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11月30日にnobodyknows+のベストアルバム『ALL TIME BEST』がリリースされた。本文でも書いたけれど、YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』でのパフォーマンスがバズり、今も再生回数がアップし続けている。メジャー契約から20年。今やメンバー全員が地元名古屋市などで定職に就いており(居酒屋や農業など音楽以外の仕事に従事している人も多数)、それぞれの仕事の傍らライヴ活動を行なっているというグループに再度スポットライトが当たっているというものエンターテインメント業界の面白さだし、依然、景気の悪い日本社会に希望を見出せる話ではなかろうか。今回はその「ココロオドル」が収録された『Do You Know?』を取り上げる。
「ココロオドル」が再ブレイク
誠に遅ればせながら、今年6月に公開されて話題となったYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』でのnobodyknows+の「ココロオドル」のパフォーマンスを拝見した。この動画は11月30日現在で再生回数が3,100万回超と同チャンネルのトップ25にランクインしている。トップ30内の他の動画は2年前に初公開されたものが多く、5カ月前にアップされた「ココロオドル」はさながら赤丸急上昇といったところであろう。動画の内容からすると、それもそのはずといった印象ではある。メンバーは皆、40歳を過ぎているわけで、世に言う“いいおっさんたち”である(失礼)。とにかくその“いいおっさんたち”が放つ元気はつらつとしたオーラが半端ないのだ。若干間違えた箇所もあるようだが、それがまた全体にいいリラックス効果を与えたようで、尻上がりにテンションが高くなっていく様子は見ていてとても気持ちがいい。
《ENJOY 音楽は鳴り続ける/IT’S JOIN 届けたい 胸の鼓動/ココロオドル アンコール わかす Dance Dance/Dance(READY GO!)/今 ゴーイング ゴールインより/飛び越し 音に乗り 泳ぎ続ける/ENJOY(ENJOY) IT’S JOIN(IT’S JOIN)/呼応する心 響き続ける》(M7「ココロオド」)。
サビ≒ヒップホップで言うところのフックの上記リリックを体現したような見事なパフォーマンスである。NHK紅白歌合戦でも披露されたnobodyknows+最大のヒット曲とは言え、発売は2004年。18年も前の楽曲が広く支持されたというのは、その「ココロオド」というナンバーが有する成分、さらにはnobodyknows+というグループの核心に時代を超越した何かがあるからだろう。今回、その「ココロオド」も収録された彼らのメジャー1stアルバム『Do You Know?』を聴いて、個人的にはそうしたことを感じたところである。無論、当時リアルタイムで聴いていたリスナーは懐かしく受け止めていることだろう。だが、アルバムを1枚通して聴いたのが今回初めてだった筆者としては、少なくとも極端に古く感じるものではなかった。もし彼らに対する予備知識がまったくなかったとして、これが最新の音楽のフォルムだと言われたら “そうなのか”とうなずくかもしれない。ちょっと大袈裟に言えば、そんな感じではある。
また、逆に言えば、古くは感じなかったと言ったものの、1980年代に流行ったものだと言われても“そうなのか”と思うかもしれないとも思う。大きく言えば、不変性、あるいは普遍性や不偏性があるということだ。何と言うか、ヒップホップだから…とか、ファンクだ、ロックだとかいうことではなく、ジャンルを通り越した音楽特有の楽しさ…といったものをこのグループは有している。そんな気がするのである。
個性的な5人のMC
