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7月2日、米津玄師が全国ツアー【米津玄師 2023 TOUR / 空想】のファイナル公演を神奈川・横浜アリーナにて開催した。
昨年に行われたツアー【米津玄師 2022 TOUR / 変身】に続き、全国11か所24公演を回ったツアーの最終日。息を呑むような美しさに満ちたステージだった。そして、これまでに増して米津玄師のエンターテイナー精神、オーディエンスへの親密さを感じさせてくれるライブだった。
開演時刻を過ぎると、神秘的で繊細なSEが響く中、米津玄師と、中島宏士(Gt.)、須藤優(Ba.)、堀正輝(Dr.)、宮川純(Key.)というバンドメンバーがステージに登場。大きな拍手が彼らを迎え入れる。1曲目に披露したのは「カムパネルラ」だ。背後のビジョンには、星空にかかる線路を走る“銀河鉄道”を描いた映像が映し出される。まるでオーディエンスを“空想の旅”に誘うかのようなオープニングだ。続く「迷える羊」では、米津はマイクを強く握り、大きく手を広げて朗々と歌声を響かせ、「感電」ではホーン隊としてMELRAW HORNSの面々が登場、辻本知彦率いるダンサー・チーム“TEAM TSUJIMOTO”が躍動感たっぷりのダンスで華やかにステージを彩る。
「どうも、米津玄師です!」と力強く挨拶し、「最後の最後なので、気合い入れてやりたいという言葉があればいいのかなと思うけど、いつも通り、みんなと一緒に楽しくやれたらなと思います。今日もよろしく」と告げた米津は、続けて初期の名曲「街」を披露。LEDライトが米津とバンドメンバーの頭上まで降りた狭いステージセットで優しいメロディを丁寧に歌い、「Décolleté」ではオーディエンスの手拍子とともに妖艶な歌声を響かせる。オレンジ色の光に包まれて歌った「優しい人」から「Lemon」へと、前半は切実な思いを美しいメロディにのせて描く曲を続け、オーディエンスは表情豊かなその歌声にじっくりと聴き入る。そして「Lemon」の中盤では、この日のスペシャル・ゲストとしてダンサーの菅原小春が花道に登場。スポットライトに照らされ、目を奪うような身体表現を見せた。
幻想的な星空の映像をバックに「M八七」を高らかに歌い上げた米津は、「みんな元気かい!? 今日は来てくれてありがとう」と笑顔で告げる。「めちゃくちゃ楽しいんだよね、今。みんなも一緒の気持ちであってくれたらいいなと思ってます」と言い、「最近、すごい楽しいことがあったんですよ。……みんな、マインスイーパって知ってますか?」と、ここからのMCではマインスイーパへの愛を巧みな話術で語った。楽曲制作の合間に休憩がてらにゲームを始めるようになったら、すっかりハマってしまって、作業の時間が奪われるようになったり、道を歩いていてもタイル張りの壁を見るとゲームのことを思うようになったり、どんどん日常生活を侵食していったのだという。「極端にハマったときがあって、1日に12時間ぶっ続けでやっちゃったんです。自分の意志でやってるんだけど、楽しいなと思ってるんだけど、頭のどこかで『助けてくれ!』と思いながらやってるんですよね」と、〆切に追われながらゲーム漬けになっている日々を語った軽妙なトークには、会場から笑いと拍手が起こる。まるで落語や漫談のようなムードだ。米津は「ざまぁねぇなとはこのことですよ。私の人生、毎回毎回こんな感じなんですよ。〈いつもどおりの通り独り こんな日々もはや懲り懲り〉って。そんな曲があったような気がするから、これから歌わせてもらいます!」と「LOSER」へ。激しいシャウトを繰り出し、ステージ奥で変形した3層の鉄骨トラスを登り、ダイナミックなパフォーマンスを見せる。〈ほら長い前髪で前が見えねえ〉という歌詞を歌いながら、センター分けになっていた前髪をくしゃくしゃと掻きむしる姿がビジョンに大写しになる。
後半はアグレッシブなバンドサウンドの曲を立て続けに披露していく展開だ。続けての「Nighthawks」では、間奏に中島がBUMP OF CHICKEN「天体観測」のイントロのギターフレーズを弾き、続けて米津が〈懐かしい音楽が頭のなかを駆け巡る/お前は大丈夫だってそう聞こえたんだ〉と歌う一幕も。銀テープが舞い、高揚感たっぷりのムードの中、「ひまわり」「ゴーゴー幽霊船」と続けて会場のボルテージをどんどん上げていく。それが最高潮に達したのが「KICK BACK」だ。3層の鉄骨トラスの上に陣取ったダンサーたちが躍動的な動きを見せ、舞台のあちこちから炎が上がり、米津の手持ちカメラが捉えたバンドやダンサーたちの姿がビジョンに映し出され、米津自身もカメラに向かってシャウト。熱狂が会場を包む。
