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5月13日と14日に埼玉県・秩父ミューズパークで開催される【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023】2日目のヘッドライナーとして、ディナー・パーティーの出演が発表された。
ディナー・パーティーは、プロデューサーでサックス奏者のテラス・マーティン、キーボード奏者ロバート・グラスパー、そしてサックス奏者のカマシ・ワシントンが勢揃いした、信じられないほど豪華なメンバーによるユニット。10代の頃からの旧友であるマーティンとグラスパーが一緒にツアーをやろうということになったのがそもそものきっかけで、そこにやはりマーティンとは30年来の親友のカマシと、プロデューサーでラッパーの9thワンダーが加わって、2019年の年末にレコーディングが行われた。
2016年にビルボード・ジャパンで掲載されたインタビューで、マーティンはカマシとの長く深い付き合いについて、「俺たちは一緒に育った仲間なんだ。ほとんどみんなLAのサウス・セントラルかイングルウッド出身で、俺とカマシ、それからサンダーキャットとロナルド・ブルーナーJr.なんかは、音楽以前に親友なんだ。もし音楽をやってなくても、誰かの家でつるんでる。家族みたいな存在で、だから俺たちが奏でる音楽もアットホームな感じがすると思うんだ」と述べていた。
ロバート・グラスパーとマーティンの交友も長い。同じインタビューで、グラスパーと初めて演奏したときのことをマーティンが語っている。「あれは15歳の時、Vailのジャズ・キャンプのリビング・ルームみたいなとこで、曲はベニー・ゴルソンの『Stablemates』だった。あとは、ミュージカルのために書かれたショー・チューンとか」。ちなみにカマシとグラスパーが参加したテラス・マーティンの作品には、2016年の『Velvet Portraits』、ポーリーシーズ名義での2017年の『Sounds Of Crenshaw Vol. 1』がある。
そしてアルバム『ディナー・パーティー』がリリースされたのは2020年7月のこと。7トラック中4トラックにフィーリックスのボーカルがフィーチャーされ、ヒップホップ、ネオソウル、ジャズなどの要素がシームレスに繋がったサウンドが実に楽しく心地よい、まさにメンバーそれぞれが素材を持ち寄ってパーティを開いているようなミニ・アルバム(全体で約23分)に仕上がっていた。
「Spectrum Culture」のウェブサイトで、評者のボブ・フィッシュは、このアルバムを「4人の友人が集まって酒を飲み、ちょっとしたものを食べているような感じだが、実はそう単純なものではない。ジャンルをブレンドし、ジャズとヒップホップの世界を融合させた、耳に優しいサウンドを彼らは創造している」と評し、さらに歌詞については「ビートとブラスの音の向こうには、ブラック・ライヴズ・マターのコアに切り込むリリックがある」と述べている。この指摘は「フリーズ・タグ」でフィーリックスが歌っている<奴らは両手を頭の後ろに上げろって言った/(捕まえる)相手が違うと思うんだ/逃げるのは俺はもう嫌だ/愛がどこに行ったのかずっと探している>というラインを指しているのだろう。こうした、心地よいサウンドに隠されているシリアスなメッセージを、9thワンダーは「アップルソースの中の薬」、グラスパーは「オレンジジュースの中の砕いたアスピリン」と呼んでいる(「Spectrum Culture」でのフィッシュによるレビューより)。
音楽だけでなく、こうしたメッセージ性も高く評価されて、アルバム『ディナー・パーティー』は、ビルボード誌の「USトップ・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」で1位、「USトップ・ジャズ・アルバム」で2位まで上昇した。そして2020年10月には、同じトラックを大胆にリミックス・再構成した『ディナー・パーティー: Dessert』がリリースされた。こちらはトラックごとに豪華なゲストを招いていて、ラッパーのバディ、パンチ、ラプソディ、スヌープ・ドッグ、シンガーのビラル、さらには大御所ジャズ・ピアニストのハービー・ハンコックなどが参加している。ディナー・パーティーの最後に出るデザート、というには豪華すぎるこの作品は、【第64回グラミー賞】の<ベスト・プログレッシヴ・R&Bアルバム>部門にノミネートされたのだった。
