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「野宮真貴、渋谷系歌謡曲を歌う。」が、9月17日・18日に東京・ビルボードライブ東京、9月22日に大阪・ビルボードライブ大阪で開催された。今回は17日に松本伊代、18日と22日には平山みきをゲストに迎えて催されたが、本稿では平山みきを迎えた東京公演のレポートをお届けする。
2013年から続く野宮真貴の“渋谷系とそのルーツの名曲を歌い継ぐ”音楽プロジェクト「野宮真貴、渋谷系を歌う。」シリーズ。これまでにも「ヴァカンス渋谷系を歌う」「フレンチ渋谷系を歌う」など様々なテーマで渋谷系に繋がる名曲をスタンダード・ナンバーとして披露し好評を博してきた。
10周年を迎えた今年のテーマはすばり「歌謡曲」。ゲストに平山みきと松本伊代がアナウンスされたとき、ピンときた人も多いだろう。2人が作曲家・筒美京平に愛された歌声の秘蔵っ子シンガーであったことを。同時に小西康陽をはじめ渋谷系に多大な影響を及ぼした筒美京平の名曲がどのように披露されるのかも大いに期待された。
ステージに野宮真貴が登場すると大きな拍手とともに溜息が漏れる。タイトな黒いドレスにポニーテールのバービードールのような姿が麗しい。1曲目の「ブルー・ライト・ヨコハマ」はご存じ作詞・橋本淳、作曲・筒美京平の大ヒットナンバーだが、ここでは1991年に小西康陽がプロデュース/アレンジし、野宮もナレーションで参加したシンガー・ソングライターの種ともこのバージョンで披露。アンビエントなアレンジが大胆にしてエレガントなオープニングだった。
「ようこそ、【野宮真貴、渋谷系歌謡曲を歌う。】へ」。続いて歌われた「フォーチュン・クッキー 」はピチカート・ファイヴの1994年のシングル「スーパースター」のカップリング・ナンバー。港町にドライブした二人が中華街での食事をして別れるという歌詞はまるで「ブルー・ライト・ヨコハマ」の続編のよう……と、客席に配布されたライナーノーツにも記されていたが、「渋谷系歌謡曲」というテーマの骨子がマニアックな2曲に見事に表現されていた。
MCでは現在、平山みきと筒美京平の遺作を作詞家の橋本淳の作詞・プロデュースで歌うプロジェクトが進行中だということが伝えられ、「今日は渋谷系のルーツのお一人、筒美京平さんのおしゃれでモダンな曲を歌います」と語り「くれないホテル」へ。1969年に西田佐知子が歌い、細野晴臣や松本隆もフェイバリットとして上げる屈指の名曲を野宮はムーディにしっとり聴かせてくれた。続く「私自身」は、ティン・パン・アレイが演奏を手がけ、シティポップの名盤として知られるいしだあゆみのアルバム『アワー・コネクション』から。作詞・橋本淳、作曲・細野晴臣による都会的な歌詞とサウンドは野宮の存在と雰囲気にもぴったりの選曲だった。
野宮真貴のステージでは恒例の撮影タイムも今回は一段と盛り上がった。今年は映画も公開され、人気再燃中のバービーが歌手に扮した「SOLO in the SPOTLIGHT」の衣装を特別にあつらえたドレスとヘア&メイクがこれほど似合うのは日本では彼女を置いて他にいないのだから。
ピチカート・ファイヴからソロまで野宮真貴のアルバムを一貫して手がけたアート・ディレクターの信藤三雄がリーダーを務めたバンド、ザ・スクーターズの「Hey Girl」を野宮真貴バージョンで聴けたのもうれしいサプライズだった。筒美×橋本が2012年に書き下ろしたソウルフルなナンバーを、今年2月に他界した信藤に愛とリスペクトを込めて歌い、観客も熱い手拍子で応えた。
