<コラム>TikTok時代のバズる条件とは――「ループ×可愛い×シュール」をキーワードに紐解く

2025年4月11日 / 18:00

 TikTokでバズを生む楽曲には、ある3つの要素が共通して存在していると思う。

 それは、「ループ×可愛い×シュール」。一度聴いたら頭から離れないメロディとフレーズがループし、気づけば何度もリピート再生してしまう。その中に映える“可愛さ”がしっかり組み込まれていながら、どこか引っかかるような“シュールさ”もある。そんな“ループの展開”と“ギャップのある可愛げ”のバランスを保った楽曲こそが、今のTikTokバズを牽引している。今回は、その方程式に重なってくる4曲――「愛▽スクリ~ム!」「シカ色デイズ」「全方向少女」「イイじゃん」を紹介しながら、“TikTok時代のバズる条件”を紐解いていく。

 「ラブライブ!」シリーズを代表するキャラクター、降幡 愛(黒澤ルビィ役)、大西亜玖璃(上原歩夢役)、大熊和奏(若菜四季役)が集結して誕生したクロスオーバーユニット・AiScReam。2025年1月22日にリリースされたデビュー曲「愛▽スクリ~ム!」は、3月1日にTikTokユーザー@redditsubloveliveseriesが投稿した【LoveLive! Series Asia Tour 2024 ~みんなで叶える物語】での2バースのセリフパートをきっかけに注目を集め、リップシンク動画や二次創作アニメが拡散。3月下旬には、韓国や東南アジア各国のSpotifyバイラルチャートにも名を連ねた。TikTokにおいては視聴維持率の高さがバズの鍵とされているが、このセリフパートは、コール&レスポンス形式によって、次の展開が気になる“好奇心のループ”を生み出すことに成功した好例と言える。

 また、TikTokでは“自分を可愛く見せたい”というユーザーの願望が強く表れやすいが、この楽曲はその点でも相性がいい。降幡 愛、大西亜玖璃、大熊和奏それぞれのキャラクターを活かした個性ある声が、一人三役という自由度の高い演出を可能とし、単なる可愛さにとどまらない、“多面的な可愛さ”の追求を実現した。実際に、髪型や衣装を3回分変えた動画や、3人で歌った動画、複数の声真似を取り入れた投稿も見られる。4月2日に公開された新人アーティストチャート“JAPAN Heatseekers Songs”(集計期間:2025年3月24日~3月30日)で11位にチャーインし、4月10日時点では、韓国のSpotify「デイリーバイラルソング」チャートで1位をキープするなど現在もバズは進行中だ。

 2024年7月31日に公開された“JAPAN Heatseekers Songs”(集計期間:7月22日~7月28日)で首位を獲得した、TVアニメ『しかのこのこのここしたんたん』のOPテーマ「シカ色デイズ」。バイラルヒットのきっかけは、2024年5月28日に公式がTikTokに投稿した、<しかのこのこのここしたんたん>というフレーズをひたすら繰り返すイントロ部分に絞った60秒耐久動画だった。ユーザーは、ループするメロディに合わせて両肘を上下に動かし、下半身を左右に揺らすだけだが、逆にそのシンプルさが、バズのファクターの一つとなっている。

 「シカ色デイズ」は海外ユーザーにも広く浸透したことで話題になった曲だが、その背景には、ループするメロディと言葉、意味を成さない語感の心地よさというシンプルな構成が、言語の壁を越えて伝わったことがある。展開が複雑な曲よりも、全体的にメロディやリズムが直感的に伝わる単純な楽曲のほうが、TikTokでは流行しやすい。目的を持たずに、なんとなくTikTokを眺めているユーザーが多いなかで、淡々としていて意味不明なのに愛らしさがあるという状況に巻き込まれていくのは、ごく自然な流れだ。まさに、「ループ×可愛い×シュール」の三拍子がそろった代表例といえる。

 TikTokでのヒットを見越して制作された乃紫の「全方向少女」は、2024年4月17日に公開された“JAPAN Heatseekers Songs”(集計期間:4月8日~4月14日)で首位を獲得。この曲はaespa、TWICE、NewJeansなどのK-POPアーティストの投稿も話題を呼び、【TikTok上半期トレンド大賞2024】ミュージック部門賞を受賞した。この曲のUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、<正面で見ても><横から見ても><下から見ても>というフレーズに合わせて、スマホのインカメラでさまざまなアングルから自分を映し、<いい女で困っちゃう>という自己肯定感溢れる一言で締める構成が特徴だった。

 “見せ方の工夫=自分の魅力の最大化”というTikTokらしい遊び方は、この曲がもたらしたところが大きい。全方向から自分の可愛さを表現するこの曲は、多面的な可愛さを見せる「愛▽スクリ~ム!」と似た役割を持っていると思う。アンニュイなサウンドと余白感もポイント。“映え”と“脱力”の間を行き来するトーンが独特で、他の楽曲にはないシュールさが生まれているからだ。可愛さの表現をバリエーション豊かにした1曲である。

