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THE MAD CAPSULE MARKET'Sがロックの十分条件を満たしていたことを証明する中期の傑作『SPEAK!!!!』

先週7月20日、上田剛士のソロユニット、AA=がコンセプチュアル・アルバム『story of Suite #19』通常盤と、ライブ映像作品『LIVE from story of Suite#19』をリリースした。『story of Suite #19』通常盤は、2021年にスペシャルグッズが同梱されてオンラインで発売された作品のCD部分のみ。『LIVE from~』は、その『story of Suite #19』を完全再現した2022年2月のライブパフォーマンスを収録したものだ。上田剛士が現在も唯一無二の音楽性を貫き続けているアーティストであることは、今回リリースされた2作からも伺い知れることころである。今週はそんな彼の前身バンドと言えるTHE MAD CAPSULE MARKET’S中期のアルバムをご紹介。
キャッチーで堂々としたメロディー

ロックミュージックの十分条件というものがあると思う。それは人によって意見が分かれるところもあろうが、ロックであるためにこれは欠かせないというものは確実に存在している。THE MAD CAPSULE MARKET’S(以下、MAD)というバンドにはそれが確実にあったし、つまりはロックの十分条件を満たしていたバンドだったと言える。とりわけ彼らの3rdアルバム『SPEAK!!!!』はそれがよく分かる、条件を満たした作品になっているのではないかと考える。本作を1枚通して聴いたのは間違いなく今世紀になって初めてだったが、久しぶりに聴いてみたところ、折り目が正しい…というと、だいぶ語弊があるだろうが、“ちゃんとロックしているアルバムだなぁ”という印象を強く抱いた。何を指してそう感じたのかを以下に記したい。

もう20年以上前の話になるが、その時ですらすでにベテランと呼ばれるに十分なキャリアだった、とあるロッカーにインタビューした時のこと。どういった話の流れだったのかは失念したけれど、楽曲のメロディーの話になった際、その方が“ロックミュージックはメロディがキャッチーでなければならない”と仰ったことははっきりと覚えている。わりと厳ついというか、どちらかと言えば強面タイプではあったし、そのバンドも結構ハードな音を出す。そして、その方のボーカリゼーションも美声を聴かせるといった感じではなく、どちらかと言えば、シャウトで迫るタイプではあった。故に、キャッチーな歌メロを重視しているのは少し意外ではあったけれども、今思えば、そのバンドの作品は荒々しくも、歌の立っているものばかりだった。“なるほど”と感心もしたし、以後、“ロックミュージックはメロディがキャッチーでなければならない”は金言のように、筆者自身のひとつの基準としている。

で、MAD。『SPEAK!!!!』収録曲は実にキャッチーなものが多い。M1「マスメディア」から容赦なくキャッチーである。今世紀になって初めて聴いたと前述したけれど、一度通して聴いただけで、いや、正直に言うと、聴くより前に、歌詞を見ただけでそのメロディーが浮かぶほどに、歌の旋律が印象に残っていた。とにかくサビだ。サビがメロディアスであり、ポップである。♪頭の固いオッサンは取り残されて行く♪ 即、鼻歌が出る。とりわけ強烈なのはM4「権力の犬」だろう。MADは、[結成当初はザ・スターリン、BOØWYなどの影響を感じさせるパンク色が強かった]ということだが、このM4はそんな説明を待つまでもなく、BOØWYからの影響の濃さを感じるメロディラインではなかろうか([]はWikipediaからの引用)。BOØWYは聴いたことがあるがMADは聴いたことがない人に“これ、BOØWYの未発表曲のカバーなんだよね”とか言ったら信じそうではないか。ヒムロックも好みそうなメロディラインであるような気がする。♪Huu 権力の犬♪ これも即、鼻歌が出て来る。M4やM1ほどにインパクトはないけれど、M5「UNDERGROUND FACE」も見逃せない(聴き逃せない?)。パンクロックらしく、サビはリフレインなのだが、単に同じ旋律を数回繰り返すだけでなく、4回リフレインの4回目はちょっと抑揚を変えている。♪UNDERGROUND FACE♪だけでも耳に残るのだが、4回目でメロディが変化することで印象がより強くなる効果があるのだと思う。なかなか心得ている。もうひとつ注目はM12「GOVERNMENT WALL」である。これもBOØWYっぽいと言えば言えるのだが(当時の彼らがわざと似せたとかそういうことを言いたいわけではないのでその辺はご理解ください)、この楽曲はインディーズ時代のシングルの再録版だ。サビはもちろんだが、そこへ繋げるBメロがまたいい。アウトロ近くのメロディの聴こえ方も開放的ですらある。これだけのメロと構成のセンスがインディーズからあったということは、いかにMADのポテンシャルが高かったかが分かろうというものだろう。今、改めて聴いても、どれもこれも堂々としたメロディーだ。十分にロックである。
デジタルを注入した先鋭性、革新性