nobodyknows+は、メジャーデビューの時点では5MC+1DJという編成であった(のちにg-tonが脱退するが、件の『THE FIRST TAKE』でのパフォーマンスには彼も参加している)。5MCというのは他にはあまりないスタイルだったらしいが、これがとてもいい。何がいいって、ホクロマン半ライス!!!(以下ほくろマン ※当時はHIDDEN FISH)、crystal boy、ヤス一番?、ノリ・ダ・ファンキーシビレサス(以下ノリ)、そしてg-ton、この5人の声がそれぞれに個性的なのだ。初めて聴いても異なるMCが順にラップしていることがよく分かる。ここからの意見は、ヒップホップに馴染みのない老害の戯言だと思って聞き流してくださって結構だが、ヒップホップの楽曲ではAメロ≒バースが長めなものがそれなり多くある気がする。他のポップミュージック以上に言葉を駆使するラップの場合、リリックが長めになるのは仕方がないのでそれはそれで理解できる。しかしながら、歌に比べて抑揚が薄いラップの場合、どうしても単調になりがちだし、MCが複数であったとしても同じタイプの声が続くと聴いていてちょっと飽きる(老害の個人的意見です)。トラックがそれを補うスタイルもあるにはあるのだろうが、それだけでは補い切れないものも中にはあるようにも思う(老害の個人的意見です)。
でも、nobodyknows+にその感じがない。似た声が連続しないからだ。メンバーの中で最もプレーンというか、音域的には真ん中に位置していると思われるのがホクロマン。いい意味で中庸である一方でしっかりと疾走感のあるラップをする印象だ。g-tonの音域はそれよりもやや高め。個人的には丸く柔らかな発声をする人であるよいに思う。ヤス一番?はg-tonよりちょっと高めで、メンバー中で最もポップなイメージがある。メロディアスという見方もできるかもしれない。ノリは俗に言うダミ声。デスボイスに近い。楽曲にレゲエ風味を与えているはもちろん、とにかく圧倒的な存在感を示している。Crystal Boyは低音でハスキー。これまたなくてはならない魅力的な声だ。これらのMCが相次いでやって来るだけでなく、バースであれフックであれ、ちょいちょい様々な声が重なるし、差し込まれる。ビートはトラックが担っているので厳密な意味でのそれではないけれど、ア・カペラやドゥーワップのグループの楽曲のような印象があるのだ。
その辺りはM7「ココロオド」や1stシングル「以来絶頂」、2nd「ポロン2」などでも確認できるが、個人的にそのnobodyknows+のMCのおもしろさを最も感じたのはM9「RASH feat.coba」だ。シングル曲に比べて抑制が効いた印象であり、冒頭から低音ボイスが引っ張る展開。それもこのグループならではかと思った矢先、2番の《一目で落ちる魅力 永遠の記憶 即セットオン》で高音になる(ここはg-tonのように思うが、間違っていたらごめんなさい)。誰の耳にも明らかに転調したことが分かり、それまで聴いていた楽曲の景色がガラリと変わるようなインパクトがある。加えて、それ以降ではその高音のフックに低音が重なることで、その箇所がコーラスワークを駆使しているようにも聴こえる。それには転調した効果があるように思うし、このグループの利点が発揮されている箇所と言える。シングル曲に比べて派手さは薄いものの、“5人もいるラッパーの個性が異なると、こういうこともできるのか!?”と思わず膝打ったところである。そうしたnobodyknows+の特徴はメンバー自身も自覚的であることは明白。リリックの中にメンバーの名前がちょくちょく登場するのがその証左だ。メジャーデビュー盤らしい意気込みを感じるところだし、何しろアルバムのオープニングナンバーの一番頭から以下の内容なのだから、よりアグレッシブになっていたことがうかがえる。
《五人フロントラッパーnobodyknows+ 左端にはアフロでオーバーオール/その反対右すみが Yas the number 1 派手目にイカシタ坊主の方 イエーイ!/のらりくらりよりもビッと決めるぜ ノリ クリ g-tonでfit/忘れちゃいけないビートリード 後ろで構えるdj mutsuと》(M1「innocent word」)。
多層的かつ多彩なトラック
