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にしなが6月末から約1か月間にわたり開催してきたライブハウスツアー【クランベリージャムをかけて】。その最終公演が、7月27日、にしなのワンマンライブ史上最大規模となる会場Zepp DiverCityにて行われた。
もともと同ツアーの最終公演は26日の予定であったが、ツアーの途中で27日の公演が追加で発表され、Zepp公演2daysが実現する運びとなった。そうした流れから、今、彼女が、いかに多くのリスナーから熱い支持と期待を集めているかが伝わってくる。
遡れば、にしなは、昨年の秋以降、2ndアルバム『1999』のリリースツアー、年末フェス、年明けから始まった弾き語りツアー、そして春フェスを経てスタートした今回のライブハウスツアーというように、足を止めることなく全国各地を周り、いくつものライブやフェスのステージに立ち続けてきた。今回のZepp公演2daysは、そのようにして一人ひとりのリスナーと丁寧にコミュニケーションを重ね、音楽を通した繋がり合いのスケールを拡大し続けてきたからこそ辿り着いた舞台であり、また、そうした数々の経験を通して大きく成長した姿を高らかに示す場となった。
はじめに結論から書いてしまえば、今回の最終公演は、今まで以上に親密で、熱く、そして開かれたコミュニケーションに満ちたライブであったように思う。一つひとつの楽曲が披露されていくたびにステージとフロアの境界線がゆるやかに溶けていくような、会場に集まった全員で一つのライブ空間を共に作り上げていくような、そうした温かな、そして熾烈な一体感に満ちたライブだった。順を追って書き記していきたい。
開演前、まず、ステージの中央に設置されたソファーやクッション、本棚、観葉植物、また、「247(にしな)」という数字を載せたパネルが目を引く。まるで、気心の知れた友人の家のリビングルームのような親密さを感じさせる空間だ。定刻を少し過ぎた頃、クランベリー色のカーディガンを纏いステージに現れたにしなは、ソファーに腰掛けてリラックスした後にそっと立ち上がり、白い扉にペンキで、今回のツアータイトルの英題「With Cranberry Jam」と書き上げていく。そして、バンドメンバー全員がステージインしたタイミングで、オープニングナンバーの「ランデブー」へ。にしなは、ステージの端から端までめいっぱい動き回りながら一人ひとりの観客とコミュニケーションを重ねていく。続く「東京マーブル」では、手持ちのバブルマシーンでシャボン玉を振り撒いたり、クッションを高く投げたりしていて、このライブ空間を会場の誰よりも楽しもうとする彼女の心意気が伝わってきた。また、「夜間飛行」では、《君》という歌詞に合わせてフロアを、《僕》という歌詞に合わせて自らを指差しながら、同じ空間・時間を共にするライブだからこそのリアルなコミュニケーション実感を一人ひとりの観客と共有していく。
初めてのMCで、にしなは、この日の公演をもって今回のツアーが終わってしまうことを惜しみつつ、「共に最後まで燃え尽きていってもらえたらなと思います。」と力強く告げた。「夜になって」では、ステージ上の気温の高さ故か、それまで纏っていたカーディガンを脱ぎ捨て、「U+」では、サビでフロアにマイクを託して観客にシンガロングを求めていく。一人ひとりの歌声を体全体で浴びながら、何度も飛び跳ねていた彼女の歓びに満ちた表情が忘れられない。強靭な4つ打ちのビートと激烈なバンドサウンドを追い風にしながら、鮮やかなダンスフィーリングを届けてみせた「透明な黒と鉄分のある赤」も圧巻だった。
並々ならぬ熱気に満ちたフロアを前にして、にしなは、「一緒に歌えるの最高」「声出しライブって最高」と万感の想いを告げた。筆者は、これまで何度も彼女のライブを観てきたが、これほどまでに熱い一体感が会場全体に満ちた公演は初めてだったたように思う。熱烈なライブパフォーマンスでフロアを魅了してみせた前半だったが、もちろん彼女が誇る強みはそれだけではない。ここから、にしなのソングライターとして、そして、シンガーとしての果てしないポテンシャルを示す渾身のナンバーが次々と披露されていく。温かなバンドサウンドに乗せてしなやかなロングトーンを響かせた「春一番」。あまりの美麗さと深淵さ故に、神秘ささえ感じさせる至極のメロディを歌い届けた「青藍遊泳」。言葉を失うほどに美しい旋律に乗せて、狂おしく昂る切実な恋心を共有した「ヘビースモーク」。そして、壮大で奥深きメルヘンチックな世界の中で、《僕らはきっと変わらぬ愛を歌う》という揺るがぬ覚悟を伝えた「1999」。輝かしい普遍性を帯びたメロディの力。儚くも逞しい響きを誇る歌声の力。そうした音楽の原初的なエネルギーに、何度も圧倒された。
