GOOD ON THE REEL、いつも通りで最高のライブで髙橋誠(Dr)の旅立ちを祝福

2023年3月20日 / 20:15

3月19日@東京 渋谷Spotify O-Crest photo by 福政良治 (okmusic UP's)

3月19日、GOOD ON THE REELが渋谷Spotify O-Crestにて『HAVE A “GOOD” NIGHT vol.125 ~HAVE A “GOOD” LIFE~』を開催した。昨年10月、リーダーの高橋誠(Dr)が2023年3月末をもってバンドを脱退すると発表。高橋にとってラストツアーとなる本ツアー『HAVE A “GOOD” NIGHT vol.122-125 ~HAVE A “GOOD” LIFE~』は、高橋が自ら、思い入れのあるライヴハウスを会場に選んだという。東阪で全4公演を行った本ツアーのチケットは全公演ソールドアウト。2月4日から始まったツアーは、新宿Marble、大阪 LIVE SQUARE 2nd LINEを経て、3月18日~19日の2DAYS、東京 渋谷Spotify O-Crestでファイナルを迎えた。

満員の観客。客席がスッと暗くなる。SEに合わせクラップが起こる。メンバーが順番にステージへ。高橋が出て来た瞬間、拍手が一段と大きくなる。スタンバイするメンバー。「こんばんは、GOOD ON THE REELです、どうぞよろしく」と千野(Vo)のひとこと。その後、高橋のカウントから「砂漠」へ。スケール感あるアップチューンでライブは幕を上げた。序盤はアップチューンを連発し、会場のボルテージをどんどんあげていく。どの曲も高橋のカウントから始まる曲間のつなぎも印象的だ。これだけ高橋のカウントから始まる曲が続くセットリストは、これまでなかったのではなかろうか。薄いブルーのライトの中で披露した「rainbeat」ではというワンフレーズに合わせ、岡﨑(Gt)が高橋の方を向きタイミングを合わせて各楽器の音量をあげ、続くというフレーズで音量を下げるという、ライブハウスだからこそ気が付く、息のあったパフォーマンスを見せた。MCで、高橋が全公演のセットリストを組んだことに触れた千野は「すっごい攻め攻め(のセットリスト)だから」と観客を笑わせる。その様子を見た高橋は、うんうんと頷いている。宇佐美(B)が「攻めれば攻めるほど、1番心配なのがあなた(=千野)なのよ」と言うと、ステージも会場も爆笑。笑いながら千野がこうまとめた。「それぞれのペースで。オレもオレのペースで。みんなはみんなのペースで楽しんでもらえたら、まこっちゃん(=高橋)もこのセットリスト作った甲斐があります」観客は大きな拍手でレスポンスした。真っ赤に染まるステージ。力強いドラムから、エモーショナルなミディアムチューン「いらない」へ。千野が、ロングトーンでしゃくりのようなアプローチ。千野のロングトーンは、優雅で雄大な、安定したデクレッシェンドを描く印象が強い。それがこのバンドのサウンドのスケール感にもつながっている。しかしこの日は、ロングトーンで少ししゃくるようにヴィブラートをかけた、否、かかったと言った方がいいだろう。攻め攻めのセットリストが理由なのか、いつもより感情移入して歌うことが出来たのか。きっと理由はその両方だ。高橋が最後に聴きたい一緒に鳴らしたいと思ったのは、千野のロングトーンだったのではなかろうか。90年代のUKロックを彷彿させつつ、サビではディスコビートのベースラインが楽しいブライトなアップチューン「シャワー」では、繰り返されるという歌詞に合わせて、千野と満員の観客が右手を大きく回す。その様子に、それまで今日この日のステージからの光景を目に焼き付けよう……そんな気持ちが見え隠れした高橋の表情も笑顔になった。

