【Editor's Talk Session】今月のテーマ:ライヴハウスから離れてしまった人をもう一回集めるために

2021年11月20日 / 10:00

Editor's Talk Session (okmusic UP's)

音楽に関するさまざまなテーマを掲げて、編集部員がトークセッションを繰り広げる本企画。第24回目のゲストは9月より4カ月連続企画イベント『生きづらい;あなたへ』を主催しているThe;Cutleryより福島裕太(Gu)と、同公演の配信の監督を務めている映像クリエイターの小嶋貴之。インディーズながら配信映像のクオリティーにもこだわり、ジャンルレスなライヴを展開している想いなどを語ってもらった。
【座談会参加者】

■福島裕太

The;Cutleryの総司令官兼ギター。カトラリーを始めてシューゲイザーというジャンルがあることを知る。バンドは趣味。普段はフリーランスのシステムエンジニア。

■小嶋貴之

ジャッキー・チェンを目指していたら、いつの間にか映像の世界へ。メジャー、インディー問わず約800本超のMVやライブビデオ、CM、アニメーション、ドラマ、短編映画などを監督。短編映画が海外映画祭にて受賞多数。

■石田博嗣

大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP’s&OKMusicに関わるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。

■千々和香苗

学生の頃からライヴハウスで自主企画を行ない、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&OKMusicにて奮闘中。

■岩田知大

音楽雑誌の編集、アニソンイベントの制作、アイドルの運営補佐、転職サイトの制作を経て、music UP’s&OKMusicの編集者へ。元バンドマンでアニメ好きの大阪人。
配信をやるのであれば 観せたいものを作りたい

千々和
「The;Cutlery主催の連続企画『生きづらい;あなたへ』ですか、どんな経緯で始まったんですか?」
福島
「昨年はコロナ禍の影響で一年間ライヴができていなかったんですけど、今年の4月から徐々にできるようになり、そのタイミングで文化庁が立ち上げたARTS for the future!を知ったんです。コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業で、募集要項に沿った申請が通ればライヴ開催の支援として補助金がいただけるんですよ。任意団体でも申請ができるということなので、ライヴ配信事業に特化した団体をThe;Cutleryが主体となって立ち上げました。インディーズで活動していると、バンドに出演料を払ったりプロモーションをするのは簡単にはできないことなので、そこも補助金を活用して挑戦してみようと。ただ、今のところどの公演も申請中です(笑)。」
千々和
「えっ、そうなんですか!? 9月からの4カ月連続企画だから、現時点で第三弾公演まで終了していますが…。」
福島
「はい。補助金制度を知ったのがきっかけで始まった企画ですが、そのお金をあてにして始めたわけではなく、The;Cutleryを聴いてくれている方や、お世話になっている音楽業界の方にこの企画を通して恩返しができたらと思っていたんです。コロナ禍で何をしたらいいか分からない中、バンドを動かすきっかけにもなりました。開催に向けて本格的に準備を始めて直ぐ、第一弾公演にAliAさんが出てくれることが決まって、第二弾公演にはaquarifaさんが2年振りのライヴとしてステージに立ってくれたり、小嶋さんにはフルセットで配信準備をしていただいているし、本当にいろんな人にサポートしてもらっているので、せっかくならやりきりたいと思って毎月開催しています。今じゃなければ対バンできなかったバンドに出演してもらえたのも、“どんどん好きにやってみよう!”という後押しになりましたね。ちょっと言い方が難しいけど、“コロナ禍だから”ではなく、“コロナ禍だからこそ”と考えて動けるようになってきました。」
千々和
「ライヴを生配信することに対してはどのように思われていましたか?」
福島
「The;Cutleryは昨年4月に残響レコードからアルバム『water;echo』をリリースしたんですけど、緊急事態宣言が発令されたタイミングだったからCDショップは閉まっていたし、準備していたレコ発のワンマンもできなかったんです。その状況を受けて無観客ライヴもやったんですけど、その時はライヴハウスから配信することは僕にはディスプロモーションにしか思えませんでした。チケット代はかかるのに音が悪いし、固定カメラの1台だけだったので、これを配信する必要があるのかなって。そう感じていた時に西川口Heartsで働いているスタッフと話す機会があったので、他と違ったことがしたいと提案をして、カメラ6台を使って素人だけで配信ライヴをやってみたんですよ。残響レコードの社長はまだ配信には手を出さなくていいという判断だったんですけど、実際に観てもらったら思っていたよりも映像が良かったみたいで、音が悪いことだけ怒られたんです(笑)。そこで手応えを感じて、次は吉祥寺SHUFFLEで配信ライヴをすると決めた時にプロである小嶋さんに相談をしました。その時のライヴ映像はYouTubeにもアップしていますが、映画っぽくてめっちゃカッコ良いんです! 今後もこれ以下のクオリティーにはしたくないと思っています。ただ、ELLEGARDENがYouTubeで無料配信ライヴをやっていて、それを観ちゃったら僕らが固定のカメラ3台くらいでお金を取って配信をするのはどうなんだと思って…。そういうのもあって、配信をやるのであれば、観せたいものをしっかり作りたいと思ったんです。」
人件費を抑えながらも クオリティーを保てている

