不安が募るひとりぼっちの夜に手を差し伸べる5曲

2022年11月7日 / 18:00

不安が募るひとりぼっちの夜に手を差し伸べる5曲 (okmusic UP's)

秋の夜はつるべ落としというが如しで、陽の落ちる時が早まり、どんどんどんどん夜が長くなり、孤独を持て余すやるせない日々をなんとかやり過ごす生活を送るばかり。そんな時こそカルチャーやエンタメの力を借りて、朝を迎えるまでの永遠のように長い時間に寄り添ってくれる音楽を見つけたいものです。この連載を始めて7年は経ちますが、自分の書いたこの文章が、そういった思いを抱えている人々に届くものでありますように。
「物語のように」(‘22)/坂本慎太郎

新作を発表するたびに削ぎ落とされ、研ぎ澄まされていくサウンドにハッとさせられる坂本慎太郎のアルバム『物語のように』のタイトル曲は、枯山水を見つめるような忘我の境地と、ゆらゆら帝国時代の“愛と死のダブルミーニング”の文脈にある歌詞を受け継ぐ、肌を撫でる微風のようなソウルナンバー。心地良い湿度をはらみながらも軽快なギター、ベース、パーカッション、サックスの音色は、無記名性と透明性に向き合えば向き合うほど“この誰のものともつかない、万人のためにあるような音を奏でるプレイヤーはいったい?”と正体を探らずにいられない音楽の魔法に満ちている。
「夜しか泳げない」(‘90)/SION

SIONが1990年にリリースしたオリジナルアルバム『夜しか泳げない』に収録されているタイトル曲は、炭酸水のようにパチパチ弾けるざらついた声と、滑らかに泳動するギターが印象的なトーキングブルース。《夜しか泳げない魚は影を連れて歩かない だけど光だけが光じゃないことは太陽より知っている》というサビの歌詞は何度でも涙を誘う。カラカラに乾いた明るさと軽さを纏いながらも、闇と自分の体の境目が分からなくなるほど思い詰めた人々の心に突き刺さる、伸縮自在な自由さと柔らかさ、優しさに満ちあふれた一曲。
「鯨」(‘22)/ 犬王(CV:アヴちゃん)

湯浅政明監督、キャラクター原案に松本大洋、音楽に大友良英、脚本に野木亜紀子という奇跡の座組みが実現したアニメーション映画『犬王』の劇中を彩るミュージカルシーンから「鯨」を。アヴちゃん(女王蜂)演じる犬王の躍動的かつネイキッドであればあるほど装飾されていく中低音に、共鳴した観客がQUEENの「WE WILL ROCK YOU」ばりのハンドクラップで応じる場面の感動は、スクリーンを貫いて実在の視聴者たちの肩を揺さぶる。父によってかけられた呪いを自らの力で解き、己の信ずるままに心の高鳴りを表現し続ける犬王は、性別も時代も年齢も超越したヒーローだ。
「物は壊れる人は 死ぬ三つ数えて眼をつぶれ」(’82)/ムーンライダーズ

ムーンライダーズが1982年に発表した『青空百景』に収録されている同曲は、実験的かつ前衛的精神に満ちあふれたオルタナティブでプログレッシブなファンクナンバー。《物は壊れる人は死ぬ そういう訳さママン 三つ数えて眼をつぶれ そういう訳さハニー》という鮮烈で衝撃的なフレーズで幕を開けたと思いきや、目まぐるしい転調でカテゴライズ不能な情緒をもたらす展開に息すら止めたくなってしまう。ノスタルジーが漂いながらも薄暗さや湿っぽさというよりは、殺人的な日差しの隣で鋭角に伸びる影のような存在感を放ち続ける一曲。
「前説ADvance」(‘22)/大森靖子

しゃくりあげるような高温でもなく、この世の全ての業という業を背負った低音でもなく、話し声とフラットな歌声が水みたいに肌にすうっと吸い込まれていく。絶望を知っているからこそ綴れる《聞き慣れちまったハードな溜息をハートフルな話題に変えて つくれストーリー 本編はこれから》といった底抜けに明るいパンチラインの連打、ダンサブルなピアノ、エモーショナルなベースラインが勇気を与えてくれる。闇雲に、がむしゃらに拳を掲げ続ける無様さを包み込んで背中を押してくれる、究極で絶対的なポップソングを、今日のコラムの締めくくりと、明日も明日を迎える人々への応援歌としてここに。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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