【Editor's Talk Session】今月のテーマ:コロナ禍の中で変化を続ける楽器店の実情

2022年2月20日 / 11:45

Editor's Talk Session (okmusic UP's)

音楽に関するさまざなテーマを掲げて、編集部員がトークセッションを繰り広げる本企画。第27回目は東京・新大久保駅の近くで30年以上、楽器の中古販売を専門に行なっているTC楽器より企画室の富田道彦氏をゲストに迎え、コロナ禍における楽器販売店の実情、現状を逆手にとることで生まれたサービスについてなど、楽器ファン、お客様を第一に考えるTC楽器の想いを語ってもらった。
【座談会参加者】

■富田道彦(TC楽器 企画室)

都内の大手楽器店を経て2001年よりTC楽器に勤務。アンプを担当後、企画室へ。各種イベントの企画やエフェクターなどのオリジナル商品の開発を行なう。

■烏丸哲也

ミュージシャン、『GiGS』副編集長、『YOUNG GUITER』編集長、BARKS編集長を経て、現JMN統括編集長。髪の毛を失った代わりに諸行無常の徳を得る。喘息持ち。

■千々和香苗

学生の頃からライヴハウスで自主企画を行ない、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&OKMusicにて奮闘中。

■岩田知大

音楽雑誌の編集、アニソンイベントの制作、アイドルの運営補佐、転職サイトの制作を経て、music UP’s&OKMusicの編集者へ。元バンドマンでアニメ好きの大阪人。

楽器を知っているからこそできる 会話を活かした新サービス

岩田
「2020年4月に緊急事態宣言が発令され、世の中がステイホーム期間に入ったことで、どの業種も大きな影響が出ました。TC楽器さんも影響はありましたか?」
富田
「そうですね。最初の緊急事態宣言が発令された時は、やはり来店されるお客様の数が減ってしまいました。我々としてもそういう事態が初めてだったのでどうしたものかと。時短営業要請もありましたし、今も開店時間を少し遅らせるなど引き続き行なっています。」
烏丸
「新型コロナウイルスが出てきた当初は、まずは3密を避けると同時に、世の中はマスク着用・手洗い・うがいの徹底とともに、アルコール消毒に注力しましたよね。楽器にアルコール消毒は避けたいところと思いますが、そのあたりはどうでしたか?」
富田
「感染予防対策に関しては、日本小売業協会のガイドラインに沿って当店でもやれる対策をとっていました。どこでもやっている対策ではありますが、お客様に入口で検温とアルコール消毒をしていただいています。発熱があるお客様には来店をお断りして。あと、お客様が楽器を試奏されたあとの消毒については、スプレーでピック類やテーブル、椅子などを消毒しています。試奏が終わった楽器は手を使って消毒しているんですよ。それ以外はポリッシュ等で対応して楽器にダメージが出ないように気をつけています。」
岩田
「コロナ禍が始まった当初はスタッフの方も大変さを感じていたと思いますが、その点はいかがでしたか?」
