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今年、デビュー40周年を迎えたEARTHSHAKERが9月6日、それを記念したニューアルバム『40』をリリースした。さらに、今週末9⽉10⽇の千葉LOOKを皮切りに、12月まで続く、全国ツアー『EARTHSHAKER 40th Anniversary LIVE TOUR『IT’S SHOWTIME』』がスタート。さらに、さらに! とある世代の好事家たちにとっては2020年代最大級のライヴイベントとの呼び声の高い『─心斎橋BAHAMA 60周年記念イベント─JAPAN HEAVY METAL FANTASY 2023 “BAHAMA STILLALIVE 1963-2023”』の開催と出演も発表されている。40周年で一気呵成の攻勢を仕掛ける(?)EARTHSHAKER。今週は1986年に発表された、そんな彼ら初のライヴアルバム『LIVE IN 武道館』を紹介する。
優れたライヴ盤は優れたベスト盤
ライヴアルバムというのは、そのアーティストのベスト盤的な機能もあると思う。最近は音源だけのライヴ盤の新作をほとんど見かけなくなったので、直近ではどうか分からないけれど、少なくともかつてはそういう側面があった。例えば、邦楽ロックの名盤のひとつとして挙げられることの多いRCサクセションの『RHAPSODY』(1980年)。RCのライヴでの定番オープニング曲だった「よォーこそ」の他、のちのRC初のベストアルバム『EPLP』(1981年)に先んじて「雨あがりの夜空に」「上を向いて歩こう」「キモちE」が収められている。BOØWYの『“GIGS” JUST A HERO TOUR 1986』(1986年)もそう。「BAD FEELING」「ホンキー・トンキー・クレイジー」「わがままジュリエット」と、それまでにリリースしていたシングル表題曲が収められている他、「BAD FEELING」のカップリング曲であり、BOØWYのライヴで欠かせない楽曲であった「NO.NEW YORK」ももちろん入っている。代表曲である「B・BLUE」や「ONLY YOU」は収録されていないが、これは『“GIGS”~』よりあとのリリースであったからで、RCの『RHAPSODY』に「トランジスタ・ラジオ」がないのもおそらく同様の理由からだろう。
『RHAPSODY』はいわゆるレコ発ツアーを収録したものではないため、こういう容姿になっていたところもあろうが、『“GIGS”~』はサブタイトルにもある通り、アルバム『JUST A HERO』(1986年)のツアーファイナルを収めたものである。しかしながら、『“GIGS”~』には『JUST A HERO』から5曲しか入っていない。これは意外と見落とせないところである。そこからは制作サイドの意図が読み取れる。その意図とは、言うまでもなく、スタジオ音源にはない、あるいは音源では出せないBOØWYのライヴの空気感を盤に封じ込めようとしたことに他ならないだろう(BOØWY解散後に発売された『“GIGS” JUST A HERO TOUR 1986 NAKED』(2012年)では、『“GIGS”~』に収録されていなかった『JUST A HERO』の楽曲も収められているので、こちらを聴くとレコ発ツアーだったことがよく分かる)。『RHAPSODY』では、[忌野清志郎は「ライヴの勢いをそのまま出した方がいい」と考え、また、スタジオ録音で音をいじられることを嫌っていたため、敢えてライヴ盤の発表に踏み切った]という([]はWikipediaからの引用)。楽曲でメンバー紹介をする「よォーこそ」がまさにRCのライヴの雰囲気をそのまま表現したものであろうし、『“GIGS”~』での「IMAGE DOWN」のサビの長さ(?)やコール&レスポンスからは、スタイリッシュなだけでない、BOØWYのライヴバンドとしての熱のようなものが伝わってくる。
