<ライブレポート>野田洋次郎が見せた“音楽”と“人間”に対する強い好奇心と愛情【Yojiro Noda welcomes you to WONDER BOY’S AKUMU CLUB】

2024年10月8日 / 19:00

 9月27日、RADWIMPSの野田洋次郎がソロ名義としては初めてのライブ【Yojiro Noda welcomes you to WONDER BOY’S AKUMU CLUB】を東京ガーデンシアターで開催した。このライブはアルバム『WONDER BOY’S AKUMU CLUB』のリリースを記念したもので、ゲストアクトとしてkZm、Awich、iriが出演するという、実に素敵な一夜となった。

 ゲストの3組と野田にはすでに関係値があり、kZmはソロアルバムにも収録されている「EVERGREEN」に参加しているし、AwichとiriもRADWIMPSが2021年にリリースしたアルバム『FOREVER DAZE』に収録の「SHIWAKUCHA」と「Tokyo」でそれぞれコラボレーションをしている。アルバムのリリースは2日前、つまりこの日集まったオーディエンスはアルバムの全貌がわかる前にチケットを購入した野田のコアファンなわけで、近年の野田がヒップホップに傾倒していることももちろん認識しているだろう。なので、そこまで温度差を気にしていたわけではないものの、とはいえバンドシーンで長くやってきたRADWIMPSの野田およびそのファンと、ゲストアクトがどのように邂逅するのかは気になるポイントだったわけだが……最初に登場したkZmの一曲目「Aquarius Heaven」からフロアは手拍子に包まれ、想像以上の盛り上がりを見せた。

 「Aquarius Heaven」を終えると、「たぶんほとんどはじめましての人だと思うんですけど、YENTOWNのkZmっていうラッパーです」と自己紹介。もともとヒップホップしか聴いてなかったけど、中学でRADWIMPSと出会い、そこからずっとRADWIMPSのファンであること、そして、あるときに野田と出会い、今ではいい先輩であり友人であることを語り、「今日初めて洋ちゃんが一人で舞台に立つみたいなんで、応援しにきました」と話すと、フロアからは大きな歓声が起こる。こうした丁寧なMCはこの一夜を特別なものにしようという野田へのリスペクトの表れだと言っていいだろう。その後もイントロから歓声が上がった「DOSHABURI」をはじめ終始盛り上がり続け、「次の曲は自分でもめっちゃ気に入ってる曲なんで、聴いてもらえたらと思います」と言って披露されたラストの「叫悲」まで、堂々たるステージを届けてくれた。

 続いて登場したAwichも一曲目の「Remember(Solo ver.)」からフロアは一斉にジャンプをして大盛り上がり。Netflix『極悪女王』のテーマ曲としても話題の「Are you serious?」を終えると、こちらも「はじめましての人も多いと思います」と丁寧に挨拶。kZmと同じYENTOWNの出身であること、kZmを通じて野田と出会い、一緒に曲を作ったこと、2021年のRADWIMPSのアリーナツアーは自ら参加を志願して全国を周り、その経験が2022年の日本武道館でのライブに向けて心の準備になったことを話して、「私たちを引っ張ってくれる彼(野田)の器の広さ、本当に感謝しています」とメッセージを伝えた。Awichはすでにラップシーンを飛び出して、様々な舞台で活躍しているわけで、RADWIMPSに同名曲があることに触れて披露された「かくれんぼ」から、ラストの「LONGINESS REMIX(Soo ver.)」まで、貫禄十分のパフォーマンスだった。

 3組目のiriは大バコ仕様の4つ打ちナンバー「friends」から始まって、同じくダンサブルな「Corner」、フロアが一斉にハンズアップをしたラストの「Wonderland」まで3曲のみの披露だったが、そのスモーキーな歌声ともはや余裕すら感じさせるパフォーマンスでオーディエンスを魅了。「洋次郎さんのアルバムすごくかっこよくて、DJのTAARくんとやばいねって話をしてました。かっこよすぎて、ライブがとても楽しみなんですけど、そんな素敵なタイミングでこうやって歌わせていただいて本当にありがとうございます」という言葉には、やはり野田へのリスペクトが感じられた。

 現在の日本のラップシーンはすでに新たなユースカルチャーとして広く浸透していて、AwichにしろkZmにしろその代表格なわけで、「バンドシーンがどうこう、ラップシーンがどうこう」とわざわざ書くのは気がひける部分もある。ただアンダーグラウンドはともかくとして、オーバーグラウンドにおけるバンドシーンとラップシーンの邂逅というのは、実際のところそこまで進んでいないというのも正直な印象で、全国のオーバーグラウンドなロックフェスにストリート出身のラップアクトがどこまで出ているかといえば、その数は決して多くない。そう考えると、野田洋次郎主催のライブでゲストの3組が違和感なく盛り上がったことは、かなり希少だったと言ってもいいかもしれない。そして、それは野田がそのキャリアにおいて早くからラップシーンにアプローチをしてきたからこそ実現したもので、この日野田のステージでバックDJを務めたWATTERは、2016年に野田がillion名義の「Hilight」でコラボしている5lackの周辺人物。2018年の「TIE TONGUE(feat. MIYACHI & タブゾンビ)」や、昨年の「大団円(feat. ZORN)」も含め、野田の音楽と人間に対する強い好奇心と愛情が、この貴重な一夜の重要な背景になっていたと言える。

