<ライブレポート>キタニタツヤ “今”の彼だから見せられる底知れぬ表現欲、音楽への想い――初のアリーナツアー【ANGEL WHISPERING】

2025年4月4日 / 19:00

 2025年3月に東阪3公演開催された、キタニタツヤによる初のアリーナツアー【ANGEL WHISPERING】。彼が音楽に対して常に純粋な希望を見出していること、10年以上のキャリアを重ねてもなお音楽や表現への興味が湧き上がり続けていることを痛感する、非常に実験的であり本質的なライブだった。本稿では、3月15日および16日に東京・有明アリーナにて開催された東京公演2DAYSをもとにレポートする。

 開演時刻が近づくにつれてBGMはフェードアウトし、ステージの明かりがぼんやりと灯り出す。やおらストリングスが作る浮遊感のある音と、電話の着信音、子どもたちが遠くで球技をする音、パソコンのキーボードを叩く音、チャイムの音などの生活音が混ざり合うと、客席もおのずと音に意識を集中させ【ANGEL WHISPERING】の世界へと身を投じた。

 音が途切れると暗転し、会場一帯を赤いレーザーが包み込む。オープニングSEを観客がクラップで歓迎すると、ステージにスタンバイしていたバックバンドが音を重ね、それに誘われるように、センターステージにはギターを肩に掛けたキタニが現れた。1曲目は「青のすみか」。2024年5月に開催された日本武道館公演の本編ラスト曲で今ツアーの幕を開けること、“青”がシンボルカラーの同曲の照明がラストサビを迎えるまでほぼ赤一色であることからも、このツアーがギミックの効いた内容であることを予感させた。そこから間髪入れずにドラムでつないで、導入を挟み「ずうっといっしょ!」へ。アリーナを取り囲むLEDモニターがステージ背面に広がるモニターと連動し、憂い、爽やかさ、しなやかさを乱反射させる楽曲を小気味よく彩った。

 ギターを降ろしたキタニは「Rapport」「永遠」と歌に神経を集中させて楽曲世界の奥深くへと観客を連れ込む。心臓を経由して彼の血液が自分に流れ込むような、あるいはキタニタツヤの成分に全身が蝕まれるような感覚に襲われたかと思いきや、バックダンサーが登場して「花の香」に入るや否や、甘やかな空間が広がった。曲中からキタニもダンスに参加し、「冷たい渦」では1曲を通してフォーメーションダンスを見せ、楽曲の世界を鮮やかかつ明瞭に色づけた。

 「聖者の行進」でダークかつ力強いサウンドを掌握するような深い歌を響かせたあと、キタニはMCで自分の活動スタンスに言及。バンド、VOCALOIDクリエイター、商業音楽作家、ソロアーティストとどの活動も愉しんできたこと、実行したい表現はまだまだたくさんあることを明かした彼は「今の自分にしか許されないこと、過去の自分では実現できなかったであろう選択肢を優先的に取るようにしている」「それを続けてきた結果が今のキタニタツヤであり、今日のライブであると思っている」と続ける。そして「今はたくさんの人が力を貸してくれるので、こういう状況でなければできないことをやってみたい」「(このツアーは)そういう思いで皆さんを愉しませたい」と胸を張った。

 彼が言う「過去の自分では実現できなかったであろう選択肢」、その代表例が冒頭で見せたダンスパフォーマンスだろう。2024年、中島健人とのユニットGEMNにてキタニはダンスに挑戦し、今ツアー初日にはシークレットゲストとして登場した中島と、GEMNの楽曲「ファタール」をパフォーマンスした。ふたりがライブの場で同曲を披露するのは【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024】、今年1月に有明アリーナで開催された中島のワンマンライブに続き3度目となる。10代からダンス×ボーカルという表現を妥協することなく追求してきた中島の姿勢が、様々な表現手法で音楽を発信してきたキタニを新たな冒険へと突き動かしたことは想像に難くない。必死に中島に食らいついていたキタニが、今ツアーでは既発曲にダンスを取り入れ、さらには中島の横で弾けんばかりの笑顔でダンスに興じていたのは、日々の鍛錬と新しい表現方法を取得したという純粋な喜びがあってこそだ。