富田
「時短営業ということで、少しは時間ができたと思います。ですが、WEB上での問い合わせなどが増えてきていたので、営業時間が短い中で来店のお客様とWEBのお客様の対応をするというのは大変だったと思いますね。」
岩田
「店頭だと直接お客様と会話をしながら対応ができますが、WEBだと時間が空くとお客様が不安になってしまう可能性もありますもんね。」
富田
「でも、当店ではお客様とのビデオ通話サービスがあり、遠方のお客様に対するフォローをしています。コロナ禍に入って、そのサービスに力を入れることもできましたし、最初の緊急事態宣言の時に帰宅するスタッフのことも考えて開店と閉店時間を2時間ずつ狭めたんです。スタッフの出勤に関しては通常どおりにしていたので、ずらした2時間を使いYouTubeの配信にも力を入れました。スタッフもお客様に少しでも楽しんでほしいという想いで動画を作成して。YouTubeを本格的に始めたのが、最初の緊急事態宣言の期間でしたね。」
岩田
「ビデオ通話のサービスもコロナ禍に入ってから開始されたのでしょうか?」
富田
「そうですね。」
烏丸
「ビデオ通話と対面との違いについて、実際にサービスを開始してみて気づいた良い点や悪い点はいかがでしたか?」
富田
「良い点はお客様と一対一になれるということですね。ビデオ通話の予約が入っていると、その時間はヘッドセットをして対応しています。店頭では他のお客様から声をかけられたりするため、なんとなく周りを気にしながら対応をしてしまうので。悪い点は…限界ということになりますが、試奏ができないということですよね。実際にお客様はネックの握りがどうなのかという点も分からないですから。」
烏丸
「そうですよね。」
富田
「ただ、逆にビデオ通話をしてでも楽器のことを知りたいというお客様は、楽器に対する意欲が高い方だと思うんです。なので、WEB上の写真では分からない角度から楽器を見せたり、木目やキズの具合をお見せして。ネックの握り具合に関しては、実際に手で感触が分からなくても我々が握りながら“こんな感じですね”とお伝えすることができるので、写真で見るよりは具体的に良さをお伝えできていると思います。なので、ビデオ通話を希望されるお客様は通話後に買っていただけるケースが非常に多いです。発送したあともしっかりと気に入っていただけることが多く、結果的に良いサービスのひとつになっていると思いますね。」
烏丸
「確かにネックの握りひとつに関しても、触らなきゃ分からないと言いながらもお店の方もプロですから、質問に対して的確な答えが得られると、納得感が得られ購入動機に直結しますね。“70年代のフェンダーみたいな感じですか?”“いや、どちらかと言うとミュージックマンのEVHみたいな握りです”みたいなやりとりができたりすると、楽器を知っている者同士の信頼感も生まれますし。」
富田
「そうですよね。お客様もスタッフも楽器を知っているからこそできる会話でもあります。」
どういう状況になっても 楽器は必要とされる

