<インタビュー>宮野真守が語る、初のオーケストラコンサート「自分にとってかけがえのないこと」

2024年9月13日 / 21:00

 宮野真守初のオーケストラコンサート【billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024~AUTHENTICA~】が、6月8日の東京ガーデンシアターを皮切りに15、16日京都コンサートホールまで3公演行われた。ファンに新たな感動を届け、宮野の15年のキャリアの中でもエポックメイキングなコンサートになった。“AUTHENTICA”=本物の時間について改めてじっくりと振り返ってもらった。

——【~AUTHENTICA~】からしばらく時間が経ちました。宮野さんにとって改めてどんなコンサートになりましたか?

宮野:15周年というタイミングで、チームとしても何かチャレンジしようということを何年か前から話をしていました。キャリアとしても熟した頃にフルオーケストラコンサートという今までやったことがない、大きなチャレンジができたということは、アーティストとしてステップアップにつながったのではと思っています。

——東京と京都で全3公演行いました。

宮野:初めての経験なので東京公演はとにかく必死でした。自分の中の経験値に照準を合わせていく感覚というか、その作業に神経を注いだなという感覚でした。もちろん素晴らしいコンサートになったという実感はありますが、京都では照準が合ってきたものをさらに自分なりにどう広げていくかという感じでした。新たなチャレンジではありましたが、3公演やらせていただいたことで、ちゃんと段階を踏めたという気持ちが強いです。

——SNS上でコンサートを観た方の「感動しました」「再演希望」という声が飛び交っていました。

宮野:コンサートの雰囲気や音楽の実際の質感が、今までの僕のライブとは全く違う感じだったので驚いた部分もあります。僕自身も15年間アーティスト活動をしてきた中で、初めてお会いする方ばかりでのコンサートを構築していく作業はすごく新鮮でした。

——それは刺激的でしたね。

宮野:初めてお会いするマエストロの中田延亮さん、オーケストラの方々はもちろん、サウンドプロデューサーとして入っていただいたJin Nakamuraさんは僕のアーティスト活動のなかで初期からクリエイターとしては携わっていただいていますが、コンサートに携わっていただくのは初めてで、初めて尽くしの座組ということで僕自身すごくドキドキしました。ファンのみなさんやビルボードさん、コンサート制作のスタッフさんから「すごくよかったよ」という評価をいただけて、それが僕の中で一番の収穫だったし、15年やってきたからこそ戦えたことでもあると思ったので、少し自信になりました。そういう意味でも大きな経験になりました。

——宮野さんのブログでも「普段は自分に厳しいけど、今回は少し褒めてあげたい」と書いていました。

宮野:そうなんです、長年一緒にやっているチームではない“場所”で作ったものを、評価していただけたことで、それは声優やミュージカルを始め、これまでやってきたことがきちんと経験値として蓄積できていたことが大きかったと思えたので、少しは自分を褒めてあげてもいいかなって。

——オーケストラアレンジが施された曲を聴いた時はどう感じましたか? ガラッと表情が変わって戸惑ったりしませんでしたか?

宮野:結果的には戸惑いましたが、最初にアレンジをいただいて聴いた時は、すごく感動して、オーケストラで表現するとこうなるんだという世界観が広がって、すごくわくわくしました。一度だけホールでオーケストラと練習ができる日があって、その時実際に生の音を聴くと、もう生きもののようで、そこで戸惑いました。マエストロのタクト次第でテンポ感が変わって、実際の音とイヤモニから聴こえてくる音が、どういうバランスで自分の体に入ってくるのかが想像できなかったんです。想像できないから最初戸惑ったのですが、難しいと思ったからこそ自分の経験値にしたいという前向きな気持ちと、短いリハーサル時間の中で自分が何を大事にしていけばいいか集中力が求められましたが、それはキャリアの中で積まれていたんだなという感覚がありました。

——マエストロと50人を超えるオーケストラと息を合わせる初めての体験、いかがでしたか?

