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2月22日、今年デビュー30周年となるICEの初期作品『ICE』『WAKE UP EVERYBODY』『ICE III』『We’re In The Mood』がアナログ盤でリリースされた。意外なことにこれが初のアナログ化である。ICEとは2007年に逝去した宮内和之(Gu)と国岡真由美(Vo)を中心としたユニットで、1993年にメジャーデビュー。本文での述べた通り、当時の他のアーティストとは一線を画すスタイルでありつつも、そのサウンドは一定の支持を受け、30年経った今でも評価の声は絶えない。今週はそのICEから4thアルバム『We’re In The Mood』を紹介する。
他の誰にも似てない音楽ユニット!?
ICEの歴代アルバム売上を見てみると、1位が今回紹介する4th アルバム売上『We’re in the Mood』(1996年)で、2位が5th『SOUL DIMENSION』(1996年)。続く3位がベスト盤『ICE TRACKS Vol.01 THE BEST OF ICE IN THE PERIOD OF 1993 TO 1998』(1998年)となっている。シングル売上は…と言うと、6thシングル「BABY MAYBE」(1996年)が1位で、3rd「SLOW LOVE」(1994年)が2位、そして7th「GET DOWN,GET DOWN,GET DOWN」(1996年)が3位なので、売上だけで言えば、1996年がICEのピークということになる。念を押す。あくまでも売上だけで見た場合だ。広く捉えて、1994年から1998年が彼らの売上のピークだったということでもいいかもしれない。興味深いのは、1998年が日本でのCD売上のピークであったということ。のちに“CDバブル”と揶揄されるようになる時期である。ICEがバブルで出てきたバンドだとか言うつもりはサラッサラない。もう一度、念を押しておく。
その1990年代後半の邦楽シーンがどうであったかを記そう。即ち“CDバブルを牽引したものは何か?”ということである。もちろんCDというマテリアルそのものの出現とその価格の安定というハード面の要因が何より一番大きいわけだが、ソフト面で言えば、(邦楽に話を絞ると)“小室ブーム”と“ビジュアル系ブーム”を含む何度目かのバンドブームがそこにあった。小室ブームは安室奈美恵、globe、trf、H Jungle With t、華原朋美。ビジュアル系ブームはX JAPAN、LUNA SEA、GLAY、L’Arc〜en〜Ciel辺りで、ビジュアル系以外のバンドではMr.Children、スピッツ、ウルフルズ、THE YELLOW MONKEY、JUDY AND MARYなどの名前が上げられるだろう。まだまだあるだろうが、代表的な存在を思い付くままに書いて上げてみた。
ICEはそのどこにも似ていない。男女ふたりのユニットというルックスで言えばglobe辺りに近いと言えなくもないけれど、小室ブーム以外のavex勢のMY LITTLE LOVER、Every Little Thingに近い気もする。ダンスチューンということで言えば、今となれば、小室ブームのいわゆるTKサウンドと同じフォルダーに入れられてしまいそうになるのかもしれない。しかし、音楽的には別物と言っていいはずである。avex勢とも異なっていると思う。
一方、サウンド面で見ると、ICEのギターサウンドは当時のバンド勢にも近い印象もある。ただ、少なくともビジュアル勢と一緒にするには無理があるように思う。音楽性ではウルフルズが圧倒的に近いだろう。だが、ルックスの違いは言うまでもない。総合的に見たら、時間軸は少しずれるけれども、2000年前後の、俗に言う“DIVA(歌姫)”が最も近いかもしれないとも思う。 女性ヴォーカルによるコンテンポラリーR&B。もう少し突っ込んだ言い方をすると、邦楽≒J-POPの要素を取り込んだR&Bだ。それを持って、ICEは時代を先取りしていたとか、出てくるのが早過ぎたとか、簡単に言いたくはないのだけれど、彼らの売上のピークであった1994年から1998年辺りは、(ルックス、音楽性も含む)ICEの存在がリアルタイムにフィットしていたかというと、それは微妙だったと言うしかない。逆に言えば、独特の存在感を示していたバンドだったということだし、時代に迎合することがなかった音楽グループという言い方もできるかもしれない。以下、4th『We’re in the Mood』を解説するが、本作からもそうしたICEの特徴が掴めるように思う。
