白田一秀をはじめ、HR/HMシーンの強者たちが集ったGRAND SLAMの『RHYTHMIC NOISE』のインパクト

2023年8月2日 / 18:00

7月29日、RAJAS、PRESENCEで活躍したギタリストの白田一秀が亡くなった。享年60。ミュージシャンの訃報が相次ぎ、何とも気持ちが暗くなるばかりだが、ずっと落ち込んでもいられないので、こちらはこちらの仕事をきちんとこなすことで、微力ながら彼らの偉業を後世に、また彼らをよく知らない人たちに伝えていけたらと思っている。そんなわけで、今週は急きょ予定を変更して、白田一秀の追悼。PRESENCEは以前紹介しているので、今回は白田がPRESENCEの次に在籍したバンド、GRAND SLAMのメジャーデビュー作『RHYTHMIC NOISE』をピックアップする。
日本HR/HMシーンのドリームチーム

第一期のメンバーが、元REACTIONの加藤純也(Vo)、元RAJAS及びPRESENCEの白田一秀(Gu)、元44MAGNUMの吉川裕視(Ba)、元MAKE-UPの豊川義弘(Dr)である。グランドスラム(≒全大会制覇、満塁ホームラン)とは上手いこと名づけたものだ。当時はまだそんな言葉はなかったが、1980年代の日本のハードロック、ヘヴィメタルシーンを知る人にとっては“ドリームチーム”とも言えるメンバーが集ったバンド、それがGRAND SLAMである。

ただ、上記の前身バンドのことを多くの人たちがレジェンドと認識している(と思しき)一方で、GRAND SLAMがそれらを凌駕するほどのインパクトをシーンに残しているかと問われたら、はっきり“そうだ”と言い切れる人は、GRAND SLAMのファンの中にも決して多くはないのではなかろうか。もっとも、前身バンドが日本のヘヴィメタルの先駆けと言われ、今や日本のロック史において語られるバンドであることと比べたら、それ以後のある程度シーンが形成されてから出てきたバンドは、GRAND SLAMに限らず、どうしても印象が弱いと言わざるを得ない。そうした側面は音楽だけでなくありがちなことではないかと思う。あとから来た方はどうしても割を食ってしまうのだ。

また、前身バンドたちが世に出た1980年代のシーンと、GRAND SLAMが活動していた1990年代のそれとでは、状況もかなり異なる。こう言ってしまうと双方に失礼であることを承知で述べるが、前身バンドには比較対象が少なかったのに対して、GRAND SLAMのデビュー時はバンドブームの真っ只中。バンドの数も多かったし、スタイルも多岐に及んでいた。具体名は上げないが、あの頃はイロモノ的なバンドもそれなりにいた。イロモノはイロモノなりにシーンに塗れないよう、懸命に努力していたのだから、それを悪いとも思わないし、むしろ理解はできる。逆に言えば、当時のバンドシーンは生き馬の目を抜くようだったのである。GRAND SLAMに話を戻せば、そんな中で、彼らが1980年代ほどにはインパクトを残せなかったとて、それも止む無しだったとは言える。

しかし、だ。だからと言って、GRAND SLAMの音楽が取るに足らないものだったのか、聴くに値しないものかと言われたら、それにははっきりと“否”を突き付けたい。無類にカッコ良いロックバンドであった。そこはしっかりと強調しておかなければならないだろう。そう断言できるいくつかの理由をこれから『RHYTHMIC NOISE』で検証していきたいと思うが、まず何と言っても、“This is Rock!”としか形容できない、そのサウンドの清々しさを推したい。基本的にそのほとんどが4人の音で構成されている。オーバーダビングもあるし、コーラスもある。SE的なM1「RHYTHMIC NOISE」はおそらくディスクトップにて制作されたものであろう。

