<ライブレポート>Official髭男dism「生きててよかった!」1年5か月ぶりのワンマンライブで見せた圧巻のステージ

2024年7月26日 / 18:00

 Official髭男dismが7月23日、東京・Zepp Haneda(TOKYO)で【Official髭男dism one-man live 2024 -UNOFFICIAL-】を開催した。

 ニューアルバム『Rejoice』のリリース前日に行われたこの公演は、約1年5か月ぶりのワンマンライブ、そして、彼らにとって4年ぶりの“声出し解禁”のステージだった。代表曲やレア曲を網羅したセットリスト、さらに研ぎ澄まされたバンドサウンドとボーカル、そして、音楽を奏でる喜び、楽しさを全身で表すステージング。4人はこの日、ヒゲダンの完全復活をしっかりと証明してみせた。

 この日の東京の最高気温は約35度。夕方を過ぎてもとんでもない暑さが残るなか、Zepp Hanedaには貴重なチケットを手にした観客が――久しぶりのヒゲダンのライブへの期待に胸を高鳴らせ――集結していた。開演前、影アナが「Official髭男dismのライブは2022年2月以来、1年5か月ぶりの開催。長い間、ライブの開催を待ってくださり、Official髭男dism一同、心より感謝しております」と告げると、フロアからは大きな拍手。さらにBGMの「Welcome To The Black Parade」(マイ・ケミカル・ロマンス)に合わせて手拍子が起きる。そのまま照明が落ち、凄まじい歓声が巻き起こるなか、ついにライブがスタートした。

 暗がりのステージに藤原聡(Vo. / Pf.)、小笹大輔(Gt.)、楢﨑誠(Ba. / Sax.)、松浦匡希(Dr.)、サポートメンバー[宮田“レフティ”リョウ(Key. / Gt.)、善岡慧一(Key.)、ぬましょう(Per.)、湯本淳希(Tp.)、川島稔弘(Tb.)、アンディ・ウルフ(Sax.)、高瀨洸音(Tp.)]が登場。

 ピアノの前に立った藤原にスポットライトが当たり、〈隠し事だらけ 継ぎ接ぎだらけのHome, you know?〉〈仮初めまみれの日常だけど ここに僕が居て あなたが居る/この真実だけでもう 胃がもたれてゆく〉というラインを高らかに歌い上げる。松浦の声によるカウントから始まった1曲目は「ミックスナッツ」。ジャズとロックがぶつかり合うようなバンドサウンドとともにダイナミックな歌声が響き渡り、観客のテンションは一気にアップ。オチサビのパートで楢﨑が上手(かみて)に移動し、最前線の観客と握手するとその場にいる全員が笑顔に。メンバー自身もこのステージを心待ちにしていたことが伝わってきた。「みなさん、お久しぶりです。Official髭男dismです! 1年半ぶりのワンマンライブ、そして、4年ぶりの声出しライブ!」(藤原)という挨拶から始まったのは、「ノーダウト」(オリジナルver.)。〈Lie and lie lie and lie そして少しの愛で〉のパートでは大合唱が生まれ、藤原は思わず「やばい、ハンパない!」と叫ぶ。さらに鋭利なギターフレーズから「ホワイトノイズ」へ。直線的なビート、力強く、ダイナミックな旋律、絶望に立ち向かう決意を歌った歌詞が響き合い、大きな感動へと結びついた。エンディングにおける藤原のハイトーン・シャウトも最高だ。

 「ちょっとみんなの声が想像の5億倍を超えとる。ヤバ、マジで。ありがとうございます!」(藤原)から最初のMC。「9月からツアーを回るので、そこを復帰最初のライブにしようと思っていたんですけど、ちょっと待てんと。早くやらせてくれと、直前になって無茶を言いました。真っ白な顔でスタッフが動いてくれて、Zepp Hanedaでライブができることになりました」「喉のことでライブができない時期(※)が続きました。その前にはコロナで声出しのライブできなかったり。そんな時間を経て、今日は解禁ライブということになってますけど、この会場には僕たちが苦しいときに支えてくれた人たちがいっぱい集まってくれてます。カメラの向こうでも僕たちのことを見てくれてるんですが、みなさんのおかげでステージに戻ってくることができました」「緊張とかもあったんだけど、“俺たちの人生が帰ってきた!”という感じがした。君たちがここに連れてきてくれました、俺たちの生きがいを。本当にありがとうございます」(※藤原の喉の不調により、2023年3月からライブ活動を休止)