「それでは、お待ちかねの平山みきさんです!」トレードマークのイエローのドレスで登場した平山みきは、筒美、橋本との出会いや、筒美のピアノで「ブルーライト・ヨコハマ」を歌ったときの思い出を語り、1972年の大ヒット曲「真夏の出来事」を今も変わらぬ“筒美京平が愛した”声で歌った。デビュー50周年を超えて現役で活躍中の彼女は筒美×橋本の作品を数多く歌ってきたが、「ライブでこの曲を歌うのは初めて」という「いつか何処かで」を野宮のリクエストで披露。フィフス・ディメンションを彷彿させるこの曲は和製ソフトロック・ファンや筒美マニアの間では人気が高い。
そんなレアな選曲で唸らせる一方、多くのシンガーがカバーしているヒットナンバー「フレンズ」をおそろいのピンクのドレスに着替えた野宮とデュエット。そして、現在進行中のプロジェクトから、生前に筒美京平から託された未発表曲に橋本淳が歌詞を書いた新曲「アーティスト」が“ミキとマキ”によりステージで初めて披露された。筒美らしい洒落たメロディーと彼の思い出を綴った歌詞はさすがゴールデン・コンビ! 編曲は筒美作品ではお馴染みの船山基紀。本楽曲は10月3日に配信シングルとしてリリース、同日NHK『うたコン』でも生放送でパフォーマンスされ、大きな話題となっている。
平山みきを送り出したあともゴールデン・コンビの作品は続く。1968年にグループ・サウンズ=GSのオックスが放った「ダンシング・セブンティーン」へ。ピチカート・ファイヴでもカバーしたというご機嫌なダンス・ナンバーをバンドとともに軽快に歌い上げる。
観客がうっとり聴き惚れたのは、筒美京平と数々のヒット曲を生んだ作詞家の松本隆が作詞を手がけた松田聖子の「瞳はダイアモンド」。歌詞の素晴らしさをじっくり味わえる歌とアレンジはカバーの域を超えて胸に響いた。本編最後は、40周年記念ライブでは鈴木雅之とデュエットした大滝詠一の「夢で逢えたら」。今回は大瀧詠一、山下達郎によるアレンジのシリア・ポール・バージョンでロマンチックにドリーミーにセリフ入りで聴かせ、大きな拍手を浴びた。
アンコールで再びステージに登場すると、セーラー風のミニルックに衣装を替えて、ピチカート・ファイヴの1998年のシングル曲「恋のルール・新しいルール」。筒美京平が作曲を手がけた唯一のピチカート・ナンバーは、「渋谷系歌謡曲」と題したステージで歌われるための曲だったのかもしれないとさえ思う。振り付きで楽しく歌い、踊るパフォーマンスも最高潮に。「ピチカート的歌謡曲をもう1曲歌います」と紹介されたのは、1997年のシングル「モナムール東京」。筒美京平からピチカート・ファイヴまで貫くキャッチーかつクオリティの高い音楽性は、野宮真貴を通して今もビビッドに生き続けていることを確信。
ラストは、すでにスタンダード・ナンバーとなった「東京は夜の七時」をザ・スクーターズのカバ―・バージョンで熱唱。小西康陽が提案し、信藤三雄が闘病中にデモを制作。信藤の没後にシングルがリリースされたことを知っているファンをホロリとさせて、「野宮真貴、渋谷系歌謡曲を歌う。」締めくくった。
渋谷系と歌謡曲はこれほど相性が良かったとは!? と、目から鱗の再発見を促すセットリストと、それを現在にアップデートして歌いこなす野宮真貴に改めて感服した夜だった。是非アンコール公演を希望したい!
Text by Kyoko Sano
◎公演情報
【野宮真貴、渋谷系歌謡曲を歌う。】※終了
2023年9月17日(日)
東京・ビルボードライブ東京
2023年9月18日(月)
東京・ビルボードライブ東京
2023年9月22日(金)
大阪・ビルボードライブ大阪
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