収録されているMCも忘れてはならない。『“GIGS”~』の「IMAGE DOWN」でのヒムロックの“ライヴハウス武道館へようこそ!”はあまりにも有名である。筆者はBOØWYの影響を公言するアーティストが初の武道館公演を前に“俺も“ライヴハウス武道館へようこそ!”って言ってみようかな”と笑っていたのを聞いたことがある。そのライヴには行くことができず、実際に言ったかどうかは確認してないけれど、彼がそれだけ『“GIGS”~』を愛聴していたことが分かるエピソードだし、何ならMCを含めて『“GIGS”~』からライヴの何たるかを学んだようなところもあったと想像できる。『RHAPSODY』には清志郎の“愛し合ってるかい?”という、これまた超有名なMCは入っていないのだが(「雨あがりの夜空に」のアウトロで“愛してまーす!”とは言ってます)、『RHAPSODY NAKED』(2005年)では「スローバラード」と併せて収録された。正直言うと、筆者は『RHAPSODY NAKED』にはあまり好感を持ってないのだけれど(勝手な物言いですみません)、あの“愛し合ってるかい?”があるだけで“これはこれでアリかな”と思ってしまうところも正直ある。
「MORE」から始まる堂々たるライヴ
EARTHSHAKER、初のライヴアルバム『LIVE IN 武道館』もまったく同じで、ほぼベストアルバムと言っていい内容である。いや、この翌年に出たバンド初のベスト盤(スタジオ収録音源)『THE BEST OF EARTHSHAKER』(1987年)の収録曲と7曲が同じなのだから、これはもう完全にライヴベストアルバムと言ったほうがよかろう。オリジナルアルバムとの比較では、1st『EARTHSHAKER』(1983年)からは1曲と数少ないものの、2nd『FUGITIVE』(1984年)から3曲、3rd『MIDNIGHT FLIGHT』(1984年)と4th『PASSION』(1985年)とからは4曲ずつ、そして限定発売だったミニアルバム『EXCITING MINI II』(1985年)からも1曲と、まんべんなく選曲されている。もっとも、本公演はレコ発ツアーの千秋楽を収録したものではあるものの、EARTHSHAKERにとって記念すべき初の武道館公演であったことを考えれば、これもよく分かる話だ。この時点での最善最良、ベストオブザベストの選曲で臨んだのは間違いない。
その上、(当たり前のことながら)ライヴならではの曲順で構成されているところに『LIVE IN 武道館』の良さがある。スタジオ音源のベスト盤は、『THE BEST OF EARTHSHAKER』に限らず、リリース順であったり、当該アルバムでの収録順に収められていることがほとんどだが、ライヴ盤はそうではない。(これも当たり前のことながら)どのアーティストも、観客が盛り上がるように、あるいは演者自身のテンションも上がるように、ライヴのセットリストを考えている。どこでどう盛り上げるか。ライヴアーティストはそこに腐心している。その点で言うと、『LIVE IN 武道館』は、曲順にも当時のEARTHSHAKERの自信とライヴバンドとしてのプライドを感じさせるのである。
何と言ってもオープニングナンバーがM1「MORE」であるインパクトが強い。1980年前半に起こった日本でのヘヴィメタルブーム。その火付け役はLOUDNESSであったことは議論を待たないだろうが、それを巷に広げていったのは、間違いなくEARTHSHAKERでもあろう。正確なデータがないため、筆者の推測に過ぎないが、アルバム、シングルともに、売上、チャートリアクションで両者の間に大きな開きはないように思うし、こと日本では若干、EARTHSHAKERのほうが上回っているような気がする(間違っていたら、すみません)。バンドの優劣を話したいのではない。より大衆に分け入ったのがEARTHSHAKERだったと言いたいのだ。そして、その際の大きな名刺代わりが「MORE」だったことは、当時を知る人なら大きく頷いてくれるのではなかろうか。スピッツの草野マサムネが学生の頃に「MORE」をギターでコピーしていたという逸話を知っている人も多いだろう。
キャッチーなメロディーライン。のちのJ-ROCK、J-POPにも通じる楽曲展開。サウンドアプローチはハードなままに、親しみやすい要素が満載の「MORE」である。とりわけ、ギターで奏でられるイントロの役割は大きい。どこか淋しげで、どこか物悲しい叙情的なアルペジオの旋律は、従来のハードロック、ヘヴィメタルのイメージを覆したところは過分にあるだろう。『LIVE IN 武道館』では、そのイントロがオーケストラアレンジで披露される。重厚なストリングスで構成されており、まさにクラシカルかつシアトリカルな印象でありつつ、例のイントロの主旋律はしっかりと聴こえてくる。その途中で歓声が大きくなっているということは、それに乗ってメンバーがステージに登場したのだろう。ひとしきりオーケストレーションが鳴ったあと、ズシリとバンドサウンドが響き、M1が本格的にスタートする。その派手で大仰なオープニングを堂々と披露しているところに、EARTHSHAKERの矜持が表れているように思う。
