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FINLANDSによる下北沢BASEMENTBAR での2DAYSワンマンライブ【記録博】。2018年にスタートし、コロナ禍で2年連続の配信ライブでの開催を経て、今年が7回目となる。
会場へ入るとすぐにHIYOKO/VINN a.k.a. CHICK BOY(FRSKID、BABY FIRST)が手掛けたイベントのシンボル画が出迎え、会場内ではフォトグラファーのタカギタツヒトとendo rikaの2名が撮影したFINLANDSのライブ写真が展示・販売される。年に一度の恒例の催しも、その年その年で異なる歴史を積み重ねてきた。そんな環境下ゆえか、この日は塩入冬湖(Vo/Gt)の時間に対する価値観が垣間見られる瞬間が多々あった。歴史を背負い、ただ真っ直ぐに今その瞬間を見つめ続ける彼女の佇まいから目が離せなかった。
迎えた【記録博2024】最終日は、「カルト」で幕を開けた。サポートメンバーの澤井良太(Gt)、彩(Ba)、鈴木駿介(Dr)とともに鮮やかな音色を放つ塩入は、朗らかな表情を浮かべながら観客一人ひとりの顔を覗き込むように目を合わせて歌う。「ラヴソング」ではクラップを求め、「ガールフレンズ」では歌詞に感情をねじ込んでボーカルを響かせ、疾走感のある「ピース」では清涼感と鋭さで会場を巻き込むなど、その様子からも初日の充実と最終日への並々ならぬ意欲がうかがえた。
ひしめくフロアで観客が周りを慮りながら音楽を楽しむ様子を“モラルの権化”と称える塩入は「ここにいる人はFINLANDSのことが絶対に嫌いではない、ほぼ好きだと思う。それがすごくうれしい」と告げ、観客に「周りのみんなもFINLANDSが好きだと思うと、全員が仲間に見えてくるはずだから」と呼びかける。彼女の大切にしている人やものが一挙に集まった空間は、彼女を高揚させるには充分すぎるのだろう。話している最中も、瞳がらんらんと輝いていた。
甘くもビターな「UTOPIA」、歪んだギターのリフレインと低音のボーカルが緊迫感を生む「sunny by」を連続で演奏すると、塩入は「小さい頃から人の耳を触りながら寝るクセがある」と打ち明け、それにまつわる過去の交際相手とのエピソードを話す。そして「運命なんてものはないと思うけれど、“これは運命だ”と勘違いできるほど人を好きになることを運命と呼ぶのではないかと思う」と言い、内省的なミドルナンバー「good bye girl」を歌い出した。
ここでふと、塩入冬湖という人間にとっての“記録”の概念について考えた。彼女は未来の話をすることはほとんどないが、前述のように頻繁に過去の話題を口にする。だがその語り口には懐古の念が感じられず、今自分の目に入るものと真っ直ぐ向き合っているように見受けられる。となると彼女にとっての“過去”とは今の自分を作り上げている重要な要素であり、“記録”とは懸命に生きてきた証なのかもしれない。
その後も優しさと切なさが同居した「さみしいスター」や無垢さの中にある寂寥感が胸をくすぐる「ランドエンドビート」と、塩入の感じた心情を追体験するような感覚に陥る。彼女は音楽や言葉で自分の歩みや物事に対する思考を丁寧に明かし、観客はそれを自分の感情や記憶と結びつけたり、音にじっくりと浸るなどして思い思いに楽しんだ。ステージと客席の境界が、それぞれの尊厳を保つ様子はとても健全だ。
「ここからカロリーの高いゾーンに入る」と言い「ダーティ」「Silver」とアッパーな楽曲を畳みかけると「いいお知らせをします」と前置きをし、『新迷宮ep』のリリースとメジャーデビューを発表。フロアからは驚きと喜びの声が上がり、拍手に包まれた塩入は「こんなにおめでとうと言ってもらえるなんて思ってなかった」と晴れやかな表情で感謝の念をあらわにする。
そして「今日の帰り、下北沢駅までの道のりにサプライズを仕掛けてあるので上を見てみてください」とほのめかし、メジャーデビュー作となる『新迷宮ep』から「スーパーサイキック」と「新迷宮」を披露して会場の熱をさらに上げた。「悩まなくていいことで悩んだり自分の駄目な部分に苛まれることで、生きている、自分の頭で考えて選択できていると実感する」と語る彼女の、一本道で迷い続ける生き方と「ずっと迷っていたい」という意志がタイトルに掲げられた『新迷宮ep』。新たな節目を迎えるバンドの姿がコンパイルされた一作であることを物語る、フレッシュな演奏だった。
先のことは分からないし、過去に感じた気持ちはそのときならではのもので変わってしまうけれど、今まで自分を愛して守って生きてきたことだけを認めていれば何の問題もないと思っていると語る塩入は、「今も音楽を続けていることが誇らしいし、皆さんが【記録博】に来てくれることがうれしいしありがたい」と続ける。日々も心も変わりゆくものであると受け止めている彼女が、変わらずに音楽を続けること、FINLANDSの恒例行事を作ったことは、とても意味深い。変わらないものにも変化はあり、変化の中にも変わらないものはある。ミドルテンポの「SHUTTLE」と「ナイトハイ」のサウンドスケープは、そんな心の揺らぎを美しく照らしていた。
あらためて「自分の好きなものだけで彩る二日間はマジで最高だなと毎年思っています」と喜びと感謝を力強く表明すると、「Stranger」でグラデーションを作るように熱量を上げ、「クレア」ではさらに音像をソリッドにする。その後も「call end」「クレーター」とエネルギッシュに駆け抜け、華々しく【記録博2024】を締めくくった。初日と最終日それぞれで全19曲、セットリストの重複は『新迷宮ep』収録の新曲2曲のみ。FINLANDSが考える“二日間開催”の意味を噛み締める。
終演後、会場外の階段には二日間のセットリストとメジャーデビューを祝したポスターが掲げられ、BASEMENTBARと下北沢駅の間をつなぐ下北沢南口商店街には『新迷宮ep』と全国7箇所で開催されるワンマンツアー【100世紀TOUR】のプロモーション・フラッグが連なっていた。そのどれもが開演前には設置されていなかった。
ライブ開催中の2時間弱で、下北沢のメインストリートのフラッグがすべてFINLANDSに付け替えられるとはつゆも思わず、会場を出た観客たちは通行人に配慮しながら静かにスマートフォンを向ける。観客が塩入いわく“モラルの権化”ならば、家に帰るまでがライブであるという語り草を本当に実現させてしまうFINLANDSチームは美学の権化といったところか。毎年の恒例行事に新たな歴史が刻まれた。新しい門出を迎えたFINLANDSは、これまでの悲喜こもごもの人生を引き連れて、今目の前に広がる景色を豊かにしていくだろう。
Text:沖さやこ
Photo:タカギタツヒト / endo rika
◎公演情報
【記録博】
2023年3月11日(土)・12日(日)
東京・下北沢BASEMENTBAR
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