 9月からアルバム『Rejoice』を引っ提げたアリーナツアーを行うヒゲダン。この日のライブは「今日はしばらくできなさそうな曲をお届けしようと思っています」(藤原)ということで、ここからは藤原以外のメンバーが作詞・作曲を手がけた楽曲が続いた。

 まずは「Choral A」(作詞・作曲/楢﨑誠)。ゆったりとしたバンドグルーヴ、解放感に溢れたホーンセクションが広がり、オーディエンスが気持ちよさそうに身体を揺らし始める。エンディングでは楢﨑がサックスを吹き、切なさと前向きな気分が交じり合う楽曲の世界を彩った。きらびやかなギターのイントロ、しなやかな4つ打ちのビート、観客のハンドクラップから始まったのは「フィラメント」(作詞・作曲/松浦匡希、藤原聡)。抑制の効いたメロディ、光を掴もうとする姿を描いたリリックが一つになりポジティブなパワーが広がっていく。白いライトに照らされるなかで響き渡った「光を探せ 掴め」というフレーズも強く心に残った。

 藤原、小笹、楢﨑、松浦の4人だけで演奏された「日常」に続いたのは、「Rowan」(作詞・作曲/小笹大輔)。レイドバックしたビートを軸にしたR&Bテイストのサウンド、深いグルーヴを含んだボーカルからは、このバンドの幅広い音楽性がしっかりと伝わってきた。「珍しい曲といえば、この曲もやりたくて」(藤原)と紹介された「たかがアイラブユー」を演奏した後、藤原がバックステージへ。ジャジーにしてクラシカルなピアノから、バンドのインストが披露される。小笹が「Subtitle」のメロディを奏でると会場から大きな歓声と拍手が巻き起こった。

 藤原がステージに登場し、「FIRE GROUND」。ハードロックとファンクが融合したアッパーなサウンドが響き渡り、観客の高揚感をさらに引き上げる。間奏では藤原がド派手に装飾されたショルダーキーボードを演奏。藤原、小笹、サポートの宮田“レフティ”リョウが80’sロックを想起させるフレーズを弾き倒し、会場は熱狂の渦へ。エンターテインメント性に溢れた演出もまた、Official髭男dismのライブの魅力だ。

 イントロが始まった瞬間に“おお!”という歓声が起きたのは「Laughter」。ドラマティックなメロディラインとともに〈自分自身に勝利を告げるための歌〉というラインが広がっていく。オーディエンスの大合唱を含め、この日のライブでもっともエモーショナルな瞬間だったと思う。

 2度目のMCは楢﨑が司会進行を担当。「久しぶりのライブやし、声出しもしばらくやってなかったのもあって、どんな感じのライブになるんやろう? と思ってたんだけど、集まってくれたみなさんとか、画面の向こうの人たちがすごい力をくれて。こんなライブができてうれしいなと思ってます」(楢崎)、「オールスタンディングの光景を見るのも久しぶりじゃない? うれしいなあ」(松浦)、「配信のみんな、見てる? チケット取れなくて、トレードとか頑張ってくれる人もいたと思います。……みんなが拾ってない大事なところをピックアップするのが俺だから(笑)。俺の知ってるヒゲダンのお客さんよりパワーアップしていて。みんな待ってくれてたんだなって嬉しくなって」(小笹)と、それぞれこのライブに対する思いを言葉にした後、楢﨑の指揮によりコール&レスポンス。最後に「ESCAPACE」のメロディを合唱し、そのままディスコティックな「ESCAPADE」へと突入。ライブは後半のクライマックスへと向かう。

 「4年ぶりの声出しだからね。やっぱ俺達は、この曲を歌わなきゃダメだな! でっかい手拍子と歌、頼むよ!」(藤原)とコールされたのは、「Stand By You」。数えきれないほどヒゲダンのライブを盛り上げ、最高の時間を作ってきたこの曲に新たな命が吹き込まれ、この日だけの素晴らしい音楽空間が生み出される。とんでもない声量のシンガロングを浴びまくった藤原は「生きててよかった!」とシャウト。それはまさにバンドと観客が一つになった瞬間だった。