J-POPとダンス、ロックの融合
M1「GET DOWN,GET DOWN,GET DOWN」はファンクチューン。ソウルフルな《WHAT’ CHA GONNA DO? GET DOWN!/GET DOWN! GET DOWN!》のリフレインが全体を引っ張り、しなやかさとキレを兼ね備えた宮内和之のギターのカッティングあり、ディスコティックなストリングスありの正しきダンスグルーブ(?)である。ただ、そうは言っても、それほどブラックミュージック風味を強く感じないのは、歌の主旋律と国岡真由美(Vo)のパフォーマンスのせいだろう。歌はJ-POP、J-ROCK路線と言っていい。当時、多くのブレイクアーティストのきっかけとなっていた『銀座ジュエリーマキ』のCMソングに起用されたことにも十分に頷ける親しみやすさがある。それをファンク特有のノリと上手く融合させているところがポイントだろう。コンポーザーである宮内の確かな手腕を感じさせる。そのメロディーを、ことさらに圧しが強いわけではない田岡のヴォーカルがニュアンスたっぷりで聴かせているのがまたいい。と、ここまででもでもICE独自の世界観を堪能できるが、中盤で聴かせる宮内のギターソロがさらに聴きどころ。実にワイルドで、文字通り《GET DOWN》と促されているようなプレイである。でも、そこがいい。男女ユニットの特徴をサウンドで表現しているような巧みさすら感じさせるのである。
『We’re in the Mood』以外のアルバムを粒さに聴き調べたわけでもないので軽々に言い切るのも危険だろうが、M1にはICEの特徴が詰まっているように思う。ブラックミュージック要素をベースにしたダンスミュージックであり、歌は邦楽的ポップさを持ちながら、ヴォーカルもギターもそれぞれに個性を発揮している。具体的に言えば、歌はフィメールヴォーカルならではのニュアンスがあり、ギターは完全にロックと言っていい。ミクスチャーというと大袈裟だろうが、相反する要素(とまでは言えるかどうか微妙だが…)をひとつにしているのである。アルバムオープニングでそうしたバンドの特徴を描き切っていると言い換えてもいいだろうか。
M1以降もバランスは変えつつも、基本はその特徴が発揮された楽曲が続いていく。M2「I’M IN THE MOOD」はミドルテンポで、まさに雰囲気のあるナンバー。ダンスミュージックならではリフレインの面白さがありつつ、なまめかしいメロディーを弾くギターとセクシーな歌の絡みが聴ける。M3「DRIVE」は、アッパーでキラキラなディスコチューンだ。アーバンでお洒落なムードでありながら、歌はしっかりキャッチーで、ギターはシャープである。それぞれにタイプは異なるわけだが、バンドの骨子は変わらないことが分かる。別の見方をすると、悪い意味で大衆に阿ることがない、硬派なバンドであることもうかがわせているようにも思う。
タイトルチューンと言えるM4「We’re In The Mood」という短いインストを挟み、そのICEらしさを継続させながらも多彩な変化を見せる。ポップなビートで迫るM5「STAY」ではアコギのリフレインが印象的なナンバー。タンバリンが軽快さを助長している。M6「NATURAL HIGH」はハードロック的アプローチのファンクチューン。ドラムの切れの良さは聴きどころのひとつだし、後半にはソウル的なブラスセクションが展開する。ICEは俗に言う“渋谷系”と括られることもあるようだが、頭打ちのリズムのM7「BABY MAYBE」は、そうカテゴライズされることが分からなくもない程度にはシティポップ感はある。そもそもこのジャンル自体が曖昧な上、時期も微妙にズレている気もするので、ICEを“渋谷系”とするのはどうかと思うわけだが、そんな個人的な想いはともかくとして、いいグルーブが出ているのは間違いない。エレキギターはもちろんこと、オルガンもパーカッションもいい感じで、アンサンブルの妙を味わえる秀作である。
歌詞に見る彼らならではの主義主張
M7はアウトロのフェードアウトが長めで、いかにもA面の終わりっぽいと思っていたら、この度、発売されたアナログ盤でもちゃんとA面の終わりになっていた。本作は当時CDでしか発売されていなかったわけだが、リスナーとして肌に染み着いた感覚がそうさせていたのだろうか。M13「’CAUSE WE KNOW YOUR DREAMS」冒頭のノイズもそうで、彼らの音楽への造詣の深さを勝手に感じてしまうところである。
