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吉川晃司が1stシングル「モニカ」をリリースしたのは1984年2月1日。今年はデビュー40周年のアニバーサリーイヤーだ。公式サイトを見に行ったところ、アニバーサリーの作品だとかイベントだとかは発表されていない様子なのだが、30周年も35周年も記念のライヴツアーは行なわれていたので、今回もおそらく何かあるのではと想像させる。発表を待ちたい。さて、今週はそんな吉川晃司作品をピックアップする。本文にも書いたが、吉川晃司の活動期間は大きく3つに分けられると思う。デビューから事務所を独立するまでの期間。布袋寅泰とのユニット、COMPLEX期。そして、再びのソロ期である。今回はCOMPLEX活動休止後、ソロ復帰第一弾となったアルバム『LUNATIC LION』を取り上げてみたい。それまで以上に彼の意気込みが感じられる作品である。
アルバムは 《俺はやるぜ ひとりでも》で始まる
《Let’s Go! 俺はやるぜ ひとりでも/止まっちゃいられない Oh Yeah/OK! 毎日が Document/吠え続けてやるさ》(M2「LUNATIC LUNACY」)。
この歌詞だけで『LUNATIC LION』は歴史に遺るロックアルバムと言っていいと思う。しかも、それだけで終わらないのが本作のさらに熱いところである。
《OK ばらしてやろうか こわしてやろうか/くだいてやろうか こわしてやろうか/くだいてやろうか ばらしてやろうか》(M2「LUNATIC LUNACY」)。
《誰のためにそこにいるのさ お前/むくわれない日々かみしめて/誰のために歌ってるのさ お前/届かないメッセージ 一人よがりで》《何のためにどうしてるかなんて/どうでもいいのさ 今が全て/ワイルドでゆこう》(M7「Weekend Shuffle」)。
《野生に目覚め/狂ったマーダレス/さえぎるもの全てを 殺して走る》《浮かれた時代は過ぎて/欠けてくマッドネス/もっと危ない予感 犯して走れ》(M9「Barbarian (LUNA MARIA)」)。
《俺は眠らないぜ》《Oh! もっと 引き寄せてくれ/Oh! もっと 感じさせてくれ》《焼けつく太陽じゃ/素直になりすぎて/Dr.ジキルも ハイドになれない 夜明けはいらない》(M11「Virgin Moon〜月光浴」)。
M2のサビやM9辺りは筆者が深読みして熱くなっていることは承知だが、本作の制作背景に思いを馳せると、思わず深読みしてしまうこともご理解いただきたい。事の経緯を改めて説明すると、本作『LUNATIC LION』は、吉川晃司が布袋寅泰との音楽ユニット、COMPLEXの活動休止後に発表された最初のアルバムである。COMPLEXがどういうユニットであったかを改めて語る必要はないだろう。もし、よく知らないという人がいて、この機会に知りたいというのであれば、2019年4月に当コラムでアルバム『COMPLEX』を紹介しているので、そちらをご参照いただきたい。読み返してみたら、これもかなり熱い文章となっていたことは汗顔の至りではあるけれども、その熱さもまた、それだけCOMPLEXの存在感が大きかったこととご理解願えれば幸いである。ファン、関係者だけでなく、おそらく当人たちにとっても尋常でないほどに期待値の高いユニットであったし、実際、COMPLEXはデビュー後、音楽シーン全体に大きな話題を振りまいた。
しかしながら、“両雄並び立たず”の成句の通り、表立った活動はほぼ2年間のみで、あっと言う間に散ってしまったユニットである(2011年7月30日、31日に一度だけ再結成)。[音楽性の根本的な違いが生じたことも休止の要因と言われている]が、吉川がCOMPLEX結成を決意した理由は[ロックバンドという活動形態に魅力を感じ、それを通して「自分のコンプレックスそのものである洋楽に匹敵するスケールの大きい音楽」を採算度外視で作る]ことだったらしいので、それが事実であるとすれば、2年間のバンド活動というのはどう考えても短過ぎたとは思う。活動休止した時、2人からは“一緒にやらなきゃよかった”といった後悔の言葉も漏れていたようではある。しかし、バンドという表現を手放したことに対して、吉川にはそれなりに忸怩たる思いがあったことは想像するに難くない。悲哀もあっただろう。そう考えると、《俺はやるぜ ひとりでも》で始まり、《俺は眠らないぜ》で終わる『LUNATIC LION』の歌詞には、吉川晃司の並々ならぬ決意を感じざるを得ないのである(ここまでの[]は全てWikipediaからの引用)。