だが、それ以外はヴォーカル、ギター、ベース、ドラムで構成されている。さすがに当時“ドリームチーム”と目されていたメンバーが集っているだけあって、グイグイと迫るドライヴ感が実に素晴らしい。豊川のドラミングがいい意味で走っているところにその秘密(?)があると思う。音符的に言えば、シンコペーションを多用している…ということになるのだろうが、スネア、シンバルの位置が(正式な楽譜があるとしたらそれよりも)微妙に前なのである。リズムが喰い気味と言い換えてもいい。でも、それが絶妙にいいのだ。アッパーなナンバーで言えば、M5「I WANNA TOUCH YOU」やM8「NO!NO!NO!~SHOCK YOU~」、本作中最速のM10「COOKIES」でもその妙味を聴くことができるけれども、ドラムの白眉はM2「HERE WE GO」。終始リズムが走り気味で、それが楽曲全体を前へ前へと推進している。M2が実質的にアルバム1曲目であるから、『RHYTHMIC NOISE』自体に勢いを与えているという見方もできるし、これは見事なテイクと言わざるを得ない。それに続く、M2ほどにテンポが速くないM3「SPEND THE NIGHT」でも、Bメロや2番のAメロでその喰い気味のドラミングを披露。勢いを持続させている。かと思えば、ファンキーなM7「LOOKIN’ FOR LOVE」ではそこまで走ることなく、しっかりとリズムをキープしている。ドラムはバンドの要とよく言うが、まさに要に相応しい仕事っぷりである。
キャッチーな歌メロは色褪せない

同じくリズム隊の吉川のベースはどうかと言うと、これがまったくもっていい意味で、突飛な演奏がない。的確に楽曲を支えているという見方ができる。コードに沿っただけのまったく無個性な演奏をしているかというと、さすがにそんなことはなく、M7「LOOKIN’ FOR LOVE」は比較的派手なベースプレイが聴けるし、M11「KEEP ON DANCIN’」のサビでのギターとのユニゾンなどもなかなか面白い演奏を聴くことができる。しかし、本作においてはリズムキープ、低音パートを堅持しており、4小節目、8小節目に少し動きがあるというのが基本的なスタイルのようだ。おくゆかしいベーシストと見ることもできるが、これは先に述べたようにドラミングが派手で、変幻自在のギターサウンド(のちほど説明する)がGRAND SLAMの特徴でもあるので、サウンドのまとめ役に徹したという見方もできるだろうか。作曲はほとんど吉川が手掛けているので、その影響も少なからずあったように思う。メロディメーカーとして押し引きをわきまえていた──そういう言い方は語弊があるかもしれないけれど、全体のバランスを考えたところは確実にあったのではなかろうか。ヴォーカルとギターのメロディー、ドラムの疾走感に加えて、ベースまでもが派手な旋律を奏で、派手なアクションをキメたら、収拾が付かない。そんな考えもあったのではと想像する。

いや、そんなふうに想像したのは、それほど、『RHYTHMIC NOISE』収録曲のメロディーは秀逸なものが多いからでもある。個人的にはこのアルバムはリリースされた当時に聴いたきりで、その後、GRAND SLAMのライヴステージで何度か聴いたことがあったものの、少なくとも愛聴盤となって聴き続けたということはなかった。つまり、今回聴いたのは30年以上振りということになる。それにもかかわらず、多くの楽曲に聴き覚えがあったし、口ずさめるものすらもあった。加齢によって短期の記憶すら怪しい昨今、これにはちょっと驚いた。ヴォーカルパートにおいてキャッチーなメロディーラインを持っているのは間違いなかろう。それを、身を以て体験した。“それはお前の主観だろ!?”と言われればそうだし、それに対して返す言葉がないのも事実だけれど、少しでも興味を持った人は騙されたと思って聴いてみてほしい。

お薦めはM4「WITHOUT DREAMS」とM5「I WANNA TOUCH YOU」。前者はメジャー感があり、後者はややマイナーとタイプは違うが、ともにサビメロは聴き手を選ばない大衆性を帯びたものである。“サビまで聴くのは面倒”という如何にも最近のリスナーには、BメロまででいいのでM3「SPEND THE NIGHT」を聴いてもらうのがいいかもしれない。キャッチーさはM4、M5のサビほどではないかもしれないけれど、その楽曲には今のJ-POP、J-ROCKに通じる展開があることが分かってもらえるのではないかと思う。GRAND SLAMのルーツにはアメリカンHRがあって、Aerosmith、Bon Jovi、Journey、Van Halen辺りの影響を感じるところではあるし、その辺のバンド名を見て敬遠する人もいるかもしれない。そういう方にはメロウなバラードM9「TELL ME」がよかろう。歌メロに関しては、間違いなく“食わず嫌いはもったいない”と思わせるものがあるバンドである。気になったらぜひ探してみてほしい。
白田一秀という不世出のギタリスト