コロナ・ウイルスによるパンデミックが世界に蔓延し、ジョージ・フロイドが警官によって死に至らしめられたことに端を発するブラック・ライヴズ・マターの盛り上がりが最高潮に達した2020年にリリースされたディナー・パーティーの2枚のアルバムは、日本ではそれなりの話題となったものの、たとえばカマシ・ワシントンやロバート・グラスパーの単独作品のような大ヒット、とはならなかった。
その理由を推測することは難しいが、海外ミュージシャンの来日はもちろんのこと、国内ミュージシャンのライブさえもほとんどできなかったコロナ禍1年目の日本の音楽シーンは、なごやかなパーティのような彼らの音楽をリラックスして楽しむような気分ではなかったのかもしれない。あるいは、メロウなサウンドに仕込まれていたシリアスなメッセージが、日本のリスナーには届きにくかった、ということもあるだろう。しかし何よりも大きいのは、ディナー・パーティーは一度きりの特別企画であり、継続するユニットではないのだろう、とみんなが思っていたから、なのだと思う。しかし、そうではなかったのだ。
2022年7月にカリフォルニア州ナパ・ヴァレーで開催された【ブルーノート・ジャズ・フェスティヴァル】で、ロバート・グラスパーがアーティスト・イン・レジデンスを務め、その一環としてディナー・パーティーが出演、大物ラッパーのスヌープ・ドッグ、デイヴ・チャペルと共演した。ちなみそのときのメンバーは、マーティン、グラスパー、カマシに、ベースがデリック・ホッジ、ドラムスがクリス・デイヴ、ターンテーブルがDJジャヒ・サンダンスというおそろしく豪華なものだった。
この他にも2021年、2022年に、彼らは何度かライブを行っていて、YouTubeで「ディナー・パーティー live」で検索するといくつかの映像がヒットする。リズム・セクションは日によって少しずつ変わっていて(ドラムスがジャスティン・タイソンのことが多い)、カマシやグラスパーが長いソロを取ったり、テラス・マーティンがヴォコーダーで歌ったりと、アルバムとはかなり違うサウンドを聴かせているのが興味深いところだ。その上、フィーリックスが入ったり、キーヨン・ハロルド(トランペット)がゲストで入るセットもあったりするので、さて今回は誰と一緒にどういう音楽をやるのだろう、とわくわくさせられるではないか。
ディナー・パーティーがニューヨークのヴェニュー「Terminal 5」でギグを行った2023年3月9日のタイミングに合わせて、彼らの新曲「Insane」が公開された。ここでフィーチュアされているのは、カニエ・ウェストのコラボレーターとして知られるアント・クレモンズのボーカル。エムトゥーメイの「ジューシー・フルーツ」(1983年)のドラムをサンプルした、クールなソウル・ナンバーだ。彼らはニューヨークでレコーディングを行っている最中のため、アルバムの発表もそう遠くはないだろう。
そして、3月9日の「Terminal 5」でのギグはたいへんな盛り上がりぶりだったようだ。「The Bowery Presents」のウェブサイトに掲載されたエー・シュタインによるレポートによると、この日のメンバーはマーティン、カマシ、グラスパーに加えて、バーニス・トラヴィスのベース、ジャスティン・タイソンのドラムス、イザイア・シャーキーのギター、そしてDJジャヒ・サンダンスのターンテーブル。曲によってはアリン・レイのボーカルがフィーチュアされ、ビラルも1曲ゲストで参加した。カマシとグラスパーのソロの見せ場もしっかりと用意されたギグの様子を、レポーターのシュタインは「ロック・クラブ、ダンス・クラブ、ジャズ・クラブがいっぺんに存在しているようだ」と書いている。【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN】にふさわしい「あの曲」もクライマックスで登場したそうだ。
レコーディングを行い、「Terminal 5」でのギグを済ませたディナー・パーティーは、4月にはアメリカ最大のフェス【コーチェラ・フェスティヴァル】に出演することが決まっている。5月の来日時には、メンバーたちの気持ちは最高に盛り上がっているはず。歴史に残るパフォーマンスをぜひとも体験しなくては。
Text by 村井康司
◎公演情報
【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023】
2023年5月13日(土)、5月14日(日)
12:00開場 / 13:00開演(予定)
会場:埼玉・秩父ミューズパーク
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