風に歌うんだ』という発見があった」と、新鮮さを感じながら歌っていた。札幌公演ではこの2曲の背景にあるアナログで不自由な時代の話を渡辺と楽しむなど、リラックスした空気を作り、オーケストラコンサートというと堅いイメージを想像しがちだが、野口は気軽に楽しませてくれる。

 ちなみに「甘い生活」の歌詞について、野口の21歳の長男から突っ込みが入り、それを否定できず、野口は違った解釈のまま50年歌い続けてきたことを告白すると、客席は爆笑が起こった。ロンドンでのレコーディングのエピソードを紹介し歌った「君が美しすぎて」は、東京公演にはこの曲を作曲した馬飼野俊一が駆けつけ、1973年から大切に歌い続けている曲を、恩師の前で現在進行形の歌で届けるという感動的なシーンも。

 野口はこの日のオーケストラコンサートを「オーケストラとの共演なのか、競演、協演なのか…ご自身で感じてください」と語っていたが、一部のラストに披露した「この胸のときめきを~パリの散歩道」のマッシュアップは、オーケストラとギターのまさにバトルでもありブレンドでもあり、結果的に素晴らしいアンサンブルになっていた。このコンサートの大きな見どころでもあった。

 このコンサートは野口の55年のヒストリーを言葉と音楽で辿る旅でもある。「僕の人生の中の大きな存在になっている」というミュージカル『レ・ミゼラブル』の初代マリウス役を演じてから約40年。第2部ではそんな、今もアーティストとしての心の礎になっている『レ・ミゼラブル』の楽曲をたっぷりと披露した。「今まで歌ったことがないけど、一度歌ってみたかった」というフォンテーヌが歌う「夢やぶれて」は「本来女性が歌う歌なので、母性ではなく父性で歌ったらどうなるんだろう」と挑戦。しかしその繊細で豊かな歌は、ふくよかで包み込んでくれるような懐の深い優しい歌、母性を感じさせてくれる歌になっていた。

 当時「苦しみぬいた」という慟哭の歌「カフェ・ソング」は、文音の優しい音色のピアノから始まり、オーケストラの柔らかな音に感情を露わにした歌を表現していく。続く「彼を帰して」も文音のピアノの音色に弦が重なっていき、音と歌から切なさがあふれてくる。客席はその世界観に引き込まれていた。

 野口の知られざるもうひとつの顔が「深層振動=DMV(Deep Micro Vibrotactile)」を長年研究している研究者であるということ。DMVとは人の耳に聴こえないが、自然界に流れる低周波音のことで、医療分野でも人の健康に効果的なものとして臨床試験が始まっている。実際に札幌公演で「学会で発表してきました」と語っていたように、野口は6月末に「日本老年学会総会」で「認知機能低下予防の音楽療法」というテーマで講演をした。自然界で採取したサンプルから独自の技術で、深層振動を精製し、これを音楽にミックスした “DMV音源”を存分に再生できるスピーカーを協同開発した。これは聴くだけでなく、聴こえない音を低周波の振動として“浴びる”という発想。今回も各会場にはDMVが流れ、客席はオーケストラの生の音と共に“浴び”、体にもいいコンサートになっていた。

 これまで数々のラブソングを歌ってきた野口が「愛の意味がどんどん変わってきた」と語り「僕をまだ愛せるなら」(2012年)と「これが愛と言えるように」(2019年)を披露。両曲とも文音のピアノが寄り添うように音を紡ぎ、オーケストラの音が楽曲をまるで額装したように美しい佇まいを作り上げ、野口が切々と歌う。「これが愛と言えるように」で<あなたが いてくれたら それでいいから>という究極の愛を、オーケストラのダイナミックかつどこまでも繊細な音をバックに歌うと、客席は心を鷲掴みにされる。

 「スマイルアゲイン」(1988年)は映画『イエスタデイ』(1987年)のエンディング曲のカバーで、哀切極まりない歌が心を締め付ける。ギターソロで美しい旋律をエモーショナルに弾くとさらに哀しみが広がっていくような感覚になる。そして「55年歌い続けて、まだ歌おうと思っています」と語ると大きな拍手が起こり、「50年間歌い続けてきた曲」ですと本編の最後に「All by Myself」を披露。ひざまずいて力の限り歌う。オーケストラのゴージャスな音が一瞬消え、マイクなしで歌を届け、まさに大団円だ。

 鳴りやまないアンコールを求める拍手。それに応えて再びステージに登場するとスタンダードナンバーの「スターダスト」を披露。煌めくようなオーケストラのどこまでも美しい音。野口は軽くステップを踏み、歌を抱きしめるように歌い、届ける。ダブルアンコールは「スターダスト」の美しいメロディをギターソロで披露。メロウでムーディーなサウンドに心が蕩けていくようだった。しかしただでは終わらない。最後のフレーズを溜めに溜め、なかなか弾かないと客席から笑いが起こり、最後は割れんばかりの拍手とブラボーという掛け声が野口と渡辺、東京フィルに送られた。

 野口は東京フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団、中部フィルハーモニー交響楽団、クリスタルスノー・スペシャルオーケストラという4つのオーケストラと感情を交わしながら違う響きを楽しみ、その音とどこまでも伸びやかで艶のある歌を交差させ、各会場で感動を作り出していた。コンサート前のインタビューで「僕がこれまで色々なことをやってきたのは、常にその先の自分が見たいという好奇心が強いからです」と語ってくれた野口。さらに「一か所に止まって横に広がっていくのではなく、常にその先の自分を見たいんです。振り返ってみると、常に先を知りたい人生だったなって思います。今回もこのコンサートを終えた先には何があるのか、それが楽しみです」と、その好奇心が推進力となって55年間歌い続けることができたことを教えてくれた。今回のコンサートの先に何があるのか——それは次の野口の行動、歌に答えが示されるはずだ。55周年の次は56(ゴロー)周年。ファンは新しいことに挑戦するその姿を、想像しているはずだ。

Text:田中久勝
Photo:石阪大輔

◎公演情報
【東京】2025年6月5日(木)OPEN17:00 / START18:00 東京文化会館 大ホール
【兵庫】2025年6月12日(木)OPEN17:15 / START18:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【愛知】2025年6月18日(水)OPEN17:00 / START18:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール
【北海道】2025年7月3日(木)OPEN17:00 / START18:00 札幌文化芸術劇場hitaru

出演:野口五郎
指揮・編曲:渡辺俊幸

管弦楽:
【東京】東京フィルハーモニー交響楽団
【兵庫】大阪交響楽団
【愛知】中部フィルハーモニー交響楽団
【北海道】クリスタルスノー・スペシャルオーケストラ

公演公式サイト
https://billboard-cc.com/archive/goro2025


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