 さあ、いよいよこの日の主役である野田洋次郎が登場。ソロ名義では初ライブということもあって、当日までバンドセットなのかDJセットなのかもわからなかったわけだが、前述の通りこの日はWATTERを従えてのDJセットであり、その時点でかなり新鮮だ。開場時からステージ中央には紗幕に囲まれたスペースがあり、一曲目の「SHEETA」はその中からスタート。さらにはその紗幕の内外でダンサーチームが演劇的な踊りを繰り広げ、神秘的な雰囲気を作り上げていった。なお、このダンサーたちはRADWIMPSが2022年に発表した「人間ごっこ」のミュージック・ビデオにも出演している振付師のSeishiroのチームとのことで、Awichやiriと同様にこの数年で野田が関係を築いてきたクリエイターたちがこの夜を支えていたことがわかる。

 ビンテージソウルな雰囲気が心地いい「PIPE DREAM」のラストで紗幕から出て、ピアノの弾き語りで曲を締めくくると、まず「最高なゲストアーティスト3組に、kZm、Awich、iriに大きな拍手をお願いします」と呼びかけて、「生まれたてほやほやのこのアルバムを一緒に味わい尽くそうって会にしたいんだけどどうかね?」という言葉に大きな歓声が上がる。5つ打ちのダンスビートによる「PAIN KILLER」はkZmとの親和性を感じさせ、「PEACE YES」ではラッパーたちに負けじと巧みなフロウを披露。<ないもの追いかけて終わる人生なんかでいいんですか?>のパートでは後方のスクリーンに「いいんですか?」が収録されている『RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~』のジャケットが一瞬映されたのもユニークで、こういうサンプリング的な手法もいわばヒップホップ的だ。ゴスペルコーラスとブレイクビーツを組み合わせた「HOLY DAY HOLY」で祝祭感のあるムードを作り出したかと思えば、アトランタのラッパーであるJ.I.Dとコラボした「KATATOKI」はピアノで物悲しい空気を作り、曲調の広さも特筆すべきものがある。

 「昔は野田洋次郎っていう名前でライブをやるんだったら、弾き語りとかバンドセットとかオーケストラとか、全然違うことをやるんだろうなと思ってたけど、今回こういうビートメインの曲になって、不安ばっかりだったけど、アルバムをみんなが聴いてくれて、自分の大好きなミュージシャンにサポートしてもらって、本当に今嬉しくてヤバい。来てくれてありがとうございます」と感謝を伝えると、「kZmが来てるってことは、これやんなきゃ始まんない」という言葉とともにkZmが再び登場して、届けられたのはもちろんコラボ曲の「EVERGREEN」のリミックスバージョン。2人の息の合ったパフォーマンスに、アンセミックな曲調も手伝って、この日一と言ってもいい盛り上がりを見せる。トラップ以降のビートでラップを聴かせる「STRESS ME」に続いては、現在の野田のリアルな心情が生々しく伝わる「BITTER BLUES」をソファに腰をかけて披露。さらには再びダンサーチームが登場した「WALTZ OF KARMA」から、内省的な「HAZY SIGH」を続け、ソロ作だからこその私小説的なムードもライブでしっかりと再現されていた。

 ライブ後半ではこの日のオープニングDJであり、数年前から野田にDMでビートを送り続け、ソロアルバムを作る動機をくれたというポルトガル出身のプロデューサー/ビートメーカーであるHOLLYに感謝を伝え、「音楽の旅をこれからも続けられる気が、今日この場に立ってしました。ありがとう、あなたのおかげです」とオーディエンスに伝えると、「HYPER TOY」のイントロとともにステージが宙へと浮上。アルバムの中で最もエレキギターが鳴らされ、文字通りハイパーポップ的な高揚感を感じさせるトラックに乗って、<俺らランナーズハイなワンダーボーイ>と歌う野田は、やはり永遠のワンダーボーイだ。「小っ恥ずかしいけど、最後にこの曲歌っていいですか?」と言って届けられたのは、アルバムでもラストを飾る「LAST LOVE LETTER」。<いつか逢えるなら 今じゃだめ? もう待っていられそうにないんだ>と愛を伝えて、ソロ名義での初ライブが締め括られた。

 興奮したオーディエンスはもちろんアンコールを求めるが、すでにアルバムに収録されている13曲は全て披露されていて、事前に関係者に配られているセットリストにもアンコールの記載はなし。しかし、少しの時間を経て、野田はステージに現れた。そして、ピアノの前に座ると、この日かつて楽曲提供をしたさユりの逝去が伝えられたことに触れ、その提供曲である「フラレガイガール」を途中涙で詰まりながらも歌い切る。「さユり、ありがとう」の一言を残すと、場内は心からの拍手に包まれた。

Text by 金子厚武
Photo by Takeshi Yao

◎公演情報
【Yojiro Noda welcomes you to WONDER BOY’S AKUMU CLUB】
2024年9月27日(金)
東京・東京ガーデンシアター


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