本編ラストは、にしなの誕生日である7月25日に配信リリースされたばかりの新曲「クランベリージャムをかけて」だ。同曲における豪快にうごめくバンドサウンドは、これまでに披露されたどの曲よりも鋭くフィジカルに直接的に訴えかけてくるもので、徹底的に磨き抜かれたダンスビートと相まって、快楽中枢を何度も繰り返して刺激された。音源を聴いた時にも感じたが、改めて、なんて痛快なダンスチューンなのだろう。にしなは、自らに残されたエネルギーの全てを絞り尽くすように全身全霊の歌声を届け、そして、彼女の想いに応えるようにフロアからたくさんの手が上がる。楽曲の後半では、ライト入りのカラフルなバルーンがフロアに投下され、クレイジーな狂騒感の中でこの日の本編は幕を閉じた。
アンコール1曲目「ケダモノのフレンズ」では、観客と一緒にグッズのしっぽを振り回し、2番のサビでは、「せーの!」という力強い合図と共にマイクを丸々フロアへ託してみせる。それは、この日のライブを一緒に作り上げた観客に対する信頼の表れであったのだろう。楽曲のラストでは、ソファーから思いっきり飛び降りた際に着地に失敗し、歌いながら思わず笑みを溢した一幕も。にしなは「今日はすごい恥を晒してる気がする(笑)」と振り返っていたが、そう語る彼女の表情は、この日のライブに対する確かな充実感を感じさせるものだったように思う。「最後なので、燃え尽きて終わろう」と告げた後、にしなは、爆速でエレキギターをかき鳴らし、一度演奏を止め、「もう1レベル上がれるかも。」「もっと元気が欲しいかも」とフロアを煽る。そしてそのまま、先ほどよりさらに速いスピードで「アイニコイ」へ。まるで限界を突破するかのような爆烈なロックンロールチューンをもって、この日のライブ、および今回のツアーは美しい大団円を迎えた。
繰り返しにはなるが、今回の公演は、今まで以上に親密で、熱く、そして開かれたコミュニケーションに満ちたライブであったように思う。26日(水)のセミファイナル公演のMCで、ライブは与える場である以上に観客から受け取る場であると語っていたように、これからも彼女は、ライブの場を通したリスナーとのコミュニケーションを重ねていく中で、ポップミュージシャンとして絶え間なく進化・変化し続けていくはず。来年には、計12,000名超動員の大規模ツアーが控えている。今回のツアーを通して出会えた人たちと再会するために、そして、まだ出会ったことのない人たちと音楽を通して繋がるために、彼女はこれからも歌を歌い続ける。来年のツアーを終えた後、いったい彼女は、どのような大きな進化・変化を遂げているのか。今はまだ全く想像もつかない。
Text:松本侃士
Photos:renzo masuda
◎公演情報
【にしな ライブハウスツアー「クランベリージャムをかけて」】
2023年6月24日(土)北海道・札幌PENNY LANE 24
2023年7月8日(土)福岡・DRUM LOGOS
2023年7月13日(木)大阪・なんばHatch
2023年7月14日(金)愛知・名古屋DIAMOND HALL
2023年7月17日(月祝)宮城・仙台Rensa
2023年7月26日(水)、27日(木)東京・Zepp DiverCity
<セットリスト>
M1 ランデブー
M2 東京マーブル
M3 真白
M4 夜間飛行
M5 夜になって
M6 FRIDAY KIDS CHINA TOWN
M7 U+
M8 透明な黒と鉄分のある赤
M9 春一番
M10 centi
M11 青藍遊泳
M12 スローモーション
M13 ヘビースモーク
M14 1999
M15 クランベリージャムをかけて(新曲)
En1 ケダモノのフレンズ
En2 アイニコイ
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