5人のMCの個性が異なることがnobodyknows+アドバンテージであることは疑うまでもないが、その利点はラップでリスナーの聴感を刺激する上だけでなく、リリックにおいても最大限に発揮されている。『Do You Know?』には、件のM1やシングル曲のようにグループの方向性やメンタリティ、あるいはヒップホップやライヴの楽しさを表したものがそれなりにある一方で、M4「SUMMER」、M5「熱帯夜」、M8「太陽と少年 featuring ダンカン」とズバリ“夏”をテーマにした楽曲もある。そこにも注目した。それぞれに夏の風景を描いたリリックで、M4は“THE夏”、M5は夏の夜、M8はノスタルジックな視点で夏を捉えたものでありながら、どれもとても情報量が多いのである。これもMCが5人いることの利点と考えられる。情報量が多い故に歌詞を引用するのはさすがに憚られるので以下には記さないけれど、いずれも“ワンイシューからよくもまぁこれだけのシーンを描写ができるなぁ”と思ったところである。作詞クレジットにはMCの5人が列挙されているので、それぞれのパートはそれぞれが書いているのだろう。厳密には5人が等しく書いているのではなく、誰かひとりが主導権を握っていたのかもしれないが、5人のキャラクターを考えれば自ずと内容が多岐に渡るところがあるのでなかろうか。いずれにしても、こうした情報量の多さが楽曲の世界観を広げ、深みを持たせていると思われる。
最後にトラックについて思ったところを記す。作曲クレジットはDJ MITSUになっているので、そこは彼がほぼ一手に引き受けていることで間違いなかろう。『Do You Know?』はラテンフレイバーのファンキーチューンが多い印象。きびきびとしたホーンセクションがあしらわれているのも耳を惹く。そんなダンサブルで躍動感のある楽曲、「ココロオドル」に代表される陽気で元気はつらつとしたテイストのナンバーが本作の中心と言える。ただ、パッと聴きには確かにそうであるが、よくよく聴くと、そう簡単に切り捨てられない多層的なトラック、メロディーであることにも気付く。能天気なだけではない…という言い方でいいだろうか。アッパーはアッパーなものの、そこにセンチメンタルな成分も垣間見える。文字通り、M13「センチメンタル バス」がその最右翼…と言いたいところだが、個人的にはM2「以来絶頂」をその事例として上げたい。コードにその要因があるのだろう。M5「熱帯夜」もそうだ。ギターサウンドが典型的なスパニッシュでありながら、これもどこかセンチメンタルである。共にリリックは乱痴気気味ではあるけれど、馬鹿騒ぎに終始しない空気が所々に漂っている。どこか冷静というか、悲哀を飲み込んだ上での享楽というか、決して単純ではない印象があって、そこが何とも味わい深い。
サンプリング元がはっきりと分からないので断言できないけれど、意外にも…と言うべきか、お洒落なサウンドも多々確認できる。M10「understan’?(Theme from nobodyknows+ pt.0)」、M14「slow down」のスムースジャズのテイストはその最たるものだろう(すなわちM6「Theme from nobodyknows+ pt.9」も同様)。所謂シティポップの要素も随所に感じられる。軽快というよりは爽やかと言ったほうがぴったりと来るようなギターのカッティング、綺麗なピアノの旋律やキラキラとしたシンセの音色など、これまたトラックだけで見たら馬鹿騒ぎとは真逆のアーバンさを見出せるところである。また、M4「SUMMER」では不思議な感じであったり(こればかりは何とも上手い表現が見つからない)、cobaのアコーディオンをフィーチャーしたM9「RASH feat.coba」であったり、多層なだけでなく多彩でもある。これはひとえにDJ MITSUのセンスの成せる業であろう。トラックメイキングだけでも普遍性と不偏性があるということだ。そこに5MCという独特のスタイルが乗っているのだから、今回「ココロオドル」が話題になったように、nobodyknows+の楽曲が時代を超越したのも“それはそうだろうなぁ”と納得させられるのである。
TEXT:帆苅智之
アルバム『Do You Know?』
2004年発表作品
<収録曲>
1.innocent word
2.以来絶頂-album mix-
3.ススミダス→
4.SUMMER
5.熱帯夜
6.Theme from nobodyknows+ pt.9
7.ココロオドル
8.太陽と少年 featuring ダンカン
9.RASH feat.coba
10.understan’?(Theme from nobodyknows+ pt.0)
11.二十一世紀旗手-album mix-
12.ポロン2
13.センチメンタル バス
14.slow down
15.家々〜撰ばれてあることの恍惚と不安とふたつ我にあり〜-album mix-
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