 さらに「I LOVE…」でライブの感動と高揚感をさらに増幅させた後、藤原はオーディエンスに対し、この日のライブを行った経緯について改めて話した。もともとは“公開リハーサルはどうですか?”という提案があったのだが、どうしてもライブがやりたくて、どうにか会場を押さえてもらったこと。公開リハーサル的なテンションを含め、ガチでやるぞということでタイトルを“UNOFFICIAL”にしたこと。お客さんのパワーアップぶりがすごくて驚いていること――。「武道館で声が出なくなっちゃって。ライブができなくなったときも、みんなすごくバンドのことを思ってくれてるのが伝わってきました。ステージに立てるかどうかもわからなくて、しんどい時期もありましたけど、待ってくれる君たちがいるなら、何が何でも治すぞという気持ちで、ここまでやってきました。その気持ちに応えてくれる仲間ができたし、俺たちはすごく強くなったと思います。今までよりいいライブができるとか、音楽的に高いクオリティができるというのはよくわからないんだけど、何があってもバンドの歩みを止めないということ。転んでも、強くなって起き上がれることを学びました。そうやっていけば“ミスってもいいんだ”とも思いました。もちろんベストを届けるんだけど、どうしても自分の身体、心が至らなかったときに、それを悔しさに変えて、もっと成長してやろう、もっといいライブをみんなに見てもらおう、そういう思いでやっていこうと。バンドをやっていくうえで、心の整理ができました」

 音楽、バンド、オーディエンスに対する強い思いを込めた言葉を届けた後は、「ラストソング」。〈まだ遊びたりないよ もっと歌いたいのにな〉というフレーズを手渡すように歌った藤原は「アンコールの前にもう1曲やります!」と叫び、観客は大歓声で応える。「すげえ歌ってもらうけど、大丈夫?」「明日アルバムが出ます! そのなかでもトップクラスの爆発力を持った曲をやろうと思います。俺がみんなに会えなくて、悔しい思いをしているときに作った曲です。映画のエンドロールにかかった曲ですけど、今日は君たちと僕らのオープニングテーマにしませんか?!」というMCから始まったのは、「SOULSOUP」(映画『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』主題歌)。パワフルな管楽器の響き、強烈なグルーヴを備えたバンドサウンドとともに、大サビではこの日いちばんデカいシンガロングが発生。今後のライブでもこの曲は、きわめて大きな役割を果たすことになりそうだ。

 “ヒゲダン”コールに導かれ、藤原、小笹、楢﨑、松浦とサポートメンバーが再びステージに登場。アンコール1曲目は疾走感に溢れたアッパーチューン「Anarchy」を放つ。さらにメンバー全員を紹介し、「ライブの喜びをみんなが再確認させてくれた気がします。“そこ、歌う?”と思うくらい、みんながめちゃくちゃ歌ってくれて、マジでうれしかったです」(藤原)という言葉も印象的だった。

 ラストは「TATTOO」。〈きっとありふれてないくらいが大切なんじゃない?〉というラインは、まさにバンドとオーディエンスの関係のよう。美しく、情熱的な一体感が会場全体を包み込み、ライブはエンディングを迎えた。

 最後の挨拶でも藤原は「生きててよかった!」と叫んだ。ライブを休止していた時期も新たな楽曲を発表し続け、より自由に自らの音楽を広げ続けてきたOfficial髭男dism。1年5か月は空白などではなく、リスナーとのつながりをさらに確かなものにする時間になっていたようだ。9月から全国5都市10公演のアリーナツアー【Official髭男dism Arena Tour 2024 – Rejoice -】がスタート。完璧にチューンアップされた状態で彼らは、Official髭男dismの“今”をダイレクトに見せてくれる――この日のライブを観た人は全員、そのことを確信したはず。日本の音楽シーンを代表するバンドの帰還を心から祝福したい。

Text by 森朋之
Photos by TAKAHIRO TAKINAMI

◎公演情報
【Official髭男dism one-man live 2024 -UNOFFICIAL-】
2024年7月23日(火)
東京・Zepp Haneda(TOKYO)

<セットリスト>
1. ミックスナッツ
2. ノーダウト(オリジナル)
3. ホワイトノイズ
4. Choral A
5. フィラメント
6. 日常
7. Rowan
8. たかがアイラブユー
9. FIRE GROUND
10. Laughter
11. ESCAPADE
12. Stand By You
13. I LOVE…
14. ラストソング
15. SOULSOUP
En1. Anarchy
En2. TATTOO


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