 ストリングス隊が加わり「ちはる」「プラネテス」と歌詞に綴られた思いを観客に届けるように歌い上げると、「私が明日死ぬなら」ではアリーナエリアを囲むように光の柱が立ちのぼり、センターステージで真摯に熱い歌声を轟かせる彼の言葉たちをより際立たせる。最後に観客が小指を高く掲げ、キタニもその動作で返して歌詞のとおり“約束”を交わすシーンも、前半パートの結びに相応しい美しい光景だった。

 すると折り返し地点、初日にGEMNがパフォーマンスをしたセクションで、シークレットゲストとしてなとりが登場した。両者ギター&ボーカルスタイルで、昨秋リリースされたコラボ曲「いらないもの」を披露。これまでもキタニは様々なアーティストとコラボレーションをしているが、なとりはキタニのライブ配信でのトーク内容をきっかけに音楽活動を開始した、いわば“キタニチルドレン”とも言える人物だ。なとりは憧れの存在と初めてステージで肩を並べるも、臆することなく観客にクラップを促したり「歌え有明!」と煽ったりなど衝動的な姿勢を見せ、対するキタニもクールながらに地に足のついた歌声を響かせて、一歩も譲ることはない。ふたりのユニゾンが剣を交えるような白熱した高揚感を生み出せるのも、キャリアを越えたリスペクトがあるからこそだろう。なとりは「キタニタツヤ、愛してるぜ!」と叫びその場を後にし、客席も大きな歓声で彼の背中を見送った。

 インタールードを経てライブは後半パートへ。「素敵なしゅうまつを!」「Moonthief」と陰の要素をアッパーに昇華した楽曲をたたみ掛けると、ベースを抱えてアグレッシブなソロパフォーマンスを披露してから「芥の部屋は錆色に沈む」へとなだれ込み、会場のボルテージはさらに高まる。「デマゴーグ」では願いを込めるように歌い、観客もその思いにシンガロングと柔らかなワイパーで応えた。

 するとキタニは、物心ついたころから音楽を聴くことが好きだった旨を語り、なかでも“言葉”が自分の人生にとって重要だったこと、負の感情を弱音として吐き出す代わりに、歌を口ずさんだり歌詞や詩をそらんじていたと明かす。「自分の口の中からあふれ出るものを、そういったもので上書きすることで心の安寧を得てきたんです」「音楽は直接何かをしてくれるわけではないけれど、ちょっとだけ追い風になってくれて、現実が変わったように思わせてくれる。そんな他人行儀な距離感が天使っぽくて、音楽のそういうところが好ましいと思っている」とツアータイトルに込めた思いを言葉にした。そして「現在の自分にとって大切な2曲を歌う」と告げ歌唱した「ユーモア」と「ウィスパー」は、彼自身が彼の書いた言葉一つひとつを今この瞬間に湧き上がる熱量と真心で上書きするように生々しく、胸の奥まで染み込んできた。後者のラストサビでは、歌詞が綴られた紙吹雪が舞い上がる。〈天使たちがくれたやさしい思い込みの歌を/空からばら撒こう、街じゅうに積もるほど〉を実現させる演出は、楽曲に込めた想いを純度高く映し出した。

 「クラブ・アンリアリティ」をダンス&ボーカルスタイルで届けると、「トリガーハッピー」では、重低音の効いたたくましい音を自分の一部にするように豪快に歌い上げた。キタニから生まれる闇や陰の感情を纏った音楽は、おしなべて光を放っている。傷だらけになりながらも、闇に飲み込まれるどころかそれを味方につけてしまう不屈の精神はダークヒーロー的で非常に痛快だ。そこからなだれ込んだラストの「次回予告」で、観客の反応に触発されるように花道を走り抜ける様子も、観客の声に包まれる光景も非常に輝かしかった。

 曲の終盤にステージ背面のモニターにエンドロールが流れ、メインステージに戻ったキタニはすべての気力と体力を出し切ったのか、ふらつきながらそのままステージを後にした。2024年に活動10周年という節目を迎え、コラボレーションにより様々な新しい刺激を得て、自分の生み出してきた楽曲を愛で続けてきたキタニタツヤだからこそ体現できた、さらなる挑戦と知的好奇心に満ちたアリーナツアー。彼の音楽家としての、表現者としての可能性をさらに拡張した、とても勇敢なステージだった。

Text by 沖さやこ
Photo by 安藤 未優、後藤壮太郎

◎公演情報
【Arena Tour 2025 ANGEL WHISPERING】
2025年3月15日(土)、16日(日) 東京・有明アリーナ


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