2023年の個人的上半期ベストライヴを振り返る5曲

2023年6月19日 / 18:00

2023年の個人的上半期ベストライヴを振り返る5曲 (okmusic UP's)

ライター業は11年目に入り、このコラムの連載開始から約8年が経過。仕事で音楽に携わるようになったら自腹を切ってライヴに行くこともなくなるのかと思いきや、むしろ財布の紐は緩くなる一方。秒刻みで刷新されていくオーバーグラウンドも、自身の根幹を築いたアンダーグラウンドも、どちらも平等に愛しく、非課税の5兆円さえあればずっと耽溺していたいと心を揺さぶられるばかり。「音楽が好きです」と言い切れるほど音楽を聴けている自信はないですが、今回は2023年の上半期にぶちのめされたライヴの思い出と、心臓を抉られるような感動に打ち震えた楽曲をご紹介します。頭をぎりぎり締め付ける低気圧も、肌をざむざむ刺す酷暑も振り払って、ライヴハウスで会いましょう。
「Devastated」(’02)/ スケボーキング

「令和にスケボーキングが復活するとは思いませんでしたよ!」という衝撃、ライヴでしか聴けなかったThe Chemical Brothers「Galvanize」ぶっこぬきナンバー「Devastated」の公式動画解禁の歓喜から早3年。現実の速度よりも何倍もスピーディーに感じさせるの突き抜けたハイトーンヴォイスと腹の底から沸騰するロウヴォイスの応酬、極太かつ滑らかなベースラインが、流麗で荘厳な音塊で構築された「Galvanize」をカリカチュアライズしながら撃ち抜いていく痛快さが堪らない。汗とアルコールでびしょびしょになったフロアーの裏側を刺激し、踵から脳天までを一気に跳ね上げさせる、危険度マックスなのに極めて合法的な重低音のパワーは、ミックスやマッシュアップではなく“VS”と冠するのが相応しい。
「花降る時の彼方」(’23)/君島大空

君島大空というアーティストの途方もない才能を目の当たりにした瞬間をどれほどドラマチックに飾ろうとしても、羽よりも軽く、高く舞い上がる作品に、言葉を紡ぐ口も指も沈黙のために動きを止めるしかなくなる。別れを厭う歌詞の一節から無限に広がる抒情と情景の自由さ、重ねられるごとに透明度を増す風通しの良いウィスパーヴォイス、爪弾かれる硬質な弦の音が生まれてから消えるまでの濃密な命のありよう、幾千もの画角を象るように打たれるドラム、風に似た雄大さを描きながら滑り込むピアノの音色の呼応に耳をすます贅沢さ。ほんの数秒で終わってしまうようにも、永遠に続いていくようにも感じられる、とびきりの時間の魔法がかけられた6分4秒。美しく、さらさらとした肌触りで、とても強い。
「もう俺らは我慢できない」(’23)/GEZAN with Million Wish Collective

生命の蠢きがはちきれんばかりが詰め込まれた《もう俺らは我慢できない》の叫びを翼の代わりにして、新たな分断を飛び越えるマヒトゥ・ザ・ピーポーの声が、あらゆるカテゴライズをぶち破る怒りと純真さを脈動させながら、《ため息に消費税がかかる》《いつまで清志郎に頼ってるんだ?》といったパンチラインを矢継ぎ早に放つ姿に、どれだけ涙を溢しただろう。トライバルなリズムのど真ん中から、灼熱の陽光よりも眩しく、鋭く、体を貫くノイジーなギターとベース、煌びやかな光線を刻むトランペットの力強さに、何度拳を握り直しただろう。全ての生活と“カルチャー”と呼ばれるものが地続きで、目に映る光景も耳に入る音も皮膚を撫でる感触もまったく関係ないなんてことはないと、丸まってしまいそうになる背中を容赦なく叩く一曲。
「くじらの歌は聴こえない」(’23)/曇ヶ原

鬱蒼とした闇を羽織ってステージに現れた曇ヶ原の、Black Sabbathにだててんりゅうがめり込んだかのごとき一音が鼓膜を叩いたその一瞬、「どうしてお前は今まで『曇ヶ原の音楽に触れない』という人生を選んでいたのか」と過去の自分を叱りたくなった。孤独感に根ざした愛への渇望を痛切な声で表す歌心、高い湿度をはらんだまま深く潜り込むサイケデリア。職人技を思わせる緻密さと初期衝動を失わない情動が、水面の光を浴びた鱗のようなきらめきと暗色を交錯させながら編み上がっていく。驚愕で開いたままの口から楽曲を飲み干せば、喉から骨まで虹色に染め上がってしまいそうな目まぐるしい展開のプログレッシブロック。こんな音楽をずっと待っていた。
「MAGIC SQUARE THEME」(’23)/ igloo

「魔法陣のテーマ」は、若林一也(Sax)、田島拓(Gu)、岡部琢磨(Ba)、KAZI(Dr)からなるiglooの1stアルバム『PARASITE SYSTEM』に収録されているキラーチューン。音の主軸となるジャズに、サイケ、ファンク、ロックのエレメントが飲み込まれるのではなく、横断するのでもなく、落とし込まれるのでもなく、タイトに収斂されていくアヴァンギャルドな音楽性には、その場に居合わせた人間を確実に踊らせる強烈な魔力が効いている。何もかも曝け出して命ごとぶつかってくる天衣無縫で無垢なサックス、継ぎ目のないリードベース、繊細さと沸点を越えたタフネスが共鳴するギターとドラムが繰り広げる、青い火花が飛び散りそうな鍔迫り合いは、いくつもの修羅場をくぐり抜けた音楽家だけが作り上げられる、言語化不可の多幸感の極地。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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