千々和
「小嶋さんはコロナ禍以前からライヴ映像を撮ることはあったと思いますが、ライヴハウスに来られない人に向けての生配信ライヴの撮影は違いました?」
小嶋
「大きな会場で撮影をする時は、その場でスイッチングをしながらステージサイドなどに設置されているビジョンにライヴの映像を流しているので、生配信もそれと似たような感じです。ただ、配信ライヴはSNSですごく盛り上がるんですよ。普通のライヴ映像をアップしてもそんなに盛り上がっているイメージはないんですけど、おそらく生っていうことで直結しているからこそ、配信ライヴのほうが反響は大きいです。アーティストにとっても最初は自分で生配信をするのはハードルが高かったと思います。でも、今は機材もどんどんいいものが出てきたし、プロでなくても知識のある人が増えたので、2年前の状況とはすごく変わった印象がありますね。配信に対しての基本的な知識があるからこそ、今は余裕もできていろんなことをやろうとしているんんでしょうね。映像が止まってしまうことってTV放送だと絶対に許されないのですが、そこは配信では寛容というか。なので、“試しにやってみよう”ってところもあるので、新しいことにも挑戦できていると思います。」
千々和
「『生きづらい;あなたへ』ではカメラは何台入れているんですか?」
小嶋
「5台です。ものによっては6台回しているんですけど、配信自体が5台までしか使用できないシステムなので、6台目はのちのちの編集映像に使う用として回しています。」
千々和
「会場でもライヴを拝見しましたが、そのあとに改めて配信で観てもまた違った印象がありましたし、一曲の中でのスイッチングの数が多いから、集中力が途切れずにあっと言う間に観終わってしまうんですよね。でも、配信チケットが1,000円とお手頃で驚きました。」
小嶋
「そこは福島さんがうまくやりくりをしています。機材を借りてくるのもそうだし、ライヴ撮影に興味がある人を集めてくれて、その人たちに僕が呼んだスタッフが構図を教えながら配信をしているから、人件費を抑えながらもクオリティーを保てているのかなと。」
千々和
「それはすごくいい現場ですね。」
小嶋
「でも、いつも時間はないんでハラハラすることはあります(笑)。この前もカメラがうまく動かないとか、ライヴ中に1台だけ調子が悪くなったり。まだまだ課題はありますが、費用が一気に上がりかねないので現状維持しながら進めたいと思っています。バタバタはしているけど、みんな楽しそうにやっていますね。」
福島
「小嶋さんや、小嶋さんが呼んできてくれる方はその道のプロなので、本当に僕はおんぶに抱っこなんですよ(笑)。絶対にカッコ良く撮ってくれるから、出演する側としても変に意識せず、自然体でライヴができています。僕が配信スタッフとして呼んでいるのはセミプロくらいの方で、昔はMV撮影をしていたけど、今は普通に就職して働いている人もいます。小嶋さんが未経験でも大丈夫な環境を作ってくれているので、僕がカメラマンをやっている時もありますからね(笑)。」
千々和
「そうなんですか!? 自分たちの出番の前とか?」
福島
「はい。僕でいいんだったら…という感じで(笑)。」
石田
「映像関係で駆け出しの人にとっては嬉しい現場ですね。」
福島
「そうだと思います。そのセミプロの方は1公演だけ参加する予定だったけど、久しぶりの現場で楽しくなったのか、“ここまできたから全部やらせてください!”と言ってくれて嬉しかったです。」
小嶋
「僕が呼んでいる方はストレイテナーの撮影を長年していたりするので、知識をいっぱい持っていて、それを余すことなく教えてくれるから勉強になっている気がしますね。僕も毎回“なるほどなぁ”ということがありますし。」
映像は無料で公開して、 ライヴに興味を持ってほしい