M1に続いては、どっしりとしたリズムが如何にもHRっぽいM2「記憶の中」、シャッフルビートに乗せたポップなR&Rナンバー、M4「WHISKEY AND WOMAN」などを披露しながら、緩急織り交ぜて、代表曲であるM11「RADIO MAGIC」、M12「FUGITIVE」からM13「COME ON」へと連なっていく。フィナーレのM13では観客とのコール&レスポンスを聴くこともできて、このライヴが大いに盛り上がったことがよく分かる。『LIVE IN 武道館』は1986年のEARTHSHAKERの勢いを実によくパッケージしたアルバムである。未だ触れたことがない方は聴いておいて損はない作品と断言したい。
ベスト盤であるがゆえの一考察
『LIVE IN 武道館』はライヴベストアルバムという内容であるだけに、EARTHSHAKERというバンドの特徴もよく分かるように思う。本作を聴いて改めて気付いた…というよりも、個人的には“EARTHSHAKERとはこういうバンドだったのか?”と初めて感じた点があったので、それを最後に記しておきたい。それは歌詞である。「MORE」はシングルリリースされた時によく聴いていたので、サビの歌詞は今でも覚えていて、“孤独”がモチーフであることは理解していた。だが、本作収録曲にはそれ以外にも“孤独”やそれに近い状態が描かれた歌詞が多い。それは意外だった。
《もっと! もっと! 孤独よ踊れ/もっと 鮮やかに》(M1「MORE」)。
《真夜中過ぎの 孤独のファクトリー/始発を待つ いつものロックハウス/81年の頃 俺たちは集り/手に入れた 金を集めた》(M7「THE NIGHT WE HAD」)。
《汚した傷のあと 数えながら/怯えたloneliness 隠して》(M8「流れた赤い血はなぜ!」)。
《眠る事も忘れ Ah/走る車の音が流れ/繰り返す日々 ひとりの部屋/眠りにつく俺が生まれた》(M10「T-O-K-Y-O」)。
《怯えた Fugitive/怯えた Fugitive 俺は/怯えた Fugitive/怯えた Fugitive 今も》(M12「FUGITIVE」)。
孤独、loneliness、ひとり、M 12ははっきりと孤独ではないが、孤立はしているようだ。この“孤独”は個別に見ると、若者ならではの感情であったり、都会のディスコミュニケーションであったり、社会におけるバンドマンのポジションであったり、さまざまな状況が想像できる。日本の音楽シーンでのハードロック、ヘヴィメタルのステイタスという受け取り方もできるかもしれない。とにかく“孤独”を訴えている局面が多いことは意外だった。だが、その一方で、それだけで終わっていないところにも注目した。“孤独”の対極であったり、“孤独”を乗り越えたところに“夢”があるのである。M7の内容が顕著だが、M6「夢の果てを」はタイトルからしてズバリだ。ラストM13「COME ON」のイントロ前で西田“MARCY”昌史(Vo)は叫ぶ。“壁をぶち壊して、新しい時代を作んのは、やっぱロックやで”“築き上げようぜ、俺たちの時代を! Everybody、Come On!”。さまざまな状況下で“孤独”を感じている者たちのアンセム──それがロックであると宣言しているかのようだ。この力強さはこのバンドの本質でもあったのだろう。それはフェスに代表される、2000年頃からの日本でのロックムーブメントにも共通しているのではないかと思う。そこが確認できたことは個人的には大きな収穫だった。一部でいわゆる“ジャパメタ”ブームの火付け役…的なことを言われることの多いEARTHSHAKERではある。細分化されたジャンルうんぬんで語るのも別に悪くはないが、そのメッセージ性にもう少し目を向けてもいいのではないかと感じたところである。それを実感する意味でも『LIVE IN 武道館』を聴くべき理由はあると思う。
TEXT:帆苅智之
アルバム『LIVE IN 武道館』
1986年発表作品
<収録曲>
1.MORE
2.記憶の中
3.ざわめく時へと
4.WHISKEY AND WOMAN
5.MIDNIGHT FLIGHT
6.夢の果てを
7.THE NIGHT WE HAD
8.流れた赤い血はなぜ!~Ds.Solo
9.TAKE MY HEART
10.T-O-K-Y-O
11.RADIO MAGIC
12.FUGITIVE
13.COME ON
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