吉川、初のセルフプロデュース作
加えて、『LUNATIC LION』は吉川初のセルフプロデュース作である。これも熱さを助長する。吉川晃司の履歴は大きく3つに分けられる。渡辺プロダクションからデビューし、事務所を独立するまでの期間(1984~1988年)。COMPLEX期(1988~1990年)。そして、1990年から現在に至るまでの期間である。事務所やレコード会社の変遷からすると、もう少し細かく分けられるだろうが、一ミュージシャンとして…と考えると、こういうことでよかろう。最初期の渡辺プロ時代をアイドル期と見る向きもあるとは思うが、それは微妙に違うと思う。シングル「モニカ」と主演映画『すかんぴんウォーク』でのデビューではあったので、確かに当初はアイドル≒芸能人の側面は強かっただろう。
だが、3rdアルバム『INNOCENT SKY』(1985年)では「Gimme One Good Night」で吉川自身が歌詞を手掛けていたし、6thシングル「RAIN-DANCEがきこえる」(1985年)のC/W「I’m So Crazy」では作曲もしている。また、4th『MODERN TIME』(1986年)は収録曲10曲中、吉川による作詞が3曲、作曲が4曲であったし、シングルカットされた8th「MODERN TIME」は吉川晃司作詞作曲のナンバーであった。つまり、最初期こそ、大手芸能プロダクション所属ということもあって主演映画もあり、それこそバラエティー番組などにも出ることもあったが、いわゆるお飾り的な存在としてのアイドルなどではなかった。音楽を自作自演するシンガーソングライターであったことは疑いようはなかろう。6th『GLAMOROUS JUMP』(1987年)は全10曲の収録曲中、8曲が吉川の作詞作曲で、残り1曲はのちにCOMPLEXを結成する布袋寅泰との共作曲で、もう1曲は忌野清志郎からの提供曲であった。早くからアーティストであったのだ。
しかしながら、自作のプロデュース──楽曲制作だけでなく、作品における全ての権限を有するまでには、そこからもう少し時間がかかった。COMPLEXにおいても作詞の多くは吉川が手掛け(1stアルバムは全て吉川の作詞)、何曲か作曲もしているものの、プロデューサーには布袋の名前がクレジットされている。この辺は収録曲のアレンジは布袋が行なっていたことと関係しているのかもしれないが、いずれにしても、COMPLEXまでの吉川晃司はプロデューサーではなかった。何もそのことを揶揄しようとは思わない。自作自演ミュージシャンが必ずしも自作を全てハンドリングしなければならない法はない。ベテランでもプロデューサーを立てるケースはいくらでもある。そう考えると、『LUNATIC LION』とて、自身でプロデュースする必要はなかったとも言える。[本作はベーシストの後藤次利が全面協力した上での吉川初のセルフプロデュース作品となった]ということだから、後藤次利にプロデュースを依頼するという案もあっただろう。後藤次利というと、とんねるずやおニャン子クラブ関連の作品を思い描く人が多いとも思うが、1973年には[小坂忠とフォージョーハーフやよしだたくろうのセッションバンド新六文銭に参加。その後、トランザムやティン・パン・アレーのセッションにも参加]。さらには[高橋幸宏に誘われサディスティック・ミカ・バンドの「HOT! MENU」のレコーディングに参加。(中略)サディスティック・ミカ・バンド解散後は高橋幸宏、高中正義、今井裕とサディスティックスを結成し活動、ソロになって初期の矢沢永吉をNOBODYの相沢行夫らとバックでサポート]という経歴の持ち主である。吉川作品では、3rd『INNOCENT SKY』(1985年)、4th『MODERN TIME』(1986年)で全楽曲のアレンジを手掛け、『A-LA-BA・LA-M-BA』(1987年)でも全11曲中4曲を後藤がアレンジしているのだから、むしろ、ソロ復帰作第一弾は後藤次利プロデュースのほうがスムーズに事は運んだかもしれない。しかし、そうではなく、吉川晃司は自身でプロデュースにこだわったわけで、ここからもCOMPLEXの活動休止後のソロ復帰作に対する並々ならぬ想いは汲み取れる。心機一転、ソロで活動するには、それまで以上にあらゆることを自分自身で背負わなければならない。彼がホントにそう思っていたかどうかはともかく、そんな風に吉川晃司の歴史を振り返ってみると、勢い熱くなってしまうことを止められないのだ。(ここまでの[]は全てWikipediaからの引用)。