千々和
「小嶋さんはこの数カ月間でThe;Cutleryの活動を近くで見てきてどう思いますか?」
小嶋
「すごく努力していると思います。イベント開催はお金がかかることだし、そんなに儲かっているわけではないと思うので、その中でもどんどんやり進めようという想いに共感しています。僕も映画を作ったりしますが、基本的には自腹で制作するので、費用を回収できないからこそ、チャレンジする気持ちはよく分かるんです。それを継続的にやっていく意気込みをすごく感じるから一緒にやっているんですよ。」
岩田
「福島さんを中心にみんなで協力しながら開催することで、配信チケットも安くできるんでしょうね。個人的に2,000円でも高いかどうかの判断基準になってしまう気がするので。」
福島
「本当は無料でやりたいんですけどね。だから、いずれ編集した映像をYouTubeで無料公開したいとは思っています。だって、ELLEGARDENが無料でやっているんだから(笑)。」
千々和
「10月に行なっていた第二弾公演のMCで、福島さんが“映画館がライバル”とおっしゃっていたのが印象的でした。今までライヴに行っていた人たちが他の娯楽に流れるのは寂しくも自然な現象なので。」
福島
「コロナ禍に入ってからNetflixやAmazon Prime Videoに加入する人が急激に増えたじゃないですか。1,000円以内で見放題だから僕も使っているし、そもそもYouTubeは基本的に無料だし。映像って今の若い子たちからしたら無料が当たり前で、ライヴを観るのにお金を払うという感覚があまりないんじゃないかと思っているんです。僕がバンドを始めた頃には“このバンドはこのライヴハウス出身だよ”って話をよく聞いたんですけど、今はYouTubeやSNSで話題になって有名になったアーティストが多い。それを考えると、映像制作にお金はかけても、それに対して対価を求めるのは違うんじゃないかなと。MVも何十万円もかけて制作するのに無料で出すし。だから、“なんでライヴの配信はお金を取るの?”って思っちゃうんです。できればこだわって作った映像こそ無料で公開して、それを観てライヴに興味を持って会場に来てほしいんですよ。コロナ禍でライヴハウスから離れてしまった人をもう一回集めるためには、無料配信も含めて、そういうところで努力ができたらいいのかなと考えています。」
千々和
「福島さんはここまで4カ月主催バンドとして開催してきて、自主企画だからこそのプレッシャーもあったのでは?」
福島
「コロナに感染したらイベント自体が飛んでしまうし、開催当日を迎えても油断ができないので、感染対策は日ごろから一番神経を使っています。今はメンバー全員のワクチン接種も終わりましたけど、こういう機会じゃないと普段は共演できないようなバンドにも出演してもらっているので、キャンセル料よりもこの場がなくなることのほうが気がかりでした。このイベントを経て、僕らの活動自体にも注目を持ってもらえるように頑張っているところなので。」
石田
「今までできなかったバンドとの対バンが実現できたということも刺激になりますよね。」
福島
「そうですね。空想委員会さんやaquarifaさんは10年前にお客さんとしてライヴを観に行っていたバンドなので。10年かかってしまいましたけど、嬉しさもあり変な気持ちになっています。」
千々和
「最後の第四弾公演は12月16日に、今度は下北沢シャングリラで開催されますね。」
小嶋
「現状はまだ決まりきっていないので何とも言えないですが、箱が変わるので撮り方も変わりますし、新代田FEVERで観てくれていた方にとっても新鮮な配信ライヴになると思います。The;Cutleryの演奏もクオリティーが上がっていますし、楽しみですね。」
福島
「僕たちはいつも楽しくやっているので、観に来てくれる方には“頑張って聴いてください”といつも言うんですけど(笑)、変わらずに頑張って聴いてもらえると嬉しいです。これまでと違った演出もできるはずなので、ぜひ観てほしいです。」
『The;Cutlery 連続企画 最終弾 「生きづらい;あなたへ」』

12/16(木) 東京・下北沢シャングリラ

出演:The;Cutlery、MOSHIMO 他


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