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imaseと松任谷由実が、コラボ楽曲「文通」をリリースした。
現在、全国ホールツアーを開催中で、7月には日本武道館公演も決定しているimaseと、今秋に自身40枚目となるオリジナルアルバムのリリース、そして全国72公演に及ぶ全国ホールツアーを控えている松任谷由実。そんな世代を超えて生まれたコラボレーションは、音響メーカー・ボーズの創立60周年を記念した特別なプロジェクトをきっかけに生まれた。
今回、松任谷由実が学生時代に通っていたという、神保町の喫茶店ラドリオでimaseとの対談を実施。お互いの第一印象やコラボへの経緯などを語ってくれた。
――お二人はどういう過程で制作を始めたのでしょうか。
imase:今回、僕からユーミンさんに実際に聞いてみたいことを歌で伝えたら面白いのではないかと思ったところからスタートしました。「文通」というタイトル通り、まずはAメロをユーミンさんにお送りしたところ、いきなり<教えてあげないわ>というフレーズが返ってきたので驚きました。
松任谷由実:最初、16 小節に歌詞が入っている音源が来たので、曲的にも歌詞的にもどう展開したら面白いかな? と思って、Bメロを作りました。
imase:まだお会いしたことがない段階でその返しをいただいたので、切り口が本当に面白いなと思いました。普通に受け答えでフル尺を制作していくと、ただの「文通」で終わってしまいそうな気もしていて。そこで<教えてあげないわ>という返しがあったことで、後半により面白いストーリーが展開されていくような感じがしました。
松任谷:「文通」というタイトルを見たときに、若いのに古めかしいワードを出してくるなと思って。そこから逆算して、結論の出し方が極端な世の中でアンチテーゼじゃないけど、アナログなものに味があるんだよという楽曲にしようと思いました。
imase:今の時代はメールやSNSですぐメッセージを送れますが、送るに至るまでの過程が大事だったりするよなと改めて思いましたね。
「文通」は、聞いてくださる皆さまにとっても、僕とユーミンさんがどう作り分けているのかが分かりやすい展開になっていると思います。制作中は、ユーミンさんから次にどんな歌詞やメロディーが返ってくるのかがすごく楽しみでした。サビは一緒に作ってくださいましたよね。
松任谷:サビの展開はどういう印象でした?
imase:ボサノヴァの雰囲気にぴったりでした。僕にはないメロディーというか、やっぱりユーミンさんならではのメロディーがサビで展開されていて。ワンコーラスでストーリーのまとまりがあったので、その時にこれはすごく素敵な作品になるなと感じました。
――現代の音楽とアナログを混ぜるみたいな意識はありましたか?
松任谷:ありましたね。せっかく両者が歩み寄って、美味しいところを見つけるということができたらいいなと思って。
imase:サビの<メール越しにあなたを知りたいな>という部分はユーミンさんが考えてくださいました。寄り添ってくださったといいますか、今の時代っぽい部分もありますし、歌詞でのミックス具合もすごく良かったなと思います。
松任谷:歌詞の内容だけじゃなくて、コード進行やメロディーの運びとか、全部に言えることでもあるんですよね。
imase;今回、楽譜を見せていただいて、たくさん勉強させていただきました。
松任谷:私は打ち込みしないから、すぐ譜面に書くんですよ。その方が、後で見た時に思い出して、何がやりたかったのか分かる。今回で言えば、<答え急がないで>が2回出てきますが、そこが結論と譜面に明記しました。
imase君はその後に全く違う展開でCメロを作ってきたじゃないですか。自分だったら絶対行かない転調ですよね。そこで色が変わることで、一つの大喜利になって。ずっとやり取りしていたことが本当に会うことになったんだという。素晴らしいアイディアだなと思いました。あれはどうやって思いついたの?
imase:作っていくうちに、最後にもうひと盛り上がりというか、オチ的な部分があるといいのかなと思っていて。フル尺を制作した際にユーミンさんと打ち合わせをしたタイミングで、ユーミンさんが「Cメロがある方がいいんじゃない?」とおっしゃってくれました。
松任谷:いいこと言う! imaseくんのアイディアかと思っていた。そういう雑談の中に宝物があるんだよね。
imase;本当にそう思います。歌詞で最後待ち合わせしようみたいな話も、雑談の中で出てきました。
松任谷由実:帰結のところ<待ち合わせ場所まで 早めに着きそうね ゆっくり歩かせて ひと言目を思いつくまで>は素晴らしいよね。もう松尾芭蕉レベルです。
imase:嬉しい!
