『ソー・ハッピー・イット・ハーツ』ブライアン・アダムス(Album Review)

2022年3月15日 / 18:00

 デビュー曲「Let Me Take You Dancing」(1978年)のリリースから今年で44年目を迎えるブライアン・アダムス。米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初めてTOP10入りした「Straight from the Heart」(1983年)、同チャート6位、ロック・ソング・チャートでは1位に輝いた「Run to You」(1984年)、キャリアを代表するNo.1ヒット「Heaven」(1985年)、1991年の年間チャートを制した「(Everything I Do) I Do It for You」と、簡易的にはまとめられない多くの功績を残している……という説明も、もはや不要。

 2022年現在のブライアン・アダムスはというと、御年62歳とは思えないパワフルなボーカル、スラっとしたスタイルと甘いマスクも健在。これほど「老いてなお」~「生ける伝説」という表現が薄っぺらく聞こえないアーティストもめずらしい。その魅力を最大限発揮できるのが(いうまでもなく)ライブで、新作のリリースはもちろん、それを引っ提げたツアーを待ち望んでいるファンも多いが故、ライブが制限されたこの2年間はさぞもどかしかっただろう。また、昨年11月にはブライアン自身も新型コロナウイルスに感染し、【ロックの殿堂】入り式典でのパフォーマンスをキャンセルする事態に見舞われた。

 2019年3月にリリースした『シャイン・ア・ライト』から3年、世界はそんな状況に陥り、今はさらに深刻な問題が世界中の人々を悩ませている。パンデミックにおいては、多くのアーティストが体験談や理論を作品に反映させているが、ブライアン・アダムスは本作『ソー・ハッピー・イット・ハーツ』で(タイミング的にも)ネガティブからポジティブへ転換、解放した。

 昨年10月にリリースしたタイトル曲「So Happy It Hurts」には、そんな“前向きさ”が満載。サウンドも歌詞のイメージをそのまま音にしたようなパワー漲るロック・チューンで、盟友キース・スコットのギターに良質なメロディ、男気溢れるボーカル&コーラスはかの名盤『レックレス』(1984年)を彷彿させる。制作には、自身の楽曲やシャナイア・トゥエイン~ジョージ・ストレイトなどカントリー・シンガーを多く掛ける女性シンガー・ソングライター=グレッチェン・ピータースが、プロデュースはアルバムの多くをロバート・ジョン“マット”ランジが手掛けている。自身が監督を務めたモノクロのミュージック・ビデオには、93歳の母親ジェーンも登場するサプライズも。

 そのロバート・ジョン“マット”ランジの色が最も濃く出たのが、3曲目のシングルとしてカットした「Kick Ass」。デフ・レパードを引用したようなロック・サウンドを従え「手を叩いて叫べ!」とシャウトする、こちらもポジティブなアップ・チューンで、ライブを再開した際には盛り上がりそうなアレンジがたまらない。その前曲、スタイリッシュで先鋭的なグルーヴの「On The Road」も、ベテラン勢の演奏力とのコンビネーションに引き込まれる傑作で、本作のハイライトはこの2曲に当てられる、そんなリスナーも多いのでは?

 「On The Road」~「Kick Ass」に続き、今年1月にリリースした最新シングル「Never Gonna Rain」も、ベテラン・ロッカーとしての魅力を十二分に発揮したいい曲。「最悪の事態でもベスト尽くす」、「恐怖に怯えるのではなく今を生きる」というフレーズは、自身が陽性者になったからこその説得力があり、その想いが歌の力強さにも反映した。「So Happy It Hurts」同様、ラスベガスで撮影したこの曲のMVもブライアンが監督を務めたとのことで、シンプルながらブライアンの横顔とバンドの演奏が“映える”作品に仕上がっている。

 シングル4曲の他にも、疾走感あるヴィンテージ・ロック「I’ve Been Looking For You」や「I Ain’t Worth Shit Without You」のような80年代全盛期に回帰したロック・チューンが華を飾るが、アルバムにはミディアム~スロウもバランス良く配置されている。中でも、フォーク・ギターを基とした50年代スタイルのカントリー・メロウ「You Lift Me Up」と、レゲエのようなユルさを醸す「Always Have, Always Will」の2曲は、過去作にあるようでなかったラブ・ソングで、包容力ある成熟したボーカルが曲の持ち味である“やさしさ”を引き出した。後者は、タイトルからも予想できるように愛を誓う“ウエディング・ソング”的なニュアンスが含まれて、新しいスタンダードになりそうだ。

 その他、ミディアム・テンポのカントリー・ロック「Let’s Do This」やサザン・ロック風味の「Just About Gone」、終わりの風景が見えるアコースティック・メロウ「These Are The Moments That Make Up My Life」まで全12曲、聴衆に媚びず自身のスタイルを貫いたブライアン・アダムス“節”と拘りが詰まっていて、ポジティブなメッセージとリスナーのインスピレーションを刺激する重厚なバンド・アンサンブルの華やかさが、淀んだ気持ちを高揚させてくれる。ギターはもちろん、オルガンやパーカッション、ドラムまですべての楽器をブライアンが網羅したということも、聴きどころ。

 こういった時世において、世界中のほとんどが「単調な日常こそすばらしく、人と人との繋がりが最も重要」だと気づかされたと思われるが、本作『ソー・ハッピー・イット・ハーツ』の根底にあるのはまさにそれで、時代背景や国境を超えた感情などを独自の目線で赤裸々に滲ませた。それは、40年以上のキャリアを誇るブライアン・アダムスだからこそできた業。怠るべからず。

Text: 本家 一成


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