<ライブレポート>星街すいせい2ndライブ【Shout in Crisis】――悲哀の果てを目指す旅路、祝祭の一夜を振り返る

2023年3月21日 / 18:00

 ホロライブ所属のVTuber、星街すいせい。VTuber史上初の『THE FIRST TAKE』出演が大きな話題を呼んだことも記憶に新しく、1月20日にプレミア公開された「星街すいせい – Stellar Stellar / THE FIRST TAKE」は、最大時には16万人以上の視聴者数を記録したということからも、その注目度の高さが窺える。1月25日にリリースされた2ndアルバム『Specter』は、Billboard JAPANダウンロード・アルバム・チャート“Download Albums”で初登場首位を獲得するなど、まさしく彗星の如く、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

 このたび、彼女の2ndライブ【Hoshimachi Suisei 2nd Solo Live “Shout in Crisis”】が開催された。ライブは自身二度目の有観客で行われ、会場の東京ガーデンシアターには多くのファンが集結。タイミングよく前日にイベント時の声出しが解禁されたこの日は、星街自身にとってはもちろん、居合わせたオーディエンスにとっても鮮烈な記憶として、いつまでも余韻と興奮を噛み締め続けた一日になったのではないか。2月28日まで1か月間残されたアーカイブ配信もひとまず終了したので、ネタバレを気にせずあのメモラブルなライブを振り返ってみたい。

 今回のライブについて、星街は事前の取材で「1本の映画を見終わったような気持ちになれる仕掛け」を用意していると語っていた。バンドによる威勢のいい演奏から公演タイトルのロゴが映し出され、続いて彼女の歩みを振り返るような映像が流されると、1stアルバム『Still Still Stellar』のリードトラックであり、前回の1stソロライブ【Hoshimachi Suisei 1st Solo Live “STELLAR into the GALAXY”】では本編のラストを締めくくったナンバー「Stellar Stellar」が始まる。さながら星の王子を思わせる衣装も“あのとき”と同じ。2021年10月に行われた【STELLAR into the GALAXY】から今回の【Shout in Crisis】へ、二つの物語が時を経てつながり、ひとつの伏線が回収されたような感慨を覚えるプロローグだった。

 2ndアルバム『Specter』はサウンドのバラエティとクオリティ、その両方の強化をとことん突き詰めた1枚だった。ただし、その前提条件として、この日のライブを見据えた“バンド・サウンド”で構築したアルバムでもある。「Stellar Stellar」のエンディングに不穏なノイズが重なり、そのままCO2の連射とともになだれ込んだ「TEMPLATE」は、キタニタツヤ作詞作編曲によるヘヴィなロック・ナンバーで、メタリックなギターリフが唸りを上げるパフォーマンス。多彩な声のアプローチでも楽しませるニュー・ジャック・スウィング「TRUE GIRL SHOW」にしろ、分厚いスラップベースが縦横無尽にうねりまくる「灼熱にて純情(wii-wii-woo)」にしろ、『Specter』の楽曲群に生バンドによる生命力が次々と吹き込まれ、フィジカルな輪郭を獲得していく様はとにかく圧巻だ。

 ワンマンならではのスペシャルな見どころも目白押しだった。みきとPが1stアルバム『Still Still Stellar』に提供した「駆けろ」、そして彼のボカロ曲「サリシノハラ」のカバーは、本人をギタリストに迎えて のコラボレーション。ライブ後半では同じく『Still Still Stellar』収録曲「バイバイレイニー」を、楽曲提供者の堀江晶太とともに演奏し、堀江がボカロP“kemu”名義で発表した「敗北の少年」のカバーも披露した。また、中盤に披露した「7days」ではスクリーンに星街の幻影のような姿のアバターが現れるなど、VTuberならではの表現でもステージを演出する。

 MCでは「いつもの“アイドルVTuber星街すいせい”とはちょっと一味違う私をお見せできればと思います」と語った星街。そもそも2ndアルバム『Specter』は彼女が普段の配信では見せない、活動者としての苦悩や葛藤、怒りといった負の側面を表層化させたアルバムであり、カラフルでポップでキラキラな“アイドル”路線に直球を投げ込むような楽曲が多かった1stアルバムとは、たしかにひと味もふた味も違う。大人の世界にデビューする女性の社交界から着想を得た「デビュタントボール」から、退廃的な破滅願望を歌う「褪せたハナミドリ」への流れは、ピアノの旋律も絶妙なつなぎの役割を果たし、アルバムのテーマと共振する一本筋の物語性をとりわけ強く感じさせた2曲だった。

 その後は衣装チェンジを経て、YOASOBIのコンポーザーであるAyase 作詞作編曲による2ndアルバムのリードトラック「みちづれ」へ。たしかに『Specter』は星街がネガティブな感情を主成分として作り上げたアルバムだが、同時にその憂鬱や悲哀の果てにあるものを表現したアルバムでもあるということが、この「みちづれ」を聴けば感じられるはず。<そしていつの日か私と/貴方の旅が終わり迎えた日には/抱え集めてきた荷物をただ/放り投げて笑い合おう/そんな旅路を共にゆこう>。華やかに鳴り響くホーンの音色、地を這うような低音と美しいファルセットを自在に行き来するボーカリゼーション、後ろ髪を縛り、凛とした雰囲気を纏った星街の佇まい。この日のショーの展開部であり、ひとつのハイライト的な一幕だろう。

 意欲的な音楽活動を続けながら“VTuber/アーティスト”の新しい可能性を開拓し続ける星街すいせい。前述した堀江晶太とのコラボ・パフォーマンスに続き、バンド演奏によるインタールードを挟んで披露された新曲「先駆者」は、そんな彼女のフロンティア精神を山内総一郎(フジファブリック)が雄大なロック・アンセムに昇華させたナンバーだ。「優しい言葉だけ君に届いてほしい」と願う「放送室」に続いた「Newton」、圧倒的な祝祭のムードの中で放たれた彼女 の「大好き!」という叫びも含めて、本編終盤は彼女が自身の活動に込める想い、熱量、愛をファンとともに再確認するような、深い感慨を覚える幕切れだった。

 鳴り止まないアンコールに心地いい横揺れグルーヴの「Damn Good Day」で応えると、『Specter』のタイトルの元ネタであり、彼女の音楽表現の転換点にもなった「GHOST」を続け、最後はありったけのポップネスを解放する「ソワレ」でフィニッシュ。熱でその身を溶かしながら夜空を駆け、地上の私たちを照らすほうき星は、最後に超新星の如く眩い光を放ち、物語の幕を引いたのだった。終演後の特報映像では早くも3rdライブの開催をアナウンス。物語は次のステージへ向かう。

Text:Takuto Ueda

◎公演情報
【Hoshimachi Suisei 2nd Solo Live “Shout in Crisis”】
2023年1月28日(土)
東京ガーデンシアター
<セットリスト>
1 Stellar Stellar
2 TEMPLATE
3 TRUE GIRL SHOW
4 灼熱にて純情(wii-wii-woo)
5 駆けろ
6 サリシノハラ
7 デビュタントボール
8 褪せたハナミドリ
9 みちづれ
10 7days
11 バイバイレイニー
12 敗北の少年
13 先駆者
14 放送室
15 Newton
En.
16 Damn Good Day
17 GHOST
18 ソワレ


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