 韓国のデイリーバイラルチャートでトップに躍り出るなど、国境を越えてバズを起こしているダンスボーカルグループ・M!LKの「イイじゃん」は、2月の先行配信リリースから約1か月でTikTokでの総再生数が5億回を突破し、音楽チャートTOP50で1位を獲得したバイラルヒット曲。この曲は、1曲として聴いたとき、王道のアイドルソングからサビでテックハウス調に180度変わることでの衝撃的な展開が話題になっていたが、TikTokで拡散されたのは、テックハウス調のサビ<あれ 今日ビジュイイじゃん 盛れててイイじゃん めちゃくちゃイイじゃん Ummm イイじゃん>のフレーズだ。ユーザーは、バイブスが良いメロディが流れる間、いいねポーズをした指で、顎のラインを左右交互になぞるようなジェスチャーを加える。<イイじゃん>と自己肯定感を高めるフレーズが連続し、まさしくイヤーワーム。4通りの<イイじゃん>がバラエティ豊かな映えを演出し、ユーザーの可愛いを演じたい欲を満たした。

 さらに、<あれ>という2文字がフックになっている部分もこの曲のバズには大きく寄与している。「愛▽スクリ~ム!」でいう“好奇心のループ”が<あれ>から始まり、その瞬間にシュールな表現が入ることで注目されやすくなるわけだ。数々の細かい箇所に、バズのギミックが仕掛けられており、どれにおいても解像度が高い。

 「ループ×可愛い×シュール」。この3つの要素が絶妙に絡み合ったとき、楽曲はバズを生む。TikTokというプラットフォームで実現したいユーザーの未来は果たして何なのか。そう考えたときに初めて新たなバズの方程式が生まれてくる。これまでのループや可愛さ、シュールさといった要素も、ユーザーの心理やTikTokというプラットフォームの成長とともに変化していくのは言うまでもない。

 とはいえ、ベースとして重要なのは、やはりサウンドや歌詞の面で、“余白”を残している楽曲であること。そこにユーザーの“遊び心”が入り込む余地が生まれ、UGC(ユーザー生成コンテンツ)が自然と広がっていく。“可愛い”に限って言えば、ただ可愛いだけではなく、自分自身の魅力を多面的に見せられるような構造を持つ楽曲こそが、今後のバイラルヒットの鍵を握ることになっていくと予想する。もちろん、これから生まれる新たなバズ曲が、また別の方程式を打ち立ててくれることを期待しながら。

Text by 小町碧音

※「愛▽スクリ~ム!」の「▽」の正式表記はハートマーク


音楽ニュースMUSIC NEWS

BMSGトレーニーのRUI/TAIKI/KANON、沖縄で撮影した「GOTH」MV公開

J-POP2025年4月18日

 BMSGに所属するトレーニーのRUI、TAIKI、KANONによる新曲「GOTH」が配信リリースとなり、ミュージックビデオが公開された。  新曲「GOTH」は、2025年4月18日より配信開始となったFODオリジナルドラマ『ゲート・オン・ … 続きを読む

“King Gnuを一新するつもりで挑んだ”新曲「TWILIGHT!!!」MV公開

J-POP2025年4月18日

 King Gnuが、新曲「TWILIGHT!!!」を配信リリースし、ミュージックビデオを公開した。  新曲「TWILIGHT!!!」は、2025年4月18日に公開となった劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』の主 … 続きを読む

TOMORROW X TOGETHER、ツアーより「Rise」初披露のライブ映像を公開

J-POP2025年4月18日

 TOMORROW X TOGETHERが、新曲「Rise」のライブ映像を公開した。  新曲「Rise」は、テレ東系列で放送中のTVアニメ『BEYBLADE X』のオープニングテーマ。SPYAIRのメンバーであるUZ(g, programm … 続きを読む

宇多田ヒカル、新曲「Mine or Yours」配信リリース

J-POP2025年4月18日

 宇多田ヒカルが、2025年5月2日に新曲「Mine or Yours」を配信リリースする。  新曲「Mine or Yours」は、宇多田ヒカルが2年連続でアンバサダーを担当する『綾鷹』のCMソング。リリース発表と同時に、アーティスト写真 … 続きを読む

星野源、ニューアルバム『Gen』初回限定盤「Box Set “Poetry”」詳細を発表

J-POP2025年4月18日

 星野源が、2025年5月14日にリリースとなるニューアルバム『Gen』の初回限定盤「Box Set “Poetry”」の詳細を発表した。  初回限定盤は「Box Set “Poetry”」「Box Set “Visual”」の2種類があり … 続きを読む

Willfriends

page top