A24が放つロードムービー『Zola ゾラ』に散りばめられたスリリングな5曲

2022年8月15日 / 18:00

A24が放つロードムービー『Zola ゾラ』に散りばめられたスリリングな5曲 (okmusic UP's)

8月26日から公開されるA24製作の『Zola ゾラ』は、2015年にアザイア“ゾラ”キングが自らの実体験を綴った148のツイートをもとにした作品だ。デトロイトのウェイトレス兼ストリッパーのゾラは、ダンサーのステファニに“フロリダへの出稼ぎ旅”に誘われるが、 48時間の悪夢が始まるというあらすじ。外連味や扇情的な演出を排除し、黒人ゾラと白人ステファニの急展開する関係性にフォーカスした86分間のスリリングで眩いロードムービーには、未だ根強く残る人種差別問題が何気ないやりとりやゾラの仄暗い表情などに描写され、昨晩の夢から現実の意味を探るような好奇心と探究心の襞をポップに色付ける。今回は『Zola ゾラ』の輪郭を目まぐるしく変化させていく音楽を紹介します。
「Tell Me」(’16)/Usher

ゾラがUsher「Tell Me」にあわせて眩いステージでポールダンスを披露するシーンは、私たちがエアーポケットに封じ込めた孤立への焦燥感や諦観の悲壮感が込められている。“人間は1人では生きられない”“人は皆つまるところ孤独である”という矛盾が両立してしまう世間のおかしさに気付いたとしても太々しく生活を営まなければならない、そういう類いの感情の置き所だ。自身の体を限界まで曝け出し、チップを受け取れば笑顔を向けるゾラの姿と、Usherの痛切さと甘やかさが入り混じったハイトーンヴォイスはよく似合う。
「Hannah Montana」(’13)/Migos

主要な登場人物は黒人のゾラとX、白人のステファニとデレク。Migosの「Hannah Montana」のそこはかとない空虚さを漂わせるラップと過激なリリックに乗って、フロリダへの旅路へ向かう車中ではしゃぐ自らの姿を手のひらサイズのスマートフォンに記録する4人の浮かれた様子は、これ以上ないほど悪夢の幕開けにふさわしい。劇中の舞台である2015年、さらに2022年現在も人種の違いというだけで瞬く間に出来上がってしまう途方もない隔たりに、淡々としたモノローグと不意に見せる無表情で抗議するゾラが印象的だ。
「Love Again (Akinyele Back) feat. Gangsta Boo」(’15) /Run The Jewels

Run The JewelsがGangsta Booをフィーチャーした「Love Again (Akinyele Back)」は”劇中のクライマックス”で使用されているのだが、思えば「事実は小説よりも奇なり」を地で行くこの作品は、どこをどう切り取っても最初から最後までクライマックスである。エネルギッシュさを包み込むスモーキーで挑発的なフロウ、腰や足首よりも遥か地下からビリビリじわじわ蛇行して詰め寄るトラックの緊迫感と享楽さに満ちたこの曲が手を差し伸ばさなければ、うっかり忘れてしまいかねないほどに。ドラマは無色透明のまま、気配をひた隠して忍び寄る。それが喜劇であろうと悲劇であろうと。
「Because of My Best Friend」 /The Clickettes

ゾラとステファニのあまりにもグロテスクなほどあけすけな関係性の構築と崩壊、再生を、あなたは“奇妙な友情”と捉えるだろうか。それとも清廉さが香るシスターフッドと解釈するだろうか。映画のオープニングとエンディングを軽やかかつ明朗なコーラスワークと豊潤かつ豊潤なヴォーカリゼーションで飾るThe Clickettesの楽曲は、どのように作用するだろう。「Because of My Best Friend」というタイトルも含めてヒリヒリした強烈な皮肉と受け止めるか、それともよく知らない者同士の本性がぶつかり合うシンプルな関わりかたの描線だけで彩られていく映画の骨格と評するか。鮮やかなピンクと紫の朝焼けのカットに添えられた楽曲に秘められた謎から、意識を逸らすことができない。
「Florida Murder」(’21) /Mica Levi

絶対に不可能だとわかってはいるのだが、エンドロールのパートだけ2回再生してくれる気の利いたミニシアターがあればいいと願っている。1回はクレジットを凝視して頭をフル回転させるため、もう1回は目を閉じてミカチューことMica Leviによる「Florida Murder」に身を委ねるために。深海の泡を想起させる優雅なオーボエとプリズムを透過する光の如きシンセベースのミニマルな交差によって織り成されるドリーミーで壮大な音像は、この映画のハレーションのような豊かさを心のままに追走し、追想するためにあるのだと実感するために。蜃気楼のように美しく、儚いこの楽曲を、48時間のカラフルな悪夢と共に。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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