歌メロの親しみやすさは、加藤のヴォーカリゼーションによるところも小さくないと思う。この人の声は、高音でほんのわずかにハスキーにはなるが、歌い方には悪い意味での癖がなく、ハイトーンの歌い手によくある、しつこさみたいなものが感じられない。そのため、広いレンジの中でもシームレスに歌声が連なっていく印象がある。滑舌もいいので、歌詞も聴き取りやすいところも彼の良さであろう。メッセージが伝わりやすいと思う。

《LOOK AT ME DON’T BE LOOKIN’ /DOWN BABY/終わった訳じゃないさ/傷だらけのYOUR HEART/俺達も同じ/ふさぎこんでいても/夢は遠ざかるだけ/上を見るのさHEY BOY/始めるのは今》《あこがれだけじゃ、やり切れない/その手につかむまで/OVER & OVER AGAIN》(M4「WITHOUT DREAMS」)。

《PARADICE! OH PARADICE!/すぐそこに 見えているのは OH-HERE IS/PARADICE! OH PARADICE!/くすぶってちゃ 何も始まらない/OH-HERE IS PARADICE!》《誰にも止められないさ 俺達の思いは/そびえ立つ高い壁を 叩き壊せ 今すぐ》(M6「HELLO」)。

恋愛もの──というよりも、激しい求愛を描いた歌詞もある中、上記のような上昇志向というか、ブレイクスルーを歌った歌詞が目立つ『RHYTHMIC NOISE』でもある。その背景には、バンド結成やデビューする過程においてメンバーの思い通りにならないことがあまりにも多かったという話があったと聞いたが、恨みがましくも、湿っぽくも聴かせていないのは、メロディーもさることながら、加藤の歌声のクリアーさによるのだと考えていいのではと思う。

最後に白田のギターについて語ってみよう。時期的にVan Halen辺りのからの影響が若干色濃いように感じるものの(M6「HELLO」やM8「NO!NO!NO!~SHOCK YOU~」)、先ほど変幻自在と書いた通り、ストローク、アルペジオと器用にこなしつつ、ギターリフもギターソロも個性的なプレイを聴かせてくれるギタリストだ。M9「TELL ME」ではアコギも操っている。ギターリフは楽曲全体を象徴するようでありながら(楽曲のタイプに沿った…という言い方もできるかもしれない)、しっかりとそこに彼らしさを放り込んでいるのが特徴だろうか。M3「SPEND THE NIGHT」とM10「COOKIES」との比較が分かりやすいように思う。M3はブルースフィーリングがあり、M10「COOKIES」は疾走感かつワイルドさがある。ともに口でコピーできそうなほどにポップというのも特徴であろう。ギターのメロディーが歌のキャッチーさと双璧をなしているのは、ギタリストとしての面目躍如というところかもしれない。ギターソロはどの楽曲もリフ以上に個性的。M9「TELL ME」の間奏やM4「WITHOUT DREAMS」のアウトロなどでは、いわゆる泣きのメロディーもあるにはあるが、それ以外の間奏はそれとは異なる。メロディアスではない…という言い方が適切かどうか分からないけれど、他のバンドではなかなか聴くことができない、ひと味もふた味も違う独自のプレイなのである。ギターリフは口でコピーできそうと書いたが、その観点では、ソロは簡単に耳コピできるような代物ではないと思う。ニュアンスも独特なら、展開も(初見では)予測不能だ。速弾きも多く、聴き手にピリッとした緊張感を与えてくれる。とにかくさまざまなシーンで、白田一秀が不世出のギタリストであることを示す音像が満載なのである。
TEXT:帆苅智之
アルバム『RHYTHMIC NOISE』
1990年発表作品

<収録曲>

1.RHYTHMIC NOISE

2.HERE WE GO

3.SPEND THE NIGHT

4.WITHOUT DREAMS

5.I WANNA TOUCH YOU

6.HELLO

7.LOOKIN’ FOR LOVE

8.NO!NO!NO!~SHOCK YOU~

9.TELL ME

10.COOKIES

11.KEEP ON DANCIN’


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