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希代の名編曲家・作曲家である、大村雅朗のトリビュート・コンサート【大村雅朗 25th Memorial Super Live ~tribute to Masaaki Omura~】が、2月10日大阪・フェスティバルホールにて開催された。
大村雅朗は、1970年代後半からの20年足らずを駆け抜け、病いによって46歳の若さでこの世を去ったが、没後25年を迎えた昨年、出身地の福岡でトリビュート・コンサートが開かれた。彼が手がけた楽曲を、ゆかりの歌い手たちが歌い継ぐもので、音楽監督は佐橋佳幸と亀田誠治。バックバンドを大村サウンドを支えた練達のミュージシャンが務めて評判を呼んだこのライブが、ついに大阪でも開催される運びとなった。
まずは砂原良徳が、明滅するライトの中でDJプレイを開始。1986年発売の、大村の初プロデュース作『The Soundtrack “YOU GOTTA CHANCE”』からのインスト曲に交えて「No No サーキュレーション」「その気xxx」などの代表曲を繰り出してゆく。“デジタルビートの使い手”としての大村が浮かび上がるセレクトだ。
トップバッターの八神純子は「大村さんと私は特別な関係です」という茶目っ気ある表現で、一度しかないデビューヒットをともにした喜びを語る。その「みずいろの雨」を、当時をしのぐ勢いの声量で、現役のポップソングとして披露してくれた。
ばんばひろふみは、レコーディング予定だった曲の編曲を大村がし忘れてきたというエピソードを話す。急遽、羽田健太郎のピアノでアレンジをしながら大村がスコアにしていったのが、大ヒットした「SACHIKO」だった。あらかじめ編曲を用意していたら、ピアノで始まるこのイントロはなかったかもしれない。その言葉を受けて聴く「SACHIKO」はまた格別の響きだった。
南佳孝は「スタンダード・ナンバー」を歌って登場。薬師丸ひろ子の「メイン・テーマ」の異名同曲だが、ここで両曲の詞を書いた松本隆が壇上に顔を見せ、南、佐橋、亀田と4人でのトーク・コーナーが始まった。
1973年、『フォーク全盛だった当時、全然違う方向の、都会をテーマに作ろう』としたのが、松本がプロデュースした南のデビュー作『摩天楼のヒロイン』だった……そんな話をしていると、槇原敬之がパイプ椅子を手に穏やかに乱入。1990年デビューの槇原は、当時、渡米していた大村とは面識がないため、在りし日の印象を聞きたいという。「イケメンだった」と松本。佐橋は初めてレコーディングに呼ばれたときの印象を「怖かった」「最小限しか話をしないから」と、男前で寡黙な大村像を語る。
大村の音楽性については、「いつも旬の、最新のサウンドを探していて、僕らみたいな洋楽好きには堪らない魅力があった」と佐橋が語ると、「作曲でも、いい曲をいっぱい書いてた」と松本。「真冬の恋人たち」「セイシェルの夕陽」と挙げながら「無駄な音が入ってない」「余計な言葉を省いていくと詩になるわけだけど、彼は楽器で詩を書いてる」と称賛し、個人的にも「弟みたいだった」と懐かしそうに述懐する。亀田が「人生の中で、大村さんの曲は効き目が長いんですよ」と語ったのも印象に残る。
ここから後半。亀田が「大学のときにこの曲を聴いて、音楽をやろうと志した」という、あのイントロに乗って大澤誉志幸がステージに。「そして僕は途方に暮れる」をソウルフルに歌い切ると、物故者が相次ぐ音楽界に触れ、それでも音楽は残る、と言って大村と作った「LA VIE EN ROSE」を。大澤自身もセルフカバーしているが、吉川晃司に提供したオリジナル版のアレンジで歌ってくれたのが嬉しい。
渡辺美里は名曲「BELIEVE」の、たった4小節のイントロにぴたりとくる音を探して、スタジオで鍵盤をずーっと触っていた大村の姿を覚えているという。アルバム『Lovin’ you』を作るにあたって、当時のレコード会社の担当と事務所の人間の2人が熱狂的に「アレンジは大村さんに!」と声を揃えた。そして今夜のライブも、福岡公演を観た大阪のラジオ局のスタッフが、それこそ熱狂的に「大阪でも!」と手を挙げたことで実現に至ったのだという。「熱狂を持った人がいると、こうして音楽が伝わる」そう話して歌った「My Revolution」で場内は大盛り上がり。
最後は槇原敬之。「(大村アレンジの曲を)諸先輩方が持ち歌として歌っていて羨ましかったけれど、(デビュー前の)大阪にいるときからずっと気に入っている曲です」と、自身もカバーを発表している、大江千里の「Rain」を、さらに大村の遺作「櫻の園」と永遠の名作「SWEET MEMORIES」を素朴なボーカルで締めくくった。
メロディーが楽曲の素顔だとしたら、「アレンジは化粧だ」という喩えがある。だが大村雅朗が施した化粧は実に長く保つ。洗っても洗っても落ちないほどに。これはもう魔法の域に類するものではないか。天賦の才と不断の努力が生み出した、人力の魔法。
大村は絶えず「今の音」を気にかけながら、本当のところは「未来まで残る音」を探していたのかもしれない。
Text:大内幹男
Photo:井上嘉和
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