続いて、『SPEAK!!!!』におけるMADのサウンドについて記す。[基本的には前作『カプセル・スープ』を踏襲し、ザ・スターリン調のパンク・ロック色の強い曲にインダストリアルなどのノイズミュージックのようなアレンジが施された曲によって構成されているが、前作に増してその傾向が高まっている]という説明が端的で分かりやすいと思う([]はWikipediaからの引用)。また、その辺を含めて、MADがそののちに『4 PLUGS』という傑作を産み出したこと、MADがシーンに与えた影響などについては、2014年の当コラムで荒金良介さんが仰っておられるのでそちらも是非ご参考いただきたい。
こちらに寄るまでもなく、『SPEAK!!!!』はMAD過渡期の作品と言っていいわけだが、むしろ過渡期だからこそ、当時のMADの取り組み方や臨み方の先鋭性、革新性といったものがうかがえるのではなかろうか。上記引用の通り、インダストリアル傾向がより強くなっていることは、これもまたM1「マスメディア」からして明らかだ。同楽曲はフィードバックノイズのような電子音から始まり、それを下地に8ビートのドラムが重なるというイントロである。ボーカル、ギターはもちろんのこと、ドラムもベースもアウトロまでの間、終始、鳴っているわけではないけれども、電子音はずっと鳴り続けている。デジタルノイズを取り込んでいるのではなく、バンドサウンドに融合させている、いや、デジタルに生音を融合させていると言ったほうがよかろう。こうしたサウンドは当時のメジャーシーンにおいてはBUCK-TICKやSOFT BALLET辺りが先駆者であったと記憶しているが、MADもその一役を担っていたと言える(SOFT BALLETに関しては、2015年の当コラムで山本純子さんが『愛と平和』についてお書きになっていらっしゃるので、是非こちらをご参照ください)。
M3「システム・エラー」辺りも無機質なデジタル音を上手くバンドサウンドと融合させたものだが、極め付けはやはりM6「SOLID STATE SURVIVOR」で間違いないだろう。YMOの存在を世界に知らしめたと言っても過言ではない名盤、そのタイトルチューンのカバー曲である。個人的にも、リアルタイムで聴いた時に相当驚いたことをはっきりと覚えている。バンドサウンドにデジタルを取り入れることもまだ新しい手法であった当時。シンセサイザーとコンピュータを駆使した“テクノポップ”を代表するグループの楽曲を、バンドでカバーする。“よくそんなことをよく思い付いたな!”という感心しかなかった。まさにソリッドかつ疾走感のあるアレンジのカッコ良さに痺れたことは事実だが、単にシンセの主旋律をギターに置き換えただけとか、テンポを速くしただけとか、そういうことでなく、YMO並びに原曲に対するリスペクトを失ってないところにもかなり好感を持った。リズミカルに楽曲全体を引っ張る、原曲でも印象的なデジタル音(♪ピョンピョン♪と聴こえるアレ)をMAD版は忘れていない。悪戯にカバーしたのではないことがよく分かる。

また、同曲をカバーするという行為そのものに、MADの心意気も見て取れる。YMOのアルバム『SOLID STATE SURVIVOR』には、The Beatles「DAY TRIPPER」のカバーが収録されていることをご存知の方もいらっしゃるだろう。ポピュラー音楽そのものを変革したと言われる史上最高のロックバンド、The Beatles。1970年代後半からのニューウェイブの流れの中、それまでのロックバンドとは異なる方法でそのThe Beatlesの楽曲をカバーしたYMO。そして、そのYMOをカバーしたMAD。ロックの系譜が連なっている。しかも、重要なのは、YMOにしてもMADにしても、あるいはThe Beatlesにしてもそうなのだろうが、先達の模倣ではなく、独自の解釈を加えたカバーとして、言わばロックミュージックを進化させたと言える。彼らの先鋭性、革新性こそがロックそのものではないかと思う。
言いたいことを言い切っている

