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サンタナのデビューアルバム『サンタナ』

複雑なラテンのリズムとロックのグルーブ感を混ぜ合わせ、まったく新しいロックのスタイルを作り上げたグループがサンタナだ。サイケデリックロックやブルースロックが全盛だった60年代後半のサンフランシスコで、当時まだ珍しかったラテンパーカッションを取り入れたそのサウンドは、まさに血湧き肉躍る情熱的なものであった。サンタナのリーダー、カルロス・サンタナ(メキシコ生まれ)はマイク・ブルームフィールドに憧れて当初はブルースバンドをスタートさせるものの、自身のルーツであるラテン音楽をロックに組み込んだサンタナを68年に結成し、他のグループと差別化を図ることに成功する。以降、現在に至るまで数多くのメンバーチェンジを繰り返しながらも、半世紀にわたって活動を続けている。今回は伝説の『ウッドストック・フェス』(’69)で聴衆が熱狂した「ソウル・サクリファイス」を収めた彼らのデビューアルバム『サンタナ』を取り上げる。
ビル・グレアムの秘蔵っ子

ビル・グレアム(ロック界で最も重要なプロモーター)は、フィルモア・イースト(ニューヨーク)とフィルモア・ウエスト(サンフランシスコ)のオーナーとして知られる。このふたつのコンサート会場で収録されたライヴ盤は数多く、ジミ・ヘンドリクスの『バンド・オブ・ジプシーズ』(’70)、オールマン・ブラザーズ・バンドの『アット・フィルモア・イースト』(’71)、CSN&Yの『4ウェイ・ストリート』(’71)、タジ・マハールの『ザ・リアル・シング』(’71)、フランク・ザッパ&ザ・マザーズの『フィルモアのマザーズ』(’71)、デレク&ザ・ドミノスの『イン・コンサート』(’73)などなど、ロック史に残る傑作が少なくない。

フィルモアの出演者はビル・グレアムの厳しい耳で選ばれたアーティストばかりであったが、中でもサンタナはグレアムのお気に入りで、のちにグレアムは伝記の中で「レコードを出していないのにフィルモアのトリをとったバンドは後にも先にもサンタナだけだ」(『ビル・グレアム ーロックを創った男ー』ビル・グレアム&ロバート・グリーンフィールド著、大栄出版刊、1994年)と語っている。

また、フィルモアで3日間にわたって行なわれたコンサートの模様を収めたアル・クーパーとマイク・ブルームフィールドのライヴ盤の傑作『フィルモアの奇蹟(原題:The Live Adventure Of Mike Broomfield And Al Kooper)』(’69)では、ブルームフィールドが体調不良で休んだ最終日にカルロス・サンタナとエルヴィン・ビショップのふたりがグレアムに呼ばれて参加しており、アルバムの裏ジャケットには「Featuring Eivin Bishop, Carlos Santana」との表記がある。ビショップは誰もが知る著名なアーティストであるからいいのだが、サンタナはデビュー前にもかかわらず名前が記されているのだから、グレアムがどれだけサンタナを買っていたかがよく分かる。

極めつけは、グレアムが『ウッドストック・フェス』のプロモーターから協力を求められた時「新人のサンタナを『ウッドストック』に出演させなければ、このフェスには協力しない」と言ったことだろう。
『ウッドストック』での 圧倒的なパフォーマンス

そして、1969年8月15日から17日(18日の午前)までの3日間にわたって行なわれた『ウッドストック・フェス』にサンタナは参加することになる。このフェスは、結果的に約40万人の観衆が集まるという当時としては未曽有のイベントになった。リッチー・ヘイブンス、ジョーン・バエズ、キャンド・ヒート、グレイトフル・デッド、ザ・フー、CCR、ジャニス・ジョプリン、ジェファーソン・エアプレイン、ジョー・コッカー、ザ・バンド、ジミ・ヘンドリクスなど、当時のロックスターたちが大勢集まる中で、サンタナの出番は16日(土)に決まった。

彼らはそれまでいくつかの大きなフェスに参加はしていたものの、この土曜日には経験したことのない30万人もの観衆が集まっていたのである。カルロス・サンタナは当時のことを「あれだけの大観衆の前で演奏することに関しては、結構ビビってたんだ。でも、ビル(グレアム)ができるって言ってくれてるんだから、きっとできるということになった。(中略)俺はただひたすら演奏した。なんとか音を外しませんように、リズムがちゃんとキープできますように、って神様にお祈りしながら」(前掲書)と新人らしい心の内を語っている。

彼の言葉とは裏腹に、大観衆はサンタナの圧巻のパフォーマンスに酔いしれ、終わってみれば他のどの出演者よりも成功を収めたのである。このフェスの模様は翌年に映画で公開され、オリジナル版では「ソウル・サクリファイス」の1曲のみが紹介(実際にフェスで演奏したのは7曲)されただけではあったが、サンタナの優れたパフォーマンスは世界中に知られることとなった。
本作『サンタナ』について

『ウッドストック・フェス』から2週間後という最高のタイミングで、サンタナのデビューアルバムとなる本作がリリースされる。メンバーは、カルロス・サンタナ:ギター、グレッグ・ローリー:キーボード、マイク・シュリーヴ:ドラムス、デビッド・ブラウン:ベース、ホセ・チェピート・アレアス&マイケル・カラベージョ:パーカッションの6人。

アルバムに収録されているのは全部で9曲、そのうち4曲がインストという内容だ。サンタナの魅力は、何と言ってもライヴ時に見られるような圧倒的なノリである。複数のパーカッションと20歳になったばかりのマイケル・シュリーヴの流麗なドラミングから生み出される複雑なコンビネーションは、それまでのロックには見られなかったラテンのグルーブに彩られており、1曲目の「ウェイティング」から身体が自然に動き出すほど。リズムセクションに加えて、グレッグ・ローリーのダイナミックなオルガンプレイとカルロス・サンタナの熱気を帯びたギターソロが煽るのだから、アドレナリンの流出はどうにも止まらない。

美しいメロディーを持つ「イヴィル・ウェイズ」(全米9位)や祭囃子のような「ジンゴー」など、当時中学生だった僕は聴くたびに鳥肌ものだったが、それが今聴いても変わらないのだからすごい音楽だと思う。最高潮に盛り上がるのが最後の「ソウル・サクリファイス」で、聴き終わった時にはライヴを観に行ったような感覚になるのである。本作がこれだけ“生演奏”的なのは、彼らがステージと同じようなスタンスでレコーディングに臨んだからではないかと思う。

このデビュー作で、すでにサンタナのラテンロックは完成している。これは彼らがフィルモアをはじめ、数多くのライヴ活動を通して、自分たちの音楽を作り上げていったからであろう。結局、ウッドストック効果もあってか、本作はデビュー作ながら全米チャート4位まで上昇するわけだが、それは純粋に内容が素晴らしいからで、何年経とうが古臭くならない名盤だと思う。

もし、サンタナの音楽を経験したことがないのなら、これを機会にぜひ聴いてみてほしい。きっと、今まで味わったことのない新しい世界が広がるはずだ。
TEXT:河崎直人
アルバム『Santana』
1969年発表作品

<収録曲>

1. ウェイティング/Waiting

2. イヴィル・ウェイズ /Evil Ways

3. シェイズ・オブ・タイム/Shades of Time

4. セイヴァー/Savor

5. ジンゴー/Jingo

6. パースエイジョン/Persuasion

7. トリート/Treat

8. ユー・ジャスト・ドント・ケア/You Just Don’t Care

9. ソウル・サクリファイス/Soul Sacrifice

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