岩田
「外出自粛期間にはテレビなどでも“楽器ブーム”として楽器を始める方が増えたというニュースが流れていましたが、このブームをどのように見ていましたか?」
富田
「ありましたねー。その時は通信販売が活発に動いていました。ステイホーム期間を活かして楽器を始めようという方や、昔に楽器をやっていたがまた本格的に始めようという方など、楽器を手にされる方が増えまして。実際にフェンダーの売上が一気に上がったとかもありましたし。入門用のアコースティックギターの数が足りなくなったりもしていましたね。あと、いわゆる配信用の機材も非常に品薄になっていました。ミキサーなど配信用に使うツールが買いたくても品切れ続出という。だから、あの時期は当店だけでなく、関連メーカーさんにしても売れる時期ではあったと思います。ただ、世界的に物が動かない時期ではあって。ニーズはあるのに物が入ってこないというジレンマみたいなものが、特に輸入代理店さん関係は感じていらっしゃったみたいですね。中国の工場で物が作れないみたいな。」
烏丸
「非常に困った状態になっていましたもんね。」
富田
「特にデジタル機器が影響を受けていました。国内のニーズが高まっていて、ネット配信をみんなが始めるようになった時期だから購買欲はすごく出ているのに、海外から製品が輸入できないため手に入らないみたいな。」
烏丸
「私もネット注文した品物がコロナ禍で混乱している中国からなかなか出荷されず、大幅に到着が遅れた事がありました。新型コロナウイルスは全ての現代社会に多大な影響を与えましたが、中古楽器店として、考え方やビジネススタイル、新たな課題、あるいは逆に解決できてしまったことなど、コロナ禍以前と現在では、どんな影響があったと思いますか?」
富田
「変わっていない部分はあると思いますね。楽器のニーズはコロナ禍以前からありますし、どういう状況になっても楽器は必要とされるということは感じています。ただ、楽器店よりも影響が大きかったと思うのは、当店を利用していただいている練習スタジオやライヴハウスさんですね。ライヴができない、イベントができないということで、練習スタジオやライヴハウス…あと、ミュージシャンをされている方はもちろん、照明や音響の仕事をされている方は我々以上に仕事が激減しているという状況だったので。そういった点で言うと、プロの現場向きの楽器はニーズがすごく減っていました。残念ながら仕事が当面見込めないから楽器や機材を手放すという、買取のほうの需要があったのも事実ですね。プロの現場でのニーズが減っている時期だったし、仕事を辞められる方も出てきていたので、新規で機材を導入できるわけもなかったから購買はほとんどなかったです。」
烏丸
「確かにプロの現場は大きな影響がありましたからね。」
富田
「ライヴハウス、練習スタジオなど、ご近所で交流のある方に話を訊くと、配信設備を充実させることを重視していると言っていました。それまでのライヴハウスでのライヴはラインの音をそのまま流すのが主流でしたが、各ライヴハウスがいかに臨場感のある音を配信で届けるかということを意識して機材を集めていて。マイクやミキサーなどにもこだわっていましたね。実際に我々が配信等を観させていただいた時、みなさんその点がすごく良くなっていなと体感しました。試行錯誤で苦労された時間がすごくあったんじゃないかと思います。」
岩田
「この座談会企画で以前にライヴハウスの方にお話しをうかがった際も配信に力を入れなくてはいけないとおっしゃられていましたね。」
富田
「我々の話で言うと、お客様が来店できないぶん、お店のことを発信できればと思って動画に力を入れましたからね。最初は手探りで試行錯誤状態でしたけど、当店での動画企画はスタッフ同士が“こんな楽器いいよね”“この楽器が好きだな”というような雑談程度から始まったのですが、そんな動画でも視聴者のみなさんに喜んでいただけたり、お褒めの言葉をいただけたりしまして。我々が思っていることを発信していくことで、期待以上に多くの方が受け入れて望んでくれていることを感じたので、今後も中古楽器専門店という立場で動画を観てくれている方が知りたいことを発信していきたいと思っています。」
岩田
「YouTubeのアーカイブも観させていただきましたが、コロナ禍に入ってから動画の企画も本数も充実されていますし、商品紹介だけでなく改造ギターコンテストの紹介だったりもあるので、コアユーザーからライトユーザーまで楽しめる企画が揃っていますよね。」
富田
「改造ギターコンテスト自体は2年に1回開かれる『楽器フェア』のたびに開催している昔からある企画なんですよ。2014年から始めて…2016年は飛びましたが、2018年にやって2020年の『楽器フェア』で展示をする予定だったんですけど、コロナ禍の影響で『楽器フェア』自体が飛んじゃったんです。楽器を発表する場がなくなってしまったので、その時は『ギター・マガジン』さんに協力いただき紹介させてもらいました。あと、2022年は改造エフェクターコンテストというかたちで開催して、『BARKS』さんご協賛のもとでみなさんの改造エフェクターを集めて動画で紹介させていただいたりして。本当にこちらの予想を上回る奇想天外な作品が生まれましたし(笑)、『BARKS』賞などを受賞された方にオンラインで取材を烏丸さんと一緒にしたりして、とても楽しい企画になりました。」
烏丸
「一見、エフェクターの改造だなんてコアマニア向けの一般性の薄い企画に思われそうですが、実際は良く練られたとても敷居の低い好企画だったので、蓋を開けてみたら驚くような作品がたくさん集まって、とても面白かったですよね(笑)。」
富田
「すごく面白かったです(笑)。」
烏丸
「ネットでいろんな人のいろんな想いが集まると、こんなにエンタテインメントになるんだという事実が、TC楽器さんの企画で証明されたと思っています。」
今も昔も変わらず一番伝えたいのは、 “楽器は楽しい”ということ