M8「Dub In The Mood」から始まる後半(B面)も、ICEの特徴が貫かれていく。以下、ザっといく。ポップな中にもシリアスさを湛えたM9「LA-LA-LA(One Is Born Free)」。メロウでロマンチックな印象もあるM10「OVER THE RAINBOW」。ヒップホップ的な匂いを放つインストM11「Voice In The Mood」。J-POP的な歌メロでありつつもルーツミュージックの要素がしっかりと注入されたM12「SHINE」。ブルージーでロックなギターを中心としたスリリングなインスト、M13「’CAUSE WE KNOW YOUR DREAMS」。ソウルミュージックへの敬愛を如何なく感じさせるM14「SWEET INSPIRATION」。バラエティーに富んだ内容でありつつも、ICEとして筋の通った楽曲ばかりである。
歌詞に注目すると、これもなかなか興味深い。というか、バンドのメッセージ、主義主張をしっかりと構成していることが分かる。そこは最注目に値するところであろう。M4までは、まさに“気分”を醸成するかのような内容。M2ではズバリ言葉は不要と言い切っている点が象徴的だ。
《部屋の明かりを落として/テーブルに肘をついて/交わす言葉がなくても/I’m In The Mood》(M2「I’M IN THE MOOD」)。
M4からM8にかけては恋愛模様。しかも、そのすべてが抑えきれない衝動を描いていると言っていい。
《Baby 恋をするなら/Maybe 君じゃなければ/Baby キスをするなら/Baby! Baby!》(M7「BABY MAYBE」)。
M8以降は恋愛を通り越した歌詞が目立つ。しかも、どれも前向きだ。
《それぞれの生き方には同じだけの想いがある》《それぞれが過ぎた道はそれぞれの色に包まれる》(M9「LA-LA-LA(One Is Born Free)」)。
《SHINE, SHINE LIKE A BEAUTY SKY,/光溢れる明日に/FLY, FLY LIKE A BEAUTY CLOUD/次はきっと出逢うから》(M12「SHINE」)。
そしてM14。ここでは、ここまで描いてきた想い、衝動を歌に繋げている。世の中にラブソングがある理由を綴っているようでもあるし、ICEが音楽を創作する意味を重ねているようでもある。受け取り方はさまざまであろうが、フィナーレとしてはとても適切なように思える。
《もう止まらないこの胸のざわめきは/私の歌を導くため そっと》《もう終わらないこの胸の高鳴りは/私の歌を導くため ずっと》《MY LOVE:YOU’RE MY INSPIRATION/心に届く/LOVE IS LIKE A HEART BEAT》
《MY LOVE:YOU’RE MY INSPIRATION/あなたに歌う/LOVE IS LIKE A HEART BEAT》(M14「SWEET INSPIRATION」)。
そのギターサウンドやアッパーなリズム以上に、ICEにロックを感じるのはこうした歌詞だ。享楽的なダンスミュージックも、先人たちへのオマージュを捧げたかようなサウンドメイクも悪くはない。それはそれで十分に楽しいし、いいものも多いのだろうが、そこにはそのアーティストの持論があってほしいと思う。それはほとんど個人的な想いではあるが、そこで言えば、ICEにはロックバンドの心意気が十二分に感じられる。そして、そこが同時代のアーティストと最も一線を画す、ICEの特徴ではないかと思うし、だからこそ、あの時代において、彼らは誰にも似ていない存在ではなかったかと思うのだ。
TEXT:帆苅智之
アルバム『We’re in the Mood』
1996年発表作品
<収録曲>
1.GET DOWN,GET DOWN,GET DOWN
2.I’M IN THE MOOD
3.DRIVE
4.We’re In The Mood
5.STAY
6.NATURAL HIGH
7.BABY MAYBE
8.Dub In The Mood
9.LA-LA-LA(One Is Born Free)
10.OVER THE RAINBOW
11.Voice In The Mood
12.SHINE
13.’CAUSE WE KNOW YOUR DREAMS
14.SWEET INSPIRATION
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