続いてのMCで、米津はツアータイトルの「空想」に込めた思いを語った。「空想家の子供だった」と内にこもって頭の中で空想を繰り広げていた子供時代を振り返り、「空想というものが、自分の人生の“幹”や“脊椎”のように、大きく一本通っているなという感じがするんです」と言う。内に閉ざせば閉ざすほど、頭の中にある空想が自分を癒してくれる唯一のものだった、と。「空想があったから、今の自分がある」と言い、ツアー各地でたくさんのお客さんを前にしてきたことに触れて「自分が空想家であったおかげで、曲を作り、人と関わりを持てた。すごく幸福な人生だと思います」と続けた。
そして米津は「今、この場に、昔の自分みたいな奴がどれくらいいるのかということを思うんです」と言う。内にこもって、頭の中でいろんなことを考えて、ひねくれて、日常生活を上手くやっていけない、ライブでもひとつになって盛り上がれない。そういうかつての米津のような心性を持った若い世代に向けて「いろいろあるかもしれないけれど『大丈夫だよ』ということは言ってあげたい」とメッセージを投げかけた。「少なくとも自分はこういう人間になった、すんでのところで世を呪わずに生きてこれた」と。とても胸に迫る瞬間だった。
語り終えた米津は、6月26日にデジタル・リリースされた『FINAL FANTASY XVI』のテーマソング「月を見ていた」を歌った。大きな月の幻想的な映像を背後に「自分にとって大事な曲になった」というこの曲を歌い、さらに「打上花火」「灰色と青」と少年時代のノスタルジックな光景を思い起こさせるような楽曲を続ける。愛らしいメロディの「かいじゅうのマーチ」も、MCで語った“空想家”としての米津玄師の原点を感じさせるような一曲だ。
そして本編ラストは「馬と鹿」。花道をゆっくりと歩いていく米津にダンサーたちが追いすがるような動きを見せ、最後には全員が身体中のエネルギーを解き放つような迫真のパフォーマンスを見せる。「どうも米津玄師でした、ありがとうございました!」とライブを締めくくった。
アンコールを求める大きな拍手に迎えられて登場した米津は、まず未発表の新曲を披露。おおらかなメロディを優しく歌う一曲だ。バンドメンバー紹介に続いては、米津のライブで毎回お馴染みとなっている幼馴染のギタリスト、中島とのトークへ。ユーモアたっぷりのやり取りに会場は再び笑いに包まれた。続けてTEAM TSUJIMOTOと菅原小春、MELRAW HORNSをステージに呼び込み、「POP SONG」は全員が揃ったにぎやかな編成で披露した。ダンサーたちが縦横無尽にステージを動き回り、ホーン隊も花道に歩み出て、米津はトリックスターのようにコミカルな動きを見せながらケレン味たっぷりに歌う。「Flamingo」から、「最後まで楽しんで行こう!」と呼びかけた「春雷」と、華やかでカラフルな曲を続ける。
そして、ラストナンバーは「LADY」。米津は軽やかなステップを踏みながら歌い、幸福感あふれるムードが会場に広がる。歌い終えた米津が深々と頭を下げてステージを去っていくと、ビジョンには冒頭の「カムパネルラ」で現れた“銀河鉄道”が再び現れる。まるで米津を乗せて星空の中に走り去っていくかのような、ファンタジックな余韻が最後に残った。
「自分の音楽がどこからやって来たのかをみんなと確認しあう、そういうツアーになればいいなと思ってこのタイトルをつけました」――と、米津はMCで語っていた。圧倒的なパフォーマンスを繰り広げた全23曲。そこには、熱狂だけでなく、“楽しさ”の実感もあった。そして、米津玄師という表現者の根源の部分にある感性や美学に触れたような感触もあった。きっと多くの人が、深く胸が揺さぶられるような感動を持ち帰ったのではないだろうか。
Text by 柴那典
Photo by 太田好治、ヤオタケシ、横山マサト、立脇卓
◎公演情報
【米津玄師 2023 TOUR / 空想】
2023年7月2日(日) 神奈川・横浜アリーナ
<セットリスト>
01. カムパネルラ
02. 迷える羊
03. 感電
04. 街
05. Décolleté
06. 優しい人
07. Lemon
08. M八七
09. LOSER
10. Nighthawks
11. ひまわり
12. ゴーゴー幽霊船
13. KICK BACK
14. 月を見ていた
15. 打上花火
16. 灰色と青
17. かいじゅうのマーチ
18. 馬と鹿
En1. (新曲)
En2. POP SONG
En3. Flamingo
En4. 春雷
En5. LADY
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