宮野:オーケストラコンサートと銘打った時に、バラード中心の方向ではなく、やっぱりその中でゲームチェンジャーのような存在になる曲を入れていこうと、Jin Nakamuraさんと意見が一致しました。なので今回敢えてダンス曲やロック曲もオーケストラアレンジしていただきました。オケの皆さんも難しかったと思うし、同時に僕も難しかったです。でもそれが中田さんの指揮でギュッとまとまる感覚はすごく面白かったですね。オケの皆さんも本番のやってやろう感というか、その熱量、本番でのテンションは歌い手だけではないということに感動しました。お互いのパッションの重なり合いみたいな感覚は、すごく気持ちよかったです。

——東京公演を観させていただきましたが、開演前には客席からも緊張感が伝わってきました。

宮野:それはよかったです(笑)。玉置浩二さんのbillboard classicsコンサートを東京芸術劇場に観に行かせていただいた時に、わくわくして行って席に座った瞬間、すごく緊張したんです。それで最初にステージに登場するのは玉置さんではなく、正装したオケの方々が静かに入ってきて、続いてマエストロが入ってきて、まずクラシック曲を演奏して……もうすごい緊張感があって、それが素敵だったんです。僕はちょっと意地悪なところがあるので(笑)、あの緊張感をファンのみなさんにも味わってほしい、普段のコンサートとは違うあの空気はなかなか味わえないので楽しんでほしいと思いました。

——あえてあの空気感を作ったところもあるんですね。しかも1部はMCなしで緊張感が続いていました。

宮野:【~AUTHENTICA~】というタイトルで、自分の歌でどれだけ届けられるか、感動してもらえるか、それこそがアーティストの神髄じゃないですか。そこにチャレンジするという意味もタイトルに込めました。2部制なので、1部では歌のみ、2部ではお客さんとコミュニケーションを取り、ちょっと砕けた部分がある構成がいいのでは、という話になりました。だから後半はそういう選曲になりました。

——1部と2部のメリハリ、コントラストに引きつけられた人が多いと思います。

宮野:よかったです。もし僕だけで考えていたら、ずっとストイックに歌うことにチャレンジしていたかもしれません。でもJin Nakamuraさんが入ってくれたことで、お客さんの目線も非常に大切にしてくださって、さらに東京公演でのお客さんの反応を見て、京都ではもう少しお客さん、オケの方達ともコミュニケーションを取って、空気を変えてみるのもいいかもしれないとか、客観的に見てアドバイスしてくださったので、結果的に温かいコンサートになったと思います。

——50人の音を背負い、幕が開いた瞬間はどんな思いでしたか?

宮野:序盤はバラードが多かったので、音に包まれた時に泣きたいわけではないのにその音が琴線に触れる感じがあって、こんな感覚は初めてでした。感情とは関係なく、音に揺さぶられて嬉し泣きしそうになったあの感覚は忘れられません。

——客席も涙を流しながら聴いている人が多かったです。

宮野:最初のオケだけの演奏で披露した「Overture」に「Beautiful Life」という曲を合わせていたことが大きいと思います。この曲は東日本大震災の後に作った、僕にとって特別な意味を持つ楽曲なんです。ファンの方はステージにはオーケストラのみなさんしかいないし、特に説明もなく「Overture」が始まって、何が起こるんだろうって思いながら聴いていると、あの曲だって気づいて、その瞬間にどんどん音に包まれていって、冒頭から空気感が作られていたと思います。

——これまで歌ってきた曲達がオーケストラアレンジになって、特に表情が変わったと感じた曲はどの曲でしたか?

