<コーチェラ2022現地レポ&インタビュー>宇多田ヒカル、初のフェス出演で見えた世界とつながることの意義

2022年4月27日 / 11:18

 2022年4月15日~17日にかけて開催された【コーチェラ・バレー・ミュージック&アート・フェスティバル】ウィークエンド1の初日、翌日の88risingによるステージ【88rising’s HEAD IN THE CLOUDS FOREVER】に宇多田ヒカルが出演することが発表された。しかも、YouTubeでライブ配信されるため、現地に来られなくてもそのパフォーマンスを配信で楽しむことができるということで、ファンにとっては嬉しいサプライズとなったはずだ。

 筆者は肉眼で彼女の姿が確認できそうな位置まで前に進み、花道の脇のレールを確保した。これまで米国で数多くのライブやフェスティバルに参加しているが、これほどたくさんのアジア系の人々が集結する光景は初めてと言ってもいいほど、見慣れないものだった。フェス初日に観た別のアーティストのパフォーマンスでは、LGBTQの観客の姿が目立ち、人種やセクシャリティの多様性への若い世代の包容や新しい時代の波を感じた。

 そんななか、米国を拠点にアジアのカルチャーを世界中に発信する、ショーン・ミヤシロが中心となったプラットフォームである88risingが、コーチェラのメイン・ステージで【88rising’s HEAD IN THE CLOUDS FOREVER】を開催した。初めてレーベルがキュレーションした歴史的なステージで、実現したのは主催者であるゴールデンヴォイスの多様性を尊重する姿勢が背景にあったのかもしれない。実際に、モンゴル、ベルギー、イタリア、ブラジル、ラテンと今年のラインナップは実に多くの国のアーティストがブッキングされていた。ここでは、宇多田ヒカルにとって初となるフェスティバル出演の様子を、パフォーマンス直後に行った本人へのインタビューと共に紹介する。

 この日のメイン・ステージはビリー・アイリッシュがヘッドライナーのため、88risingのアーティストにとってアウェイな雰囲気になるのではと内心思ったが、トップ・バッターを飾ったラッパーのウォーレン・ヒュー(インドネシア)は12人のダンサーを従え、堂々としたパフォーマンスで前方にいる観客を盛り上げた。続いて、メロディアスなラップが特徴のミリ(タイ)、英語と韓国語を混ぜた歌詞とキャッチーでポップなリズムが心地良かったビビ(韓国)、15人編成のシンフォニーやコンテンポラリー・ダンサーと共演し、その楽曲の美しさをオーディエンスに印象付けたニキ(インドネシア)、リッチ・ブライアン(インドネシア)とそれぞれ平均4曲をメドレーで披露し、演奏はテンポよく進んだ。

 日が沈み、空が青とピンクに混じるマジックアワーに、ついに宇多田ヒカルがステージに現れ、いきなりサビから始まる「Simple and Clean」で【コーチェラ】デビューを果たした。本人は「あっという間でした。久しぶりの人前のライブで最初すごく緊張したけど最高でした。直前の発表だったしお客さんがどれくらい私を知ってるか想像もつかないし、フェスも初めてだし、それがコーチェラのメイン・ステージだったなんて不思議です。お客さんも良いリアクションしてくれてあったかくて、いっぱいエネルギーを与えられました」と振り返っていたが、その言葉通り「It’s hard to let it go」という歌詞の後、一瞬無音になるとオーディエンスから温かい歓声が沸き上がった。

 最初は少し歌いにくそうな様子だったが、続く「First Love」では、冒頭の低音部分からサビまで伸びやかに歌唱しており、90年代後半に1stアルバム『First Love』を何度も聴いていた者にとっては、当時の思い出が自然と蘇ってきた。3曲目の「Face My Fears」では、10名ほどのダンサーが登場し、パフォーマンスをさらに盛り上げ、ステージ中央にある階段に腰掛けて、ダンサーに囲まれながら披露した1998年の鮮烈なデビュー曲「Automatic」は、20年以上も前にリリースされたことを感じさせなかった。

 9組のアーティストで80分のセットを構成するとなると、必然的に各アーティストの持ち時間が限られてしまう。今回これらの楽曲を選曲した理由について、宇多田は「ショーンが、とにかく“Automatic”がリリース時から大好きで、88risingのスタッフのみんなも“Automatic”と“First Love”は私たちの青春なんだ!って話してくれて、彼等曰く多くのアジア人にとって特別な人生の時期や思い出と結びついているその2曲は絶対やってほしいとのことで。それと、アジア以外でも多くの人が私を知るきっかけになった“Simple And Clean”も外せないと。もう1曲は迷ったけど、フェス向きしそうな“Face My Fears”にしました」と明かしてくれた。

 宇多田の次に登場したジャクソン・ワン(中国)は、キレキレのダンスを披露し、彼とウォーレン・ヒュー、リッチ・ブライアンが1曲コラボレーションした後、宇多田は新曲「T」をキーボードで弾き語りした。『Head In The Clouds Forever Compilation』に収録された新曲で、「二日後にマスタリングしないとコーチェラ終演直後のリリースに間に合わないと言われて、その日は徹夜でデモのメロディーを変えたり歌詞を書き直したりして、翌日、私とウォーレン・ヒューのレコーディングをしました。彼は素晴らしいと思う。息子と母親でもおかしくない年齢だけど! 19歳だって」とウォーレンとのコラボレーションや時間との戦いとなった制作秘話を教えてくれた。

 今回88risingとコラボレーションを行った理由については、「ショーンの情熱ですね。それに、今まで日本以外のアジアのファンと直接交流することがあまりなくて……それと、デビュー当時から多くのアジア系アメリカ人にも聴いてもらえてた、支持してもらってたってことを知らなかったんです。知らなかったことが信じられないくらい。今まで触れることがなかった自分自身のアイデンティティーの一部とやっと結びついたような気持ちでした」と説明した。

 新曲「T」の後、CL(韓国)が3曲のパフォーマンスを行い、最後に2NE1が実に7年ぶりに再集結し、「I Am the Best」を披露したのは、このステージのハイライトとなった。

 【コーチェラ】のYouTubeライブ配信は毎年恒例となっており、フェスティバルに出演することで世界中のオーディエンスとつながることがこれまで以上に容易になった。彼らとつながりを持つことが宇多田にどんな刺激をもらたすか聞いてみると、「ずっと、アメリカにいてもどこにいても、少し気まずかったというか……大学に行くまではほぼインター系の学校にいたので、あまりにも国も人種もごった返してて、逆に人種を意識しないでよかったんです、みんな“人間”、みたいな。そうじゃなくて出身国や人種を意識する環境にいると、もっとシンプルだったらいいのに、って思うことが多くて。でも、アイデンティティーの大事な一部でもあるなと最近思うようになって、オンラインのライブやコーチェラのようなグローバルなオーディエンスともダイレクトにつながれる機会が増すにつれて、アジア人としての自分のアイデンティティーも自然に感じられるし、“音楽”以外の環境でいつも感じる居心地の悪さみたいなものも減っていくような気がします」と話してくれた。

Photo: Ivan Menes (@ai.visuals)


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