高橋がマイクをとる。どう? 泣きそう?……と、まるで楽屋にいるかのような雰囲気で高橋に話しかける千野、岡﨑、宇佐美。高橋は泣きそうにないけど、3人が泣いたりしたらきてしまう、だからやめてねと会場全体を和ませた後、自身が決めた脱退に「この日を用意していただいて。迎えられて大満足です」と。さらにコロナ禍の中で迎えた15周年、伊丸岡の活動休止など、この数年のGOOD ON THE REELの苦難の状況に触れ、大変なこともいっぱいあったと述べた後こう言った。

「ずっとバンドをやってきた中で、脱退を決めてからが充実して1番楽しかった。最高に楽しいひとときでした。ありがとうございます」

ライブは終盤へ。GOOD ON THE REELのライブを象徴する1曲「手と手」へ。これ以上にないストレートな言葉で始まるタイトなビートが効いたアップチューンである。観客のたくさんの手の平がステージに向けられる。笑顔で少し前のめりになる千野。岡﨑、宇佐美、高橋も演奏しながら、時折観客を見つめ、笑顔でレスポンスしている。ライブでは当たり前の光景だ。どんなバンドにも同じようなシーンが必ずある。ただ、GOOD ON THE REELにしかないムードがある。一体感とはまた違う、そう、例えるなら観客との会話。ライブハウスという規模や距離感などは関係なく、GOOD ON THE REELはいつも楽曲で観客と会話しているように思うのだ。それは千野が描き出す、機微と行間を駆使した歌詞によるところも大きいが、GOOD ON THE REELのサウンドそのものに、明るさ、優しさ、強さ、そして包容力があるからだと思う。安心して音楽に身を委ねられるーーそんな、そこにいる人達同士、全員の中に、音楽を通して信頼関係が成立している。それがGOOD ON THE REELというバンドの武器であり、間違いなく真骨頂だと思う。

トリプルアンコールまで含め、この日演奏されたのは全20曲。トリプルアンコールに応えてステージに登場したメンバー。高橋は「最後だから欲しがるよね~。ありがとうございます」と観客を笑わせ、ドラムセットの前へ。他のメンバーもスタンバイしている中、宇佐美が千野に何やら耳打ち。笑った千野は、その後、高橋の元へ。高橋に耳打ちすると、高橋は“えっ! 無理じゃない?”みたいな表情を一瞬するも、即、よりわかった、とばかりに頷いた。最後の曲を演奏しようと、改めてスタンバイするメンバー達。その様子に岡﨑が、ノンマイクで「オレ、何も伝えられてない」とひとこと。びっくりした表情を見せている。ざわつく会場。千野、高橋、宇佐美に、大丈夫(岡﨑は)変わらないから、大丈夫大丈夫と、言われ、ちょい渋々ながらも、大丈夫ならいいけど…と気持ちを切り替えた岡﨑。高橋が「素晴らしき今日を……」と言い、スティックでカウントをとったあと「始めよう!」と叫び「素晴らしき今日の始まり」へ。いつもは千野が言う曲前の台詞を高橋に切り替えたのだ。観客はこの日1番の盛り上がりで、このサプライズに応えた。演奏が終わり、ステージ中央に出て来た高橋がマイクをとった。

「ありがとうございました。またどこかで。GOOD ON THE REELのライブとかで会いましょう。本当、今日はありがとうございました。気を付けて帰ってください」

最後の言葉は、いつも通りの「気を付けて帰ってください」だった。ライブ中、宇佐美もMCで言っていたが “いつも通りのライブをやる”ことが本ツアーのテーマだったそうだ。GOOD ON THE REELと観客は、いつも通りのライブで、否、いつも通りで最高のライブで高橋の旅立ちを祝福した。

気になるGOOD ON THE REELの今後についてだが、千野の本編でのMCを最後に記しておく。

「何かを判断する時は自分で決めるしかない。責任は自分にしか取れないから。いろいろあって大変な、そんな時、気持ちがグシャッとなった時、GOOD ON THE REELの音楽を聴いて、心の力を抜いてくれたらいいなと思います。支え合って手を取り合って生きていきたい。これからもGOOD ON THE REEL続いていくので、支え合っていきましょう」

photo by 福政良治

text by 伊藤亜希


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