宮野:表情としては全部変わっていましたが、あえてゲームチェンジャー的存在になってほしいと選んだ「Identity」や「The Birth」は、ガラッと変わっていて狙い通りでした。

——「Identity」はダンストラックと古典的な“和”の世界観が融合した曲ですが、ガラッと“洋”に変わっていました。

宮野:そうなんです。この曲は日本の良さとダンスミュージックのミクスチャーをどうやって表現していくかを考え、そこに過去から続いた先の未来をメッセージとして込めています。今回オーケストラだけで表現する時に、僕とJin Nakamuraさんが目指したミクスチャーのその先に達したという感じがしました。

——「The Birth」も“ロックオーケストラ”的な構成になっていて、こちらのアレンジも驚きました。速い曲をオーケストラで演奏すると迫力と熱が伝わってきます。

宮野:かっこよかったですよね。あのテンポ感のデジタルロック調の曲をオーケストラで表現するのは大変だと思いましたが、オケの皆さんが頑張ってくれました。むちゃくちゃ速いフレーズをトロンボーンで吹いてくださって、本当に感動しました。

——東京と京都、違うオーケストラとのセッションでした。

宮野:演奏する人も会場も違うので当然ですが、聴こえる音、響きが違いました。ミュージカルをやっている時、マエストロとオケが変わって音やテンポもガラッと変わってしまう経験をしていたので、全然大丈夫かなと思っていたのですが、やっぱりフルオーケストラで自分の楽曲をやるのは全然違う感覚でした。京都は2日間あったので、オケの皆さんともコミュニケーションをより取ることができ、それが演奏にもいい影響があったのではと感じています。

——「トロイメライ」のようにピアノだけで始まって、どんどん音が重なってダイナミックになっていくのもオーケストラコンサートの醍醐味ですね。

宮野:そう思います。僕のコンサートでもアコースティックコーナーがあって、アコースティックのミニマムな感じも気持ちいいけど、オーケストラでミニマムな感じから音が重なって壮大になっていくあの感覚は、新鮮で面白かったです。

——コンサート中に宮野さんが時々胸に手を当てたり、歌い終わった後小さなガッツポーズを見せたり、ささやかな感情表現が印象的でした。

宮野:今までのライブでは“見せる”ことをすごく大切にしてきて、でも今回は“見せない”で聴いてもらうことを目的としていたので、その難しさがありました。その中で歌に集中するために思わず出たのだと思います。

——ほぼ動かずまっすぐ正面を見据えて、歌を客席に届けるという宮野さんにとっては初めてのスタイルで、戸惑いはありましたか?

宮野:そうですね、恐怖ではないのですが、そういうスタイルでやったことがないので戸惑いはありました。でも実はずっと目指してきたことでもありました。ライブを始めた時から、自分はシンガーソングライターではないので、いかにパフォーマンスで見せるかにこだわってやってきました。でも一方で歌だけで本当に感動させられるようなアーティストになれたらいいなという思いは、デビュー当時からずっとありましたね。

——なるほど。

宮野:それが15周年で願いが叶ったというか、目標に届いた感じがあって、それも嬉しかったです。

——このコンサートでタイトルにもなっている新曲「AUTHENTICA」を初披露しました。

宮野:このコンサートのために作った楽曲ですが、できたばかりでレコーディングもしていなければまだ歌いこなしてもいない状況で、Jin Nakamuraさんと一緒にスタジオに入って練習をしました。最初に歌った時、壮大な世界観の楽曲なので気持ちよく歌えるかと思いきや、ものすごくエネルギーが必要な曲で、最初はうまく歌えませんでした。Jin Nakamuraさんにも「難しい曲ですね」って言ったら「乗り越えられるハードルしか与えていないよ」と言ってくださって。

——MCでは「今思っていることを歌詞にしました」とおっしゃっていました。宮野さんがJin Nakamuraさんからもらった「宮野さんの人に寄り添う態度が素晴らしい」という言葉を紹介していましたが、この曲にはまさに宮野さんの人間性が出ていると感じました。

