<ライブレポート>前島亜美、“青い瞬間”をつかむためのステージ【前島亜美 1st LIVE Blue Moment supported by animelo】

2025年4月23日 / 18:00

 前島亜美が4月13日、神奈川・関内ホール(大ホール)で【前島亜美 1st LIVE Blue Moment supported by animelo】を開催した。

 昨年11月の1stアルバム『Determination』発売から、約半年越しでのデビューライブ。かつてのグループ活動や、芸能活動に捧げた15年間を含めて、あらゆる意味で“お待たせしました”と言わんばかりの待望のステージだった。硬い革靴を、自身の足へと徐々に馴染ませるかのように。ライブ序盤、本人から「慣れましたか? もうこの空間に」と、客席側にも纏わりついていた“そわそわ感”を指摘されてしまったのは、さすがに笑わざるを得ない。

 さて、筆者は前述アルバムがまだ完成しきらぬ頃、前島にインタビューをさせてもらっていた(<インタビュー>前島亜美がソロアーティストとしてデビュー、「15年目の“最後のもう一度”」の真意とは)。当時、表題曲の歌詞にある括弧書きの<「迎えにきたんだ」>について、真意を明かしてもらうまでには至らなかったが、いまならその意味もわかる気がする。彼女が音楽活動に臨む上で掲げたコンセプトカラーは、柔らかな白みを帯びた青色=白群。本人と同世代であれば、“青春”と書いて“アオハル”と読むに馴染みもあるが、始まりの季節=春に、自分だけの音楽=青へと飛び込むーーあの頃、ステージに立っていた“未熟”な自分を肯定し、これから始まる“2度目の青春”を迎えにいく、“青い瞬間”をつかむためのステージだった。

 宇多田ヒカルに始まり、あいみょん、サカナクションと、本人選定だという“青”に絡めた開演前SEに耳を傾けながら、その歌詞、そして当時のインタビューで「言葉を大切にしている」という旨を熱く語ってくれた前島に想いを馳せていると……ステージ前方の妙幕越しに、シルエットが浮かび上がってきた。自身作詞の「Determination」が鳴り、時計の針が再び動き出す。前島が、忘れ物を取り戻しにきた。

 ステージ経験の豊富さの裏返しで、周囲から“緊張なんかしないでしょ”と、冗談混じりに言われるという前島。幸か不幸か、この日のステージングも堂々たるものだったが、正直に書けば緊張感も同時に、かつわかりやすく伝わってきた。特にライブ前半は、自由に歌唱するというより、事前に練ったステージの世界観をどれだけ忠実になぞるかを大切にしていた印象があり、それゆえだったのかもしれない。手が震えていたようなわけではないが、凛々しく伸ばした背筋や握り締めたこぶしには、緊張を押し殺すための力みも見え隠れしていた(それでも難しいロングトーンを歌いこなし、ダンスでは一気に開放感をもたらしていたのが凄い)。

 そのまま、ライブタイトル曲を序盤からドロップ。本人もアルバム収録曲で“青春部門”の第1位だと語っていた「Blue Moment」だ。<この空は続いてくよ あの青の向こう側へ>という歌詞の通り、早くも“この先”を見据えたようなメッセージに期待感を膨らまされる。そこから、リズムを巻いて崩すニュアンスで歌唱した「SCARLET LOVE」を経て、緑黄色社会「Mela!」をカバー。今回のセットリストには、カバーも複数組み込まれていたのだが、まず披露したのは約1年半前に歌のレッスンを再開した際、課題曲に選んだ一曲。過去のミュージカル出演作などで共演したスターへの憧れなどを代弁してくれているという。

 5曲目「初雪とKiss」は、新幹線のCMソングのような平成レトロポップ。甘く幼い歌声とともに、ファンにも実演してほしいという振り付けで粉雪代わりにピュアを振り撒いていくと、続くは再びカバー曲。ヨルシカ「春泥棒」で、速回しなボカロポップスを乗りこなしていく。ここでは、ステージ床面への照明が、ペンタゴンを組み合わせて桜の花びらを連想させたり、最後は本家ミュージック・ビデオと対をなすかのように、ステージ全体を一瞬だけ、ピンクから緑へと染め上げたりと、リスペクトを込めての表現も見事だった。