ロックへの憧憬と堂々たる歌唱
肝心の『LUNATIC LION』の中身に関して言うと、ロックのダイナミズムで突っ走ったアルバムということができると思う。M1「VOICE OF MOON」とM11「Virgin Moon〜月光浴」の後半(つまり「月光浴」)は歌詞がないインストではあるものの、しっかりとロックを感じさせるサウンドだし、強いて言えば、民族音楽的なパーカッションからファンキーに展開するM6「DUMMY」にいわゆるロックとは異なる香りを感じなくもないけれど、あくまでの強いて言えば…であって、これも全体を通して聴けばファンクロック、あるいはミクスチャーロックであることが分かる。個人的に最もロックを感じるのはM10「永遠につくまえに」。ミドルテンポでドラマティック。コードもお洒落な感じで、やろうと思えば、いくらでもメロウなナンバーに仕上がることもできたように思う。ここに入っている鍵盤だけを追うとそんな気もしてくる。サックスを入れでもしたら、だいぶアーバンな雰囲気にもなるだろうし、AOR方向へ行くことも可能だっただろう。だが、もちろん、そんなことは吉川晃司の頭の片隅にも過らなかったに違いない。ミドルテンポであっても、パキッと印象的なギターが聴こえてくるところは、吉川晃司がロックであることの矜持のようなものを感じてしまうのである。
M10だけでなく、M2「LUNATIC LUNACY」、M3「不埒な天国」、M4「Jealousy Game」と、アルバム冒頭から重いギターが連続するところは、まさにロックのダイナミズムそのものだが、本作でロックを体現しているのは決してギターサウンドだけではない。とりわけベースとキーボードの躍動感が凄まじい。ベースは後藤次利で、キーボードはホッピー神山。この他にも何人かキーボーディストが参加しているが、“KOJI KIKKAWA AND THE CRIMES”としてクレジットされているのはホッピーだけだ(余談だが、バンド名義にしたところに、吉川晃司の憧憬を感じてしまうのは穿った見方だろうか…)。どの楽曲も両名のプレイの自己主張の強さははっきりとうかがえる。プロデューサーである吉川は両名のレコーディングに手を焼き、[最終的にはトラックダウンにおいて余計な音を全部取り払った上で吉川が自身の好む音にまとめた結果、後藤と神山は「ない! 音が!」と激怒した]という逸話もあるようだが、M3のサビなどでそれぞれ個性がしっかりと発揮されていることは確認できる。前述したM6のファンクのみならず、M8「ONLY YOU」でのシャッフル、M11「Virgin Moon〜月光浴」でのR&Rと、バラエティーに富んでいるのも本作の特徴ではあって、それを成立させていたのも、こうした名うてのプレイヤーの確かな手腕があってのことだろう。
最後に強調しておきたいのは、こうした強固なメンバーが彩ったサウンドに乗せた吉川晃司のボーカルの力強く、自信に満ちあふれた様子だ。歌は収録曲の全てにおいて素晴らしく、M5「虚ろな悪夢」で見せる疾走感ある歌い方、M8「ONLY YOU」での若干爽やかさ感じるパフォーマンスもかなり良くて、ぜひ注目して聴いてみてほしいところだが、個人的にはM4「Jealousy Game」、M9「Barbarian (LUNA MARIA)」を強く推したい。とりわけM4はBメロ~サビで、M9はAメロ~Bメロがいい。ワイルドでありながらもどっしりとした確かな存在感。何と言ってもセクシーだ。吉川晃司でしか出せない男の色気に溢れている。日本語を英語っぽく発音する“巻き舌唱法”も吉川晃司を象徴する歌唱ではあろうが、腹から低音を艶めかしく出すような歌い方もまた、デビュー当時から変わらぬ吉川晃司特有のものであろう。その歌唱を、歌詞、サウンドと相俟って、それまで以上に聴かせているように感じられるのだ。それもまた本作『LUNATIC LION』のいいところだと思う。
TEXT:帆苅智之
アルバム『LUNATIC LION』
1991年発表作品
<収録曲>
1.VOICE OF MOON
2.LUNATIC LUNACY
3.不埒な天国
4.Jealousy Game
5.虚ろな悪夢
6.DUMMY
7.Weekend Shuffle
8.ONLY YOU
9.Barbarian (LUNA MARIA)
10.永遠につくまえに
11.Virgin Moon〜月光浴
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