――ユーミンさんとimaseさんの世代のミックスみたいなことは意識しましたか?
imase:自分の持っている要素は、自然に出そうと意識しました。自然にやることが今の自分の年代を表現することなのかなと思ったので。
松任谷:歌詞の中にも出てくるよね。<背伸びをし続けても そのうちにバレちゃう>の開き直る感じもそうですよね。
imase:あの歌詞でユーミンさんに色々質問された時、僕どうしようかなと思って..ちょっと悩みましたね。どう返すのが正解なのかなみたいな。
松任谷:でもその悩んだところをそのまま出した感じでしたよね。
――お互いの第一印象はどういう感じでした?
松任谷由実:私は自然な感じで、楽曲と本人が一致していました。
imase:初めてお会いした時は、イメージ通りの方でした。制作の途中でユーモアのあることをおっしゃっていたりして、一緒に話していて楽しい方だなと感じました。
――ちょっと近いDNAもありますよね。
松任谷:今回、基本がボサノヴァの曲がきましたからね。共通言語はある感じがします。
――ユーミンさんがこのお店に通われていた当時、まさにボサノヴァが盛り上がっていましたよね。
松任谷:ボサノヴァは50年代終わりぐらいから出てきて、リオデジャネイロで盛り上がっていました。その後、ブラジル’66が出てきて、日本では60年代後半に流行っていました。ボサノヴァは「ボサ」=「波」の「ノヴァ」=「新しい」というように、これまでのブラジルのサンバとは違った新しいテイストでしたね。
――今回、楽曲にボサノヴァを持っていこうと思ったのはなぜでしょう?
imase:ユーミンさんはボサノヴァの楽曲を出されていますし、自分の声もボサノヴァに合うのかなと感じていました。いつかボサノヴァを歌ってみたいなと思っていた時に、ユーミンさんとコラボさせていただくことになって。せっかくならチャレンジしてみようとなりました。そして、ボサノヴァに何か強いスタイルを混ぜるのも面白いのかなと思ったりもしていました。
――ミュージック・ビデオの撮影はいかがでしたか?
imase:本当に楽しかったですね。このストーリーが地球と月の交信になるという発想がすごく面白くて。
松任谷:今、アルバムを制作中で、色んな宇宙が出てくる予定です。その中にこの曲も入れたいなと思いながら、2番の歌詞に<いつか地球を離れるとして 誰かといるのなら 誰といたいですか?>と入れました。環境が目まぐるしく変化している世の中で、「僕のお父さん、スペースシャトルのパイロットだよ」という、外宇宙に行く世代もすぐに来るなと思うんです。こういった遠くで交信することもいつかあり得るのかな、と思って入れた歌詞でした。
imase:二人で向かい合っているシーンがあるじゃないですか、あの時にユーミンさんが月に似た景色を見たとことがあるとおっしゃっていましたよね。
松任谷:ずいぶん前に、人類が定住している最北端のノルウェーのスヴァールバル諸島に行ったことがあります。夏に行ったんですが、真っ赤な山があって、火星ってこうなのかな? と思いましたね。そんな旅の話を色々しましたね。
まだ私が旅に行っていた頃、今こんなにも環境が変わると思っていなかったです。政治的にも、自分の体力的にも行けない場所があるから、若いうちに行っておいたほうがいいと思う。でもその制約がある分、インナートリップというのかな、イマジネーションをもっと鍛えて、どこでも外宇宙でも行けるといいなとも思っています。
――今回、音響メーカー・ボーズの創立60周年を記念したプロジェクトですよね。
松任谷:今まではボーズの機種をリスニングとして使っていました。そしたらこの度、スピーカーをいただけることになりまして。試したらとても良い音でした。
――響きが音楽的ですよね。
imase:低音のブースト感が気持ちよかったです。昔、ボーズのスピーカーが搭載された車で、制作した音源のミックスチェックをしていました。車の中での響きってすごく大事だなと思っています。
――最後に、この曲はどういう風に聞いてほしいですか?
imase:こういった、世代を超えたコラボレーションはなかなかないと思うので、色んな世代の方に聞いていただいて、どう感じてもらえるのかが楽しみです。僕と同じ世代の方が聞いたら、どの年代の雰囲気やフレーバーを感じるのか、真新しいのか、それとも古いと感じるのか。また、自分と違う世代の方が聞いたらどう感じるのか。そういう色んな方の聞き方というか、意見を聞いてみたいです。
松任谷:ぱっと聞いておしゃれだと思う。しみったれた部屋でもインテリアで良くなっちゃったりして。ぜひ体で聞いて欲しいですね。
Photo by 上飯坂一
◎リリース情報
シングル「文通」
2025/5/30 DIGITAL RELEASE