 畳み掛けるように、アルバムでも至高の一曲「MAKE IT NOW」に。本場・韓国でも活動歴があるというNika Lenz謹製のK-POPトラックが、ライブのベストアクトを演出。この曲だけは歌唱の考え方が根本から違っており、コーラス(というよりサブマイク?)やフック直前のキメとなるウィスパーパートなど、生歌以外のパーツも含めてステージを完成させるのがなんともいまっぽい。ダンスの難易度も一気に上がり、ダンサー4名を引き連れてのラインパフォーマンスには、本人も後から語っていた通り、客席のファンはまずその熱量を受け止めるのに必死な様子だったという。とはいえ、この方向性の曲がもっとほしいと願う。

 レーベルの大先輩にあたる水樹奈々「DISCOTHEQUE」をカバーするという、本人にとって緊張だったであろう時間を迎えたところで、7月より放送開始のTVアニメ『公女殿下の家庭教師』にカレン役で出演すること。さらには、7月23日に発売する1stシングル表題曲「Wish for you」で、同アニメのオープニングテーマを担当することを発表してくれた。

 自身もまた深夜アニメに救われてきたタイプだという前島。それだけに、この機会があまりに光栄な気持ちであることや、かわいらしいキャラクターが勢揃いするなか、前島演じるカレンが最もかわいいと、“あまり大きな声では言えないですが”と前置きをしながら、わりかしそこそこの声量で教えてくれた。もちろん、この流れで「Wish for you」をいち早く、それもフル歌唱。“少しだけ自分を好きになれる気がした”や“毎日にときめきを感じる”という旨の歌詞は、前島の現状を言い当てるようでもあり、そのほかサビのベースの存在感など、語りどころが多く困ってしまう。リリースが待ち遠しい。

 11曲目「職業:あみた」で示すは、彼女にとって最後の就職先が“あみた”である、という確固たる意志。公式で<よっしゃいくぞー!>をさせてくれる、キングレコードの懐の深さを感じられる楽曲だが、注目したのは中盤パート。アドバイスを装う、周囲のヘイターや“懐古厨”の声も前島が再現したところでの見開いた目の大きさたるや。“彼女にとって、アンチってこんなイメージなのか……”と、戦々恐々とさせられる。

 そして、そうした声を<うるさーい!>と一蹴した際には、“ようやく言えた~”と言わんばかりの恍惚な表情で、大きく肩の力を抜いていたのをよく覚えている。たぶん、あれは振り付けで事前に決められていなかったのでは? そう思ってしまうほど、リアルすぎてもはやヒップホップの粋だった。この曲の作詞作曲は、前山田健一。こうしたハイパーエンタメソングを作らせて、彼の右に出る者はいない。

 ライブ終盤には「Determination」と同じく前島自ら筆を執った「Azurite」を浴びて、ライター失格ながら、ひとりの人間としてこう思ってしまった。ありふれた言葉だが、“頑張る人って、本当に素敵なんだな”、と。アンコールでは、アルバム唯一のミドルバラード「星を見上げて」と、2度目となる「Determination」を歌唱。朗らかな空気のまま、この日のステージに幕を下ろした。

 前島は本編終盤のMCで、“自分だけは正しくありたい”という、誰かから与えられた不確かな想いが自身を形成するプライドやアイデンティティとなり、それにすがり、ときには振り回されてきたと振り返っていた。それでも音楽活動を通して見つけられた「改めて、もう一度歌を歌いたいと決意してよかった」「もう一度、前島亜美をステージに連れてきてくださったすべての方々に、心から感謝をしております」という想い。それが正しい思考の転換だったと、この日のステージは証明してくれたのではないだろうか。

 前島亜美は、上昇気流である。自身の目の前に広がる空に飛び出し、その高みへとぐんぐん進んでいくーーそんな姿こそ、彼女が見せてくれる“2度目の青春”そのものであり、その一瞬一瞬こそが、“青い瞬間”なのだ。

Text by 一条皓太

◎公演情報
【前島亜美 1st LIVE Blue Moment supported by animelo】
2025年4月13日(日)
神奈川・関内ホール(大ホール)


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