千々和
「TC楽器さんのYouTubeチャンネルを拝見した時に、ギターケースの匂いに関する動画やピックアップの高さについて語っている動画など、なかなかマニアックな内容もあったのが面白かったです。コアな話はコアな人にしか刺さらないイメージがあったのですが、人がこうやって真面目にふざけている様子は、楽器に詳しくない自分みたいな視聴者にとっても魅力的でした。“こういうところにこだわっている人がいるんだ!?”という発見になって、自分でも楽器屋さんでケースの匂いを嗅いでみたり(笑)、視野が広がって機材への愛着が湧くきっかけになると思います。」
富田
「ありがとうございます! “楽器って難しそうだな”と思われるより、“楽器って楽しいんだ”という初心の気持ちを大事に伝えていきたいですね。」
千々和
「あと、YouTubeを通してTC楽器さんとの心の距離というか、親しみが増したお客様もいらっしゃると思います。特に楽器屋さんは音楽を扱っている場所の中でも一番お客様とコミュニケーションをとっていると思うので、YouTubeを観て身近に感じたスタッフにお店でお話を聞けたり、リアルで買いに行った時の楽しさも倍増する企画がたくさんあるところが素敵でした。」
富田
「確かにお客様に会う前から自分のことを覚えてもらっていることが結構あります。“動画、観ましたよ!”という声をいただいたり、名乗る前から“富田さんですよね!”と言われたりすると観ていただいているんだと実感しますね。だから、YouTubeを通すことでお客様との距離が最初から近いんですよ。初対面の店員さんじゃないという感覚が生まれるので、そこはスタッフも私もすごく体感しています。初めて楽器店に来た方でも店員さんに声をかけづらいということがないからいいですよね。」
烏丸
「楽器を弾かない人には無縁の世界なんですが、ケースの匂いもあるあるなんですよね、メーカーや作られた時代でも違ったりして、“ここのメーカーっていつもこの匂いがするけど、何なんだろうね?”みたいな。」
富田
「ありますよね!」
烏丸
「ケースの木材や接着剤など謎な匂いもありますけど、楽器自体が匂いを持っていることもありますよね。PRSのハイエンドモデルなどは、ブラジリアン・ローズウッドを使用しているとケースを開けた瞬間にとても甘い香りが広がりますよね。サウンドや弾き心地だけじゃなく楽器が持っている五感への刺激の話も、TC楽器のYouTube番組を通して伝われば、楽器の魅力が別な角度から感じてもらえるかもしれません。」
岩田
「TC楽器さんはコロナ禍以降に関し、大きな変化があったというよりは、これまでと変わらずに過ごされていたという印象がありますね。」
富田
「もちろんダメージがなかったわけではないですが、お店の存続が危ぶまれるというような大打撃ではなかったというのは、ご利用いただいているお客様のおかげだと思います。コロナ禍以前はご来店いただいているお客様がいることを普通に感じてしまっていたところもあったかもしれませんが、来店してくれるだけでそのありがたみがより分かりました。遠方で来店できない方、我々の発信を受け止めてくれている方にもどうやったら楽しんでいただけるかということを真面目に考えるようになったという印象がありますね。」
岩田
「なるほど。では、最後になりますが、楽器好きの方、これから楽器を始めたいという方、読者の方に向けて富田さんからメッセージをいただけますか?」
富田
「今も昔も変わらず一番伝えたいのは、“楽器は楽しいです”ということなんです。昔はライヴハウスに出て、ライヴハウスで人気を集めて観客動員数が増えれば、そこから夢が広がるみたいな時代があったわけですが、今はどちらかと言うとライヴハウスに出る若者が減ってきていると肌で感じることがあるんですよ。ネット配信というかたちが出てきて、発表の場がいろいろな方面に向かっている。ただ、楽器に対する情熱だったり、みんなに聴いてもらいたいというアーティストや関係者の意識は変わっていないと思います。ますますオンラインでのコミュニケーションツールが発展していくと考えると、配信での発表がさらに増えてくるはずだし、すでにオンラインでの演奏のセッションができる時代が来ることも夢物語じゃなくなってきているから、楽器の楽しみってまだまだ広がっていくと思いますね。自分の演奏や音楽を聴いてもらえるチャンスはどんどん増えていくと。だから、初期衝動的にある“楽器は楽しいです”という想いはずっと伝えていきたいです。」


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