最後に歌詞について。これも何ともロックらしいものばかり並んでいる。百聞は一見に如かず。まずは見てもらうのが早い。

《俺はいつでも無視されお前はいつも権力者/だけどそいつもそろそろ終わりの時が来た様だ/俺を無視出来無くなり お前はスグに青ざめた/スベテ計画通り 俺に侵されてくだけ》《頭の固いオッサンは取り残されて行く/俺とお前は最初から 頭の作りが/まるで違うんだ》(M1「マスメディア」)。

《フクロのネズミはいつでも真実に溢れてる/抗争を繰り広げる度に何を見失なう/銃声の音はヤリ場の無さに引き金をひかせる/流れを変える色鮮かな街に潜んでる》《そうしていつでも高く吠えまくれ/テメエの未来はスグに果てるから/今あるそいつをスベテぶち壊せ/そんなセリフが吐けるなら》(M4「権力の犬」)。

《人がいて/オレはいる……/テレビアナウンサー/何かはっきり答えろよ/消えかけた顔が/朝のホームで歩き出す/計画者はオレの言葉を持て余す/オレがいて邪魔だろう……/早くどうにかしておけよ/油断してると今スグに/怒りをこめたハンマーを落とす》(M7「危険分子<DANGER BOY>」)

《ツカイフルシノ ソラガミサゲデル/ドレガホントノ ジブンカシラナイ/チッソクスンゼン シアワセナドレイ/ヒトリアルキノ オボレタテロリスト》《ナゾラレタメツキ タダアヤツラレルママ/ダレガユウウツヲ ヤスラギニカエル/チッソクスンゼン シアワセナドレイ/ヒトリアルキノ オボレタテロリスト》(M9「チェスノ兵隊」)。

《奴にしてみりゃ俺は犬で/鎖につながれて 大人しく/うまくやっていこうじゃないか》《うまくいったと思ってるだろう/飼いならしたと思ってるだろう/だけど飼い犬は主人の首を/食いちぎるスキを待っているんだ》《騙されたふりをしているだけ》(M13「家畜」)。

「マスメディア」や「権力の犬」などは、まさしくカウンターカルチャーであって、ロックのサブカルらしいところでもあると言える。何でも[この当時の状況をCRA¥(上田剛士)は、「(中略)『P・O・P』(1991年)作った後辺りからメーカーとモメ出して、いろいろ衝突が出てきて、そこでメーカーに負けたくないっていう気持ちも自分の中にはあった」と語っている]というから、そこでの反骨心みたいなものが形を変えたものかもしれない([]はWikipediaからの引用)。

そうした文字通り“権力”へ噛みつく姿も流石というか、パンクロックらしく思えるが、最注目すべきは、ただ不平不満を当たり散らしているだけではないところだろう。“で、お前はどうなんだ?”と聴き手に問うているようでもあるし、“独立独歩たれ”と促されているように感じるのは自分だけではあるまい。実際メンバーにどういう意図があったのは分からない。しかしながら、そこから感じられる熱と、それが連続している様子からすると、これがカッコいいからと適当に綴ったものではないことは確かである。言いたいことを言い切っていることは疑うまでもなかろう。反骨心を打ち出しているからでも、“権力”へ噛みついているからでもなく、やりたいことをやっているからこそ、カッコいい良く聴こえるのだろう。そこにも十分にロックを感じる。
TEXT:帆苅智之
アルバム『SPEAK!!!!』
1992年発表作品

<収録曲>

1.マスメディア

2.PUBLIC REVOLUTION

3.システム・エラー

4.権力の犬

5.UNDERGROUND FACE

6.SOLID STATE SURVIVOR

7.危険分子<DANGER BOY>

8.CARE-LESS VIRUS

9.チェスノ兵隊(コマ)

10.4 JUNK 2 POP

11.D-DAY

12.GOVERNMENT WALL

13.家畜

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