<ライブレポート>TOOBOE×秋山黄色、ネットから生まれた「傾奇者」と「ロックスター」の対バンが実現

2023年9月13日 / 12:00

 インターネットから生まれた「傾奇者」と「ロックスター」。とても親和性の高い両者だが、実はこの日が初対面だったという。VOCALOIDクリエイターのjohnによるソロプロジェクト・TOOBOEの「仲がいいアーティストや尊敬する先輩を招いて刺激を受けたい、勉強したい」というコンセプトを掲げた自主企画対バンイベント【TOOBOE交遊録】。その記念すべき第1回目のゲストに選ばれたのは秋山黄色だった。TOOBOEからのラブコールで実現した至極のツーマンライブをこの目で観ようと、東京・渋谷WWW Xのフロアは隅々まで観客で埋め尽くされた。

 ラフな佇まいでステージに登場した秋山が、マイクスタンドからマイクを取り外すと「シャッターチャンス」でこの日の幕を開ける。気だるさとひりついたムードを交錯させながらアウトロでギターを弾き出すと、そこから間髪入れずに「宮の橋アンダーセッション」へなだれ込んだ。曲中で演奏を止め、洒落たコードをつま弾いたかと思えば「ギター弾きたいやついる?」と観客に弾いていたギターを触らせるなど、思いのままに振る舞っていたかと思えば急に演奏を再開する。彼のその時の気分次第とも言うべき、どう転がるかわからない展開は非常にスリリングで痛快だ。

 音の細部にまで気迫がほとばしる「やさぐれカイドー」、生々しい言葉を辿るボーカルと泣き叫ぶギターが耳に残る「蛍」と畳みかけると、秋山は「(自分が)大変な時期にjohnさんは『ライブしようぜ』と誘ってくれました。本当に感謝しております。今日は必ず元を取らせますんで。あんまり(秋山黄色を)聴いたことがない人もいると思いますけども、明日からそんなこと言えなくなりますんで」と感謝の念を音楽で返すことを誓った。暗闇を切り裂くようなパワーを持った音楽やライブに定評のある彼だが、それは悲しみや苦しさといった痛みと正々堂々向き合う勇気を持ち合わせているからこそ実現できる。「PAINKILLER」は彼の真髄を感じられる、感傷的で激情的な歌と演奏だった。

 息を呑むような緊迫感と高揚感が入り混じるサウンドスケープの「Caffeine」、バンドのグルーヴが光る「SKETCH」などを披露した後、秋山は「ライブをしている瞬間やライブを聴きに来ている瞬間はすごく生きてるって感じがします。でもそれは良くなくて。生きてる実感は生きてる間ずっとあるべきです」と今この瞬間にこみ上げてきたであろう感情を語り始めた。そして自身がライブを楽しいと感じる理由は観客とコミュニケーションが取れることであると明かす。

「歌って聴かれなきゃ意味がない、皆さんがいないと成立しない。お金をもらって今日も歌います。仕事だけど気分は休日なんだよ」「音楽をやっていない、聴いていないときも楽しくさせるために今日ここで歌っているわけであります」と身体を震わせながら呼び掛けると爽快感たっぷりに「とうこうのはて」を届け、観客もその真摯な思いに応えるようにシンガロングに興じた。彼は目の前にいる我々に強く訴えかけると同時に、どこか孤独な内省性を感じさせる。まっすぐどこまでも目の前の人間や物事と向き合う彼は、その奥まで触れたときに湧き上がる自身の感情に突き動かされて音楽をしているのかもしれない。最後に演奏した「アイデンティティ」では観客たちを力強く送り出すように大きなスケールの音を鳴らした。

バンド編成で登場した首謀者のTOOBOEは、歌謡曲の憂いとファンクのグルーヴがブレンドされた「爆弾」で1曲目を飾る。ケーブルのついたマイクを手に持ちビニールサンダルで颯爽とお立ち台に上がる姿は貫禄と華があり、歌や演奏だけでなくその佇まいでも会場の視線を攫っていた。

そこから「心臓」「ダーウィン」「錠剤」と人気曲を立て続けに披露する。ここで再確認するのが、彼の作る楽曲のサウンドデザインの異端ぶりだ。効果音は生演奏のなかに小気味よい違和感を作り、妙なタイミングでの転調もボーカルの躍動感や楽曲のドラマ性を高めていた。そして観客がメランコリックで色気のあるメロディの直後に一斉に三三七拍子のクラップを鳴らしたり、サビ終わりに一斉に「わあああっ!!」と絶叫するライブはなかなかお目にかかれない。なんだか不気味なのにキャッチーで、飄々としていてファニーなのに毒々しい。彼の纏った奇妙な空気感はじわじわとフロアを飲み込んでいった。

続いて「敗北」「憂鬱」とjohn/TOOBOEの名前の由来でもある“負け犬の遠吠え”や“ルーザー”のメンタリティを色濃く抽出した楽曲でドライブすると、サポートギタリストが突如秋山黄色の「やさぐれカイドー」のギターを弾き始める。予期せぬ展開に場内が沸くなか同曲を1コーラスカバーすると、TOOBOEは「秋山黄色さん好きなのでカバーをやろうかなと思って。あれ(ギターリフ)を思いつくのはすごいですよねえ」と秋山に賛辞を贈った。

最新曲のバラード「fish」、淡々とした爽やかさと切なさが胸を刺す「ivory」と夜めいたムードで会場を包むと、生演奏によるリフレインが効果的な「oxygen」へとシフトし、英語表記曲を3連続で披露する。曲順の流れだけでなく、曲名の並びでも美しさが追求されたセットリストを組むところに、音楽以外にも映画や小説、漫画など様々な文化に精通するTOOBOEのクリエイター魂が感じられた。

本編の締めくくりはバンドの生演奏が楽曲に綴られた心象風景をより生々しく映し出すロックナンバーを畳み掛ける。ライブ初披露の「天晴れ乾杯」、同名TVドラマの書き下ろしOP主題歌「往生際の意味を知れ!」、斬新なコードワークが躍動する「浪漫」と、今年リリースした楽曲たちをスマートかつダイナミックに、哀愁と熱狂が溶け合う音像でもって走り切った。

 アンコールで「SOSをくれよ」と「チリソース」を歌唱すると、今後も【TOOBOE交遊録】を継続していきたいと未来への思いを語る。「秋山黄色さんのライブはとても刺激になりましたし、いい思い出になりました。僕も秋山さんくらい大きくなれるくらい頑張ります」とあらためて秋山に感謝を告げると、彼が締めくくりに選んだのは別れを綴った「ヤング」。<これからも素敵な日々が続きますように>などの歌詞が一つひとつ再会を願うように響き、穏やかな空気感でこの日のラストを包み込んだ。

 ゲストの人選、音作りや歌唱スタイル、ファッションや立ち回りなど、すべての面からTOOBOEの美学や嗜好を感じることができた第1回目の【TOOBOE交遊録】。2022年1月の初ライブから初ツアー、フェスやイベント出演といったライブ経験だけでなく、初の個展やコラボカフェの開催、これまでの楽曲提供やタイアップソングの書き下ろしなど、マルチに活動する経験があってこそ実現できた、現段階での集大成的ステージだったと言ってもいいだろう。そしてMCによると、現在TOOBOEはアルバムを制作中だという。新しい音楽表現を開拓している彼が今後どんな試みを見せていくのか、そんな期待に胸躍る一夜だった。

Text:沖さやこ

◎公演情報
【TOOBOE交遊録】
2023年9月1日(金) 東京・渋谷WWW X


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