宮野:自分が今何を歌うべきか、今の経験則で歌えることってなんだろうって考えました。その時Jin Nakamuraさんからあの言葉をいただいて、Jin Nakamuraさんが「聴き手に寄り添ってあげられる、共感性があってそっと背中を押してあげられるような曲がいいなと思って」とデモをいただきました。こうしなければいけないとか、こうすべきという説教のような歌ではなく、自分も一緒だから大丈夫だよってことを伝えたくて歌詞を書きました。

——2部では誕生日ケーキが衣装についてしまうという、笑神様が降りてくるシーンもありました。

宮野:降りてきちゃいましたね(笑)。本当は全然笑えなかったですけどね、高いスーツだったので(笑)。内心はすごく焦りました。

——慌ててステージ袖に戻って、スタイリストさんとのやり取りもマイクを通して客席に漏れ聞こえしてきて、いつもの“マモライ”になった感じがしました。歌を真摯に伝える姿と笑わせて楽しませる姿、これぞエンターテイナーだと思いました。

宮野:いつもの感じがありましたよね(笑)。いつもただでは転ばないと思っているので(笑)、全部をネタにしてやる感はあって。人が笑っている時って嬉しいし、僕も楽しいです。

——アーティストとして改めてどんな15年間でしたか?

宮野:自分がアーティストとしてまだ右も左もわからないところから今まで、本当に素晴らしい出会いの連続でした。恵まれています。作詞をやってみたり、歌う音楽ジャンルを増やしてきたり、音楽の知識をたくさん教えてもらったり、それによってボーカルの技術も向上してきた15年間だったなって思います。ちゃんと音楽に向き合った結果、素晴らしい人たちが周りにいてくれて、それがありがたいです。

——これからまだまだやりたいことがある?

宮野:やりたいこともそうですが、経験してないことがまだたくさんあるので、目標は尽きないという感覚はあります。

——このコンサートは再演希望という声が多いです。

宮野:やっぱりこのスタイルでコンサートができることは、自分にとってかけがえのないことだし、また絶対やりたいしチャレンジしたいと強く思いました。こういうコンサートができるアーティストという、自分のキャリアのひとつにしたいです。

Interview&Text : 田中久勝
Photo:山内洋枝・キセキミチコ

◎公演情報
【billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024~AUTHENTICA~】※終演
2024年6月8日(土) OPEN17:00/START18:00 東京・東京ガーデンシアター 
2024年6月15日(土) OPEN16:00/START17:00 京都・京都コンサートホール 大ホール 
2024年6月16日(日) OPEN15:00/START16:00 京都・京都コンサートホール 大ホール

<出演>
宮野真守

<指揮>
中田延亮

<管弦楽>
【東京】神奈川フィルハーモニー管弦楽団
【京都】日本センチュリー交響楽団

<編曲監修>
山下康介

<編曲>
山下康介、萩森英明、湖東ひとみ、海沼みきな、鈴木美羽、池田光穂

公演公式サイト
https://miyanomamoru.com/live/authentica/

◎映像情報
YouTube『宮野真守「アンコール」(billboard classics 宮野真守Premium Symphonic Concert 2024)』
https://youtu.be/oo2VygdOscc

◎番組情報
TBSチャンネル1『billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024~AUTHENTICA~』
再放送:2024年9月14日(土)12:00~
https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/o2871/


◎リリース情報
LIVE Blu-ray&DVD『billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024 ~AUTHENTICA~』
2025/2/19 RELEASE 予定
価格 : ¥7,700(税込)
初回製造分のみ:スペシャルBOX仕様
早期予約特典 : アクリルキーホルダー

<収録内容>
宮野真守にとって初のオーケストラコンサートとなった【billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024】から2024年6月8日(土)東京ガーデンシアター公演の全曲を収録
映像特典として、リハーサルや東京公演、京都公演を追いかけたメイキングも収録
※宮野真守 公式ファンクラブ会員ページ内「Web shop」限定商品となります
詳細はこちらから
https://www.laughandpeace.com/


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